グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第57話 その頃各国は……3

 聖王都 ゼーゲブレヒト城・円卓の間。

 

 円卓の間に集まった中枢王家の王たちは突然起きたある事態に困惑し、頭を抱えていた。

 

「聖王陛下……なぜだ? ……なぜこんな時に自殺などしでかした!?

 

 そう怒鳴って王の一人が机を殴りつける。

 その音にすくみあがる王もいれば、不快そうに顔をしかめる王もいたが、胸中では皆机を殴った王とまったく同じ思いを抱いていた。

 

 聖王ゼーゲブレヒト王の死因は睡眠薬の大量服用。

 起動宣言から一月後、聖王から不眠を訴えられた医師は王に睡眠薬を処方した。無論、万が一に備えて少々しか与えていなかったが。

 しかしその三週間後、使用人が聖王を起こそうとしたがいくら揺すっても起きないため、不審に思い侍従長に報告した。

 侍従長はただちに医師に聖王の容態を検査するように命じ、その結果聖王の胃に半ばほど消化された大量の睡眠薬が発見された。

 医師はすぐに処置を施し、聖王の胃の中からすべての睡眠薬を摘出したが聖王が目覚めることはなく、つい昨日聖王は息を引き取った。

 胃の中にあった睡眠薬の量から、聖王は睡眠薬を受け取ってからそれを飲まずに三週間過ごし、昏睡状態になる前夜一気に服用したとみて間違いないだろう。

 

「まったく、陛下に与える物は厳重に吟味しろとあれほど言ったはずではないか。誰だね睡眠薬など与えた医者は?」

 

「その医者を暗殺の下手人として処刑することはできんのか? 今後の見せしめとして必要な措置だ」

 

「それは無理だ。国内にも国外にも陛下が自殺したなどと知られるわけにはいかん。もう病死として発表してしまったしな。今更訂正した方が余計な憶測を生みかねん」

 

「それに先史時代の知識と技術を持つ医師や学者は、今となっては貴重だよ。むやみに殺すわけにはいかん」

 

「そうだな。そんなことより我々が話し合うべきことは他にあるではないか」

 

 その一言に王たちはいったん口を閉ざす。

 だが、その沈黙は次の一言によって破られる。

 

「……次の《ゆりかごの聖王》の選定か」

 

 王の一人がその言葉を口にした途端、発言者自身を含めすべての王が体をこわばらせる。

 《聖王のゆりかご》の起動。

 それはもう大陸各国に表明してしまった。もしこれを取りやめてしまったら、ダールグリュン帝国や反連合はこれを聖王連合の弱体化とみなし、攻撃の手を強めてくるだろう。もう後には引けない。

 そのため中枢王家としては、ゆりかごの操縦者たる“次期聖王”を早急に選び出さなければならなかった。

 

 ある王が咳払いとともに口火を切る。

 

「やはり聖王位に就かれるのは陛下の御子のどなたかだろう。あの方の御子の中でゆりかごに乗れそうなのは、第一王子オスカー殿下と第一王女アデル殿下のお二人だったな」

 

「オスカー王子は論外だ。あの方が聖王位につくのはこの戦乱が終わった後だよ。王子には平定後のベルカを導いていただかなくては」

 

「アデル王女も無理だな。近々連合入りする予定の有力な独立国の王子に嫁ぐことになっている。それにオスカー殿下とアデル殿下をゆりかごに乗せるなど、亡き王妃のご実家が許しはしまい。陛下の御子だからといってあのお二人は難しいな」

 

 聖王直系の王子と王女の二人をゆりかごに乗せることができないとわかった途端、王たちの間にしばらくの間沈黙が降りた。

 そして……

 

「ならばゆりかごに乗る聖王は、我々か我々の子の中から選ぶしかないか」

 

「いや、我々は皆年を取りすぎている。ゆりかごを動かす体力はもう残っていまい……となると、我々の子の誰かか?」

 

 その言葉をきっかけに王たちは互いに顔を向け合って……

 

「あなたのご子息はどうだね? 文武両道で優れた魔導師になるだろうと自慢していたではないか。それならゆりかごを動かすことぐらい……」

 

「い、いやそれが公務の一部を任せて以来、魔法の修練がおろそかになってな。恥ずかしながら今は魔法において凡百もいいところだよ。それに男では王位の問題もあるだろう。あなたの息女はどうだね? まだ嫁に出してないんだろう」

 

「そ、それなんだが、うちの娘もある国の王に嫁がせようと思ってね。ほら、グランダムという闇の書を持つ王が治める国があるだろう。ガレアに続いて今度はリヴォルタを併合するらしい。それもあって今や独立国ではなく中立国と呼ばれているとか。いよいよ本格的に脅威になり始めてきたが、まだ味方に引き込むことはできるかもしれん。娘にはその懸け橋になってもらおうと考えているんだ」

 

「そういえばあの若王、リヴォルタ見物に何人の美女を連れて行くほど女好きだという話だったな。案外それでうまくいくかもしれん。だが、娘夫婦の仲が冷えるのは覚悟しておけよ。すでに四人も愛人を抱えているという話だからな」

 

「王族や貴族ならそれくらい良くある話だよ。――そういう話は後にしてそろそろ本題に戻ろう。諸君らの子の中で思い当たる子はおらんのかね? ゆりかごを動かせるだけの力を持って、政治的利害とは無縁の子が」

 

 その言葉に王たちは黙りこむ。

 皆、自分の子をゆりかごに乗せたくはないのだ。なぜならあのゆりかごの玉座に座った者は……。

 そんな彼らを、自分の子を愛するまっとうな親だと思うのか、それとも他人の子に犠牲を強要する悪しき王だと思うのかは人それぞれだろう。

 そんな中、王の一人がある名前を挙げた。

 

「『オリヴィエ王女』はどうだろう」

 

 彼らの子にそんな名前を持つ者はいない。

 皆が顔を上げる中、王は説明を続ける。

 

「オリヴィエ第二王女殿下。オスカー王子とアデル王女に続く聖王陛下の御子の最後の一人にして、母親たる王妃の命を糧に生まれ出た鬼子と呼ばれているお方。王妃のご実家はそんなオリヴィエ王女を実の孫ながら憎んでいると聞く。オスカー王子やアデル王女と違って、オリヴィエ王女ならばあの方々もゆりかごに乗ることに反対はすまい……どうだろう?」

 

 王の説明に皆がうなずきかけるが、その中の一人があることを思い出し声を上げた。

 

「いや、あの王女は無理だ。オリヴィエ王女は幼い頃に魔導事故に遭われて、両手と臓器のほとんどを失っている。あの方にゆりかごを動かす力など望めんよ」

 

「いや、そうとは限らんぞ。オリヴィエ王女はシュトゥラで魔法と武術の修練を重ね、随分活躍されているらしいじゃないか。それについ先日、研究者たちからゆりかごの改良に成功したとの報告もあってな。その改良によってある程度体が弱くても、問題なくゆりかごを操作できるようになったらしい。もしかすれば……」

 

 その言葉に一同は納得しかけるが、そこで別の王が異論をはさむ。

 

「駄目だ。あの方には人質としてシュトゥラを繋ぎ留めておく役割がある。ゆりかごが動かせない現状で雷帝に対抗できるのはシュトゥラ王しかいない。万が一あの国が連合から抜けるようなことがあっては困るぞ」

 

「確かにな。それに加えて反連合の多くがすでに禁忌兵器(フェアレーター)を持っている。シュトゥラなしではかなり厳しいぞ」

 

「……それもそうだな」

 

 その言葉を最後に円卓の間は静寂に包まれる。彼らからも、卓の向こう側にある無人の玉座からも答えが返ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ガレア王国奥地。

 まわりより少し盛り上がった地層の下で、マントに半ズボンといった少年と間違われそうな格好の少女が土まみれになりながら、素手と発掘魔法と使い分けてある物を掘り出そうとしていた。

 彼女のまわりにはすでに掘り起こされた出土品が多く積み重なっている。

 柱らしきものの残骸、妙に小さい犬の人形らしきもの、ひび割れたガラスがはめられた手鏡?――にしては取っ手が持ちにくい上に文字付のパネルがついた妙な造形をしている――

 そんな中、彼女が新たに掘り出した物は小さな金属でできた箱だった。

 箱にはわずかな出っ張りがあり、それを引くことで中を開けることに成功する。

 箱の中身を見て少女は満足げな笑みをこぼした。中身の片方が考古学者にとって、最も価値があるものだったからだ。

 箱の中に入っていたのは小さな赤い金属片と二冊の古い本。

 赤い金属片の先端は銀色で赤い取っ手よりちょっと細く、ぼっきりと折れてしまっている。何に使うのかは知らないがこんな状態ではもう使用することはできないだろう。現代では見ない貴重な物には違いないが、使い方すら想像できない物に価値を見出す者はいない。謎のオーパーツ止まりだ。

 

 価値があるのはもう一方、二冊の本の方だ。

 表紙には大きく文字が書かれているが、今はまだ読めない。

 少女はページを何枚かめくり、気付いた。

 

(……これってケントって王様が持ってる闇の書じゃない? ……王様に報告するべきなのかな? ……いや、闇の書によく似た本かもしれないし、王様に伝えるのは解読が終わってからでいいや……こっちの本は)

 

 闇の書によく似た本が描かれている古文書を脇に挟んで、少女はもう一冊の本を開く。

 そして彼女は見た。

 

(なにこれ? 次元船にしては武装が多すぎる……何だろうこの船?)

 

 

 

 

 

 少女、サニー・スクライアがガレアの地層から見付けた二冊の本、そこには《闇の書》と《聖王のゆりかご》と呼ばれる戦船の正体が余すことなく記されていた。

 そしてこの二冊の本がきっかけで、ケントは自らの破滅を決意することになる。

 

 この本を読んだ時から、彼は《愚王》と呼ばれる運命にあったのかもしれない。

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