1、迷子
バッドエンドマーチ事緑山なみは、この日も美味しい物を食べ歩いて居た。他の仲間達も、この日は各自自由に行動して居て、バッドエンドハッピー事星崎みさきは、みさきが懐いたみゆきの祖母たえの家に遊びに行き、バッドエンドサニー事日川あおいは、何か面白い事はないかと関西方面に出掛け、バッドエンドピース事黄野やおいは、何やら怪しげな本を仕入れて、コミケという言葉に惹かれて情報招集に出掛け、バッドエンドビューティ事青田れいなは、夏休みの宿題を済ませると言い、図書館に出掛けて居た。
「ウ~ン!たまには一人で気ままに食べ歩くって言うのも、悪くはないよなぁ・・・」
そう言いながら、なみは美味しそうにバニラソフトクリームをペロペロ舐めた。空を見上げれば、太陽がこれでもかとばかり、強い日射しを地上へと照らし、ソフトクリームが溶け始めた。公園のベンチが空いて居たので、なみは木陰のベンチに腰を下ろし、暑い夏を満喫して居ると、なみは緑色のTシャツを引っ張られた感覚を覚え、思わず視線を向けた。そこには、黄色のシャツと青いオーバーオールを着た、見た感じ3、4才の小さな男の子が、なみとなみの食べて居るソフトクリームを、物欲しそうにジィと眺めて居た。男の子と視線が合ってしまったなみは、一瞬の沈黙後、軽く咳払いをして向きを変えるも、男の子もなみの移動した方向に移動し、再びなみの食べて居るソフトクリームをジィと見つめた。変顔浮かべながら、なみは何度も向きを変えるも、男の子は楽しそうに、その都度なみの正面に移動した。根負けしたなみは、軽く溜息を吐くと、
「ハァ・・・な、何かあたしに用!?」
「あのね・・・お姉ちゃん達とお兄ちゃん達と買い物に来たのぉ!そうしたらね、可愛い猫ちゃんが居たから追いかけたの!そうしたら、お姉ちゃんとお兄ちゃんが居なくなったの・・・」
そう言うと、男の子は急に不安になったのか、泣きそうな顔をしてなみは困惑した。
(これって・・・迷子って奴だよなぁ!?参ったなぁ・・・折角一人で満喫してたのにさぁ!誰か居ないか!?)
キョロキョロ辺りを見回すも、この暑い中では公園で遊ぶ人の姿も無く、なみは益々困惑する。
(このままシカトして、どっか場所変えるか!)
そう思ったなみは、徐にベンチから立ち上がり、場所を移動しようとすると、男の子はなみの服を握りしめ、一緒に付いて来ようとする。なみの脚力ならば、男の子を振り解いて走り去る事など造作も無かったが、なみはこの男の子を見て居ると、何処か心が和むような気がして居た。男の子が、ウルウルした瞳でなみを見つめると、なみは深い溜息を付き、
「ハァァァ・・・分かった!あたしも一緒に捜してやるよ!!」
「本当!?」
「ああ!ただし、泣くのは勘弁だぜ?泣いたら・・・あたしはあんたを追いてっちゃうからな?」
「うん!僕泣かない!!」
「そうそう!それで良いんだ・・・アイス食べるか?」
「うん!」
こうして男の子と接して居るなみは、男の子と年の離れたお姉さんのようにも見えて来るようだった・・・
なおは、必死の形相で町内を走り回って居た・・・
妊娠中の母親とも子を労り、弟達と妹達と一緒に買い物に出かけたなおだったが、ちょっと目を離した隙に、末弟のこうたの姿が忽然と消えて居たのだから・・・
「こうたぁぁ!」
何度弟の名を呼んでも返事は無く、なおは泣きそうな表情で尚も探し回った。居なくなった事に気付いてから、そう時間は経って居ないので、直ぐに見つかると思って居たなおだったが、予測不能な行動を取る幼児の事を侮って居た。商店街を走って居ると、顔見知りの八百屋のおばさんがなおに声を掛け、
「アレェ!?なおちゃんじゃない?おかしいわねぇ・・・さっきなおちゃんが、一番下の男の子と一緒に、歩いて居る姿を見た気がしたんだけどねぇ?」
そう言うと、おばさんは小首を傾げた。なおはおばさんの前に慌てて移動すると、
「お、おばさん、それ本当!?ど、どっちに行ったの?」
おばさんは、なおだとばかり思って居た少女と、手を繋ぎながら商店街をこのまま真っ直ぐ歩いて行ったとなおに告げた。なおはおばさんに礼を言うと、再び走り出し、こうたの後を追った。少し走ると、八百屋のおばさんが言っていたように、こうたは、緑のTシャツを着た少女と、手を繋いで歩いて居る後ろ姿が目に入った。なおはホッと安堵し、
「こうた!」
「エッ!?あっ、なおお姉ちゃん!」
なおに呼び掛けられたこうたは、驚いて振り向くも、なおの顔を見て嬉しそうな表情を浮かべ、隣に居るなみの手を引っ張った。なみも振り返ると、視線が合ったなおとなみは、互いを指差し驚きの表情を浮かべると、
「「アッ!?」」
「なおお姉ちゃん!このお姉ちゃんに、アイスクリーム買ってもらったんだよ!」
「エッ!?な、何か弟がすっかりお世話になったみたいで・・・ありがとう!」
「べ、別に・・・それより、こんな小さい子から目を離すなよな!」
「う、うん・・・ゴメン・・・」
お互い微妙な表情を浮かべるも、なおは、なみがこうたの面倒を見てくれたと知り、心から感謝し、なみも、こうたから解放されホッと安堵した筈なのに、何処か寂しさも湧いてくるような自分に戸惑った。
「あ、あたしはもう行くよ!」
なみは、なおに気取られないように、こうたに手を振ると去って行った・・・
「なおお姉ちゃん、今度あのお姉ちゃんと遊んで貰う約束したんだよ!」
「へ、へぇ・・・こうた、良かったね!」
「うん!」
「でも・・・あたし達に黙って、勝手に一人で行っちゃ駄目でしょう?」
「ゴメンなさい・・・」
「さあ、けいた達が待ってるから戻ろう!」
なおは右手でこうたの左手を掴み、けいた達を待たせて居る場所に戻って行った。
(バッドエンドマーチ・・・借りが出来ちゃったなぁ)
なおはそう思いながら、今一度背後を振り返った・・・
2、暗躍
魔界・・・
宝瓶宮を治めるシャックスは、配下に命じ、オークの森の四方に、怪しげな機械を配置させた。鱗に覆われた魚人は、一緒に来たゴキブリのような昆虫形の魔に話し掛け、
「なぁ、シャックス様は何でこんな事するんだ?」
「そんな事俺が知るか!だが、オークを利用しようとしてるのは確かだろうな!!」
「相変わらず、得体の知れないお方だなぁ・・・」
二人の魔は、ブツブツ話し合いながらも、仕事を終え去って行った。そのシャックスは、双児宮を訪れ、カインとアベルに対してある提案をして居た・・・
「何だと!?残りの大蛇を全て貴様に貸せだと?」
アベルは少し語気を荒げ、聞き返すようにシャックスに念を押すと、シャックスは、見て居る者を不愉快にさせるような、ニヤケ顔を浮かべながら、
「ハイ!残念ながら私には大蛇が居りません・・・無能な前任者が、プリキュア達に大蛇を倒されてしまいましたのでねぇ・・・そこで、プリキュアを捕らえる代わりに、ベレル、ニクス、バルバス、ミノタウロス、アロン、オロン、リリスが持つ大蛇を、私めに貸して頂きたいのです!!」
「ほう・・・貴様がプリキュアを捕らえると言うのか?」
「ハイ!そう時間は掛からないと思いますよ?すでに準備は始まっておりますので・・・」
「どうする、カイン?」
アベルに尋ねられ、腕組みしたまま沈黙して居たカインは、
「構わん!俺から皆には通達する・・・シャックス、貴様の好きにやればいい!!」
「ありがとうございます!では・・・」
シャックスは、ニヤケ顔で頭を下げると、双児宮からゆっくり出て行った。アベルは舌打ちすると、
「チッ!カイン、良いのか?あんな下っ端を十二の魔神に任命した事も解せぬが、残りの大蛇まで奴に貸すのは・・・」
「フフフ、そう憤慨するなアベル!奴を十二の魔神に任命したのは、奴は、裏でコソコソ我らに隠れ、何かをやって居たのでな・・・少しソドムに調べされたら、中々使い道がありそうだったので、利用したまで・・・」
「利用!?」
「ああ、奴の野心は並々ならぬものがある・・・奴の真の狙いは、この魔界の頂点に立つ事だ!奴は、その用心深い性格から、自分の障害になるものを、徹底的に調べ上げ、利用出来る者は手駒に加え、障害になる者は排除する!!」
「どういう事だ!?」
「奴は恐らく・・・プリキュアを精神的に屈服させ、自分の手足に動かす駒として利用し、俺達に反逆しようと考えて居る!!」
「何だと!?そう上手く行く訳無かろう?」
「普通に考えればなぁ・・・だが、奴ならあるいは、プリキュアの弱点か何かを、既に調べ上げて居るのかも知れん・・・奴がプリキュアを駒として扱えるなら、逆にこちらにも好都合!!我らの封印を解かせる絶好の機会でもある!!!」
「成る程・・・逆に奴を利用しようという考えか?」
「そういう事だ!だが、ルーシェスの光の結界が、どうやれば解けるのか、そこがまだ調べねばならん・・・それまで奴を泳がす!!」
カインの話に、アベルはコクリと頷いた・・・
宝瓶宮に戻ったシャックスは、自分の思い通りに事が運んで行くのを見て、笑みが止まらなかった。
(フフフフ、良いぞ!後は大蛇やオークを利用し、プリキュア達を誘き寄せれば良いだけ・・・行動開始と行きましょうかねぇ!!)
シャックスは、時空に歪みを発生させ、人間界へと赴いた・・・
3、追い詰められたなお
7月も終りを迎えようとして居たある日、それは起こった・・・
シャックスは、プリキュアの中で緑川なおに狙いを付けて居た。
(クククク、プリキュアの中でも、人一倍家族の絆が強いキュアマーチ・・・逆にキュアマーチを利用し、他のプリキュア達を・・・)
シャックスは、夜中の内になおの家に配下を侵入させ、なおの家族を浚って居た。翌朝、妊娠中の母とも子を労って、誰よりも早く起きて、朝食の支度を始めたなおは、家族を起しに行くも、家族の姿は忽然と消えて居た。
(お父ちゃん、お母ちゃん、けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた・・・みんな、みんな何所行っちゃったのよ!?)
動揺したなおは、幼なじみで親友でもある青木れいかに連絡しようと、電話口まで来た時、なおはその場から動けなくなって居た。何故なら、電話の前には体長1.5メートルはありそうな、蜷局(とぐろ)を巻いた蛇が居たのだから、
「ヒィィィ!な、何で家の中に蛇が!?」
今にも泣き出しそうな顔で怯えるなおは、れいかにも連絡出来ず、蛇に睨まれた蛙のように佇んで居た。そんななおに、突然蛇が話し掛け、
「クククク、そう怯えなくても良いですよ!キュアマーチ!!」
「なっ、何で!?」
「あなたの事は、良く調べさせて貰いましたよ!あなたは家族が多い事もあり、プリキュア達の中でも、特に家族愛が強いようですねぇ・・・」
「まさか・・・あんたがお父ちゃん達を?」
シャックスは、なおの家に侵入させた蛇を使い、言霊を使ってなおとコンタクトを取って来た。蛇に怯えるなおだったが、シャックスがなおの家族の事を話し出すと、恐怖心よりも怒りの感情が先に出て、なおは思わず目の前の蛇を睨み付けた。
「あんた!あたしの家族に何をしたの?みんなを返してぇぇ!!」
「私の言う通りにして頂ければ、危害を加えず返す事を約束しましょう!」
「ふざけるな!誰が家族を浚って脅迫するような奴の・・・」
「なら、あなたの家族が減っていくだけです・・・そうだ!逆に増やすのも面白そうですねぇ!?あなたの母親、妊娠してるんですって?魔界に住むオークは、特に恰幅の良い女体を好んでましてねぇ・・・あなたのお母さん何か人気者になりそうで、何百というオークの子を産み落としそうですよ!!」
「あ、あんた!何を!?」
「あなたに協力して頂ければ、危害は加えませんが、拒むのなら・・・先ずあなたの母親を、オークの森への生贄とさせて頂きます!!」
シャックスの言葉を聞き、なおは青ざめた・・・
なおの脳裏に、嘗てシーレインから聞いた魔界の情報が思い返されてくる。だが、十二の魔神の事や、魔王ルーシェスの事を聞いては居たが、オークに付いての情報は聞いては居なかった。
「ああ、あなたはオークに付いては知らないようですねぇ・・・では、聞かせて差し上げましょう!」
そんな狼狽えるなおの容姿に気付いたのか、シャックスは、オークの特性をなおに語って聞かせた。オークとは、あらゆる種族と繁殖行為を行える稀有(けう)な存在で、豚とゴリラが合わさったような醜い容姿をし、知能は低く、雄しか居なかった。だが、その分オークの生殖本能は凄まじく、集団で行動しては、あらゆる種族の女を浚っては犯し、犯された女は一週間でオークの子を孕み、二週間目には子を産む、オークに浚われた者は、生涯オークの子を産む慰め者となった事や、魔族、動物、人間等、あらゆる種族の女や雌と交わっても、オークは、自分達種族の子を孕ませる事が出来る事を教えた。
「そんな・・・そんな・・・」
なおはショックでガタガタ震えた・・・
母とも子を、そんなオークへの生贄などには絶対にさせたく無かった。瞳からポロポロ涙が零れだしたなおは、
「止めて!止めてよぉぉ!!」
「ええ、ちゃんと私の言う通りにして頂ければ・・・ご家族皆さんお返し致しましょう!断れば・・・あなたの母親の他に、二人の妹さんもオークへの生贄とし、父親と弟達は・・・そうですねぇ、大蛇の餌にでもさせましょうかねぇ?」
「お、大蛇!?」
なおの脳裏に、バッドエンド王国でキャンディを飲み込もうとした、巨大な大蛇の姿が思い出され、その大蛇が父や弟達を飲み込むビジョンが頭を過ぎった。
「イヤァァァァ!お願い!お願いだから・・・みんなを返して!!」
なおはショックで顔を覆い、泣きながらシャックスに家族を帰すように哀願するも、
「フフフフ、ですから、言う通りにして頂ければ、返して差し上げますよ!私が指定する場所に、他のプリキュア達を全員集めて頂ければねぇ!!」
「そ、そんな・・・あたしに、プリキュアのみんなを裏切れって言うの!?そんなの・・・そんなの出来ない!!」
「出来ないなら・・・ご家族がどうなるんでしょうねぇ?では、30分だけ時間を差し上げましょう!それと、この事を他のプリキュア達に話せば・・・分かってますよねぇ?では!!」
「アッ!?待って!・・・・・あたし、あたし、どうしたら良いの?ウワァァァ」
なおはそのまま崩れ落ち、泣き喚いた・・・
だが、なおに考える時間は無かった!
30分後には、なおの返答を聞きに、再びあの蛇がやって来るのだから・・・
なおは、受話器を手に取ると、縋るようにれいかの家に電話を掛けた・・・
「れいかぁぁ・・・」
「なお・・・泣いてるの!?何かあったの?」
電話口のれいかは、なおが泣いている事に気付いた。幼なじみの異変を素早く察知したれいかは、なおを安心させるかのように、優しい口調で語り、なおはつい家族の事を話しそうになるも、蛇に監視させて居るような気がして、中々話し出せなかった。
「れいか・・・・・ゴメン!何でもない!!」
「アッ!?なお!なお?」
なおは電話を切ると、その場で崩れ落ち、再び顔を覆って泣いた・・・
(なお・・・)
れいかは表情を険しくすると、なおの様子を見るべく、身支度をして出掛ける準備をして居ると、しばらくして再び電話が鳴った・・・
なおは、夢遊病者のように歩いて居た・・・
そんななおを、店で買ったメロン味のかき氷を、美味しそうに食べ歩きして居たなみが見つけ、
(何だ、あいつ!?変な歩き方して?)
「おい!今日はあの時の小っこいのが一緒じゃ無いのか?」
だが、なおはなみの声が聞こえないかのように、フラフラそのまま通り過ぎて行った。
(何だ!?どうも様子が変だな?・・・まっ、あたしには関係無いね!)
なみはそう心の中で呟いたものの、チラリと背後を振り向いた・・・
4、罠
なぎさ達一同が、なおに呼び出されたのは、七色ヶ丘中学校校庭だった。真っ先に駆け付けたのは、みゆき、あかね、やよい、真琴とアン王女、なおの姿は見当たらず、五人が小首を傾げている間に、あゆみ、そしてせつなの瞬間移動でやって来たなぎさ達、咲達、のぞみ達、ラブ達、響達、そして妖精達の姿があった。だがピーちゃんは、日課の散歩に、魔王も育代と家で留守番して居る為、この場には居なかった。その中には、プリキュアに興味を持って居たキャミーも、ハミィと一緒にこの場に来て居たが、何故かれいかの姿は見当たらなかった・・・
れいかを除いた一同が揃うと、辺りに霧が発生し、霧が晴れた時、一同の目の前には、沈痛な面持ちをしたキュアマーチが、一同の顔を見た途端ポロポロ涙を流し、
「みんな・・・ゴメン!本当にゴメン!!」
「マーチ!?どうしたの?何があったの?」
「それは・・・」
みゆきに問われたマーチは、思わず言葉に詰まると、突然辺りで声が聞こえてきて、
「おっと!それ以上は言わない約束でしたよねぇ・・・キュアマーチ?」
「クッ!?」
マーチの後ろから、ゆっくり姿を現わしたのは、紫色の短髪で、右目にのみ赤い水晶を埋め込んだ、宝瓶宮の魔神シャックス!
「何かおかしいですね?」
「ええ、あの男からは、嫌な感じがする!」
「みんな、気を付けるメポ!あいつからは、邪悪な匂いがプンプンするメポ!!」
ひかりに聞かれた薫も同意し、メップルは、シャックスから邪悪な匂いが漂っていると忠告を与えた。怪訝な表情を浮かべたみゆきは、
「あなたは誰!?何でマーチと一緒に?」
みゆきに問われたシャックスは、人を不愉快にさせるような笑い声を発し、
「クッ、ククククク!私の名前はシャックス!!魔界の魔神と言えば分かりやすいですかねぇ?」
「魔界の!?そのあなたが、何でマーチと一緒に?」
「いえね、キュアマーチは・・・私の考えに賛同して下さり、我が配下に加わってくれたのですよ!そうですよねぇ、キュアマーチ?」
「クッ・・・」
マーチは返事をせず、悔しそうに俯き拳を振るわせた。その姿を見たなぎさ達は、マーチがシャックスに脅迫されて居る事が直ぐに分かった。見る見る表情を険しくした一同、なぎさとほのかはシャックスを睨み付け、
「あんた!マーチに何をしたの?」
「大方、マーチの家族を人質にして脅して居る・・・そんな所かしら?」
「ククククク、頭の回転が速いようで助かりますよ!なら話は早い・・・あなた方プリキュア全員、私に降伏し配下になりなさい!!さもなければ、キュアマーチの家族がどうなるか・・・お分かりですよねぇ?」
「何て卑怯な奴!」
「私達が、そんな脅迫に屈するとでも思ってるの!」
ラブとのぞみも険しい表情でシャックスを睨み付ける。シャックスは両手を広げ、
「おやおや、仲間の家族などどうでも良いという事ですか?」
「ふざけるなや!仲間の家族を、そない風に思う訳無いやろ!!」
「私達をこの場に集めた事・・・後悔させて上げるわ!」
「ええ、こんな卑怯な手を使う奴・・・懲らしめてやりましょう!」
そう言いながら、険しい表情を浮かべたあかねが、ゆりが、りんが、シャックスを睨み付けると、シャックスはニヤリと口元に笑みを浮かべ、
「そう言うと思って居ましてね、色々細工をしておきました!」
シャックスがそう言うと、七色ヶ丘中学校の校庭に、蜃気楼のように不気味な森が浮かび上がってきた。マーチの顔色は一気に青ざめ、シャックスを睨み付けると、
「約束が違う!何でオークの森を!?」
「ハァ!?私に異論を唱えるなど・・・あなた、自分の立場分かってるんですか?」
「卑怯者!」
「今の言葉はちょっと傷つきましたねぇ・・・キュアマーチ?」
「ウッ・・・・」
シャックスの右目が真紅に輝き、これ以上抗議すれば何をするか分からないと直感したマーチは、そのまま悔しげに押し黙った。なぎさ達一同は、突如現われた森を見て響めき、マーチが言ったオークの森と言う言葉を聞いた瞬間、キャミーは突然ガタガタ震え始め、それに気付いたハミィとエレンは、
「キャミー、どうしたニャ?」
「震えて居るじゃない!どうしたの?」
「ハミィ、セイレーン、それにプリキュア達も・・・まずいよ!あの森は、オークの森って言って・・・」
キャミーは怯えながら、プリキュア達にオークに付いて語って聞かせた。その信じがたい話を聞き、一同が静まりかえる。いつきは眉を顰めながら、
「その話が本当なら、そんな奴らが僕達の住む世界に現われたら・・・」
「ええ、私達が住む世界は・・・」
「オークの巣にされるわ!」
「何という卑怯な真似を・・・」
こまち、祈里、そしてアン王女も、険しい表情を浮かべながら、この世界に現われようとしている森を見ながら呟いた。
「絶対阻止しなきゃ・・・みんな!」
響がキュアモジューレを手に取り一同に促すと、一同も変身アイテムを手に取った。
「「デュアルオーロラウェーブ!!」」
「ルミナス、シャイニングストリーム!!」
「「「「デュアル・スピリチュアル・パワーッ!!」」」」
「「「「「プリキュア!メタモルフォーゼ!!」」」」」
「スカイローズ!トランスレイト!!」
「「「「チェインジ・プリキュア!ビートアップ!!」」」」
「「「「プリキュア!オープンマイハート!!」」」」
「「「「レッツプレイ!プリキュア!モジュレーション!!」」」」
「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」
「プリキュア!ラブリンク!!」
だが・・・
一同の身体がプリキュアになる事は無かった・・・
「プ、プリキュアになれない!?」
「これは一体!?」
せつなが、舞が、思わず両腕を見つめ、プリキュアに変身出来ない事に驚愕した。シャックスは再び笑い出し、
「ククククク、だから言ったでしょう?色々細工をしたってねぇ・・・此処は魔空間と言いましてね!魔界と人間界の狭間と言えば分かりやすいでしょうか?さっきの霧は、魔空間へと繋ぎ、光の力を封じる結界の中にあなた方を閉じ込めたと言う訳です!キュアマーチのように、すでにプリキュアに変身して居れば別ですが、今のあなた方は、鳥籠に捕らわれた鳥そのもの・・・飛ぶ事も出来ず、ただ喚いているしか無いという事ですよ!!」
「何ですって!?」
「プリキュアになれない私達じゃ・・・」
シャックスの説明を聞き、アコと真琴が悔しげな表情を浮かべ、それを見たシャックスはニヤニヤすると、
「そう言う事です!更に・・・」
シャックスの声を合図にしたかのように、七色ヶ丘中学校の空に亀裂が走ると、赤、青、黄、緑、紫、茶、そして黒色の身体を持った、七匹の巨大な大蛇が出現して、魔空間の中に捕らわれた七色ヶ丘中学校の空を飛び回った。
ソードとアン王女を除いた一同の顔は、見る見る青ざめた・・・
一同の脳裏に、バッドエンド王国に現われた巨大な大蛇の光景が思い出されてくる。キャンディも思い出したのか、震えながらみゆきにしがみついた。みゆきはキャンディを安心させるように抱きしめながら、
「あ、あれは、バッドエンド王国に現われた・・・」
「ええ、大蛇!」
「しかも、七体も居る何て!?」
みゆきの声にほのかも険しい表情で同意し、奏は七体も居る事に焦りを浮かべた。シャックスは、右手の人差し指を天に掲げ、
「あなた方の返答次第で、この七体の大蛇が、あなた方が此処で捕らわれている間に、街の人間共を喰らい尽くす事も可能何ですよ!」
「卑怯者!」
ラブが悔しそうにシャックスを罵るも、シャックスは悦な表情で悶え、
「良いですよ!その屈辱に塗れた表情・・・ゾクゾクしてきます!!何、私に忠誠さえ誓って頂ければ、後は、あなた方は考える事など不要・・・私が開発したある装置で、私の命令通りに動く兵隊として活躍させてあげますよ!!」
「そ、そんな!?みんな・・・・・本当にゴメン」
マーチは、力なくその場にヘナヘナへたり込んだ。マーチは家族を人質にされ、シャックスからプリキュアをこの場に集める事だけを指示された。悩み抜いたマーチは、みんなならきっと何とかしてくれる事を信じ、半ば縋る心で一同をこの場に呼んだ事が、結果的に一同を、自分と同じような苦悩をさせる事になり、マーチの心は折れ掛かって居た。マーチの瞳から、止め処なく涙が溢れ、ただ一同に詫び続けた。みゆきは悲しそうな表情を浮かべ、
「マーチ、泣かないで!」
「マーチ、あなたが気にする必要は無いわ!」
「そうだよ!もし私が同じ立場でも、同じ事をしたと思う・・・」
泣き続けるマーチを慰めるように、みゆきに続いて、ゆりとあゆみもマーチを庇った。
なぎさはキッとシャックスを睨み付け、指を指すと、
「悪いのはあんたよ!マーチは約束を守った・・・マーチの家族を返して!!」
「返す!?まだあなた方の返事を聞いてませんしねぇ・・・これ以上時間を稼がれても、私も迷惑ですから、直ぐに決断するようにして差し上げましょう・・・大蛇、人間界に出向き、人間を・・・喰らってきなさい!!」
「な、何やと!?」
「止めてぇぇぇ!」
シャックスは、上空を飛び回る大蛇に指示を出すと、あかねが驚き、やよいが悲鳴を上げた。
その時、真夏の暑さが嘘のような冷気が辺りに漂うと、大蛇は見えないバリアに阻まれたかのように、七色ヶ丘中学校の敷地から出られなかった。
「こ、これは一体!?」
動揺するシャックスが周囲を見回すと、一人の人影が近付いて来た。冷気はより一層周囲に漂った。
「よくもなおを・・・・・なおを悲しませた報い、このキュアビューティが晴らして見せる!!」
「ビューティ!?」
マーチが驚きの声を上げる中、シャックスを凍てつく視線で見つめながら、キュアビューティが姿を現わした!
5、荒ぶるビューティ
れいかは、再びなおからの電話で、七色ヶ丘中学校に来て欲しい事を告げられた時、なおが、何者かに脅されて居るであろう事を見抜いて居た。幼なじみの直感が働き、れいかはなおを脅して居る人物の正体を、自ら確かめようと行動して居た。れいかは、最悪な事態も想定し、プリキュアに変身して居た事が幸いした。
「ビューティ!」
「姿が見えん思うたら・・・」
「で、でも・・・様子がおかしいよ?」
「ほ、本当!まるで・・・最初に見た時のバッドエンドビューティのようだわ」
みゆき、あかね、やよい、あゆみは、現われたビューティが、何時もと違う雰囲気を醸し出している事に困惑した。ゆりは、今のビューティを見て、嘗て自分が陥った状況、憎しみの心に捕らわれて居る事を悟った。
「ビューティ、駄目よ!憎しみの心で戦っては!!」
ゆりは、ビューティを窘めるように叫ぶも、なおを悲しませ、なおの家族を人質にして、他のプリキュアの仲間達にまで危害を加えようとして居る、シャックスへの憎しみの心で埋まったビューティの耳に、ゆりの言葉は届かなかった。一歩一歩シャックスに近付く事に、ビューティの表情は険しさを増した。
「クククク、一人だけプリキュアに変身して居るとは予想外でしたが、私に手を出せば、キュアマーチの家族が・・・・」
「ヤァァァァァ!」
シャックスの言葉が終わる前に、突進したビューティが、驚愕の表情を浮かべるシャックスの顔面に飛び蹴りを放ち、脆くもシャックスが吹き飛んだ。更に攻撃しようとするビューティから、シャックスは距離を取ると、
「き、貴様ぁ!私の顔を・・・私の顔を蹴りやがったなぁぁぁぁ!!もう許さん!!!キュアマーチの家族を・・・オークや大蛇の生贄にしてやるぅぅぅぅ!!!」
シャックスは右目を怪しく輝かせると、オークの森の側に、気を失って倒れて居る、とも子、はる、ひなの姿が現われた。その瞬間、オークの森の奥から、無数の獣のような咆哮が聞こえだした。
「お母ちゃん!はる!ひな!」
慌てて立ち上がったマーチが助けに向かうも、三人の前には、見えない壁でもあるかのように、マーチは三人に触れる事が出来なかった。更に、上空を旋回する大蛇の側に、柱で縛られ気を失っている大悟、けいた、ゆうた、こうたの姿があった。
「お父ちゃん!けいた!ゆうた!こうたぁぁぁ!!」
マーチは、気が狂わんばかりに絶叫するも、四人が意識を取り戻す事は無かった。より一層辺りに冷気が立ち上り、
「どれだけなおを苦しめれば・・・・・許さない!絶対に許さない!!」
ビューティの殺気に、思わずシャックスは後退り、泣き叫ぶマーチを呼ぶと、
「キュアマーチ!キュアビューティを殺せぇぇ!!そうすれば、お前の家族を返してやるぞ!!さあ、早くしろ!!オークは、お前の母と妹に気付いたぞ?森の中に浚われればどうなるか・・・分かってるよなぁ?キュアマーチ!!目の前で家族が、生贄にされるのが見たいかぁぁぁぁ!!!」
オークの森から近付いて来る獣の声が、上空を旋回する七匹の大蛇の雄叫びが、マーチを精神的に追い込んで行った。
「ハッハッハッハッ」
マーチはその場にしゃがみ込むと、まるで呼吸の仕方を忘れたかのように過呼吸になり、荒い呼吸を繰り返した。
「マーチ・・・」
「もう、もう見て居られないわ」
みゆきの目に涙が浮かび、舞は思わず顔を背けた。咲も思わず視線を逸らし、シャックスを睨み付けると、
「な、何て奴なの!?」
「助けに行きたいですけど、この結界から出られなきゃ、私達プリキュアにはなれませんし・・・」
うららも悔しそうにキュアモを握りしめた。満はせつなに話し掛け、
「せつな、アカルンで助けに行けない?」
「さっきから何度か試してるけど・・・駄目だわ!」
満に聞かれたせつなは、悲しげな表情で首を振って無理だと答えた。一同に落胆の溜息が起こった・・・
(こんな事なら、ミラクルドラゴングレイブを、トランプ王国に戻すんじゃ無かった・・・)
アン王女も悔しげな表情を浮かべながら、ミラクルドラゴングレイブを、シロップに頼んでトランプ王国に戻した事を後悔して居た。えりかは、髪を掻きむしりながら変顔を浮かべ、
「あぁ、もう!こんな時こそ神様の出番でしょうがぁぁ!!」
「えりか!神様だって忙しいでしょうし・・・」
「八つ当たりは良く無いよ!」
「でもさぁ・・・」
「あいつがさっき、此処は人間界と魔界の狭間だって言ってたでしょう?いくら神様でも、近づけないのかも知れない・・・」
そんなえりかを、沈痛な表情をしたつぼみといつき、そして美希が窘めた。悲しげな表情でエレンとキャミーを見たハミィは、
「セイレーン!キャミー!何とかならないニャ?」
「何とかしたいのは山々だけど・・・」
(ベレル様!聞こえてますかニャ!?ベレル様にお願いがありますニャ!)
「「キャミー!?」」
キャミーが、首輪にぶら下がった小型の水晶を握りしめて、ブツブツ呟き始め、エレンとハミィは少し驚きの表情を浮かべながら見守った。過呼吸するマーチを見たビューティは、ジロリとシャックスを睨み付け、
「これ以上なおを・・・苦しめるならぁぁぁぁ!プリキュア!ビューティブリザー・・・」
「ヒィィィィ!お、大蛇ぃぃ!!キュアマーチの家族を喰らえぇぇぇ!!!」
ビューティに追い詰められ、無様にシャックスが怯えるも、大蛇にマーチの家族を喰らうよう指示を出すと、ハッと立ち上がったマーチは、慌ててビューティに飛びつき、ビューティブリザードを止めさせると、
「れいか!止めてぇぇぇぇぇ!!」
それでも、何時もの冷静さを失って居たビューティは、シャックスに攻撃を加えようとした時、かれんの叱責が飛んだ!!
「ビューティ!冷静になりなさい!!迂闊に攻撃しては、マーチの家族が危険な目に遭うだけよ!!ビューティ、憎しみの心を捨てなさい!!今、マーチを救えるのは・・・あなたしか居ないのよ!!!」
マーチを救えるのはあなたしか居ない・・・
かれんの発したその言葉が、木霊のようにビューティの心に響いた時、ビューティはハッと我に返ったようにマーチに気付き、
「なお!?」
「お願い・・・このままじゃ、あたしの家族が・・・お願い、れいか!!」
「なお・・・ゴメンなさい!私とした事が・・・」
我に返ったビューティは、マーチを抱きしめ謝罪し、マーチはビューティに謝りながらボロボロ泣いた。それを見たシャックスは、口元をニヤリとさせ、
「そうです!それで良いんですよ!!さあキュアマーチ、そのまま私に攻撃したキュアビューティを・・・倒しなさい!!!」
シャックスの非情なる命令が、再びマーチへと告げられた!
第百四話:シャックスの罠
完
遅くなりましたが、百四話投稿致しました!
今回は、マーチが精神的に追い詰められていくのをメインとしています!
結局一話では纏めきれませんでした・・・
魔法つかいプリキュア・・・ことは=フェリーチェが加入し、新たなる敵も現われ、どう展開していくのか楽しみです・・・
何やかんやで前回投稿してから一ヶ月以上経ってました・・・
その間は、風邪が治らなかったり、機械に頭挟まれたり、町内会の行事に休みは出てたりと、色々ありました・・・
取り敢えず、町内会の行事も秋まではそんなに時間取られるのは無いので、次回は頑張って早めに仕上げます!!