リヴォルタ領主館(旧市長公邸) ダイニングルーム。
「失礼します。ティッタ卿」
「おーっす。入るぞ」
「お疲れ二人とも。入って入って。他のみんなはもう席についてるよ」
ノックをした後、現在の主の許しを得てシグナムとヴィータがダイニングルームに入ってくる。そんな彼女らを現在の主であるリヴォルタ辺境伯ティッタが迎え、席に着くように促した。
「お疲れ様。シグナム、ヴィータちゃん、こっちでのお仕事にはもう慣れた?」
「うむ。まあまずまずだ。半年間鍛え上げた王宮の兵に比べたらやや練度が低いのは否めんがな」
「ややどころじゃねえだろう。あいつらすぐへこたれるし訓練中もうじうじ文句垂れるし、もうあいつらほっといてあたしらが全部やった方が早いんじゃねえの」
「まあまあ、皆さんまだシグナムさんやヴィータさんの教練に慣れていないだけですよ。もう少し長い目で見てあげてください」
ティッタとともに一足先にダイニングルームに着いて席に座っていたシャマルがシグナムとヴィータにねぎらいの言葉をかけ、それに二人は自身らが受け持っている兵士たちに対して思い思いの所感を述べ、それをイクスがなだめる。そんなやり取りを交わしている間にシグナムとヴィータも、ティッタらが座っている円卓に着いて席に座った。
ティッタらが囲んでいるこの円卓には、グランダム王宮など他国の王城や貴族の館にある長テーブルにありがちな上下関係による席順はない。
形式的に一番奥に主人であるティッタが座る形になっていたものの、それ以外は基本的に自由だった。グランダム貴族の住まいである領主館でこのような形式が取れるのも、この街が最近まで自由都市だったからだろう。
現在この円卓に着いているのは、元王宮騎士にしてリヴォルタ辺境伯のティッタ、同じく王宮騎士だったシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そして形だけのガレア王イクスの六人だ。
二日前、グランダム王にしてヴォルケンリッターの主だったケントによって彼女らはグランダムの王宮を追われ、このリヴォルタに移り住んだ。
そしてつい昨日ヴォルケンリッターの暫定主となったティッタによって、シグナムとヴィータは手すきの兵の教練係、シャマルとイクスは領主付きの医者に、ザフィーラは街を見回る衛兵のまとめ役に、とごく一部を除いて王宮で任されていたものに近い職務に就いていた。
本来なら彼女らとともにもう一人
シグナムたちはティッタに呼ばれて、今日の昼食をこの領主館で摂ることになった。
本来なら昼の休憩は正午になってから行われるものだが、“ある人物”が起こすであろう騒ぎに備えて、各国の多くの街では公民ともに休憩を半刻早めることになった。リヴォルタもその例に漏れない。というより最も早くその方策を打ち出した者の一人がティッタだった。
円卓の上にはすでに食事が並べられており、パンも肉も野菜もほどよく盛り付けられ、午後の仕事に備えて英気を養うには充分な料理ではあったが、一貴族にしては質素な方である。しかし、ティッタは贅を尽くした料理よりこういった料理を好み、シグナムたちもそれに異を唱えるつもりは毛頭なかった。
正午を前に彼女たちはすでに食事に手を伸ばしている。理由は明白、正午になった途端ベルカの住民たちは皆食事を口にしている余裕がなくなるからだ。特にグランダムに住む者たちは、最悪食事を投げ出して主要な街から避難する必要があるかもしれない。
とはいえこれだけの面子が集まって黙々と食事だけをするのもわびしいものだ。故にヴィータが話を振ってくるのを咎める者は誰もいなかった。
「しかしあいつ、今頃どうしてるんだろうな」
「あいつとはリヒトのことか?」
「そっ。あのクソ主にそんな名前を付けられたあいつ」
シグナムの問いにヴィータはフォークを振りながらそう答える。それにシャマルが「行儀が悪いわよ」と注意してから話に加わった。
「ヴィータちゃんの気持ちはわかるけど、名前があった方が色々と便利じゃないかしら。どう読んでいいかわからないからあの子が加わるたびに苦労していたし……それがあのろくでなし主が付けた名前だったとしても」
「……お前もたいがい引きずる奴だな」
「でも、本当にリヒトさんどうしてるんでしょうね? 王宮に残るって言って私たちと別れたまま、いまだにここに来てませんし」
「追放の命令に従わなかったことでクソ主にいびられてなきゃいいけどな。まっ、あいつなら滅多なことはねえと思うが」
一口分に千切ったパンを口に運ぶイクスに、またもやフォークを彼女に向けながらヴィータはすまし顔で言う。
そんな彼女たちの話を聞きながらティッタはまさかと思った。
守護騎士たちと違い、ティッタはケントがリヒトにベタ惚れになっていることを知っている。守護騎士たちのような忠臣やイクスのような客人を住処一つ与えずに追放するような外道になり果てたあの兄も、惚れた女には弱かったということか。
……いや、そもそもよく考えたら、守護騎士たちを王宮から追放してケントに利点はあるのか?
今まで守護騎士たちを重用していたのは闇の書の頁を集めるために彼女たちを利用するためだとしても、頁が全部集まらないうちに騎士たちを追放するのは性急すぎるのではないか。騎士たちを切り捨てるのは闇の書が完成した後からでも十分だと思う。
それにあの
あの時は自身の素性を否定されたことや兄の変貌ぶりを目の当たりにして頭が真っ白になっていたが、よく考えるとおかしい。難点と不明点が多すぎる。
自身の仮臣下となったシグナムたちの話に耳を傾け猪肉を口に入れながら、ティッタがそんなことを考えていた時だった。
『ベルカの皆様、御機嫌よう。聖王オリヴィエ・U・X・ゼーゲブレヒトです』
その声が聞こえた瞬間、皆が食事の手を止め頭上を見上げる。
案の定、そこには四角い枠と無機質な表情でそこに映っている聖王オリヴィエの顔があった。
「オリヴィエ!」
「もう正午になっちまったのか!」
◇
二日前と同様、オリヴィエの顔を映し出している枠はベルカ中のあらゆる場所に現れており、世界中の人間が新たな聖王を見、彼女が何を言い出すのか、最初の標的となったグランダムがどうなるのかを見届けようとしていた。
それに加えてグランダムの上空には、《聖王のゆりかご》と呼ばれる鋼の船とゆりかごを守る無数の小型の鋼船が浮かんでおり、枠に映し出されるのを待つまでもなく、グランダム中の人々が空に浮かぶ戦船と無数の小型船を目の当たりにしていた。ゆりかごを見た瞬間、慌てて街や村を出て少しでも狙われにくそうなところへと逃げ出そうとする者も少なくない。
オリヴィエは二日前と同様にベルカ中の人々に向けて口を開く。
『約束の時間になりました。二日前に通達した通り、これからベルカ各地を回って、各国首脳の皆様に連合加盟の意思があるか尋ねて回ることにしましょう。
では、最初はまずグランダム王国からです。
グランダム王ケント・α・F・プリムス殿、聖王連合へ加わっていただき、その上で《闇の書》なる魔導書を我々に譲っていただきたいのですが、ご返答を聞かせていただけますか?
……もちろん断ればどうなるかは、分かっていますね?』
オリヴィエは冷たい声色で、しかし心なしか強い口調でグランダム王に回答を求める。
しかし……
オリヴィエが問いかけてからしばらく経っても、いっこうに返答らしきものが返ってくる様子はなく、オリヴィエは枠の向こうで沈黙を保っている。
ベルカ中の人々は怪訝に思いながら返答を待つオリヴィエの様子を見守り、オリヴィエも長すぎる沈黙に内心やきもきしているのか、表情をわずかにしかめてから再び口を開いた。
『……ケント王? ……ケント王、聞こえているのでしょう? 連合加盟と闇の書の譲渡について、お返事をお伺いしたいのですが……』
………………。
オリヴィエは再度グランダム王に問いかける。しかし、またしばらく待っても返事は返ってこない。
ここに来て人々はまさかと思った。
人々の頭上に現れオリヴィエの顔を映し出している不可思議な枠は、おそらく人がいる場所にならベルカ中どこにでも出現しているに違いない。
こんなものが近くに現れて気付いていない人間などどこにもいない。
ならば自国の王都が消滅するかどうかという時に、なぜグランダム王は何も言ってこないのか?
居眠りでもしていてオリヴィエが映っている枠に気付いていないのか、あるいは枠には気付いているが答える気がないのか。
そこまで考えた末に人々は思った。
グランダム王は自国から逃げ出したのではないかと。
◇
当然、この光景はリヴォルタの領主館にいるティッタたちも見ており……。
「おい!? なんでケントの奴何も言わねえんだ? こんな時に一体何をやってんだあいつ?」
「……まさかとは思うけど」
「……主」
枠を見ながらケントに対する疑問や疑念のこもった声を上げるヴィータたちの横で、ティッタは苦虫を嚙み潰したような顔をしてうなだれる。
(あいつ、まさかこの期に及んで逃げたんじゃあ……やっぱりただの屑野郎だったかも)
ケントが守護騎士やイクスを王宮から追放したのは自分には思いもよらない理由があるのかもしれないと思っていたが、測り間違えたかもしれない。
この時ばかりはティッタも心の底からそう思った。
◇
一方、ゆりかごの内部でもグランダム王の奇行に乗組員たちは困惑していた。オリヴィエとゆりかごの管制者も含めてだ。
オリヴィエと管制者の前にも量子モニターと呼ばれる枠が出現しており、そちらにはこれから攻撃するかもしれないグランダム各地の光景が映っている。本来ならこれらに加えてグランダム王が映っているモニターも並んでいるはずだが、どういうわけか彼の姿を捉えることができず、グランダム王が映る予定の画面はいまだに黒く染まったままだ。
服従か反抗か。いずれにしろすぐに何らかの返答がくるものと思っていたが、まさか何も答えてこないどころか、姿さえ見せないとは彼女らも思っていなかった。
何も映さず黒いままの画面を見ながら、オリヴィエは――
(何をしているんですかケント様? ……まさかあなた)
『聖王陛下』
ケントに対して疑念を深めるオリヴィエの横にゆりかごの管制者を務めるシスターが映るモニターが現れ、オリヴィエはそちらに顔を向ける。
『どうやらグランダム王は我々が出した要望に応じる気がないようです。通達通りグランダムの王都を攻撃するとしましょう。これよりレーゲンボーゲンの発射準備を行います。発射に備えて陛下もご準備をなさってください』
呆れが抜けていない声色でシスターはそう告げる。ここに来てシスターもグランダム王が逃げ出したと確信したようだ。
「……グランダムを攻撃するのは王が要求を拒絶した時のはずです。もう少し待ってみた方がいいと思います。あと少しでグランダム王が何か言ってくるかも――」
ゆりかごの機能によって意識を押さえつけられながら、オリヴィエは精神力を振り絞って懸命に反論する。しかし、それに対するシスターの答えは無常なものだった。
『いいえ。我々ははっきりと今日の正午に要望に対する返答を聞くと通達しました。それもベルカ全土に中継する形で。今後のためにも陛下の意に背いた国がどうなるのかを、ベルカ中の人間に示す必要があると思いますが』
「しかし――!」
オリヴィエが反論しようとした瞬間、彼女の頭に鈍い痛みが走る。
その直後に、どこからともなく発せられる無機質な声が部屋一面に響いた。
『Bestätigt die Meinungsverschiedenheit zwischen Seiner Majestät dem Heiligen König und dem Controller. In diesem Fall hat der Befehl des Controllers Vorrang vor dem Programm. Für einen ordnungsgemäßen Betrieb des Schiffes sollte Seine Majestät der Heilige König sofort den Anweisungen des Controllers folgen.(聖王陛下と管制者の意向の不一致を確認。この場合はプログラムにのっとり管制者の命令が優先されます。艦の適切な運用のため、聖王陛下は直ちに管制者からの指示に従ってください)』
艦内に無機質な音声が流れた途端、オリヴィエの目は先ほどより虚ろなものになり……
「……わかりました。レーゲンボーゲンの発射準備を進めてください」
『御意』
“聖王からの命令”を受けてシスターは頭を下げる。それを意に介さず、オリヴィエはモニターに視線を戻した。
◇
ケントからの返事がないままかなりの時間が過ぎ、その間ほんの少しだけ枠に映っていたオリヴィエの
『……どうやらグランダム王には連合に加わる気も闇の書を譲る気もないようですね。残念です。
それでは通達通り、魔力砲レーゲンボーゲンによってグランダムの王都を消し去るとしましょう。
この魔力砲を撃ち込まれた地は一瞬にして跡形もなく消滅するため、その地に住む人々も苦しんで死ぬことはありません。その点についてはどうか安心してください。
……それでは、この一撃がベルカの平和へと繋がらんことを』
オリヴィエがそこまで言うと枠から彼女の顔は消え、再びゆりかごが映る。その先端にある巨大な砲身には、白い魔力光があふれ出るほどに輝きを放っていた。
それを枠を通して、あるいは上空から見上げ、王都の人々の顔は絶望に染まっていた。
「お、おい、撃ってくるぞ!」
「まさかあの王、本当に一人だけで逃げたのか? 俺たちは見捨てられたっていうのか!?」
ある者は己が身を嘆き、ある者はこの期に及んで姿どころか声一つ出さない王を呪う。
あれよあれよという間に砲身に集まる光は強くなっていき、今にも魔力砲とやらが撃ち出されようとしている。
恐怖のあまり多くの人々がその場に伏せ目を強く閉じた。
――その時だった。
『待ってもらおう!』
突然脳裏に聞こえてきた男の声に人々はまず自身の左右を、そして辺りを見回す。しかし、そのような声を出しそうな者は近くにはいなかった。
そしてほどなく魔導を習得した多くの人々がこれは思念通話によるものだと気付く。
それに加えて……
「お、おい、あれを何だ?」
上空を指さす男につられて、周りにいる者たちは彼が指さす方を見る。
王都の上空には一人の男が浮かんでいた。
灰色の髪、赤い右眼と緑色の左眼からなる
男の姿を見た人々は誰もが眉をひそめた。あんな男見たことがない。それに加え男の浮かんでいる場所が高すぎて、ほとんどの者が男の特徴を捉えることができずにいた。かろうじてわかるのは男の髪が灰色で、黒い鎧とマントを着ているということだけだ。
……ただ、あの声には聞き覚えがあるような無いような。
王都にいる人々が疑問に満ちた目で空中にいる男を見ていると、ふたたび脳裏に声が響いた。
『お初にお目にかかる……でいいのかな聖王殿。申し訳ないがレーゲンボーゲンとやらを撃つのはしばし待ってほしい』
『まさか、あなたは……』
男がゆりかごの中にいる聖王に呼びかけると、再び枠にオリヴィエが映り男に問いを返す。どうやらあちらにも男の姿と声が届いているらしい。
『余はケント・α・F・プリムス。グランダム王国の王にして、ベルカを統べる力を持つ真の統治者たる者――とでも言っておこう』
二日前のオリヴィエの口上を真似たような名乗りに、人々もそして枠に映るオリヴィエも目を見張った。
ある者たちは今頃現れたグランダム王らしき人物の登場に驚いて、ある者たちは自分たちが知る王とは似ても似つかない男がその名を名乗っていることに困惑して、思い思いの反応を取る。
彼は本当にグランダム王なのか? グランダム王だとしたらなぜ今までオリヴィエに応答しなかった? なぜ今頃になって現れた? なぜあんな上空にいる?
そしてなぜ、彼の声が自分たちの脳裏に届いているんだ?
次々に湧きおこる疑問に地上の人々が頭を抱えながら男を見ている一方で……。
◇
ゆりかご内部。
レーゲンボーゲンを発射する直前に現れ、聖王に語りかけた男の出現にシスターは舌打ちをし、忌々しげに顔をしかめた。彼女の前にあるモニターには不敵な笑みを浮かべる彼の顔がはっきりと映っている。
何だあの男は? 本当にグランダム王なのか? 彼の眼は確かにベルカ王族特有の虹彩異色だが。
――いやそんなことはいい。
シスターは面白くなかった。いまだ聖王連合にまつろわぬ愚民を恐怖で従える魔力砲の発射を妨害されたことがたまらなく不愉快だった。だからだろう。彼女はかりそめの主の了解すら取らずに命じた。
「前面にいる小型機に命じます。ただちにあの乱入者を排除しなさい! モニターはあの男の姿をベルカ中に映して。聖王陛下に楯突く者がどうなるのかを全土に知らしめてやりなさい!」
◇
上空でグランダム王を名乗る男とゆりかごが対峙している中、不意に小型機から男に向けて白い光線が放たれた。
それに男は表情一つ変えず、
「パンツァーシルト」
男が右手を突き出し詠唱を唱えると右手の先に三角形の結界が張られ、光線は結界に弾かれて消失する。
ゆりかごの前方に浮かんでいた小型機が男に向かって一斉に向かって言ったのはその時だ。
同時に先ほどと同じ白い光線と橙色の熱戦、そして鉄でできた飛翔体による無数の攻撃が放たれる。
男の真下にいる王都民は巻き込まれるのを恐れ、たまらずその場から逃げ出すが、男はそれらの攻撃をある時は避け、ある時は先ほどのように結界で防いでいく。
しかし、それに構わず小型機は男へ突っ込んでくる。そのまま男を撥ね落とすつもりだ。
光速で自分に向かってくる小型機を前にしても男は避けようとせず再び右手を突き出した。まさかさっきの結界で小型機を防ぐつもりか? 男の真下で、あるいは枠を通してこの戦いを見ている者たちはそう思った。だがそれは違った。
《リヒト、俺は固有技能を発動させるからお前は魔力の強化を頼む》
《はい……シュヴァルツェ・フェアシュテルクング》
「――フィンブル!」
その直後に男の手から三角形の魔法陣が現れ、そこから大量の雪崩が飛び出てきて小型機を覆い、機能停止に陥った小型機は空中で爆散するも、雪崩はなおも収まらずそのままゆりかごへと向かっていき、かの巨船に直撃した。
その衝撃でゆりかごは揺れ中にいる者たちはその場で大きく体勢を崩す。倒れた者も少なくない。
人々は地上から、または枠を通してこの光景を呆然と見ていた。
「あんな大魔法を一瞬で……」
「まさか本当にグランダム王なのか。確かに左右違う眼の色をしているが……」
「それはわかんねえけど滅茶苦茶強い魔導師なのは確かだ。もしかしてあいつならゆりかごを……」
無数の小型機を撃退しゆりかごにまでダメージを与える男の攻勢に、王都にいる者たちは希望を取り戻し男を見上げた。
中にはその隙に王都から出て行こうとする者もいたが……しかし、彼らが王都から出ていくことはできなかった。
「
上空で男が呪文を唱えた瞬間、王都は紺色の結界に覆われ、街から出ようとしたものは結界と衝突しその場で転倒する。
「な、なんだこれは? ……まさか」
この現象に多くの者たちはうろたえ、一部の者たちはまさかと思った。
そう、この瞬間、男が張った結界によって王都に住む人々は、王都に
上空でそれを見下ろす男はくくくっと笑う。その顔は王都の人々を救おうとする者が浮かべる顔ではない。
◇
枠の向こうで冷酷な笑みを浮かべる男を見ながらティッタはつぶやく。
「お兄様……一体何をする気なの?」
枠に映る男は姿こそ変貌しているものの、先ほど自身が名乗った通り、紛れもなくグランダム王ケントに他ならなかった。