プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百三十一話:前代未聞

1、オークの森

 

 癒しの泉に浸かった事で、魔界シンドロームに掛かって居た、ベリー、マリン、ブロッサム、レモネード、メロディ、ピース、マーチも元気になり、一行は再びカインが居るであろう十二の魔宮を探そうと考えて居た。その十二の魔宮の一つ、天蠍宮を守護するベレルの使い魔キャミーは、嘗てシャックスに協力し、プリキュアに呪いを掛けて苦しめたファレオから、ある報告を聞いて居た・・・

 

「エッ!?セイレーンやハミィが、魔界に来てるんですかニャ?」

 

「ウム、ニクス様とリリス様と一緒に来たそうだ。更に、先程此処に来る前に出会った小鬼共の話によれば、どうやら容姿からいって、他のプリキュア達も魔界に来ているようだぞ?」

 

「ニャンと!?」

 

 ファレオの話を聞いてキャミーは、プリキュア達が魔界に来ていると知って驚いた。またみんなと会いたいとは思って居たが、まさかプリキュア達の方から、魔界に来るとは想像もしていなかった。ファレオは更に話を続け、

 

「小鬼の話によれば、プリキュア達は癒しの泉の方向に歩いて行ったそうだ」

 

「癒しの泉ですかニャ!?ニャンでみんなは、癒しの泉の事を知ってるんだろう?」

 

「さあなぁ!?だがキャミー、お前も知って居る通り、癒しの泉の近くにはオークの森がある。プリキュア達が、誤ってオークの森に迷い込まなければ良いのだが・・・」

 

 ファレオの話を聞き終え、キャミーはオークの姿を思い出し、思わず全身の毛が逆立ち、見る見る表情が凍り付いた。もしもプリキュア達が、誤ってオークの森に迷い込んで居たらと考えると、気が気ではなかった。

 

「ファレオ様、ちょっと出掛けて来ますニャ」

 

「フッ、プリキュア達が気になるのか?分かった、行って来るがいい」

 

「ハイニャ!」

 

 キャミーは、ファレオに許可を貰うと、天蠍宮を後にし、何処かへと走り去った。

 

 

 プリキュア達は、カインが居るであろう十二の魔宮を目指し歩き始めたものの、目印になるような物が見当たらず、森の中で困惑して居た。トホホ顔を浮かべたブラックは、

 

「ハァ・・・ベリー達を元に戻す事や、バハムートに気を取られて居て忘れてたけど、こんな事ならモグロスやバハムートに、十二の魔宮の事聞いておけば良かったね?」

 

「そうね・・・でも、魔界にもモグロスやバハムートのように、私達に好意的にしてくれる人も居るし、何とかなるかも知れないよ?」

 

 ホワイトはそう言うと、子供をあやす様にブラックの頭を撫でた。そんな一同の前を、一匹の魔物が横切ろうとして居た。小柄で、老人の様に白い顎鬚を蓄えた魔物は、何処か優しそうな出で立ちをしていて、ドリームは思い切って声を掛けてみた。

 

「すいませ~ん!私達道に迷っちゃって、教えて貰えませんかぁ?」

 

 ドリームが話し掛けると、魔物は立ち止まってドリームを見つめた。魔物は蓄えた白い顎鬚を撫でながら、

 

「ほう・・・それはお困りのようじゃのぅ?見たところ、わしと同じ妖精かのぅ?見掛けぬ顔じゃが・・・」

 

「エェェ!?エェェと・・・」

 

「アッ、エェェと、私達、傷付いた仲間を治す為に、初めて癒しの泉に連れて来たんです」

 

 老妖精に問われたドリームが戸惑い、ピーチは慌ててドリームをフォローした。老妖精は納得したのか、何度も頷き微笑した。

 

「ほうほう、成程のぅ・・・で、何処に行きたいのかのぅ?」

 

「ハイ!私達、十二の魔宮って所に行きたいんですけど、知って居たら教えて欲しいんですけどぉ?」

 

 老妖精が教えてくれそうな雰囲気に、ドリームはちょっと上目遣いでおねだり風に尋ねると、老妖精は微笑を崩さず、

 

「ほう、十二の魔宮に用があるのかい?さしずめ、ニクス様やリリス様に御用という所かのぅ?」

 

「そ、そんな所です・・・」

 

 ドリームは、ちょっと動揺しながらも、老妖精に話を合わせた。老妖精は頷くと、

 

「十二の魔宮なら知って居るよ・・・あの空を見てみるんじゃ!」

 

『エッ!?』

 

 老妖精が北の方角を指さすと、プリキュア達は釣られるように反射的に北の空を見上げた。曇天で見えにくいが、目が慣れてくると、天まで届きそうな何か黒い大きなものが見えた。老妖精は北の空を指さしながら、

 

「あそこに見えるのは、我らの魔王様が住むと言われる塔じゃよ、その周囲に塔を守る様に建って居るのが、十二の魔宮と呼ばれておる場所じゃよ」

 

 老妖精によって、十二の魔宮の場所を教わり、プリキュア達はホッと安堵した表情を浮かべた。向かうべき場所にカインが居ると思うと、プリキュア達の瞳に闘志が宿った。老妖精は更に言葉を続け、

 

「あの森を抜けて行くと近道じゃよ」

 

 老妖精は、少し離れた川の向こうにある大きな森を指さした。何処か不気味な雰囲気を持ってはいたが、十二の魔宮の近道になるのならば、プリキュア達は教わった森を通って行く事を決めた。ドリームは、老妖精に両手を振って笑顔を見せ、

 

「色々教えてくれてありがとう!じゃあ、私達行くね・・・行こう、みんな!」

 

『エエ』

 

 ドリームの掛け声に応え、プリキュア達は老妖精にお辞儀しながら、次々に川をジャンプして越えて行き、大きな森へと駆けて行った。その姿を見届けた老妖精の顔に罅が入ると、先程の温和な表情は崩れ落ち、目が吊り上がった狡賢い表情に変化した。

 

「ケケケケケ、精々死ぬまでオークの森で、オークの子を産み続けるが良いさ・・・さて、アベル様に報告に行くか」

 

 本性を現した妖精は、まんまとプリキュア達を罠に嵌め、報酬を得る為に、双児宮に居るアベルに会いに向かった。

 

 

 老妖精に騙されたとも知らず、プリキュア達は魔の森、オークの森へと足を踏み込んだ。マーチは、この森に入ると思わず立ち止まり周囲を見渡した。

 

「何かこの森・・・見た事あるような?」

 

「マーチ、どうしました?」

 

「エッ!?ウウン、何でもない」

 

 ビューティに声を掛けられ、ハッと我に返ったマーチは、ビューティと共に再び駆け出した。森の中から不気味な雄叫びと、何かを叩く音が周囲から響き渡り、その音が次第に近づいて来ているように感じられた。

 

「この声・・・まさか!?みんな、待って!!」

 

『エッ!?』

 

 マーチは、周囲から響く不気味な雄叫びに聞き覚えがあった。嘗て、母のとも子、妹のはる、ひなを、欲望のままに攫おうとして居たある者達の事を・・・

 

「此処・・・間違いない!オークの森だ!!」

 

『エッ!?』

 

 マーチの叫びを聞き、プリキュア達の表情が凍り付いた・・・

 

 嘗て、宝瓶宮の魔神シャックスの罠に嵌った事を思い出して居た。あの豚とゴリラが合わさったような、欲望丸出しの下品な魔物の巣に、自分達が足を踏み入れてしまったと聞かされ、表情を険しくした。次第に獣の咆哮は、自分達プリキュアを包囲するように狭められて行った。ムーンライトは、一同に指示を出し、

 

「みんな、バラバラにならないように注意して!」

 

『分かった』

 

 ムーンライトの指示の下、一同は四方からのオークの襲撃に備え、少し開けた場所で円になる様に陣形を組み、妖精達を自分達の背後に庇う様に身構えた。

 

 

 一方、プリキュア達をまんまと罠に嵌めた老妖精は、アベルからの褒賞を期待し、ほくそ笑みながら独り言を呟き、双児宮を目指して居た。

 

「ケケケケ、相手は小娘共、ちょろいもんだぜ。さあて、アベル様はどんな・・・」

 

「今の話、もっと詳しく聞かせるニャ!」

 

「だ、誰だ!?」

 

 老妖精の独り言に、何者かが割って入った。老妖精はハッと我に返り、辺りを伺いながら問うと、使い魔のキャリーが、森の中から老妖精の目の前にゆっくり現れた。

 

「フン、誰かと思えば使い魔か・・・使い魔如きがこの俺様に何か用か?」

 

「今、お前が言ってた事を、もっと詳しく話すニャ!」

 

「ケッ、使い魔如きに話す事はねぇ・・・消えな!」

 

 老妖精はキャミーを威嚇するも、キャミーは一歩も引かず、

 

「そうはいかないニャ!話さないって言うニャら、無理やりにでも話させるニャ!!」

 

「ケッ、使い魔如きにやられる・・・エッ!?エェェェェ?」

 

 老妖精はキャミーを見下して居た。使い魔如きに負けるとは考えて居なかったが、キャミーの背後で光る巨大な十四の瞳を見ると、思わず腰を抜かしてガタガタ震えだした。

 

「さて、喋る気にニャったかニャ?」

 

 キャミーが老妖精を脅すと、老妖精は怯えながらコクコク何度も頷いた。

 

 

 老妖精に騙され、オークの森に迷い込んだプリキュアという獲物を求め、オーク達は徐々に包囲を狭めて来た。円になって身構えるプリキュア達の前に、嘗てマーチの家族を捕らえようとした、豚とゴリラが合わさったような怪物オークが、地上から、木の上から、続々と姿を現した。プリキュア達の姿を見たオークの群れは興奮し、自らの胸を何度も叩いて雄叫びを上げ、見る見る股間を膨らませて行った。プリキュア達は、その汚らわしい行為に眉根を顰(ひそ)めた。

 

『ウォォォォォ!オッホォォォォ!!』

 

 興奮したオーク達が、鼻息荒くジワリジワリとプリキュア達ににじり寄って来る。そのオークからの不快なプレッシャーが、プリキュア達に浴びせられた。ムーンライトは、オークの反応が変わった事に気付くと、

 

「みんな・・・来るわよ!」

 

 ムーンライトの警告と共に、オークの群れが一斉にプリキュア達に襲い掛かった。アクア、ビューティは、オークに警告するかのように、

 

「これ以上近付けば・・・プリキュア!サファイアアロー!!」

 

「頭を冷やして冷静におなりなさい!プリキュア!ビューティ・ブリザ~~ド!!」

 

 水の矢の連射が、ブリザードが、オーク目掛け飛べば、ルージュはサニーに合図を送り、

 

「あたし達も負けてられないよ!プリキュア!ファイヤ~ストライク!!」

 

「ほな、ウチも・・・プリキュア!サニーファイヤー!!」

 

 炎コンビの技が、オークの群れ目掛け飛んで行った。連射を終えたアクアは、

 

「それ以上近付けば・・・エッ!?」

 

 アクアは、思わず我が目を疑った。オークは怯むどころか、獲物を求めて我先にと奥からゾロゾロ現れてくるのだから・・・

 

 プリキュア達は、不快な表情を浮かべながらも、そんなオーク達を更に迎え撃った。

 

「「プリキュア!スパイラルスター・・・スプラ~~ッシュ!!!!」」

 

 ブライト、ウィンディが・・・

 

「プリキュア!ラブサンシャイン・・・」

 

「プリキュア!エスポワールシャワー・・・」

 

「プリキュア!ヒーリングプレアー・・・」

 

「「「フレ~~ッシュ!!!」」」

 

「吹き荒れよ!幸せの嵐!プリキュア!ハピネス・ハリケーン!!」

 

 ピーチ、ベリー、パイン、パッションが・・・

 

「花よ、輝け!プリキュア!ピンクフォルテウェ~イブ!!」

 

「花よ、煌け!プリキュア!ブルーフォルテウェ~イブ!!」

 

「花よ、舞い踊れ!プリキュア!ゴールドフォルテバースト!!」

 

「花よ、輝け!プリキュア!シルバーフォルテウェ~~イブ!!」

 

 ブロッサム、マリン、サンシャイン、ムーンライトが・・・

 

「プリキュア!ハッピ~~・シャワ~~~!!」

 

「プリキュア!ピース・・・サンダー!!」

 

「プリキュア!マーチシュートォォ!!」

 

「世界に響け!みんなの想い!!プリキュア!ハートフル・エコ~~!!」

 

 ハッピー、ピース、マーチ、エコーが・・・

 

 それでもオークは怯まなかった・・・

 

 更に続々と奥から現れて、ブラックとブルームは、思わず嫌そうな表情を浮かべた。

 

「全く、何て数なのよ?」

 

「本当、次から次へと湧いて来て嫌になってくる・・・」

 

 そう言いながらも、ブラックとブルームは、隣に居るホワイトとイーグレットに目で合図を送り、ホワイトとイーグレットは小さく頷いた。

 

「「プリキュア!マーブルスクリュー・・・マックス~~!!」」

 

「「プリキュア!スパイラルハート・・・スプラ~~ッシュ!!!!」」

 

 二組のプリキュアの掛け声と共に、必殺技プリキュア・マーブルスクリューマックスが、スパイラルハートスプラッシュが、オーク達目掛け放たれた。凄まじいエネルギーが、オーク達を一気に飲み込み闇に返した。だが、それでもオーク達は怯まない、本能の赴くまま、欲望の赴くまま、自分達の性欲を満たす存在であるプリキュア達を求め、後から後から現れ続けた。ローズは目を吊り上げ、

 

「いい加減、しつこいのよぉぉぉ!邪悪な力を包み込む、バラの吹雪を咲かせましょう!ミルキィローズ・ブリザード!!」

 

「本当だよ・・・リズム、ミューズ、私達も・・・」

 

「「OK!メロディ!」」

 

「「「プリキュア!パッショナートハーモニー!!」」」

 

 ローズとメロディ、リズム、ミューズの攻撃を受け、オークの陣形が少し変わった事に、プリキュア達は気付かなかった。オークは、まだあどけなさが残るミューズに狙いを付けた。五匹のオークが、大樹の上に移動したのを気付かせまいと、正面のオーク達が自らの胸を叩いてプリキュア達の注意を引き付けさせた。五匹は木々を飛び、プリキュア達の頭上付近を見下ろせる位置に移動すると、一気に上から奇声を上げて飛び降りた。

 

「「「「「ウホォォォォォ!!!!!」」」」」

 

『エッ!?』

 

 上空を振り返ったプリキュア達だったが、それは時既に遅かった。それを合図に、オーク達もプリキュア達目掛け襲い掛かった。ムーンライトは険しい表情で、

 

「誰でも良いわ!妖精のみんなを保護して上げてぇぇ!!」

 

「「「「「ハイ!」」」」」

 

 ムーンライトの叫びに、直ぐにルミナス、ミント、パイン、サンシャイン、エコーが応じた。ルミナスはシプレ、コフレ、ポプリを、ミントはココとナッツを、パインはタルトとシフォンを、エコーはキャンディ、グレルとエンエンを抱きかかえた。サンシャインは、一同を守る様に、

 

「ルミナス、ミント、パイン、エコー、私の側に寄って!サンフラワー・プロテクション!!」

 

 サンシャインは、サンフラワーイージスの変則技であるサンフラワープロテクションで、ドーム型のバリアを自身の周囲に作り上げ、オーク達の猛攻を耐えしのいだ。

 

 オークの上空からの奇襲を受け、陣形が乱れたプリキュア達であったが、それでも何とか戦い抜いた。しかし、数で圧倒的に優るオークを前に、次第に仲間達との距離が広まって行った。メロディ、リズムと距離が離れたミューズの隙を付き、一匹のオークがミューズに背後から襲い掛かった。

 

「エッ!?キャァァァァァァ!」

 

『ミューズ!?』

 

 ミューズの悲鳴が周囲に響き渡り、プリキュア達が険しい表情でミューズの姿を目で追った。そこには、一匹のオークがミューズを右脇に抱えて、獲物を捕らえた事を仲間に知らせるかのように、奇声を上げながら、森の奥にミューズを連れ去ろうとしている姿があった。

 

『ミューズゥゥゥゥゥ!!』

 

 プリキュア達が絶叫したその時・・・

 

『シャァァァァァァ!!』

 

 オークを威嚇するかのように、数体の獣の叫び声が、オークの森上空に響き渡った。

 

 

2、大蛇の恩返し

 

 オークの森の上空を、緑、赤、黄、青、紫、茶、黒の色をした巨大な七匹の大蛇達が、旋回しながら飛び回り、プリキュア達と戦って居たオークは、大蛇のその巨大な姿に怯え、逃げ出し始めた。その中には、ミューズを攫ったオークも居たが、茶の大蛇はそれを見付けるや、急降下して木々を薙ぎ払ってオークを追い回し、ミューズを攫ったオークは、悲鳴を上げてミューズをその場に落として逃げ去った。メロディとリズム、ウィンディは、心配そうにミューズに駆け寄り、ミューズも三人に抱き付いた。ブラックは、呆然としながら上空を飛び回る大蛇を見つめ、

 

「大蛇!?どうしてここに?」

 

「みんなぁ!無事かニャ~!?」

 

『キャミー!』

 

 プリキュア達の耳に、見知った声が聞こえて来て、思わず一同はホッと安堵したような表情に変わった。緑の大蛇の頭に乗ったキャミーが、心配そうに一同に声を掛け、プリキュア達も無事な姿を知らせるように、キャミーに手を振った。震えるミューズを落ち着かせるように、メロディはミューズの頭を撫でながら、

 

「キャミー、どうしてオークの森に?」

 

「私達が魔界に来た事を知って居たの?」

 

 メロディとリズムは、絶妙なタイミングで助けに来てくれたキャミーに感謝しつつも、まるで自分達プリキュアが、オークの森に居る事を、最初から知って居るかのようなキャミーの事を不思議に思い問いかけた。キャミーは、プリキュア達が無事なようで安心したのか、笑み交じりに二人の問いに答え始めた。

 

「ファレオ様に聞いたニャ。プリキュアのみんなが魔界に来ていて、癒しの泉の近くに居たようだって、教えてくれたニャ。でも、癒しの泉の近くにはオークの森があるから、みんながうっかり迷い込んだかも知れニャいと思って、大蛇達に頼んでみたニャ。そうしたら大蛇達も、プリキュアのみんなとまた会いたいって言ってくれて、キャミーに協力してくれたニャ。ちょうどみんなを探して居たら、みんなの事を騙した妖精と出くわして、その妖精を脅したら、みんなを騙してオークの森に誘導したって聞いたニャ」

 

 キャミーの話を聞いて居たドリームは、見る見る困惑の表情を浮かべ、

 

「エェェ!?あの妖精さん・・・私達を騙していたの?」

 

「そうニャ、でも、みんなを騙した妖精は、大蛇が懲らしめてくれたニャ」

 

 キャミーの話を聞いたプリキュア達は、自分達が老妖精に騙されてオークの森に誘き寄せられた事、大蛇達が助けに来てくれた事を知った。

 

「そうだったんだ・・・ありがとう、大蛇!」

 

「みんなが来てくれなかったらと思うと・・・本当にありがとう!」

 

 メロディが大蛇達に両手を振り、ミューズは心からの感謝を表す様に、大蛇達に頭を下げた。他のプリキュア達も、大蛇に手を振りながら、

 

『ありがとう!』

 

『シャァァボォォォ!』

 

 大蛇達も、プリキュア達の役に立てた事を喜んで居るのか、目を細めて歌う様に喜びの声を発した。キャミーは更に話を続け、

 

「みんな、早く大蛇の頭の上に乗るニャ!オークはまだ諦めてないニャァ!!」

 

『エッ!?』

 

 キャミーの忠告を聞き、プリキュア達は周囲に居るオークの状況を目で追った。大蛇に怯え森の奥に引き込んだかに思えたオークは、まだ諦めて居ないのか、プリキュア達の姿を木々の隙間から覗き見て居た。一同の隙があれば、先程の様に奇襲をして、プリキュア達を攫おうとしている魂胆が分かった。

 

「魔王様が張った結界は、オークの森上空には張られては無いニャ。だから空からなら、オークの森から逃げ出す事も可能何だニャ」

 

『本当!?』

 

 キャミーから、オークの森からの脱出出来る唯一の方法を聞き、プリキュア達は安堵の表情を浮かべた。プリキュア達は遠巻きに様子を窺って居るオークを警戒しながら、続々と大蛇の頭の上に乗った。黒の大蛇の頭の上には、ブラック、ホワイト、ルミナスが、紫の大蛇の頭の上には、プリキュア5とローズ、ココとナッツが、黄の大蛇の頭の上には、ピーチ、ベリー、パイン、パッション、シフォンとタルトが、青の大蛇の頭の上には、ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、シフレ、コフレ、ポプリが、茶の大蛇の頭の上には、メロディ、リズム、ミューズ、フェアリートーン達が、緑の大蛇の頭の上には、スマイルプリキュアの六人と、キャンディ、グレル、エンエンが乗った。ブルームは、頭を差し出す赤の大蛇の頭の上に乗ろうとすると、

 

「シャァァァァ!」

 

「エッ!?」

 

 突然赤の大蛇がブルームを威嚇し、ブルームは困惑した。直ぐにキャミーが赤の大蛇の言葉を通訳し、

 

「大蛇は、最初は姐さんからだって言ってるニャ」

 

「「「「姐さん!?」」」」

 

 ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディは、誰の事か分からず、同時に不思議そうに首を傾げた。再び赤の大蛇が声を発し、

 

「シャァァ!」

 

「姐さん、さあどうぞって言ってるニャ」

 

 キャミーは笑いを堪える様な表情で、イーグレットを見て声を掛けると、イーグレットは呆然としながら自分の指を差し、赤の大蛇は満足そうに頷いた。イーグレットはハッとすると、赤の大蛇と戦った時の事を思い出した。ブルームが最後に赤の大蛇を脅し、イーグレットは怒らせると怖いと言って居た事を・・・

 

「もう!あの時ブルームが変な事言うから、大蛇に誤解されたままじゃない!!」

 

「アハハハ・・・まあまあ、さっ、姐さんからどうぞ」

 

「ブルーム!」

 

 ブルームにからかわれたイーグレットは、頬を大きく膨らませながらも、最初に赤の大蛇の頭の上に飛び乗った。プリキュア達と妖精達が大蛇の頭に乗った事で、大蛇は目でオーク達を威嚇しながら、ゆっくり上昇を始めた。

 

『オォォォォォォ!』

 

 オーク達は、オークの森の空高く上昇していく大蛇の姿を見ながら、悔しそうに咆哮し続けた。

 

 

 双児宮・・・

 

 アベルの下に、再び配下の者から連絡が入って居た。アベルは険しい表情を浮かべ、

 

「何だと!?プリキュア共が七匹の大蛇を従えて、オークの森を抜け出しただと?」

 

 アベルには、何故大蛇達がプリキュアに協力するのか理解出来なかった。ベレル、ニクス、リリスの大蛇だけならば、三人の命を受けたとも考えられるが、生き残っている七匹の大蛇全てが、プリキュア達に力を貸すなど想像して居なかった。配下の者は更にアベルに情報を伝え、

 

「しかも、どうやら大蛇を使って、空からこの魔宮に攻め込んで来るような勢いです。如何致しましょう?」

 

「大蛇めぇぇ!知れた事、裏切り者の大蛇事、プリキュア達を消してしまえ!!ガルーダ共を使っても構わん。空の魔物達を総動員し、数人のプリキュアを残す以外・・・プリキュア共を殺せぇ!!」

 

「ハ、ハイ!」

 

 アベルは、苦々しい表情で配下の者に指示を出した。アベルは不快そうに腕組みし、

 

「カインめ、また裏を掛かれやがって・・・まあいい、ガルーダ共が相手では、いくら大蛇とはいえ、無傷で近付くのは不可能だ。そこを空と地上の魔物達で襲えば、奴らも今度こそ・・・」

 

 アベルが言ったガルーダとは、人間界でいう鷲に似て居たが、その大きさは比べ物にならず、ジャンボジェット機並みの巨体を誇って居て、その獰猛な性格は、大蛇に並び称される大空の支配者とも、一部の魔物には呼ばれて恐れられていた。アベルは、双児宮上空から聞こえてくる魔物達の咆哮にニヤリと笑み、

 

「さあ、プリキュア共よ!この十二の魔宮に来られるなら来てみるがいい!」

 

 十二の魔宮の空を、怪鳥ガルーダの群れを始めとした空の魔物達が、プリキュアと裏切り者の大蛇を迎え撃つべく、続々と集結して居た。

 

 

 そんな状況になっているとは、まだこの時プリキュア達は気づいては居なかった。オークの森上空に浮かび上がった七体の大蛇達、キャミーは改めてプリキュア達に話し掛けた。

 

「ところで、みんなはニャンで魔界に来たのニャ?セイレーンやハミィも来てるようだけど、別行動してるのかニャ?」

 

 キャミーには、プリキュア達が魔界に来た理由がよく分からなかった。プリキュア達は、魔界と敵対する気は無いと言って居たのだから、メロディは少し愁いの表情を浮かべながら、

 

「ビートの事もあるけど、実は私達・・・」

 

 メロディはキャミーに、カインが人間界に対し宣戦布告を行った事、配下の魔物達を人間界に差し向けた事、ピーチ達が住む四つ葉町を、エーテルダークネスという破壊兵器で消滅させようとした事、再びエーテルダークネスを起動させるのを阻止する為に、魔界に乗り込んで来た事を告げた。キャミーも薄々理解したようで小さく頷くと、

 

「ニャるほど~・・・それでその事をモグロス様に聞いたベレル様は、不機嫌そうに出掛けて行ったんだニャ」

 

「うん、ベレルもビートに協力して、シーレイン達と一緒にカインに立ち向かってくれて居るの!」

 

 メロディが再びキャミーに大声で伝えた。キャミーは、改めて一同に問う様に、

 

「みんなは、これから何処に向かう気ニャ!?」

 

「もちろん・・・カインが居る双児宮よ!」

 

 ピーチが力強く返答し、プリキュア達が皆頷いた。一行は、カインとの決着を付けるべく、魔界に乗り込んできたのだから、キャミーは頷きながらも少し表情を曇らせ、

 

「でも、カイン様が双児宮の先に居たら、少し厄介な事になるニャ」

 

「エッ!?キャミー、どういう事?」

 

 キャミーの話を聞き、ブラックは思わずキャミーに問い掛けた。キャミーは、その辺の事情をプリキュア達に知らせた。十二の魔宮は、元々魔王ルーシェスの居城を守護する名目で建てられた事、十二の魔宮は、結界の役割も果たして居て、如何なる者も十二の魔宮の結界を破らない限り、魔王城へは近づけない事、結界を破るには十二の魔宮を守護する魔神達を打ち破るか、あるいは認めさせる事を伝えた。キャミーは更に話はじめ、

 

「部外者であるみんなが、そのまますんなり魔王城に近づける事はニャいと思うニャ」

 

 キャミーの説明を聞き、メロディはビートの事を思い出して居た。ビートは、シーレイン達の協力の下、エーテルダークネスを発生させた塔の側から、人間界に居る自分達に連絡をしてきたのだから・・・

 

「じゃあ、ビートがルーシェスって人が住んでる場所の側に居たのは、ニクスとリリスと一緒だったからって事?」

 

「そういう事ニャ」

 

 キャミーはメロディに頷き、プリキュア達は、カインとアベルだけでなく、他の魔神達共戦わなければならない事を理解した。キャミーは再び一同に問い、

 

「みんな、それでも行くニャ?」

 

『もちろん!』

 

 キャミーの問い掛けに、プリキュア達は迷う事無く即答した。キャミーは頷き、大蛇達に話し掛けると、

 

「大蛇ぃ!みんなを何としても十二の魔宮まで送り届けるニャァァァ!!」

 

『シャァァァボォォォ!』

 

 七匹の大蛇達は、分かったとばかり咆哮し、十二の魔宮目指して移動を開始した。だが、一行が目指す十二の魔宮の空を、魔物の群れが覆いつくして居た。

 

 大蛇が近付いて来るのを見た魔界の魔物達が、遂に行動を開始した。魔物の群れの咆哮が、十二の魔宮から響き渡り、徐々に一向に近付いて来た。

 

「みんな、大蛇から振り落とされないように注意してぇぇ!」

 

 ムーンライトが一同に大声で注意を促し、プリキュア達は、大蛇の頭の上という不安定な足場で、少しでも身体をしっかりさせる為、表情を険しくしながら体勢を低くして、大蛇の頭の上で身構えた。

 

「来るニャァァァ!」

 

 キャミーの叫びと共に、先ず真っ先に大蛇に向かって来たのは、頭部は鷲、身体は人型のタイプで、背中から翼を生やしたホークマンだった。ホークマン達は、それぞれ槍を手に持ち、そのスピードを活かして大蛇の周辺を飛び回り、槍で大蛇を突き刺して傷を付けて行った。更には、昆虫型の魔物である巨大な蜂や餓、カマキリのような魔物が、双頭の頭を持った鳥系の魔物などが、容赦なく大蛇に攻撃を仕掛けて来た。大蛇達も、それぞれが得意とする属性の攻撃で迎え撃ち、炎が、水が、氷が、風が、雷が、岩が、闇が、魔物達に向けて発せられた。魔物を駆逐して十二の魔宮目指す大蛇達だったが、大蛇達の身体からは、戦いで受けた傷が痛ましかった。プリキュア達は心配そうな表情を浮かべ、

 

「私達も加勢したいけど・・・キャッ!?」

 

 ハッピーは、自分も加勢したいとは思ったものの、大蛇の頭の上という不安定な足場で、バランスを取りながら戦う事は困難だった。そんな一同の視線の先には、数十メートルはありそうな怪鳥の群れが、視界に映った。キャミーは顔色を変えて叫び、

 

「あ、あれはガルーダニャァァ!」

 

『ガルーダ!?』

 

 キャミーは思わず戦慄し、プリキュア達はキャミーの言葉をオウム返しに呟いた。嘗てキャミーは、地上から空を飛行するガルーダを見た事はあったものの、実際に目の当たりにした迫力は想像以上だった。大蛇達が万全の状態ならば、ガルーダ達と戦っても互角以上の勝負が出来たであろうが、魔物の群れの攻撃を受け手傷を負い、更には頭の上にプリキュア達を乗せて居る大蛇達が、今の状態でガルーダと戦えば、結果は戦わずとも明らかだった。それでも大蛇達は、プリキュア達の為に前へ進もうとしたその時・・・

 

「邪魔をするなぁぁ!小童共がぁぁぁ!!」

 

 プリキュア達は、曇天の空に響き渡る見知った声を聞いてハッとした。徐々に姿を見せた巨大な白き竜の姿に、魔物達だけでなく大蛇とキャミーさへ戦慄した。

 

 

3、竜の恩返し

 

 大空に響き渡る一喝を受け、魔物達と大蛇達は、恐れおののいた。キャミーはガタガタ震えだし、

 

「りゅ、竜王バハムートニャァァァァ!?な、何で此処に?」

 

 竜王バハムートは、まるで大空の覇者である事を示すかのように、威風堂々と背中から生えた二枚の巨大な翼を羽ばたかせて居た。更には、竜王バハムートに付き従うかのように、深紅の身体をしたファイヤードラゴン、青い身体をしたアイスドラゴン、黄色い身体をしたサンダードラゴン、紫の身体をしたポイズンドラゴン、緑の身体をしたストームドラゴン、茶の身体をしたストーンドラゴンの六体が、編隊を組んで飛行する姿は壮観だった。

 

「パイン!みんなぁぁ、助けに来たよぉぉぉ!!」

 

「その声、ダークドラゴンちゃん!」

 

 バハムートの折れた角に捕まったダークドラゴンが、パインとプリキュア達に声を掛けた。パインはダークドラゴンの声を聞いて表情を和らげ、プリキュア達も、バハムートが竜族を引き連れて加勢に来てくれた事で、安堵の表情を浮かべた。キャミーは、顎が外れるかという程、口をあんぐり開けて呆然としていたが、ハッと我に返りプリキュア達に話し掛けた。

 

「ニャ、ニャンでみんなは、魔界に来たばかりなのに、りゅ、竜王と知り合いなのニャ!?」

 

「うん、ひょんな事で、生まれて間もないダークドラゴンちゃんを助けてあげたの」

 

「それで、私達ダークドラゴンと一緒に癒しの泉に行った時に、バハムートと出会って、ダークドラゴンを引き渡して上げた時に、少し話をして親しくなったの」

 

 パインとピーチの説明を聞くと、キャミーは納得したのか何度も頷いた。

 

「ニャる程・・・竜族は同族意識が強いニャ。みんながダークドラゴンを助けて上げたから、竜王は仲間を引き連れてみんなに恩返しに来たんだニャァ・・・でも、大蛇と竜族はあまり仲が良くないのに、よく加勢に来てくれたニャァ?」

 

 キャミーが首を傾げると、バハムートにもキャミーの声が聞こえたのか、

 

「フン、そのような些細な事、我らには関係ないわ!受けた恩は必ず返す・・・それが我ら竜族だ!!」

 

 バハムートがそう言うと、キャミーは怯えるようにコクコク何度も頷いた。バハムートは大蛇を追い抜くと、大蛇達の前に移動し、前方に居るガルーダの群れをギロリと睨んだ。バハムートが大きく息を吸い込むと、バハムートの身体が光り輝き出した。次の瞬間、バハムートが大きく息を吐き出すと、バハムートの口から凄まじい光のエネルギー波が吐き出され、前方に居たガルーダの群れや魔物達を一瞬で消滅させた。更にその威力は十二の魔宮に張られている結界にぶつかり、激しい衝撃が十二の魔宮に起こった。

 

 双児宮に居るアベルは、双児宮に起こった地響きに驚き、慌てて外に飛び出した。

 

「何が起きた!?」

 

「ア、アベル様ぁぁ!りゅ、竜王が、竜王バハムートがぁぁぁ!!」

 

「バハムートだと!?」

 

 配下の報告を聞き、アベルは思わず空を見上げた。

 

「ウォォォォォ!プリキュア達の行く手を阻む者は・・・我ら竜族が相手をしてやる!死にたい奴は・・・掛かって来るがいい!!」

 

「「「「「「ウォォォォォォ!!」」」」」」

 

 バハムートの宣言と共に、六匹の竜が咆哮し、竜達は大蛇を守る様に隊列を組み、大蛇を攻撃してくる魔物達に攻撃を開始した。炎が、氷が、雷が、強風が、毒が、岩の群れが、容赦なく魔物達に浴びせられ、その威力は大蛇をも上回っていた。

 

「す、凄い・・・・・何かメランの試練を受けた時を思い出しちゃった」

 

 ブラックは、ドラゴン達の凄さを見て、思わず伝説の妖精メランの事を思い出して居た。メランの本当の姿も竜に似て居て、今目の前で戦う竜族達に引けを取らない強さだった事を思い返した。バハムートは再び吠え、

 

「ウォォォォォ!さあ、死にたくなければ道を開けろ!阻む者は・・・容赦はせんぞぉぉぉぉ!!」

 

 バハムートの脅しを前に、魔物の群れは完全に委縮した。ガルーダの群れさえ一蹴した、バハムートの実力を目の当たりにしては、魔物達の戦意は完全に萎え、十二の魔宮への進路を塞ぐ者は完全に居なくなった。

 

 十二の魔宮にも、この緊急事態は次々と報告され大騒ぎになっていた・・・

 

 白羊宮・・・オロンは、白羊宮の前で空を見上げながら悲し気に鳴いて居た。

 

 金牛宮・・・巨大な鉄斧を持ったミノタウロスは、空を見上げて吠えた。

 

 獅子宮・・・バルバスは、配下の報告を受けると、口角を上げて外へと飛び出した。頭上を見上げると、

 

「来たか、プリキュアァァァ!魔法界での借り・・・必ず倍にして返してやるぞぉぉぉ!!」

 

 処女宮・・・妖精達は、処女宮の主であるリリスの名を叫びながら探し回って居た。

 

 天秤宮・・・主のシーレインが投獄されて以来、天秤宮は静まり返っていた。

 

 天蝎宮・・・ファレオは、空を見ると口元に笑みを浮かべ、

 

「キャミーの奴、大蛇を使ったのか・・・プリキュア達と無事合流出来たのは良かったが、まさか、竜族まで手を貸すとはなぁ」

 

 ファレオは、改めてプリキュア達の人を惹きつける力を感じながら、天蝎宮を後にした。

 

 人馬宮・・・アロンは、無表情のまま上空に矢を射る構えをして、プリキュア達が現れるのを待ち構えているかのようだった。

 

 磨羯宮・・・アモンの獣の様な叫び声が響き渡り、精霊達はその姿を悲しそうに見つめて居た。

 

 宝瓶宮・・・バルガン、シャックスという主を無くしてから、不気味に静まり返る無人の宮となっていた。

 

 双魚宮・・・魚人達は、ニクスにこの事を伝えようとやって来たが、ニクスの姿が見当たらず困惑して居た。

 

 そして、双児宮・・・

 

 アベルは、我が目を疑った・・・

 

「バ、バカな!?何故竜王バハムートがプリキュアに力を?」

 

 竜王バハムート率いる竜族のプリキュアへの加勢は、アベルをも驚愕させた。そんなアベルに、カインからのテレパシーが届いた。

 

(案ずるな、アベル・・・バハムートは直接我らと対峙する事はせん)

 

(カイン!貴様の目論見、悉(ことごと)く裏を掛かれて居るぞ?)

 

(そうだな・・・まさか、俺の裏をかき、俺が繋げた魔界への入り口を、逆に奴らに利用され、オークの森に陥れたプリキュア達を大蛇が救い、更にはバハムートまで力を貸すとは、俺の想定外だった・・・だが、こうなれば奴らを十二の魔宮に辿り着かせ、各宮でプリキュア達に光の力を使わせるしかあるまい)

 

(シーレイン、ベレル、ニクス、リリスは、俺達に反逆したのだぞ?奴らが守護する天秤宮、処女宮、天蝎宮、双魚宮は・・・)

 

(俺が何の為にソドムの巨蟹宮に居ると思って居る?プリキュア達には・・・幻覚と踊って貰うさ。クククク)

 

 カインは含み笑いを浮かべながら、次の一手へと動き始めた・・・

 

 

 魔王の居城の入り口で待機して居たビート、ハミィ、ピーちゃん、三人にも十二の魔宮に起こった異変は伝わっていた。

 

「い、今の衝撃は一体!?」

 

 戸惑うビートの頭上に、巨大な口が現れ、リリスの声が聞こえて来た。

 

「ビート、お仲間と一緒に最上階まで上がって来て」

 

「リリス、何かあったの!?」

 

「エエ・・・あなたにも関係ある事よ。急いで!」

 

 ビートは、リリスの声が少し焦っているように感じられ、思わず戸惑いながらも、ハミィとピーちゃんを伴い、黒き塔である魔王の居城の中に再び足を踏み入れた。最初に来た時は、捕らわれたシーレインの下へと向かう為、階段を下りたビートだったが、今度は最上階目掛け駆け出した。薄暗い室内を駆け続けるビート、所々不気味なオブジェが飾ってあり、ビートは少し表情を強張らせながらも、階段を駆け上り続けた。

 

「此処が最上階!?」

 

「セイレーン、何か気味が悪いドアがあるニャ」

 

 ハミィが少し怯えながら、沢山の髑髏が飾られた巨大なドアを指さすと、ビートも思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。不気味なドアが開いて居て、ビートは恐る恐るドアから顔を出して室内を伺うも、黒を基調とした薄暗い室内は殺風景だった。あまり物も置いて無く、大きな椅子が一脚置いてあるだけで、室内はかなり広く感じられた。ビートは意を決して室内に入り、

 

「ここが、魔王ルーシェスって人が暮らす部屋なの!?」

 

 ビートが戸惑って居ると、バルコ二ーに続く透明なドアの向こうに、空を見上げるシーレイン、ニクス、リリス、ベレルの姿を見付けた。ビートは、ハミィとピーちゃんと共にバルコ二ーに出ると、シーレインはビートに振り返り、

 

「来たわね・・・セイレーン、どうやら、あなたの仲間達が来たようよ」

 

「エッ!?」

 

 シーレインの口から、仲間達がやって来たと聞き、ビートは思わず驚き声を出した。四つ葉町に居るものとばかり思って居たプリキュアのみんなが、この魔界に来ていると言われたのだから、シーレインはリリスに話し掛けると、

 

「リリス、セイレーン達にも見せて上げて」

 

「ハイ・・・サキュバスアイ!」

 

 シーレインに言われたリリスは、ゆっくり目を閉じると、サキュバスアイを上空目掛け放った。ビート達が見上げる曇天の空に、リリスがサキュバスアイで見ている光景が映し出された。ビートは、白い竜が咆哮する姿に目を見開いて驚き、

 

「りゅ、竜!?」

 

「それだけじゃないわ。もっと良く見てごらんなさい」

 

 シーレインに言われたビートは、更によく観察してみると、竜王バハムートが率いるドラゴン達が、七匹の大蛇を守るような隊列を組んで居た。その大蛇の頭がズームアップされていった。

 

 黒い大蛇の頭上には・・・中腰で片膝付いたブラックが、凛々しい表情で前方を見つめ、その両脇で、険しい表情をしたホワイトとルミナスが立って居た。

 

 赤い大蛇の頭上には・・・四人で威風堂々立つ、ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディの姿があった。

 

 紫の大蛇の頭上には、右腰に右手を置いて立つドリームを筆頭に、ルージュ、レモネード、ナッツを抱いたミント、アクア、ココを抱いたローズの姿があった。

 

 黄の大蛇の頭上には、腕組みして凛々しい表情で仁王立ちするピーチを筆頭に、左腰に左手を置き優雅に立つベリー、シフォンを抱いたパイン、タルトを抱いたパッションの姿があった。

 

 青の大蛇の頭上には、険しい表情で仁王立ちするムーンライトを筆頭に、そのムーンライトの両足にしがみ付き、ビビり顔を浮かべるブロッサムと、その右肩に捕まるシプレ、そんなブロッサムを見てニンマリ微笑むコフレを抱いたマリン、ポプリを抱きながら苦笑するサンシャインの姿があった。

 

 茶の大蛇の頭上には、キャミーを抱いたメロディ、その両脇で凛々しく前方を見つめるリズムとミューズの姿が映った。

 

 緑の大蛇の頭上には、緊張した面持ちをしながらキャンディを抱いたハッピー、グレルとエンエンを抱いたエコー、大蛇と竜のコラボを見てはしゃぐピース、困惑の表情で足元を見つめるビューティ、そのビューティの右足にしがみ付くサニーと、左足にしがみ付くマーチの姿があった。

 

 総勢三十人にもなるプリキュアの仲間達の姿を見たビートの表情が、見る見る明るくなっていった。ハミィやピーちゃんが側に居てはくれているものの、ビートの心の中は寂しさがあったが、そんな感情も、プリキュアのみんなの姿を見ると、何処かに吹き飛んだように感じられた。

 

「みんなぁぁぁぁ!」

 

 ビートは、堪えて居た感情が爆発したように、嬉しそうに両腕を上げ、空に映し出される映像に両手を振り、ハミィとピーちゃんは小躍りしながら喜びを現した。シーレイン、ニクス、リリスは、竜王バハムートがプリキュアに協力している事に改めて驚き、

 

「ま、まさか、竜王バハムートが、竜族を従えてプリキュア達に力を貸す為だけに、十二の魔宮の領空にまで乗り込んで来る何て・・・」

 

「ハ、ハイ・・・それに大蛇達も、私達の命もなくプリキュア達に力を貸して居るのにも驚きました」

 

「そ、そうよねぇ・・・プリキュア達、何時の間に大蛇達や竜族と親しくなったのかしら!?」

 

 シーレイン、ニクス、リリスが、呆然としながら空に浮かぶ映像を見ていると、ベレルは愉快そうに笑いだし、

 

「ハハハハハ、全く、プリキュア達には驚かされてばかりだわい。大蛇と竜族を従えて、空から十二の魔宮に乗り込んで来るなど・・・前代未聞だわい」

 

 ベレルの言葉に、シーレイン達も頷く中、そのプリキュア達の視界には、今十二の魔宮を捉えようとして居た・・・

 

               第百三十一話:前代未聞

                    完




 第百三十一話投稿致しました。
 今回で入院中に書いた下書き分は終わりましたので、体調もあんまり芳しくなく、執筆は中断します。

 HUG・・・ルールーがはなの家にホームステイとか凄い荒業で近付いて来ました。今回は保母さん体験とかで、ルールーに対抗心燃やすさあやが可愛かったです。

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