グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第60話 雷帝の槍

 ダールグリュン帝国の皇帝ゼノヴィア自らの案内によって連れてこられた場所は、城からかなり離れた場所にある巨大な広場だった。四方を覆う壁のみが広場を覆い、屋根もなく暗雲に覆われた空が頭上に広がっている。

 我が国の練兵場より広いこの場所は、皇帝と皇帝の許可を得た者しか使えない専用の修練場らしい。いくら皇帝とはいえ、こんな所をほとんど一人だけで使うなど身勝手が過ぎやしないだろうか。

 

 その修練場の中心でゼノヴィアとシグナム、ヴィータ、ティッタが睨み合っていた。

 

「本当にゼノヴィア殿だけでよいのか? エリザとジェフ殿を加えても構わないぞ。それで人数は互角になるが」

 

「不要だ。むしろあやつらの手が必要なのはそなたたちではないか? そなたと寝落ち寸前の童女二人だけで私の相手をするのは厳しいと思うが」

 

「はっ、てめえなんざ寝ながらでも十分だ! なあティッタ」

 

「まあ、こうやって剣構えたら眠気も覚めてきたけど。……でも本当にいいんですか? 模擬戦とはいえ皇帝に武器を向けたりして」

 

「無論だ。万が一私が重傷を負うようなことがあっても、貴国に責は問わんと約束しよう。むしろ殺す気でくるがいい。さもなければ死んでしまうのはそなたたちかもしれんぞ」

 

 そんな掛け合いをかわしながら四人は火花を散らす。

 一方、俺とリヒトとシャマルとザフィーラとエリザとジェフは、壁を隔てて設けられた十段ほどの段差から、戦いに臨む彼女らを見下ろしていた。なぜ皇帝が個人的に使う修練場に観客席みたいなものがあるのか疑問だったが、エリザによると俺たちのために急遽作らせたものらしい。

 つまりあの皇帝は最初から俺たちの中の誰かとやり合うつもりだったというわけだ。

 自ら最前線に出てくるほどの戦好きとは聞いていたが、まさかここまでだったとは……招待に応じたのは間違いだったかもしれない。

 

 

 

 謁見の間を出て皇帝ゼノヴィアはどこに向かうかも告げずに俺たちの前をどんどん進み、城を出て到着したのがこの修練場だった。

 修練場に到着するやここについてゼノヴィアは一通りの説明をしてから、模擬戦を持ち掛けてきた。

 それに嬉々として応じたのがシグナムで、ヴィータはシグナムほど戦いが好きでなかったことと眠気が限界に来る寸前だったこともあって、当初は断ろうとしたもののゼノヴィアからちょっと挑発された途端、負けず嫌いの悪癖が出てティッタを誘って戦いに応じてしまった。

 そしてこうなった。

 

 

 

「しかしケントとリヒトとやらは見学か。闇の書の意思とその主とやり合って見たかったのだが……まあ闇の書が完成した後の楽しみに取っておこう」

 

「慢心が過ぎる女だ。お前ごときでは完成した闇の書とその主となられたお方を倒すことなどかなわん」

 

「それ以前にあたしらにも勝てねえよ。おしゃべりはそこまでにしてそろそろ始めようじゃねえか」

 

 シグナムとヴィータは首に提げた装飾品に手をかけ、ティッタも背中につけている鞘から剣を抜く。

 

「レヴァンティン――Installieren(インストリーレン)

『Anfang』

 

「グラーフアイゼン――Installieren(インストリーレン)

『Anfang』

 

「リベリオン――Installieren(インストリーレン)

 

 詠唱をとなえるとともに、三人は瞬時に黒い魔導鎧に装着しながら武器を手にする。

 ゼノヴィアはシグナムとヴィータの装飾品から声を発したことにわずかに目を見張りながらも、自らの胸元につけた記章に手を伸ばした。

 

「いでよ、《グングニル》――Installieren(インストリーレン)

 

 ゼノヴィアがそう告げると、彼女も白い魔導鎧を装着し巨大な槍を手にする。

 ゼノヴィアが手にしている槍は彼女の身の丈をゆうに超える長さだったが、ゼノヴィアはそれを片手で軽々と振り回してみせる。

 それを見てティッタは思わず言葉を漏らした。

 

「あんな槍を軽々と……」

 

「ビビってんじゃねえ。グラーフアイゼンのギガントフォルムに比べたら、あんなの大したことねえよ!」

 

「油断するな。守護騎士として数百年、あまたの強豪と戦ってきたがあんな気迫を放つ者など」

 

 ゼノヴィアを前にさまざまな反応を見せる三人を前に、彼女は槍を宙に向けながら――

 

「さあ来るがいい。闇の書の守護騎士たちよ!」

 

 

 

 ゼノヴィアがそう言った直後にシグナムが勢い良く剣を振り下ろす。

 だがゼノヴィアは槍を振るい難なく剣を受け止める。

 そこへすかさずティッタが大剣をゼノヴィアの左脇腹に向けて、真横に振るう。

 

(ニ十三式・刃咬)

 

 だがゼノヴィアは籠手に覆われた左手で大剣を造作もなく掴み取り、それを見たティッタは思わず目を見開く。

 しかし、守護騎士はあと一人残っている。

 

「でやああああ!」

 

 右手に持った槍でシグナムの剣をふさぎ、左手でティッタの大剣を掴んだことで、両手が塞がったゼノヴィアの頭めがけてヴィータは槌を振り下ろす。

 しかし、ゼノヴィアは槍を持つ右手に力を込め、それを思い切り振り回すことでシグナムとティッタを振り払い、真横に突き出した長い柄でヴィータの槌を受け止めた。

 そしてゼノヴィアは右手を槍から離し、その手でヴィータの頭を掴む。

 ヴィータのまさかと思い、とっさに目を閉じる。

 

「六十八式・兜砕!」

 

 ゼノヴィアは掴み取ったヴィータの頭をそのまま思い切り地面に叩き付けた。

 

「ヴィータ!」

 

 ティッタは思わずヴィータの名を叫ぶが、ゼノヴィアはそれを好機と見て槍を突き出す。

 

「四式・瞬光」

「ぐあっ!」

 

 ゼノヴィアが突き出した槍はティッタの腹に入り、ティッタは後方へと吹き飛んでいく。

 

「ティッタ!」

 

 それを見て思わず俺は席から立ち上がる。

 しかしティッタは腹を抑えながら立ち上がり剣を構えた。魔導着と模擬戦用に全員の武器に掛けられた緩和魔法によってなんとか重傷は免れたらしい。

 一方、ゼノヴィアはそれぞれ一撃ずつ喰らった騎士たちを見回して、口角を上げながら口を開く。

 

「さて、これで多少は体もほぐれてきたか。そっちの二人もだいぶ眠気が取れたと見えるが、どうだ?」

 

「はっ、おかげさまでな。わざと食らったかいがあったってもんだ」

 

 ヴィータは立ち上がり槌を背中に担ぎながらそんな減らず口を叩く。

 シグナムも体勢を立て直しながら、

 

「体がほぐれてきたのはこちらもだ。そろそろ本気で行くぞ!」

 

 シグナムがそう言ったのを受けてゼノヴィアは槍を構える。しかしシグナムはそこから動く様子を見せずゼノヴィアは眉をひそめる。

 それに対してシグナムは――

 

「レヴァンティン!」

Schlangeform(シュランゲフォルム)

 

 シグナムの剣レヴァンティンが再び声を発するとレヴァンティンは銀色の弾を排出し、鞭のような連結した長い刃に形を変える。

 

「シュランゲバイセン!」

 

 そして連結刃はゼノヴィアを囲み彼女の動きを封じる――と思われた。

 

「九十一式・破軍斬滅」

 

 しかしゼノヴィアは連結刃に囲まれたと察した瞬間、槍を円状に回し連結刃を弾きながら前進する。

 ヴィータはそれを見るなり槌を構えて、

 

「グラーフアイゼン!」

Raketenform(ラケーテンフォルム)

 

 レヴァンティン同様、ヴィータの槌グラーフアイゼンも銀色の弾を排出し、槌の頭が変形した。

 

「ラケーテンハンマー!」

 

 グラーフアイゼンの頭の片方から炎が噴出し、噴射の勢いを利用して、ヴィータは猛速度でゼノヴィアに突っ込む。

 ゼノヴィアはなおも槍を回し続け、飛び込んできたヴィータは巨大な槍に頭や体をぶつける羽目になる。だが、ヴィータにとっては覚悟していたことだ。衝撃と痛みをこらえながらヴィータは槌を振り上げる。

 

「フランメ・シュラーク!」

「甘いわ!」

 

 ゼノヴィアは槍を回すのをやめ、左手で自身に迫る槌を掴み取る。

 

「――ぬっ?」

 

 だがゼノヴィアが掴んだ槌は高熱を帯びており、あまりの熱さでゼノヴィアは顔をしかめる。もっとも、彼女以外の人間なら手を離し一撃を喰らうところだろう。

 

(なんつうおばさんだよ。タフってレベルじゃねえぞ)

 

 ヴィータは内心舌を巻きながら後ろに向かって叫ぶ。

 

「ティッタ、今だ!」

「おう!」

 

 ゼノヴィアは高熱の槌を握りながら視線を下げる。

 そこにはヴィータと高熱の槌に気を取られているすきにここまで迫ってきたティッタの姿が――

 

「おおおおおお!」

 

 ティッタは大剣を振り上げ、ゼノヴィアの頭めがけて勢いよく大剣を振り下ろした。

 大剣をまともに喰らったゼノヴィアは思わず顔を歪める。

 震動付与によって威力を増した一撃には、さすがのゼノヴィアも平然とはしていられなかったらしい。それに震動付与がもたらすものはそれだけではない。今のゼノヴィアは振動がもたらす急激なめまいに襲われているはずだ。

 シグナムとティッタはその隙を逃さない。

 よろめくゼノヴィアを前に二人は武器を構える。

 

「行くぞ皇帝ゼノヴィア。紫電一閃!」

 

 シグナムは炎をまとわせた剣を思い切りゼノヴィアに叩きつける。

 その衝撃でゼノヴィアの鎧に大きくひびが入り、彼女は大きくひるんだ。

 さらにそこへ――

 

「これでとどめだ。ギガントシュラーク!」

 

 ヴィータが槌を振り上げると槌は宙に浮かびながら巨大化し、それをヴィータはゼノヴィアに向かって一気に振り下ろす。

 その衝撃でゼノヴィアが立っている地面は崩れ、中から土埃が舞い上がり、ゼノヴィアの姿は土埃に包まれて見えなくなった。

 それを見てヴィータは槌を元の大きさに戻して背中に担ぎ、他の三人も武器を構えながらも一息ついた。

 

 シグナムたちにとって結果はわかりきっている。

 おそらく土埃の向こうでゼノヴィアは真横に倒れ伏しているはずだ。三人それぞれの必殺技をもろに喰らったのだ。立っていられるわけがない。

 ほどなく三人の眼前を覆う土埃が晴れていく。

 三人の予想通り巨大な槌を叩きこんだ衝撃で地面にはぽっかりと穴が開いており、その中にゼノヴィアが倒れているものと思われる。

 勝者の義務(情け)として彼女を助け出そうと三人は地面に視線を移す。

 

 しかし、それを見た瞬間三人は大きく目を見開いた。

 穴の中にいたのはひび割れた鎧をまとい、土まみれになりながらも平然と立っているゼノヴィアの姿だった。

 

「三人ともなかなかいい攻撃だったぞ。褒めて遣わす」

 

「嘘だろ……あれだけくらって、ほとんど無傷だと……」

 

 そんな言葉がヴィータの口から出てきた。他の二人も、観戦しているケントたちも間違いなく同じことを思っているだろう。

 その中で稽古として何度もゼノヴィアと戦ってきたエリザと、それを見守っていたジェフはやはりというような表情でゼノヴィアと三人を見下ろしていた。

 ゼノヴィアは満足げに笑いながら、数歩足を進めて穴から出てくる。

 

「さて、衝撃も()()()()溜まってきたところだな。今の礼も兼ねてそろそろ“あの技”のお披露目と行こうか。死なないように抑えておくから遠慮なく味わってくれ」

 

 そう言ってゼノヴィアは槍を構える。

 三人もすぐに武器を向けるが、ゼノヴィアの体が金色の魔力光に包まれていくのを見て、三人とも思わず息を飲んだ。

 

(――何だ、この魔力は!? これほどの魔力を一瞬で?)

 

 

 

 

 

 

 金色の魔力光に包まれ槍を構えるゼノヴィアに、俺とリヒトは驚愕のあまり目を見開く。

 馬鹿な、あれほどの魔力を溜めもせず一瞬で……。

 そんな俺たちの横から、

 

「ここであれを使われますか」

 

「あれとは……まさか、あの魔力光は皇帝の固有技能によるものなのか?」

 

 俺の問いにエリザは首を縦にも横にも振らずに目をそらす。……他国の人間に明かせるわけがないか。

 しかし、俺はあの魔力光がゼノヴィアの固有技能によるものだとほぼ確信している。そうでなければあれほどの魔力を溜めもせず、瞬時に構築できるわけがない。

 俺はすぐ修練場に視線を戻す。

 すでに魔力光はゼノヴィアの全身のみならず、彼女が持っている長い槍にまで伝っていた。

 ――まずい!

 

避けろ!

 

 

 

 

 

 

 観客席から立ち上がり、ケントはそう叫ぶがそんなことは不可能だ。ゼノヴィアの前に立っている時点でこの光からは逃れられない!

 ゼノヴィアは金色に輝く槍を前に突き出す。

 

「原式――《殲滅雷(フェアニッヒトゥング・ドナー)》!!」

 

 次の瞬間、彼女が持つ槍の穂先から巨大な光の柱が真横に向かって伸びていった。

 あまりのまばゆさに修練場を見下ろしていたケントたちは目を閉じ、あるいは腕で目をかばう。

 そして光が収まったのを感じて、彼らは目を開けると同時に目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 目を開けた俺たちの眼前に広がっていたのは大きくえぐれた地面、その中で横たわっている三人の姿、そして悠然と彼女ら(敗者)を見下ろしながら立っているゼノヴィアの姿だ。

 俺とシャマルは思わず叫ぶ。

 

「ティッタ!」

「シグナム! ヴィータ!」

 

 だがゼノヴィアがこちらを見上げた途端、俺もシャマルも身がすくみ言葉が出なくなってしまう。

 そんな俺たちにゼノヴィアは厳かに告げる。

 

「安心せよ、殺してはおらん。医師を呼んでやるから奴らが来るのを待つなり、自分たちで治療を施すなりするがよい。私は先に失礼させてもらうぞ。……エリザ、ケント殿に先ほどの技と余の固有技能について話してやるがよい。包み隠さずにな」

 

「……よろしいのですか?」

 

 尋ねるエリザにゼノヴィアは鷹揚にうなずく。

 

「無論だ。何のためにここでそやつに《雷帝の槍》を見せたと思っている。今後の身の振り方の判断材料にもなろう。余すことなく教えてやるがいい」

 

 そこでゼノヴィアは言葉を止め、俺とリヒトを見た。

 俺は思わず息を止めてしまう。対照的にリヒトは固い表情でゼノヴィアを見返していた。

 

「ケント殿、リヒト殿、そなたらがこの先どちらにつくのか、それともどちらにもつかず覇を目指すのかは知らぬが、もし我らが敵となったらその時は存分にやり合おうではないか。楽しみにしているぞ」

 

 そう言い残してゼノヴィアは槍を記章に、装いを鎧から軍服に戻しながら修練場を後にしていく。

 

「わ、私、シグナムたちの手当てをしてきます!」

「私も行こう」

 

 ゼノヴィアがいなくなったのを見届けて我に返ったシャマルは飛行魔法でシグナムたちのもとへ降り、ザフィーラも彼女に続く。

 彼女らがいなくなった後には、俺とリヒト、エリザとジェフが残された。

 俺はエリザに向かって口を開く。

 

「皇帝はああ言ってたが……どうする? 聞かない方がいいならそうさせてもらうが」

 

 俺の問いにエリザは(かぶり)を振って答えた。

 

「いえ、陛下のお許しも出ましたし、ケント様も聞いていかれた方がいいと思います」

 

 それからエリザはこほんと咳払いをして口を開く。

 

「陛下が先ほどシグナム様たちに向けて撃ち出したのは、雷帝式でも唯一《原式》と呼ばれる技です。陛下の固有技能によって、己が体内に蓄積した魔力をただ撃ち出すだけの技量も技術も必要のない単純な技……ですが固有技能を持つダールグリュンの直系にしか使えない、《雷帝の槍》と呼ばれる最強の技でもあります」

 

「雷帝の槍……」

 

 俺は思わずその名を復唱する。そこで俺はエリザが悔しげに唇をかみしめていることに気付いた。

 まさか悔しいのか? あの技を使えないのが。

 エリザを見て俺はそう思ったが口には出さず、別の疑問を口にする。

 

「……それで、その《雷帝の槍》を可能にする皇帝の固有技能とは一体?」

 

「“完全な変換資質”……戦闘中に自分が受けたあらゆる衝撃を電気エネルギーに変換して、それを溜め込み続けるというものです」

 

 あらゆる衝撃を電気エネルギーにだと!

 その言葉に俺は目を剥く。

 変換資質というものは魔力を物理エネルギーに変えることができる資質だ。先天的に持っている者もいれば後天的に身につける者もいる。

 しかし、もちろんあらゆる衝撃を変換するというのは聞いたことがない。

 戦闘中に受けたダメージを跳ね返すことができるようなものだ。

 それだけでも俺にとっては衝撃を受けるのに十分だったが、そこへさらに……

 

「失礼ながら補足いたします。衝撃と聞いてケント様は陛下が戦闘中に受けたダメージの事だと想像されているかもしれませんが、それだけではありません。陛下が相手に与えた衝撃のほとんども加味されます。ケント様はご経験があるかもしれませんが、相手を殴った時に自分の手も結構痛むではありませんか。それと同じことです」

 

 後ろからジェフがそんな恐ろしいことを告げてきた。

 自分が受けた攻撃だけでなく、相手に与えた攻撃も加わっているというのか。

 つまり原式やら雷帝の槍はゼノヴィアが受けた衝撃、与えた衝撃を収束して一気に打ち出す技で、ゼノヴィアが戦えば戦うほど技の威力は大きくなるということだ。

 ほとんど皇帝しか使わないにも関わらず、この修練場がこんなにも広い理由がようやく分かった。万が一にもあの技を狭い修練場なんかで繰り出したら、修練場が吹き飛んでしまうからだ。修練場が城から遠いのも同じ理由だろう。

 それにしても恐ろしい技だ。

 なにしろ、シグナムたちとちょっと戦っただけであの威力だ。戦になったらどれほどの衝撃がゼノヴィアの中に溜め込まれることか。

 それこそ聖王だって……まさか。

 俺が思い至ったことをエリザも察したらしく、彼女は語る。

 

「この技能は鉄壁の防備を誇る《聖王の鎧》を砕くために、ダールグリュン家の始祖が作り出したものだそうです。故に……」

 

「“雷帝の槍”か」

 

 《聖王の鎧》なら俺も聞いたことがある。

 《聖王のゆりかご》の力を借りることで、どんな攻撃も弾く聖王家の血族が持つ固有技能だと。

 それに対し皇帝の祖先によって作られたのが、戦いによって蓄えた力を打ち出す《雷帝の槍》。

 確かに、溜め込んだエネルギー次第では《聖王の鎧》を砕くことすら可能かもしれない。少なくとも聖王でもない限りあれに耐えることは不可能だ。

 

「……少し喋り過ぎましたわ。そろそろ失礼していいかしら。水を飲みたくなってきたので」

 

 そう言ってジェフが側にいるにもかかわらず、彼に水を持ってこさせるようなこともせずエリザは立ち上がってその場を後にし、ジェフも俺に一礼してエリザを追う。

 やはり自分では習得することができない技を目の当たりにして複雑な心境のようだな。

 話し相手もいなくなり、下を見ればシャマルの治療を受けて三人は目を覚ましている。帝城からも何人か医師が駆け付けてきたようだ。

 それを見て俺はリヒトに声をかける。

 

「俺たちも彼女たちのところに行くか……リヒト?」

 

 返事もせず、呆然としているリヒトに俺は再度呼び掛ける。

 そこでリヒトは我に返って俺の方を見た。

 

「――あっ! 申し訳ありません……何でしょうか我が主?」

 

「俺たちもシグナムたちのところに行くかと言ったんだが……大丈夫か?」

 

「大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけですから。行きましょう我が主!」

 

 そう言われて俺は「ああ」と答えて、シグナムたちのところへ下りるべく宙を浮かぶ。後ろから聞こえる羽音から、リヒトもそれに続いているのが分かった。

 

(あんな能力を持つ者が今のベルカにいるとは。ゼノヴィアという者、完全に力を取り戻した私と張り合うほどかもしれん。()()()()()()()()()前の私とは)

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