プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百二十三話:魔界の予言者

1、魔界の予言者モグロス

 

 キュアビートは、ニクスとリリスと共に、シーレインの処刑を回避させる為、魔界へと向かった。曇天の中、不気味に佇む双児宮を前に、三人とハミィ、ピーちゃん、ソリーとラリーはやって来た。いざ魔界にやって来ると、さっきの勢いをも半減し、ビートはハミィを抱き、ビクビクしながら辺りを見渡した。ビートは・・・やはり怖がりだった。

 

(い、いざ来てみると、何だか怖く・・・エッ!?)

 

 ビートは、双児宮の端に人影を見て、思わずニクスとリリスの後ろに隠れながら、人影を見た場所を指差した。

 

「ふ、二人共、あそこ!あそこに誰か居る!!」

 

「「エッ!?」」

 

 ニクスとリリスは、ビートが指さす辺りを、警戒した表情を浮かべながら見つめると、周囲に不気味な笑い声が響きだした。

 

「ホ~ホッホッホ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ?」

 

「エッ!?」

 

 不気味な笑い声を響かせる者は、怯えなくてもいいとビートに話し掛けるも、ビートは声を聞くだけで、思わず鳥肌が立っていた。ニクスとリリスは、声の主に心当たりがあるようで、

 

「その声は・・・モグロス卿!?」

 

「モグロス卿、何故あなたが双児宮の前に?」

 

 ニクスとリリスに、モグロス卿と呼ばれた人物がゆっくり姿を現わした。小太りで何所か愛嬌がある顔は、福の神を連想させるような面持ちで、全身を黒い帽子と黒いスーツで覆っていた。モグロスは、何所か底知れぬ不気味さを漂わせて居た・・・

 

「ホ~ホッホッホ、この魔界に、革命をもたらす切掛けのプリキュアを、是非この目で見たいと思いましてねぇ・・・」

 

 ビートはモグロスに、自分が魔界に革命を切掛けを作ると言われ、激しく動揺した。そんな事を思った事は無く、只友達になったシーレインの危機を救いたい・・・それだけだった。

 

「わ、私が魔界に革命!?そんな大それた事考えて無いわ。私は、ただ友達を助けたいだけ」

 

「ホ~ホッホッホ、これは失礼致しました。改めまして、私、モグロスと申します・・・お近づきの印に、あなたの未来を占って差し上げますけど?」

 

「私の未来を占う!?あなた、何か企んでいるの?」

 

「とんでもございません。私は、あなた方が住む世界の言葉で言うボランティアをしていまして、見返り無しで未来を教えて差し上げているだけですよ・・・ホ~ホッホッホ」

 

 再び白い歯を見せて、大きく口を開けながら笑い声を発したモグロスに、ビートは嫌悪感を抱いていた。何かバカにされているようにも受け取れた。ニクスとリリスも表情を険しくし、

 

「モグロス卿、この方をからかうのならば、私とリリスの二人が承知しませんよ?」

 

「今はあなたに、未来を占ってもらっている時間は無いの」

 

 ニクスとリリスにも拒否されたモグロスだったが、再び笑い声を発し、

 

「ホ~ホッホッホ、そうですかぁ?ではお詫びに、あなた方に一つご忠告して差し上げましょう。いいですか、これから双児宮のカインさんに出会っても、決してカインさんの目を見てはいけませんよ?」

 

「「「エッ!?」」」

 

「もし、カインさんの目を見たら・・・あなた方は大変な事になるでしょう!」

 

 モグロスの忠告を聞き、ビート、ニクスとリリスの表情が瞬時に青ざめた。大変な事とは何なのかと思うと、三人は思わず無視しようとしていたモグロスに話し掛けた。

 

「た、大変な事って何!?」

 

「「モグロス卿、何か未来予知を!?」」

 

「よろしいですか、カインさんの目を見ない事ですよ?・・・ホ~ホッホッホ」

 

 だが、モグロスと呼ばれた小柄な魔物は、三人の質問に答える事無く、笑い声を響かせながら去っていた。ビートも、ニクスとリリスも、そんなモグロスの背を、ただ呆然と見つめた。

 

「ね、ねえ、あの人は一体!?」

 

 ビートは、不気味な風貌をしたモグロスの先程の忠告が気になり、ニクスとリリスに問うと、先ず困惑顔のニクスが話し始めた。

 

「モグロス卿は・・・未来を見通す力を持ったお方」

 

「未来を見通す!?」

 

「そう・・・別名、魔界の予言者とも呼ばれているわ」

 

「魔界の・・・予言者?」

 

 ビートは思わずゴクリとつばを飲み込むと、今度はリリスが頷き、モグロスが去っていた場所を見つめながら、

 

「ええ、普段何所に住んで居るのか誰も知らないの・・・何か予知を見た時だけ、今のようにフラリと突然現われる謎の方よ。何を考えて居るのか分からなくて、私はどうも苦手なのよねぇ」

 

「ベレル様やアモン様同様、古の魔の一人・・・私とリリスも、あの方の事はほとんど分からないの」

 

 十二の魔神の中の二人、ニクスとリリスをもってしても、モグロスについてはほとんど情報を持っては居なかった。ビートは、心配そうに見つめるハミィの頭を撫でながら、

 

「行きましょう!忠告は気になるけど・・・」

 

「「そうね・・・」」

 

 ビートにそう返事を返しながらも、ニクスとリリスは、二人だけでテレパシーで会話し、この先ビートの身に危険が迫れば、自分達の命に代えても、守り通そうと改めて誓い合った。

 

 

 双児宮・・・

 

 その名が示す通り、同じ顔をした不気味な生物のオブジェが、左右の扉に付いていた。ニクスとリリスが左右の扉を押すと、扉は不気味な音を立てながら奥への道を開いた。リリスは、自分の長い髪を一本抜くと、息を吹きかけた。すると、毛は細いロープのようになり、リリスはビートの両手首を、自分の髪で今作った細いロープで軽く縛り、

 

「少しの間我慢してね?」

 

 リリスは、ビートを労わる様に声をかけると、ビートはそんなリリスに微笑み返し、

 

「ええ、大丈夫よ。それより、この奥にカインとアベルは居るの?」

 

 ビートに聞かれたニクスとリリスは小さく頷いた。双児宮の中に入れば、カインとアベルのテントリーの中に入ったようなものだった。二クスは緊張した面持ちで、

 

「そう・・・この先こそカイン様とアベル様が治める双児宮・・・少し私語は慎みましょう」

 

 二クスに忠告され、三人と妖精達は、無言のまま双児宮の扉の奥へと進んで行った。三人の姿が消えたと同時に、双児宮の入り口にモグロスが現われ、帽子を深く被り直すと、

 

(さてさて、ご忠告をして差し上げましたが、あの三人は、カインさんの目を見る事になるでしょうねぇ・・・ですが、あのプリキュアの肩に止まっていた鳥、あの鳥がどう動くか・・・何せ、あの鳥の動きだけは、この私の予知でも見られませんでしたからねぇ・・・)

 

「ホ~ホッホッホ」

 

 モグロスは何所か楽しげに、笑い声を発しながらニヤリとすると、双児宮の中へと入って行った。

 

 

2、野心

 

 三人が奥に入ると、暗闇の中に火が点り、奥への道を照らした。ビートは思わず生唾を飲み込んだ。沸き上がってくる恐怖心を打ち消そうとするかのように、ニクスとリリスに話し掛けようとするも、二人は険しい表情で、カインとアベルの手の内に居る状況では、無駄な私語は止めた方がいいと改めて忠告された。足音だけが辺りに響く中、奥の部屋の中から明りが漏れてきた。ニクスとリリスの顔が緊張し、ビート、ニクスとリリス、ハミィとピーちゃん、そしてソリーとラリーは、不気味な音を立てるドアを開き、明りが漏れる部屋の中に入って行った。殺風景な部屋の中に、軍服のような衣装を着た一人の金髪の男が、背を向けて佇んで居た。男は、一堂に気づいたのか背後を振り返り、

 

「戻ったか、ニクス、リリス・・・ほう、ちゃんとプリキュアを連れ帰ったようだな。だが、想像したより少ないな?」

 

「は、はい・・・ですがカイン様、私とリリスは、ちゃんと言われた通りにプリキュアを連れ帰りました」

 

「シーレイン様の処刑は、無かった事にして頂けますね?」

 

 ニクスとリリスは、緊張の面持ちでカインにそう告げるも、カインは口元に笑みを浮かべながら、

 

「ン!?そうだったなぁ、その話の前に・・・貴様がプリキュアか?」

 

 カインの射るような視線がビートへと向けられた。ビートはそんなカインに飲まれないように、少し大きな声で答え、

 

「そうよ、私は・・・キュアビート!」

 

 ビートはそう言いながら、緊張した面持ちを隠せなかった。だが、元々恐がりなビートが、この場に居た事は幸いしたかも知れなかった。カインからしてみれば、ビートは捕らわれて緊張しているように見えていた。カインは含み笑いをしながら、

 

「クククク、そう緊張するな・・・俺の言う通りにしてくれれば、貴様の命まで取ろうとは思わん」

 

「ふざけないで!誰があなたの言う通り何て・・・」

 

「クククク、貴様に選択権などは無い・・・貴様は、この俺の命令通りに動く人形となるのだからなぁ」

 

「ウッ!?」

 

 カインが怪しい瞳でビートを見つめると、ビートの脳裏にモグロスの忠告が過ぎり、ビートは慌てて視線を外した。ニクスとリリスは、慌ててビートの身体をカインの視界から遮るように前に出た。もちろん、自分達もカインから視線を逸らしていた。

 

「カ、カイン様、先程の話しの答えをまだ伺っていません」

 

「シーレイン様の処刑・・・無かった事にして頂けるのですよね?」

 

 ニクスとリリスは、再度シーレインの件をカインに確認するも、カインは興味なさげに、

 

「残念だったなぁ、今頃・・・」

 

 カインの言葉が終わる前に、ビート、ニクス、リリスの顔が瞬時に険しくなった。ニクスとリリスは、モグロスの忠告を忘れたかのように、鋭い視線でカインを睨み付けた。カインは、そんな二人を見て口で笑い、

 

「何だ、その顔は!?」

 

「「私達を欺ましたのね!」」

 

 ニクスとリリスは、カインを非難した。十二の魔神を束ねる四神に担わない行為をするカインに対し、二人は嫌悪感を示した。

 

「クククク、バカめ、プリキュアが手中に入った今、危険なシーレインを生かしておく訳あるまい?今頃は、バルバスが配下の者を・・・」

 

「「カイン!」」

 

 カインに欺まされていたとハッキリした事で、ニクスとリリスの髪が揺らいだ。更には二人の背後から、

 

「カイン!あなたは許さない・・・ビートソニック!!」

 

 ビートは、両手を縛っていた紐を引き千切り、ラブギターロッドを取り出すと、カインにビートソニックを放った。虚を突かれたカインは舌打ちし、

 

「チッ・・・ニクス、リリス、貴様ら俺を欺いたな!」

 

 カインはその場を動かず、右手に力を込めてバリアを張り、ビートソニックを完全に防いだ。カインは、軍服のような服の埃を払うような仕草で、余裕の表情を見せるも、ビートは着地するとカインを指差し、

 

「カイン、あなたの好きなようにはさせない!」

 

「エエ、私達を欺いた報い・・・思い知らせて上げるわ!」

 

「シーレイン様は、私達三人で必ず救って見せるわ!」

 

 ビートに続き、更にはニクスとリリスもカインに反旗を翻して動き、三人がカインを包囲するも、カインは余裕の表情を変えなかった。

 

「フン、貴様らもあいつらのようにしてやる」

 

「「「何の事!?」」」

 

「クククク・・・姿を現わせ、我が人形共!」

 

 カインが指をパチリと鳴らすと、黒き塔に続く双児宮の奥から、数体の人影が現われた。その姿を見た瞬間、ニクスとリリスは目を見開いて驚いた。

 

「そ、そんな・・・アモン様!?」

 

「オロンにアロンまで?」

 

「「カイン、一体、みんなに何をしたの?」」

 

 ニクスとリリスは呆然とした・・・

 

 何故なら、十二の魔神達の中、アモン、オロン、アロンの三人が、カインに何かされたのか、殺気を周囲に発しながら立って居たが、ニクスとリリスには、三人からはまるで感情を感じられなかった。カインはニヤリと笑い、

 

「クククク、さっき言った通りだ。こいつらは俺の魔幻を受け、俺の命令通り動く操り人形と成り果てた」

 

「何て事を!?」

 

「・・・・・・」

 

 憤るニクスに反し、リリスは、自らもカインと似たような技を使う事もあり、思わず沈黙した。カインは、そんなリリスを見て笑みを浮かべながら、

 

「ククク、この技は元々・・・リリス、貴様が俺に教えてくれたようなものだぞ?」

 

「わ、私が!?どういう事?」

 

「ククク、お前の身体の中には、古の魔神の血が眠っているのさ・・・今尚魔界の地下深くに眠ると言われる・・・七つの大罪と呼ばれし七人の古の魔神、その中の一人、色欲の魔神の血がな!」

 

「私の・・・中に!?」

 

 カインの言葉は、思わずリリスの心に響いた。古にこの魔界を支配していたと言われる七つの大罪と呼ばれた魔神達、その中の一人色欲の魔神の血が、カインは自分の中に眠っていると告げた事で、リリスはカインの術中に嵌りかけていた。

 

「そうだ・・・リリス、目を覚ませ!この魔界を、嘗てのように争いの絶えぬ世界に変えようでは無いか。貴様の身体の中に眠る血も、疼いて居るだろう?リリス、貴様が快楽を吸収した時に感じる喜びを思い出せ!!」

 

「私の中に眠る・・・色欲の魔神の血?」

 

「そうだ!」

 

「リリス、ダメよ!カインの甘言に耳を貸さないで!!」

 

 ニクスはそう叫びながらも、カインが言っている事は、事実であろう事を悟った。現にリリスは、快楽を吸収すると、我を忘れる傾向が多々あった。

 

「俺の命令一つで、こいつらはお前達を葬る事が出来るが・・・リリス、お前の中に眠る古の魔神の血を絶やすのは惜しい。リリス、貴様の技でニクスとプリキュアの快楽を吸い尽くせ、後はじっくり、俺がこいつらも操り人形に代えてやる」

 

 カインの術中に嵌ったかのように、リリスの怪しげな視線が、ビートとニクスを見つめた。ニクスは、動揺しながら何度もリリスの名を叫んだ。エロチックアイやチャームをまともに受ければ、ニクスといえど抗う事は出来ない事を知っていた。

 

「リリス、お願い正気を保って!プリキュアを・・・キュアビートを命に代えても守るという誓いを忘れたの?リリスゥゥゥ!」

 

 ニクスは再度リリスの名を叫んだ。普段いがみ合うような関係の二人だったが、心の中では繋がっている事を、リリスは改めて実感した。

 

(二クス、ありがとう・・)

 

 リリスは、心の中では二クスに感謝したものの、ちょっと捻くれた面もあるリリスは、思わず笑い声を上げた。

 

「ウフフフフ、ちゃんと聞こえているわよ。おバカさん・・・私が、あの時の誓いを忘れて居ると思っているの?古の魔神の血?そんなの関係無いわ!私はサキュバスのリリス・・・カイン、あなたの野望を阻む者!!」

 

「「リリス!」」

 

 リリスは、二クスの励ましもあり、自我を失う事無く、ハッキリカインの野望を阻む者と告げた事で、ニクスとビートの表情が思わず明るくなった。カインは舌打ちし、

 

「チッ・・・ならば、貴様のチャームと俺の魔幻、どちらが優るか試して見るか?」

 

「望むところ・・・行くわよ!」

 

 リリスとカイン、両者の瞳が金色に輝き、リリスはカイン目掛け投げキッスをした。一方のカインも、右手の親指と人差し指をリリスに向け、二人の技であるチャームと魔幻が激突した。だが、次第にリリスの顔から大量の汗が流れ出し、右膝を付いて荒い呼吸を始めた。

 

「ハァハァハァ・・・こ、これ程とは?」

 

「「リリス!」」

 

 直ぐにニクスとビートがリリスに近付き、三人は改めてカインの実力を知った。

 

「チッ、流石は古の魔神の子孫、俺の魔幻をまともに受け正気を保てるとは・・・だが、次は耐えられまい?これでお前ら三人は終りだ!マリオネット・コンパルション!!」

 

 カインが三人に対し、ピアノを弾くように指を動かすと、三人は自分の意思と関係無く頭が動き、カインの顔をマジマジと見せられた。

 

(((か、身体が勝手に・・・)))

 

 三人は、身体の自由が効かず、ただカインの事を見つめる事しか出来なかった。カインは、再び親指と中指を三人の顔に狙いを定めると、

 

「さあ、直ぐ自分の考えなど不要にしてやる・・・魔幻!」

 

「「「アァァァ!?」」」

 

「セイレーン!しっかりするニャァァァ!!」

 

 ハミィが絶叫するも、カインの魔幻が、ビート、ニクス、リリスに決まり、次第に三人の意識は遠ざかり、目からはアモン達同様光を失おうとしていた。だが、その時・・・

 

「ピィィィィ!」

 

 ピーちゃんは、雄叫びと共に目を光らせると、まるで双児宮の中で、時が止まったかのように静まり返った。ピーちゃんは、嘴でビート、ニクス、リリスの頭を何度も突っついた。

 

「「「い、痛い!・・・エッ!?」」」

 

 ピーちゃんの嘴で突っつかれた三人は、一瞬記憶が混乱するも、思わずハッと我に返った。

 

「ギャァァァス!」

 

 ピーちゃんは三人に対し、今の内にこの場から逃げろと叫んだものの、この場にピーちゃんの言葉を理解出来る者は居なかった。ビートは、ピーちゃんの頭を撫でながら、

 

「ピーちゃん、ありがとう」

 

「ほう、ソドムと同じ時を操る者が、プリキュアの仲間の中に居るとはなぁ?」

 

「ピィィィ!?」

 

 ピーちゃんは驚愕した・・・

 

 自分が時を止めたこの空間の中で、ピーちゃんが触れたビート、ハミィ、そしてニクスとリリス以外動ける筈は無かった。現にアモン、オロン、アロンの三人は、止まった時の中で、身動き一つせずしていたのだから・・・

 

 ピーちゃんは、この姿ではカインに勝てない事を悟り、懸命に三人とハミィに、ここから逃げるように伝えようとするも、三人は再びカインと戦おうと身構えていた。ピーちゃんが止めた時も再び動き出し、アモン、オロン、アロンの雄叫びが双児宮に響いた。ニクスは、そんな三人を見つめると、

 

「カイン、三人を元に戻しなさい!」

 

「ククク、ならば腕ずくでそうさせてみろ!」

 

「言われる迄も無い!」

 

 ニクスの髪が真紅に染まり、カインに対しブラッディダンスを放とうとした瞬間、地獄の業火のような火炎が、ニクス目掛け飛び、ニクスは辛うじて火炎を躱した。

 

「ハァハァハァ・・・あ、危なかった」

 

 ニクスは、火炎で攻撃してきた人物を見て思わず顔が青ざめた。

 

「そ、そんな!?ア、アモン様?」

 

 動揺して動きが止まったニクスに、アロンが放った矢が射られ、ビートが慌ててビートソニックを放って相殺し、オロンが身体を丸めて体当たりするのを、リリスがニクスの両手を持ち上げて宙に浮かべ何とか躱した。

 

「ニクス、一旦引くわよ!このままじゃ私達に勝ち目は無いわ!!」

 

「クッ・・・分かったわ」

 

 二クスは悔しそうな表情を浮かべたものの、現状ではリリスが言う通り勝ち目はなかった。カインは、そんな三人を見ながら口元に笑みを浮かべ、

 

「ククク、良いのか?このまま無様に逃げれば、シーレインといえど不抜けた状態では、バルバスの配下の者に、一方的になぶり殺しにされるだけだぞ?」

 

「「「クッ!?」」」

 

 三人に取って、カインの発言は痛い所を付かれた。このまま退却すれば、確かに心を閉ざしているシーレインの身が、危うい事は三人にも分かった。更に状況は悪化し、室内の入り口から声が聞こえてきた。

 

「もっとも・・・お前らはここから逃げる事も出来んがなぁ?」

 

 そう言いながら、ゆっくり姿を笑わしたのはアベルだった。三人に取って、アベルの出現は誤算だった。

 

「「ア、アベル!?何時の間に・・・」」

 

 ニクスとリリスは、此処にはアベルは居ないと思い込んでいた事を後悔したものの、最早双児宮から逃げ出す術もなくなり、カインとアベル、更にはアモン、オロン、アロンとさえも戦わなければ、どうする事も出来ない状況に追い込まれた。

 

「どうやら・・・戦うしか無さそうね」

 

 ビートはそう言うと、ラブギターロッドを手に持って身構えた。ニクスとリリスは、アイコンタクトして頷き合うと、

 

「・・・・ビート、あなたは双児宮の奥にある扉に向かって」

 

「此処は私とリリスで抑えるわ」

 

「「シーレイン様をお願い!」」

 

 ニクスとリリスは、この時死を覚悟した・・・

 

 それは、ビートにも直ぐに伝わった。だがビートは、二人を置いて自分一人で行ける筈は無かった。ビートは激しく首を横に振り、

 

「だ、駄目よ!あなた達だけ残して、私だけ行ける筈無いでしょう?此処を出る時は・・・必ず三人一緒よ!!」

 

 ビートは、少し涙ぐみながらも、三人で双児宮を出ようと進言した。二クスとリリスは、そんなビートの進言に首を振り、

 

「でもこのままじゃ・・・三人共カインの操り人形になってしまうわ」

 

「そんな屈辱を味わうなら・・・私も二クスも、この場で死ぬ覚悟は出来て居るわ」

 

「「せめてあなただけでも・・・」」

 

 悲痛の表情を浮かべながら、ビートだけでもこの場から逃がそうとする二クスとリリスであったが、

 

「お喋りするとは・・・」

 

「余裕だなぁ?」

 

「「「クッ!?」」」

 

 奥からはカインが、入り口からはアベルが、同時にビート達三人に攻撃をしようと動き出したその時、

 

「ホ~ホッホッホ!」

 

「「何だと!?」」

 

 双児宮の室内にモグロスの笑い声が響いた瞬間、カインとアベルは思わず攻撃を止めた。何故なら、二人はあろう事か同士討ちをしそうになっていた。

 

「バ、バカな!?俺とアベルに対し、このような戯言をするなど・・・」

 

「姿を見せろ!」

 

 そんな動揺するカインとアベルを嘲笑うかのように、室内の中央に、ビート、ニクス、リリスを庇うように、モグロスが姿を現わした。

 

「あなたは!?」

 

「「モグロス卿!?」」

 

 モグロスは、驚くビート達に白い歯を見せながら笑い声を上げ、ハミィの隣に居るピーちゃんを見つめると、

 

「ホ~ホッホッホ、その鳥には、ちょっと面白いものを見せて頂きましたし、今回は特別に、あなた方に力を貸して差し上げましょう」

 

「「「エッ!?」」」

 

「良いですかぁ、あなた方は何も気にせず、このまま真っ直ぐ奥の扉に走って下さい」

 

「で、ですがモグロス卿、奥の扉にはアモン様、オロン、アロンが・・・」

 

 奥の扉を塞ぐように居並ぶアモン、オロン、アロンを見た二クスが、戸惑いながらモグロスに現状を伝えるも、モグロスは余裕の表情で笑い声を発し、

 

「ホ~ホッホッホ、心配には及びません。さぁ、お行きなさい」

 

 ビート達に力を貸すモグロスに、カインとアベルの表情は険しさを増した。普段誰にも与さず気ままに行動するモグロスを、カインとアベルは侮っていた。

 

「モグロス、何の真似だ!?」

 

「モグロス、何故貴様が此処に?」

 

「お気になさらないで下さい。ちょっと暇つぶしに立ち寄っただけですから・・・ホ~ホッホッホ」

 

 モグロスは、まるでカインとアベルをからかうように、二人を見ながら笑い声を上げた。アベルは舌打ちすると、

 

「チッ・・・ふざけるなぁ!」

 

 アベルの激高と共に、雷がモグロス目掛け落ちるも、モグロスは雷の動きを見切っているかのように、状態を捻って攻撃を回避した。

 

「おやおや、急に雷が落ちてきましたねぇ?」

 

 モグロスは右手を額に当て、キョロキョロ周囲を伺うようなコミカルな動きをすると、アベルの表情が更に歪み、

 

「貴様ぁぁ!」

 

 激高したアベルは、モグロスに対し無差別に雷を落とすも、モグロスは完全に雷を見切り、ちょっと身体を反らすだけで全て躱した。

 

「「「す、凄い!?」」」

 

 三人は、アベルの攻撃を完全に見切って避けまくるモグロスに、思わず呆然とすると、それに気づいたモグロスは、

 

「ホ~ホッホッホ、さあさあ、今の内にお行きなさい」

 

 モグロスは、三人に手でジェスチャーを交えながら、奥の扉に急ぐように指示を出した。三人は、モグロスの実力を直に見た事で、この場はモグロスを信じて言う通りに行動しようと思った。

 

「あ、ありがとう」

 

「「モグロス卿、恩にきます」」

 

 ビート、ニクス、リリスは、軽くモグロスに頭を下げ、奥の扉目掛けて走り出した。モグロスは、ニヤニヤしながら三人の背中に手を振っていると、カインは、険しい表情でアモン達三人を指さした。

 

「待て、むざむざ逃がすか!アモン、オロン、アロン、三人を捕らえろ!!」

 

「ホ~ホッホッホ、無駄ですよ。既に風は吹きましたから」

 

「「何!?」」

 

 モグロスの言葉を表すかのように、双児宮に一筋の風が吹き抜けた。それと同時に、奥の扉の前に居た筈の、アモン、オロン、アロンの三人が、カインとアベルの居る正面側に吹き飛ばされた。

 

「何だと!?モグロス、貴様の仕業か?」

 

「ホ~ホッホッホ!さあ、どうでしょうねぇ?」

 

 モグロスの術中に嵌った事に、カインとアベルが苛立つと、更に奥の扉からモグロスに話し掛ける声が聞こえてきた。

 

「モグロス、貴公の言う通りであったなぁ・・・カイン、アベル、そなたらの悪行、確かにこのべレルしかと見届けた。ルーシェス様に成り代わり、貴公らを成敗する!」

 

「あなたは!?」

 

「「ベレル様!」」

 

 現われたのはスケルトンのベレルだった。ベレルは、細身の愛刀を引き抜くと、剣先をカインとアベルに向けながら、ゆっくりビート達三人を庇う様に前に出た。ビート、ニクス、リリスは、新たに現われた頼りになる援軍、スケルトンのベレルの出現に表情を明るくした。ベレルは背後を振り返り、

 

「お主達は、シーレイン殿を頼む」

 

「「「ハイ!」」」

 

 ビート達三人はベレルに頷くと、奥の扉を抜け黒き塔へと向かった。

 

「チッ・・・ベレル、貴様もルーシェス様に逆らうか?」

 

「黙れ!ルーシェス様に仇なすは貴公達だ!!」

 

 ベレルは、カインとアベルの本心を知り激高していた。魔王ルーシェスに忠誠を誓うベレルは、ルーシェスの代弁者同然のカインを信頼し、忠誠を誓っていたが、最近の二人に疑念を抱いて居たところ、モグロスの忠告を受け共に双児宮を訪れ、それが全てカインとアベルが企てた事と知った。モグロスは、ベレルを宥める様なジェスチャーをしながら、

 

「まあまあ、ベレルさん落ち着いて下さい。此処で戦っても・・・」

 

「止めるな、モグロス!誇り高きアモン殿をこのような姿に・・・許さんぞ、カイン!!」

 

「貴様も直ぐ同じ目に合わせてやる・・・・・魔幻!」

 

 ベレルの注意が、操られたアモンに向いたその隙を逃さず、カインは魔幻の効果範囲まで一気に距離を詰め、ベレルに魔幻を放った。まともに魔幻を受けたベレルの動きが止まるも、モグロスは愉快そうに笑い声を上げた。

 

「ホ~ホッホッホ」

 

「モグロス、何が可笑しい?貴様も直ぐ魔幻の餌食に・・・」

 

「ホ~ホッホッホ、一つご忠告して差し上げましょう。ベレルさんに、そのような小細工は効きませんよ?最も、私にも効きませんけどねぇ」

 

「何!?」

 

「フフフ、そう言う事だ・・・このベレル、肉体を失った時に二つの目も失った。拙者が見る目は・・・心眼!拙者の心眼には、貴様の小細工など、効かぬわ!!」

 

「何だと!?」

 

 ベレルは平然としながら、カインに一太刀浴びせようとするも、アロンの援護射撃で距離を取った。ベレルは一旦剣を鞘に戻すと、モグロスがベレルに近づき小声で話しかけ、

 

「ベレルさん、あなたも二クスさん達と合流した方が得策だと思いますよ?三人の魔神、並びにプリキュアの一人がシーレインさんの傍に居れば、そうやすやすカインさん達も仕掛けられないと思いますけど?」

 

「ウム、一理ある・・・分かった、貴殿の忠告受け入れよう」

 

「はい、では、私もそろそろ退散しますか」

 

「では、援護しよう。ヌゥゥゥン・・・ベレルスラッシュ!」

 

 ベレルは居合の構えから気を高めると、一閃して刀を引き抜いた。その衝撃で剣圧がカイン達目掛け飛び、思わずカインとアベルが、両手を前に突き出してバリアを張ってかろうじて防いだ。それを合図にしたかのように、ベレル、モグロスは、双児宮からその気配を消した。カインは舌打ちし、

 

「チッ、ベレルめ・・・まだ実力を隠していたのか?」

 

「モグロスの気配も消えたな・・・どうするカイン?」

 

「プリキュアには奴らが一緒ならば、迂闊に手は出せぬなぁ・・・」

 

「力押しで攻めれば良いだろう?」

 

「いや、それは得策では無いな。ならば他のプリキュアを利用するまで・・・ブラッドは居るか?」

 

「はい、カイン様!」

 

 カインに名前を呼ばれたブラッドは、双児宮の天井に両足を付け、逆さになった全身黒い大蝙蝠を思わせた。ブラッドは、天井から降りるとカインの前で片膝付いた。

 

「以前、シャックスが探っていた情報は頭に入っているな?確かプリキュアは、人間界の日本とかいう国に住んで居たな・・・これより貴様が人選した数十人を引き連れ人間界に赴け、人間共を利用してプリキュアを誘き出す。俺の指示がありしだい、直ぐに行動に移れ!」

 

「お任せを!」

 

 ブラッドは、カインにお辞儀をし、双児宮を後にした・・・

 

 

3、宣戦布告

 

 カインは頭を切り替え、ビート以外の他のプリキュアを何人か利用しようと考えた。シャックスが宝瓶宮に残していた資料を我が物にしたカインは、プリキュアの情報を得ていた。アベルは、以前ソドムから聞いた忠告を思い出し、

 

「だがカイン、ソドムは俺達に、プリキュアに徒党を組ませるなと忠告して居たぞ?やつらをこの魔界に誘き寄せるのは・・・」

 

「フフフ、分かっている。この魔界に誘き出すのは、四、五人のプリキュアで十分だろう。他のプリキュア共は・・・始末する!」

 

「だが、そう上手くいくか?」

 

 アベルの脳裏に、シャックスを倒した時に見たプリキュア達の姿が浮かんだ。あの時はまだ、未熟さがあるように見ていたが、今さっき見たビートの動きを見る限り、最初に見た時より力を付けている事を見抜いていた。カインは口元をニヤリとさせると、

 

「だから言っただろう、人間共を利用すると・・・アベル、双児宮を任せるぞ。俺は巨蟹宮に行く」

 

「巨蟹宮だと!?」

 

「ああ、巨蟹宮の奥には、ソドムが利用していた深淵の闇の間がある」

 

「集中力を高める部屋の事か?」

 

「ああ、これから人間共、並びに我らに忠誠を誓う事を拒否した魔法界の奴らに、俺達の意思を伝えねばならんからな」

 

 カインはそう言い残し、双児宮を後にした・・・

 

 

 ビート、二クス、リリスの三人は、無事に双児宮を抜け、黒き塔の入り口目指し駆け続けていた・・・

 

「「ビート、こっちよ!」」

 

 二クスとリリスが先頭を走り、その後をビートが走っていたが、黒き塔に近づくにつれ、ビートは妙な威圧感を感じていた。

 

(な、何なの!?この感覚・・・正直怖い。此処に居たら駄目なような気がする)

 

「「ビート!?」」

 

「エッ!?ウウン、何でもない」

 

 ビートの本能が、黒き塔に眠る得体の知れない何かを敏感に察知した。だがそれが何なのか、ビートにもその確証は持てなかった。黒き塔の入り口に、十数体の異形な容姿の魔物の姿があった。魔物達は、三人に気づくと道を塞ぎ行く手を阻んだ。二クスは顔を顰めると、

 

「そこを退きなさい!」

 

「二クス、面倒だわ、こいつらに門番でもさせましょう・・・チャーム!」

 

 リリスのチャームを受け、魔物達は目をハートにして三人を見つめると、リリスは魔物達にウインクし、

 

「あなた達、そこで門番をしてねぇ。ベレル様やモグロス卿が来るかも知れないから、その二人以外通しちゃダメよ?」

 

『ギィィィィィ!』

 

 魔物達は、分かりましたと返事を返し、三人に対して道を開いた。リリスは魔物達に投げキッスをし、

 

「ウフフ、良い返事ねぇ?後で二クスとビートが、あなた達を気持ち良くしてくれるって言って居たわよぉ?」

 

『ギィィィィィ!!』

 

 興奮したように大喜びする魔物達を見て、ビートも二クスも困惑した顔付きで、

 

「「言ってないわよ!」」

 

「良いじゃない?」

 

「「良くない!」」

 

 三人は、そんなやり取りをしながら黒き塔の内部へと入った。二クスとリリスは、明かり一つない暗闇の中で、周囲に殺気が漂って居る事に居づいた。

 

「ビート、気を付けて!この中にも十数人居るわ!!」

 

「この程度で私達の足止めをしようだ何て・・・」

 

 ビートの目が次第に暗闇に慣れてくると、既に二クスとリリスは何者かに気づいて戦いを始めて居た。ビートは、襲い掛かって来た獣のような魔物の攻撃を避け、ラブギターロッドを手に持って、ビートソニックで一蹴した。

 

 ビート、二クス、リリスの三人を相手にしては、バルバスの配下達は脆くも敗れ去り、三人は地下へと続く階段を下りて行った。静まり返る室内の様子に、どうやら間に合ったようだと安堵した。

 

「私とリリスも、地下牢に来るのは初めてだけど、陰気な所・・・早くこんな場所からシーレイン様をお出ししなければ」

 

「本当に薄気味悪いわねぇ・・・」

 

「シーレイン!居るんでしょう?私よ、キュアビートよ!二クスとリリスと一緒に迎えに来たわよぉぉ!!」

 

 ビートの声が反響するも、シーレインからの答えは返っては来なかった。更に階段を降り、薄明かりが点いた牢の前に辿り着いた三人は、思わず沈黙した。

 

「「シ、シーレイン様!?」」

 

「シーレイン!?」

 

 牢の中に居たシーレインの頬は痩せこけ、目には隈が目立ち、嘗ての美貌を失っていた。ただブツブツ小さな声で、何かを呟き続ける姿は異質だった。二クスは思わず膝から崩れ落ち、

 

「シーレイン様、何とお労しいお姿に・・・」

 

「シーレイン様は、完全に心を閉ざしてしまったようね・・・」

 

 リリスも沈痛な表情で俯いた。ビートは檻にしがみ付き、何度もシーレインに声を掛けるも、シーレインが三人に気づく事は無かった。

 

「一体どうして!?」

 

 ビートが二クスとリリスに問うと、二クスは沈痛な表情で項垂れながら、

 

「おそらくあの時・・・同胞である筈のアモン様が、シーレイン様の処刑に賛成した事が・・・」

 

「でもそれはカインが、アモンをあの技で操ったからでしょう?」

 

「ええ、でもシーレイン様は、それに気づいて居なかった・・・」

 

 再びビートに問われた二クスだったが、そう言うと押し黙った。リリスも二クスに話しかけ、

 

「シーレイン様が、アモン様と親しかったのは私も知っているけど、ここまでショックを受けるものなの?」

 

「リリスは知らなかったかも知れないけど、シーレイン様とアモン様は、元々カインとアベルに不信感を持っていたようなの・・・私もその事を告げられた時は、半信半疑だったけど、結局お二人の疑念は当たっていたのね。そのアモン様に裏切られたと思ったシーレイン様は・・・」

 

「そうだったの・・・」

 

 再び沈黙する二人だったが、ビートはそんな二人を叱咤するかのように、

 

「話は後にしましょう。シーレインを、一刻も早くこんな牢から出してあげましょう」

 

「「そ、そうね」」

 

 ビートの声でハッと我に返った二クスとリリスも同意し、リリスが髪の毛を抜いて、針のように変化させ牢の鍵を開けると、三人はシーレインを牢から救い出した。とりあえず牢の檻に背もたれさせると、ビートは何かを決意したかのように、ハミィを見つめた。

 

「ハミィ、力を貸して!私達で・・・シーレインの心を連れ戻す」

 

「ニャプ!?そんな事出来るかニャ?」

 

 ビートにそう言われたハミィは、思わず目を丸くしてビートに確認すると、ビートは沈痛な表情で、

 

「分からない・・・分からないけど、あの時メロディ達を救えたように・・・」

 

「分かったニャ!セイレーンの言う通りにしてみるニャ」

 

 ハミィは、ビートに絶大な信頼を置いていた。ビートがそう言うなら、きっとシーレインは救えると思えていた。嘗てシーレインのジ・レクイエムから、メロディ達三人を救えたように・・・

 

「ありがとう、ハミィ・・・二クス、リリス、今から私達で、シーレインの心に私達の歌をシンクロさせてみるわ」

 

「「そ、そんな事が出来るの?」」

 

 二クスとリリスは、思わず希望を見出したかのようにビートを見つめた。ビートは表情を険しくしながらも、

 

「分からない・・・けど、やるしかない!」

 

 ビートとハミィは見つめ合い頷くと、二クスとリリスも思わず聴き惚れる歌を歌いだした・・・

 

 

 魔法界・・・

 

 魔法学校の校長は、校長室で大好きな冷凍みかんを、美味しそうに丸かじりしながら食べていた。通常冷凍みかんは、魔法を使って解凍してから食べるのが一般的だったが、校長は凍ったまま丸かじりにするのが好きだった。

 

「ウム、美味し!」

 

「フフフ、毎日食べてよく飽きませんわね?」

 

 そう校長に話しかけたのは、校長愛用の水晶玉のキャシー、まるで水晶玉の中で命を宿しているかのような彼女は、水晶玉の中に魔法つかいの風貌をした女性のシルエットが映って居て、校長の理解者でもあり、相談相手でもあった。その占いは的中率が高く、校長も信頼していた。ほのぼのとした何時もの日常だったが、その平和は今破られようとしていた・・・

 

(聞け、魔法界の者共よ!我が名はカイン・・・魔界の者と言えば、貴様らにも分かりやすかろう。再三なる我ら魔界からの申し出を拒絶した愚かなる者共よ、これは最終通告だ!今から三十分だけ時間を与えよう・・・我らの軍門に下れ!さもなければ、今から三十分後・・・魔法界に対して総攻撃を掛ける!!)

 

 カインから、突然魔法界の人々にテレパシーが届き、魔法界に対し無条件降伏を告げる宣戦布告が告げられた。魔法界は、カインからの突然の宣戦布告によって、半ばパニック状態になろうとしていた。魔法学校の校長は、表情を険しくして居ると、50代後半と思われる橙色の髪をして、紫を基調にしたドレスと帽子を被った熟女が、慌てて校長室に飛び込んできた。

 

「こ、校長先生!こ、これは一体何事でしょう?」

 

「教頭、騒がずともよい!それより、生徒達の動揺を鎮めるのが先じゃ・・・他の教師達と一緒に、生徒達の心のケアをしてくれ。それと、魔法学校からは決して出ぬように伝えるのじゃ」

 

「わ、分かりました」

 

 教頭は、校長の指示を受けると、直ぐに威厳ある表情を取り戻し、校長室を出て行った。校長は、両肘を机の上に乗せ、両手で頬を抑えて思案顔を浮かべると、

 

「遂に仕掛けて来おったか・・・キャシー、さてどうしたものであろうなぁ?」

 

「そうですわねぇ・・・占ってみましょう!ハァァァ・・・・・エッ!?これは?」

 

「どうした、キャシー?」

 

「魔法学校の制服を着た少女が、光の戦士を連れて舞い戻る・・・とありますわ?」

 

「何じゃ、それは!?」

 

「さあ?」

 

 水晶のキャシーが告げた曖昧な占いの結果に、校長も占った水晶のキャシーも、思わず沈黙した・・・

 

 

 加音町・・・

 

 プリキュア達とアン王女とリコ、そしてブルーは、ビートの身を案じて今尚調べの館の前に居た。バッドエンドマーチは、右手で拳を握って左手で叩くと、

 

「あいつ、一人で抜け駆けして・・・あたしも魔界に乗り込みたかったぜ」

 

「ここにただ居るのって、なんか退屈だよねぇ?アァア、美味しいデザートとかあればなぁ?」

 

 バッドエンドピースがそう言うと、思わずリズムをチラチラ見た。まるでカップケーキの催促をされているようで、リズムは思わず不機嫌そうに、

 

「何よ!?私にカップケーキでも差し入れしろって言うの?」

 

「別にぃぃぃ」

 

 バッドエンドピースが、両手を後ろで組んでリズムから顔を背け、他の一同が苦笑する。そんなやり取りをしている時、突然リコが困惑した表情を浮かべた。両隣に居たハッピーとアン王女は心配そうに、

 

「リコちゃん、どうしたの?」

 

「具合でも悪いんですの?」

 

「な、何か私の心の中に、突然声が聞こえてきて・・・」

 

 一同には全く声が聞こえず、ただリコを見つめていると、リコの顔はどんどん青ざめた。

 

「ど、どうしよう!?カインって魔界の人が、魔法界が降参しないと、三十分後に魔法界に攻めて来るって言っているの」

 

『エッ!?』

 

 リコの表情を見る限り、嘘を言って居るようにも見えず、プリキュア達も困惑しながら耳を澄ませるも、一同には全く聞こえる事は無かった。ブラックは、隣に居るホワイトに話しかけ、

 

「それが本当なら、このままにしておけないよね?」

 

「ええ、私達で魔法界に行くしか・・・」

 

 そうホワイトが返事を返した時、今度はプリキュア達の心に声が聞こえてきた。

 

(聞こえるか、日本に住む人間共!俺は魔界の戦士カイン!小賢しくも我ら魔界に、プリキュアという者達が歯向かった。貴様らは、その報いを受けねばならん。だが、俺も貴様ら全てを殺そうとは思わん・・・貴様らには一時間だけ時間をやろう。貴様ら自身でプリキュアを探し出し・・・殺せぇぇ!!)

 

『なっ、何!?』

 

 突然のカインの一方的な申し出に、一同の表情が険しさを増した。

 

(それが出来れば、貴様らの命だけは・・・)

 

 カインが一方的にそう告げた時、何者かの声が割って入った。

 

(ふざけるんじゃねぇ!どこの誰だか知らないが、プリキュアを殺せだ?バカも休み休み言え!この世界が、何度プリキュアに救われて来たと思ってやがる。お前の命令何か、誰が聞くかって言うんだぁぁ!!)

 

 何者かの声を聞いた時、ピーチの表情が変わった。何故なら、その声には聞き覚えがあった。異性の喧嘩友達である、その知り合いの声に似て居たのだから・・・

 

「この声・・・大輔!」

 

「「「エエ!?」」」

 

 ピーチの声に、瞬時にべリー、パイン、パッションが反応した。彼女達も大輔の事は知って居たのだから、大輔の名前は知念大輔と言い、ラブ達四人がダンスを教わった恩人、ダンスユニットであるトリニティのリーダーであるミユキの実の弟で、ラブとは同じ中学、高校に通って居た。

 

「もう、大輔ったら格好付けて・・・」

 

(ほう・・・では、今の貴様の返事が人間共の返答と受け取ろう・・・今から日本に住む者共を、無差別に攻撃する、プリキュア共よ、止められるものなら止めてみろ!フフフ、ハハハハハハ!!)

 

 ピーチが少し嬉しそうな表情もつかの間、カインの一方的な宣戦布告が、日本に住む人々に告げられた。ブルーは顔色を険しくすると、慌てて姿見鏡を出現させた。

 

「みんな、ここでは情報が不足している。僕の住む場所に一緒に来てくれ!」

 

 ブルーはそうプリキュア達に告げた。調べの館で待機するより、常に世界の情勢を、鏡を通して見る事が出来る自分の部屋の方が、現状では最適だろうという考えからだった。だがバッドエンドプリキュア達は、自分達の思う様に行動しようと考えて居た。

 

「あたし達は、勝手にやらせて貰うよ!カインか、上等!!」

 

「まあ、七色ヶ丘には私達が通う中学があるし、こっちは私達が引き受けるよ」

 

「あなた達は、他の場所を守るのね」

 

「精々気張りや!」

 

「じゃあねぇ!」

 

 バッドエンドマーチが、ハッピーが、ビューティーが、サ二ーが、ピースが、そう言い残し、七色ヶ丘を守ると伝えると、加音町を去ろうとしていた。

 

「ウン、私達の町をお願い」

 

 ハッピーは、そんな五人の後姿を目で追いながら、バッドエンドプリキュアの五人を信頼し、自分達が住む七色ヶ丘を託した。

 

(どうしよう!?魔法界大丈夫かなぁ?)

 

 リコは、不安そうな表情でソワソワしているのを、ブラックは見逃さなかった。ブラックは、何かをホワイトに囁くと、ホワイトも同意したかのように何度も頷いた。その時、上空から見知った声が聞こえてきた。

 

「みんなぁ、今のは一体何だったロプ?」

 

 人間界で暮らすシロップにも、カインの宣戦布告は聞こえていた。シロップは、物騒なカインの発言を聞き、慌てて加音町に舞い戻った。

 

「シロップ!大変なのよ、カインがこっちの世界を攻撃するって」

 

「それで今からあたし達、神様と共にその対応策を考えようかと思ってさ」

 

「それは一大事ロプ」

 

 ローズとルージュから話を聞いたシロップも、状況を聞き戸惑っていると、ブラックは一同に話し掛け、

 

「みんな、こんな大変な時に言うのも何だけど、私とホワイトは、リコちゃんを連れて魔法界に行って来る。シロップ、戻って来て早々悪いんだけど、魔法界まで頼めるかなぁ?」

 

「それは良いロプ。でも、こっちはどうするロプ?」

 

「魔法界も、私達の世界同様大変な状況みたいだし、こっちにはみんなが居てくれる」

 

 ブラックとホワイトが一緒に魔法界に向かってくれると聞き、リコは思わず嬉しそうな表情を浮かべた。本心では、魔法界を助けて欲しいと思って居たものの、人間界も魔界の宣戦布告を受けた状況では言い出しづらかったが、ブラックとホワイトは、そんなリコの気持ちを代弁してくれたようで、リコは嬉しかった。リコは、ブラックとホワイトに再度確認するように、

 

「い、良いんですか?」

 

「「ウン!」」

 

 ブラックとホワイトが力強く頷いた事で、リコの表情は明るくなった。更にアン王女も三人に近づき、

 

「でしたら、わたくしも魔法界に向かいますわ。わたくしの先祖キュアマジシャンの故郷を、カインの好きなようにはさせたくありませんわ。ソード、こちらの世界を頼みましたわよ?」

 

「ハイ!」

 

 アン王女の申し出に、ソードは力強く頷いた。ルミナスとムーンライトは、ブラックとホワイトに声を掛け

 

「ブラック、ホワイト、気を付けて」

 

「こっちの事は私達に任せて!魔法界を頼んだわよ?」

 

「ウン!みんなも気を付けて、向こうが落ち着いたら、私とホワイトも直ぐ戻って来るから、それまでこっちをお願い」

 

「シロップ、お願い」

 

「ロプゥゥゥ!」

 

 こうして、ブラックとホワイトは、リコとアン王女を伴い、シロップの背に乗り魔法界へと向かった。ブルーは、去っていくシロップを目で見送ると、残った一同に改めて声を掛け、

 

「じゃあみんな、鏡の中に」

 

『ハイ!』

 

 ムーンライト達と妖精達は、ブルーに促され鏡の中へと消えて行った・・・

 

 カインの宣戦布告の影響は、プリキュアとして次世代を担う事になる、少女達の身にも降り掛かろうとしていた・・・

 

             第百二十三話:魔界の予言者

                   完




 第百二十三話投稿致しました。
 今回は、魔界に向かったビートと、カインの宣戦布告に対するプリキュア達を書いてみました。
 次回は、プリキュアと次世代を担う少女達のお話が中心になります。

 プリアラ・・・色々あって触れませんでしたけど、ジュリオが妖精だったり、そのお姉ちゃんが六人目のプリキュアになったり、小悪魔ビブリーが出てたと思ったら、何か新たな幹部が二人出たりと、話が進んでしまいましたwそろそろプリキュア新アイテムでフォームチェンジでもするんでしょうねぇ・・・個人的にはビブリー気に入ってます。ネットで悪のドレミと書かれていて、何の事だろうと思ったら、声優さん繋がりでしたかw七人目のプリキュアはあんさんだぁでも個人的にはあり何ですが、まあ無いでしょうねwパルフェと交流持った事で救いはあるのか気になります・・・
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