グランダムの愚王   作:ヒアデス

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EX.4 紋章剣

 シグナムと彼女の肩に掴まっていたブルトンヌはともに地上に降りた。

 地に足を付けるやいなや、ブルトンヌは大蛇の魔物がいる方へ足を進める。

 シグナムはそんな彼女に、

 

「ブルトンヌ殿、あなたもあの魔物と戦うつもりのようだが、どのようにして戦うつもりだ? 腰に差しているその細剣が通用するような相手には見えんが」

 

「そうだな。並の魔物ならこれで充分だが奴には通じないだろう。すぐに折れてしまうのが目に見えている。奴のような大物には《宝剣》を使うしかない」

 

 ブルトンヌの言葉にシグナムは眉をひそめる。

 彼女が差しているのは、自身が言うように山ほどの大きさの魔物に通用しそうにない細剣一本だけで他に武器はない。

 訝しむシグナムの前でブルトンヌは手袋を外し、露わになった右手をシグナムに見せた。手の形はベルカの人間と変わらず指も五本ある。その指のうち人差し指には緑の宝石が載せた指輪が嵌め込まれていた。

 

「その指輪、あの城を出てから主が付けていた物に似ているな……まさかそれが」

 

 シグナムの問いに答えずブルトンヌは口の端に笑みを浮かべ、右手を自分の前に掲げ――

 

「出でよ。ヴァンネットに伝わりし宝剣が一振り――《魔戦斧グランヴェール》!」

 

 その瞬間指輪から緑色の光が漏れ、光は大きな斧の形を取りブルトンヌの手に収まる。それを見てシグナムは目を見張った。

 

「指輪から武器が……これはまるで」

 

「うむ、貴殿たちの武器と同じだな。貴殿たちの武器もフロニャルドの宝剣と同様に色々な形をとるのだろう。星詠みで見た時は(それがし)も驚いた」

 

 ブルトンヌはそう言いながら指輪から表出した斧を構える。

 

「では行くぞ。このグランヴェールとガレット獅子団の長たる(それがし)の力、とくとこの目に焼き付けるがいい!」

 

 そう叫ぶとブルトンヌの背中に緑色のオーラに包まれた紋章が現れ、彼女が持つ斧も炎に包まれていく。そして……

 

「喰らえ……“獅子公裂火爆炎斬”!」

 

 ブルトンヌが勢いよく炎に包まれた斧を振るうと、斧から火の鳥が出てきて魔物へと向かって行く。

 火の鳥は魔物とぶつかった瞬間に爆発し、魔物は身をよじらせる。

 苦悶に悶える魔物を見据えながらシグナムは剣を構えた。

 

「レヴァンティン」

『Schlangeform』

 

 レヴァンティンがそう告げるとともにかの剣は弾丸を落としながら鎖のような連結状の刃となり、シグナムはそれを魔物に向かって振るう。

 

「飛竜一閃!」

 

 シグナムが振るった刀身から伸びる連結刃を喰らって魔物はひるみながら、眼下にいるシグナムたちを喰らおうと首をもたげるが、

 

「でああああ!」

 

 魔物の真横まで飛んできたザフィーラが魔物の顔面を思い切り殴りつけ、魔物は大きく音を立てながら地面に倒れる。それによって地面は大きく揺れるものの、シグナムはわずかに宙に浮きブルトンヌはその場に屈みこむことで転倒を免れる。

 それからすぐに魔物は巨大な胴と尾を巧みに動かして身を起こし、口をもごもごと動かす。

 

《ザフィーラ! 上に跳んで!》

 

 ザフィーラの脳裏に声が響いたと同時に、大蛇はザフィーラに向けて黒い霧のようなものを噴き出す。ザフィーラは指示通り上に跳ぶことでかろうじてそれを避けるも靴に霧がかすり、靴は跡形もなく破れ落ちた。

 それを見ることでザフィーラは即座にこれがただの霧ではないと気付く。

 あの靴は、守護装備と呼ばれるフロニャ(ちから)という加護が込められたものだ。それがかすっただけで破れるなんて。靴を溶かした霧の正体を察した瞬間、背中に冷たい汗が流れるのをザフィーラは感じた。

 大蛇は再び口をもごもごさせ、ザフィーラは構える。だがそこへ――

 

「だあああああ!!」

 

 魔物の頭上に飛んできたティッタが大剣を振り上げて、魔物の頭に叩きつける。

 その一撃と固有技能による衝撃で、魔物は頭をふらつかせ目をグルグル回した。

 そこへさらに――

 

「ギガントシュラーク!」

 

 ヴィータは巨大な槌で魔物の顔面を思い切り殴りつけ、間髪入れずにリヒトが飛んできた。

 

「デアボリック・エミッション」

 

 魔物に向けてリヒトが右手をかざすと、彼女の右手から巨大な黒い球体が現れ、魔物を包み込んだ。魔物は球体の中で苦しげに悶えながらこらえようとあがく。

 

 

 

 

 

 

 魔物を包む球体を視界に捉えながら俺は右手を前に掲げた。俺の右手の人差し指には、青い宝石がはめ込まれた意匠の指輪がはめられている。

 その指輪に向かって――

 

「出でよ、《神剣エクスマキナ》!」

 

 そう唱えた瞬間、指輪は青く光り中から青い柄に刃を取り付けた剣が出てきて、俺の手の中に収まった。

 今回限りの愛剣を右手に持ちながら左手の甲に紋章を浮かべて、そこに気力を込める。すると背後に何かが現れたのを感じ取った。練習通りなら俺の背後には大きな紋章が現れているに違いない。

 俺はすかさず剣を真横に振るう。すると剣のまわりに可視のオーラが集まりオーラは巨大な剣の形をとる。ブル閣下によるとこのオーラを揮力、揮力を武器や盾の形にすることを揮力武装と呼ぶらしい。

 揮力でできた剣――《紋章剣》が出来上がる頃には黒い球体は消失し、魔物は剣を構える俺の方に顔を向けた。

 

「行くぞ!」

 

 俺は空を蹴って魔物に向かって一直線に飛ぶ。

 魔物は俺を捉えると同時に口をもごもごとさせた。

 ――来たな。

 俺は魔物に向かって行きながら意識を奴の口元に向ける。

 次の瞬間、魔物の口から黒い霧が吹き出てきた。

 俺は真横に飛んで霧を避け霧を噴き出したままの魔物に向かって進み、紋章剣を振り上げた。

 霧を噴き終えた魔物は首をもたげ俺に目を向ける。

 

 その時俺はふと妙な感覚に襲われた。この魔物はずっとこうなることを望んでいたような、自分を殺せる者をずっと待っていたような――急にそんな考えが頭に浮かんだのだ。

 

 俺は剣を握る手に力を込め、揮力でできた紋章剣を振るい上げ眼前の魔物に向けて一気に打ち下ろす。

 

「シュバルツ・ヴァイス―紋章剣版―!」

 

 紋章剣の一撃を受けて魔物はぴくぴくと痙攣しながら首を降ろし、ずしーんと大きな地響きを立てて地面に倒れた。

 魔物は地面に倒れたきりピクリとも動かない。奴を斬る寸前に妙な事を考えたせいか、魔物に対して憐れみのようなものを感じながら俺は皆に告げる。

 

「……下に降りよう。閣下にこれからどうすればいいのかを聞きたい」

 

 俺がそう言うと、守護騎士たちとリヒトはうなずいて俺とともに地上まで降りた。

 

 

 

 

 

 

 俺たちは地上でシグナムやブル閣下と合流し、魔物の状態を確認していた。

 最初こそは閣下も警戒を解くことができずにいたが、魔物は倒れたままで俺たちが近づいてもピクリとも動かない。

 閣下はしばらくの間魔物の死骸を眺め、それから俺たちの方を向いた。

 

「皆ご苦労だった。貴殿たちのおかげで魔物を討ち果たすことができた。さすがは(それがし)が選んだ勇者とその供たちだ。ガレットや周辺国の民を代表して礼を言うぞ」

 

「まっ、魔物つってもあたしらにかかれば大した敵じゃなかったな。奴が噴きかけてた霧みたいなのに当たってたらまずかったと思うけど」

 

「ブルトンヌ殿こそなかなかの腕前だった。そのグランヴェールという斧も見事なものだ。貴国において国宝として扱われているだけはある」

 

 ブルトンヌのねぎらいにヴィータとシグナムが応え、他の者たちも笑みを浮かべたりほっと一息ついたりした。そんな中リヒトとイクスは浮かない顔をしている。

 俺はそんな彼女たちに声をかけた。

 

「どうした二人とも? 随分元気がないが、どこか怪我でもしたのか?」」

 

「い、いえ違います。魔物さんがかわいそうだなって思って……最初にこの魔物さんを見た時は怖いと思ってたんですけど、今はなんだかかわいそうじゃないかなって思っちゃって……魔物さんだって人や動物に迷惑をかけたくてかけたわけじゃないでしょうし」

 

 言いづらそうに話すイクスの言葉に皆は表情を消す。

 確かにこの魔物はこいつなりに生きようとしていただけかもしれない。それが人や他の動物の迷惑になってしまうだけで。しかし、だからといって放っていいわけでもない。あのまま放っておけば被害はさらに拡大し、閣下が危惧する通りこの魔物によって街が滅ぼされるようなことにもなりかねなかった。

 それに一つ引っ掛かることがある。

 

「そうか。リヒトもそう思っているのか? この魔物がかわいそうだと」

 

「あっ、いえ、確かにこの魔物のことは気の毒だとは思いますが、私が気になっているのはそこではなくて……実はこの魔物を最初に見た時から嫌な気配を感じていたのですが、その気配がいまだに消えないままなのが少し気になるんです」

 

 リヒトは釈然としない様子でそう話す。それを聞いてまさかと思った。

 

「まあ私たちが今さら何を言ってもこの魔物さんは退治しちゃいましたからどうにもならないんですけどね。……それで魔物さんはどうしましょう? これだけ大きいとお墓に入れることもできませんし――」

「――イクス、そいつから離れろ!」

 

 俺が叫ぶとイクスは「えっ?」と言いながら、何を言われたのか分からないような顔でこちらを振り向いた。

 同時にイクスの姿が巨大な影に覆われ俺たちはそちらを見上げる。イクスもまた俺たちの姿が影に覆われていくのを見てそちらの方へ顔を向けた。

 

「えっ――きゃああああ!!」

 

 イクスはあらん限りの声で絶叫する。

 今までピクリとも動かなかったはずの魔物が、鎌首をもたげて俺たちを見下ろしていたのだ。

 

 くそ! 今頃になって復活するとは……まさかとは思うが魔物に対するイクスの憐れみが彼女の体内にあるコアに伝わって、瀕死状態の魔物を治癒してしまったのか?

 

 俺たちは魔物を見上げながら武器を構え、イクスとシャマルは互いに身を寄せ合う。そんな俺たちを見下ろしながら魔物は口をもごもごとさせる――あれは!

 

「みんな避けろ!」

 

 俺は叫ぶが魔物はすでに口から黒い飛沫を飛ばしておりとても間に合わない……ここで俺まで攻撃を喰らうわけには。

 

 フライングムーヴ!

 

 技能が発動しまわりの動きがひどく緩やかになる。魔物が噴き出している霧も魔物の眼前に留まったままだ。その間に俺は断腸の思いでその場から離れた。

 仲間たちは守護装備を着ているため致命傷を喰らったとしても一度だけは無傷なままでいられる。むしろここで俺が下手に誰かをかばったりなんかすれば、俺まで守護装備の恩恵を失って魔物に反撃できなくなってしまう。ここは俺だけでも奴の攻撃を避けて反撃に備えるべきだ。

 

 それはわかっているのだが、彼女をかばわなかったことに対してなぜか胸が痛んだ。

 

 ここで技能は解けて――

 

「きゃああああ!!」

 

 当然魔物は黒い霧を噴き出し、目前にいる彼女たちはその霧をもろに浴びてしまった。

 そして彼女たちが来ている(守護装備)はボロボロと破れ落ちていく。無事なのは障壁を張って自身を守っていたザフィーラだけだ。

 霧を噴き終えて魔物は動きを止めている。

 その隙をつくように俺は再び紋章剣を具現化させて魔物に向かって飛びあがった。

 

「だああああ!」

 

 硬直したままの魔物に向けて剣を振り下ろす。

 しかし今度は一撃で倒れることなく、魔物は俺に標準を合わせ口をもごもごとさせる。

 

 間に合わない。ここは固有技能を使うしか――

 

「グランマニエハンマー!」

 

 俺が固有技能を使おうとする直前に、頭上から甲高い声と巨大な(とげ)付きの鉄球が降って来て魔物の頭に直撃した。鉄球に押されて魔物の頭ははるか下へ沈む。

 俺は横に目を向ける。そこには白いドレスを着た金髪碧眼の美女がいた。

 彼女は魔物を見ながら声を張り上げる。

 

「今です!」

 

「了解――烈空一文字!」

「ルビーフレア!」

 

 金髪の美女に続いて狼耳の少女とリス耳の少女が現れ、揮力の刃で魔物を斬りつけていく。

 そしてとうとう魔物の体は崩れ、黒い瘴気となって霧散していった。

 後に残るのは小さな蛇と蛇の胴体に刺さっている赤い刀のみ。そこへ――

 

「兄者、今だよ!」

 

 茶髪の少女が叫ぶ方を見ると、そこには少女が着ているものに似た装束の男がいた。

 

「天魔封滅!」

 

 男は手にしていた紙を投げるとそれめがけて短刀を投げつける。

 短刀は紙に刺さりながらそのまままっすぐ飛んできて、蛇に刺さっている赤い刀に突き刺さった。

 俺はそれをただ呆然と眺める。そこへ――

 

「これで魔物は封印できました。もう心配はいりません」

 

 助けてくれた金髪の美女はそう声をかけてくる。俺は礼を言うのも忘れ……

 

「君は……君たちは一体?」

 

 思わずそう尋ねた俺に、美女は満面の笑みを浮かべて名乗った。

 

「私はアデライド・グランマニエ。パスティヤージュの姫様によって異世界から召喚された《勇者》です」

 

 

 

 

 

 《ガレットの勇者》と《パスティヤージュの勇者》……異世界から召喚された二人の勇者はここで対面を果たした。




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