一般里人霊夢 作:リーファーシュロン
歳月は飛びに飛んで私が5歳になったあたり。1歳にはとっくに一人で歩けるようになっていたし、声帯も発達したお陰でしっかり言葉も発せるようになっていた。そのあまりにも早い成長ペースに慧音がなんとも言えない表情になっていたのを私は忘れない。そんなある日、慧音から「お前に紹介したい子がいるんだ」と、同い年らしき子供を紹介された。相手は里でも有数の商店のお嬢ちゃん。慧音が出先で私の話をしたところその子が私に会いたいとせがんだらしく、それならばと場をセッティングされて対面している。察しの良い方ならお気づきだと思われるが、いよいよ彼女の登場である。
「わたし、霧雨リサ!これからよろしくね、霊夢ちゃん!」
なんというか、懐かしさを覚える口調だ。あいつにもこんなうさん……かわいい頃があったんだなぁと実感する。……って
「リサ?」
「そう、リサ!かわいいでしょ?わたし、好きなの!」
いやまさか、ここまで来て別人ということはないだろう。名字も一緒だし。ん、待てよ?リサ……理沙……魔法使い……なるほど、そういうことか。つまりあいつは家出した時に自分で名前を変えたということか。でも自分で気に入っていた名前を捨てきれなかった結果、あの名前になったと。十何年目にして真実を知ることとなるとは予想だにしなかった。
「ねぇ、なにして遊ぶ?お医者様ごっこ?お人形遊び?絵本?博麗の巫女ごっこ?」
まぁ今は、幼い旧友のお誘いに興じてようではないか。言っておくけど、博麗の巫女ごっこ中の私は強いわよ?
あの後、しばらく私たちを眺めていた慧音が「私は少し用事で出かけてくるが、仲良く遊んでいるんだぞ」とどこかへ行ってからも、二人でキャッキャッうふふと遊び続けた。正直私にとっては子供の遊びだから退屈じゃないかとか考えていたけどその心配はなかった。
「よっ、とっ!」
「すっごーい!霊夢ちゃんは玉蹴りが得意なんだね!」
「まぁね」
先ほど理沙が挙げた遊びを一通り終えて、今は彼女が持ってきた玉で遊んでいる。昔から陰陽玉を蹴り飛ばしていたこともあって玉の扱いには慣れている。やろうと思えばこんなことも……
「じゃあ理沙、行くわよ!」
玉を高く蹴りあげ、落下が始まる前に両足に力を込める。やがて速度を上げながら落ちてくる玉にタイミングを合わせて、昇天脚!
「きゃー!かっこいい!」
さすがに全力昇天脚は危険だし、子供の力では威力もたかが知れてるので、玉はゆったりと理沙の胸元へ。興奮気味の理沙はポフンと触れた玉をガッシリ抱きしめて私に駆け寄った。
「すごいすごい!今の当てれるの!?私にもできるかな!」
と、こんな感じで霊力はないが運動神経などは元のままらしく、5歳にしてこんなことまでできる。もちろん今回は理沙相手だったから見せたまでで、普段からこんなことをしているわけではない。慧音たちの前ではあどけない子供を演じ、人一倍上達が早く運動能力に秀でている程度には抑えられている……はずだ。
理沙は私と何をしても感情豊かに反応してくれて、その度に私まで楽しくなってくる。さっきの技も元々見せる気はなかったのだが、お互いにヒートアップを繰り返した結果煽てられてついやってしまった。少し調子に乗りすぎたかなと思ったが、彼女が喜んでくれているのでよしとしよう。
時間の流れとは早いもので、お昼から始まったはずの交流も気付けば夕方。そろそろ帰った方がいいと告げても駄々をこねて帰ろうとしなかった理沙だったが、ちょうど帰ってきた慧音が諭せば
「じゃあまた明日ね!霊夢ちゃん!」
と拍子抜けするぐらいあっさりと別れを告げて家に帰って行った。
「すっかり仲良くなれたみたいだな。まるで旧来の友のように打ち解けていて、少しびっくりしたぐらいだ」
「……まぁ、たまたまよ」
「これなら心配はなさそうだ。ちゃっかり明日の約束まで取り付けたみたいだしな」
「私は了承した覚えはないんだけどね」
私の異常な成長速度に順応してきたのか、最近では特に躊躇いもなく通常の対応するように慧音はなっていた。こちらとしても普段の彼女の方が前世から見慣れていたので調子が狂わされずに済む。外に出れば未だ子供扱いだがこればっかりはしょうがない。せめて気の置けない場所ができたのは私にとっては僥倖だった。
「ところで今日は何の用事だったの?青空教室の日じゃなかったはずだけど」
「ん、あぁそうだな。霊夢には伝えておいたほうがいいか。霊夢は稗田家については覚えているかな」
「えぇ」
当然忘れるはずもない。稗田と言えば幻想郷の妖怪や事象などについて記した書物、幻想郷縁起を代々転生を繰り返し編纂する幻想郷内においてもトップクラスに重要な役割を担う家系だ。私自身何度も幻想郷縁起にお世話になったし、異変、ないしは異変で相対した妖怪たちについての情報を提供し編纂に関わったこともある。当時の当主であった稗田阿求とも交流もあり、里における事件では力を貸し合ったほどの仲だった。ただ、元の歴史の関係上九代目である阿求はまだ産まれてはいなかったはずだが、もしや……。
「これはまだ当家と里の要人たちにしか知らされていないことなんだが、稗田家の奥方が子を身籠ったらしい」
稗田阿求とはどんな人かと聞かれれば、答えはお淑やかで由緒正しい幼き知識人か、麗らかで活発な普通の少女に二分されるだろう。一見別人のように思えるが、これは単に彼女を表向きである御阿礼の子としてのみ知る答えか、裏向きの日常で見せる少女としての側面を知っているかの違いであり、どちらに正誤があるわけでもない。当然仕事だけでなく日常的な付き合いもあった私は後者側だ。
繰り返すが御阿礼の子は代々幻想郷の妖怪を人間の為に記した幻想郷縁起という書物を編纂する。代々とは言えど御阿礼の子はおよそ三十年前後の寿命を迎えては、それから百年あまり地獄の閻魔の元で働きまた稗田家に転生をするため、実質初代御阿礼の子と同一人物だ。まぁだからなんだという話だが、つまり彼女は幻想郷史において最も重要な人間の一人ということで、博麗の巫女がそんな人物と付き合いが無いはずもなく、割と根深い仲だとはあちらも感じていただろう。
「九代目御阿礼の子の、誕生……」
「よく覚えてるじゃないか。まだ具体的な時期などは明らかにされていないが、そう遠くないうちに出産、神事が行われるのは確実だ。加えて蔵書の整理に各所への断り……後にも先にもやることは多いな」
「ねぇ、それってつまり私も手伝わないといけないってことよね」
「いや、お前はまだ幼いからな。こういうことは大人の仕事だから無理して手伝う必要はないぞ」
「いいえ、やるわ。私も稗田家について気になってたの。それに、年齢的には私は一応お姉さんということにもなるでしょ?」
……私は五年近くここで暮らしてきて決めたことがある。それは元の私が築いたありとあらゆる関係を取り戻すということ。人間、妖怪、妖精、幽霊、神……その存在を問わず私は再び彼女たちに会いたい。いや、博麗の立場や力を失った以上完全に元通りにするのが不可能なのは目に見えていたが、それでもあの時のように笑い合ってふざけ合って、鬱陶しがるあんな日常を送り直すことができるのではないか。今でもそんな希望を抱いているのだ。そして今日、実際にその一人が現れた。理沙は私が知っていた彼女とはまったく違ったが、それでも普通の魔法使い魔理沙としての面影があった。私という巫女がいなくても歴史が変わらず進むという可能性があるのなら、理沙はきっと魔理沙になる。……違うか、たとえ理沙のままであっても私は変わる事なく彼女と関わり続けたい。形は違えど彼女たちに囲まれて暮らす、そんな日々を取り戻すのだ。もちろん、そこには慧音も含まれているし、阿求、果ては私じゃない博麗の巫女も含まれている。元の場所に帰れないのなら、ここで再びやり直す。それが今の私、一般町人霊夢としての目標だ。
「ふふ。なら、その時は遠慮なく頼らせてもらおうか」
「……えぇ!任せておいて!」
胸を軽く拳で叩き見せつける。
慧音はそれに安心したような笑みを返したかと思えばとんでもない呟きを放った。
「それにしても、つい先日鈴奈庵の奥様も懐妊なされたと聞いたし、吉事というのはまとめてやってくるな」
「なにそれ、初耳なんだけど」
「……言わなかったか?」
「聞いてない」
「それはその……すまん」
「ボケるには早すぎるわよ、慧音……」
と、言葉では予想外という体をなしていたものの、内心では完全に納得していた。
そうか、確か阿求と小鈴は幼馴染で昔から仲も良かったはず。阿求が生まれるということは必然的に同年代の小鈴も近いうちに生まれてくるはずだ。
「で、本当なの?」
「あぁ。先週鈴奈庵に訪れた際に小耳にな。そろそろ里でも噂になってるんじゃないか?」
人里の貸本屋、鈴奈庵の一人娘で看板娘、本居小鈴。阿求と仲が良く鈴奈庵でもよく阿求と話していたのを覚えている。その出生から本への愛着は凄まじく、幼いながらも店番を任されるぐらいには成熟しており、里の子供の為に朗読会を開いたり、製本技術まで物にしていたりと、まさに本に愛し愛された間柄と言えるだろう。
反面その愛着が災いし、妖怪に対する好奇心といつからか目覚めた特異な能力によっていくつものトラブルに巻き込まれてしまったんだけど、それはまたいつか実際に目にする機会がくるだろう。
「やれやれ、ようやく寺子屋建設の目途がたったというのに、これじゃ盆と正月が一緒に来たみたいだ」
「……え?」
今、また聞き捨てならない情報が流れてきた気が。
「あー、そうか。これも言ってなかったか。霊夢には真っ先に話しておくべきだったな……」
今度は正真正銘の寝耳に水。
「野外で授業を行うのも限界があったからな。前々から開校と使えそうな土地を打診していたんだが、つい先日ようやく許可が得られたんだ。具体的な時期は決まっていないが寺子屋の建設と教師の確保が済み次第始める予定だ」
昔寺子屋自体には何度か訪れたことはあったが、事件現場として、博麗の巫女として訪れただけでありその発祥や役割などに興味は無く知りもしなかった。なのでこちらに来てから寺子屋が無いことには大層驚きもした。しかし、今度はその生誕に立ち会えることになろうとは思いもしなかった。
「つまり、慧音はこれから先もっと忙しくなるってことでいいのね」
「そういうことだな」
「なら寺子屋設立も手伝わせてよ。人手は多い方がいいでしょ?」
「な!?た、確かにそれは助かるが、今回の件は全て私の独断だったようなもので、完全に私事だ。第一霊夢はまだ子供だろう?まだ寺子屋の生徒に近い年齢じゃないか」
「確かにそうだけど、他ならぬ慧音の望みだもの。教師の方はできないかもしれないけど、それ以外にもできることはたくさんあるはずでしょ。私は家族としてそれを手伝いたいの」
彼女は捨て子だった私に愛情を注いで育ててくれた恩人だ。私もそれに恩義を感じぬほどの鬼ではない。恩返しをしたいと思うのも当然だろう。
慧音はしばらく渋った表情で悩んでいたが、やがて目を閉じて一人納得したかのように首肯して微笑んだ。
「すまない、ありがとう。その時はよろしく頼むよ。ただし私から強制はしない。途中で止めてもらっても構わないし、無理はしないでくれ」
「わかったわ。無理はしない。だから安心して任せておいて」
……生まれ変わった頃は、こんな日が来るとは予想もしていなかった。まさか私が慧音に育てられて、妹紅に子守りされて、おまけに寺子屋の創設の手伝いをすることになるなんて。巫女としての生活が惜しいかと問われれば嘘になる。だが、今の人間としての生活も悪くはないと思えてしまうのだ。今はまだ全てがどう転ぶかはわからないが、せめて後腐れのないように生きたいばかりだ。そして願わくば、数多の人妖に囲まれた暮らしをもう一度。
「よし、明日も理沙が遊びに来るんだろう?なら今日は早めに寝て、英気を養おう」
「わかった、そうする」
とにかく、明日から退屈することはなさそうだ。
「霊夢ちゃーん、あっそびっましょー!」
「だからって朝っぱらから来ることはないでしょうがぁ!!」
数週間後。あれから魔理沙は本当に足しげく私の家に通い続けた。朝でも昼でも夕方でも、少なくとも顔を見せなかった日は一度たりともなかった。これには流石の慧音も呆れ返ったが、私たちの楽しそうな姿を見て何も言うことはなかった。
あれ以来私たちは玉蹴りだけでなく様々な遊戯をした。ままごともご本も博麗の巫女ごっこもした。だが最終的に行き着いたのは初めて会った時にした玉蹴り、或いは玉避けであった。
「ほいっと」
今日も御多分に漏れず玉蹴りだ。少し離れたところで魔理沙が私の飛ばすボールを待っている。よく飽きもしないものだと我ながら自嘲する。
身体の横から綺麗に放たれた回し蹴りによりボールは一直線に彼女の元へ。魔理沙も臆することなく身体の正面でボールを受け止めた。
「よーし、行くよー」
今度は魔理沙の番。高く高くボールを放り投げた魔理沙は一点を見つめ狙いを定めている。子供ゆえ蹴る玉にはブレが生じるが、それでも侮れないコントロールをもつ彼女の玉を受け止めるため私はどこに飛んでも捕れるように身体を軽くした。
「えーい、しょ~てんきゃ~く」
「ヴぇっ!?」
だが魔理沙は突然後ろを振り向いたかと思えば、膝を曲げてから思い切り宙返りを行った。そして逆さまになりながらも伸ばした足はボールの中心を捉えていた。突飛な行動で呆気にとられる私を意に介さず、ボールはそのまま私の胸へ……飛び込んでくるはずがなく、私の遥か頭上を抜けあらぬ方向へ飛んでいってしまった。間抜けにも視線だけがボールへ向かう。やがて静かに地面へ落ちたボールがコテン、コロコロと転がる。行く末を観察するように眺めていると、転がる先に一つ人影があった。その人影を目にした瞬間、私の身体は石と化したかのように硬直してしまった。
その人物は足元に転がってきたボールを興味深く拾い上げた。
「あ、ごめんなさーい。ボールありがとうございます!」
ボールを拾ったのは私たちと同い年ぐらいの少女。彼女は慌ただしく駆け寄る理沙の姿を認めると、対照的に落ち着いた様子で歩み両手で丁寧にボールを手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
白い小袖に緋袴のその姿、どう見ても間違えようがない。じっと見つめる視線に気付いた彼女は私が警戒しているとでも思ったのか、朗らかな表情で恭しく一礼してきた。
「はじめまして。私は今代の博麗の巫女でございます」
彼女こそが私が待ち焦がれていた人物……博麗の巫女に相違なかった。
と言っても、まだまだ修行中の身ではありますが。と、大人びてはいるがまだ垢抜けぬ博麗の巫女は照れ笑いをして続けた。
「私は霧雨理沙!よろしくね巫女さん!」
「はい、よろしくお願いします」
未だ動けぬ私をよそに理沙は満面の笑みで巫女に話しかけている。私も何か言わなければと口を開いてみたが、いざとなると何から言い出せばいいのかわからない。初対面なのだから自己紹介から始めればいいのだが複雑な感情が絡まってその一言が思いつかない。そんなとき思わぬ助け舟が出た。
「それで、こっちは霊夢!」
特に意図はなかったであろうが、理沙が流れで私にパスをくれたので会話に入ることができる。
「えっと、私は上白沢霊夢……です。よろしくお願いします。博麗の巫女……様」
博麗の巫女に対する態度なんてのも考えたこともなかったのでたどたどしい対応をしてしまった。巫女はこちらが緊張していると思った様子で、ゆったりしたペースで「よろしくお願いします」と返してきた。
ちなみに今の私は上白沢姓を名乗っている。さすがに勝手に博麗を名乗るわけにはいかず、慧音の下で育てられている以上当然の帰結である。
「ねぇ、巫女さんは何してるの?」
「え?そうですね……」
物珍しいのか、同年代の娘に興味津々なのか、理沙は積極的に巫女に詰め寄った。理沙は普段は聞き分けのよくお利口さんな性格をしているのだが、琴線に触れたことに関しては特に押しが強くなる。そうなったらもう制止しても止まりようがない。
「幻想郷の見回りをしたり、妖怪退治をしたり、お祓いをしたり……あ、あと修行したりしてます。まだ見習いですので」
指を口元にあてながら一つ一つ答える巫女に対して、首を傾げる理沙。理沙の聞きたいことをいまいち理解していないようなので、今度はこちらから助け舟を出すことにした。
「そうじゃなくて、理沙が聞きたいのは巫女様が今何をしてるのかってことじゃないですか?」
理沙が私の方を向いて二度、三度大きく頷いた。ようやく質問の趣旨に気付いた巫女は口をぱくぱくさせ取り乱した。どうやら今代の巫女は少々天然娘のようだ。
「あっ、あぁ!そういうことでしたか!えっと、今日は巫女の代替わりを伝えに里の各所へ挨拶回りをしてるところです」
代替わりの気配なんて微塵も見せなかったのにあまりの唐突さに唖然。襲名した巫女が挨拶回りに来るなんて連絡もなかったし、どいつもこいつも報告連絡がなってないわ……。
「じゃあ先代はどうしたんです?」
「先代様は既にご隠居なされています。私への修行もそこそこに……」
マジか。初めて会ったときはだいぶしっかり者だと思ったんだけどなぁ。弟子へのドサ回りなんて周到にしておくべきだろうに。
どこか寂しそうな巫女の姿から見るに先代についてはあまり触れない方がいいかもしれない。空気の読める私は話題を変えることにした。
「なら私達と遊ぶ時間はなさそうね、理沙」
こちらでも少々寂しそうな顔をしている理沙を振り返りながら話を振る。
「え、あ、あれ?どういうことなんです?」
「理沙はあんたと遊びたいと思ったから、今何をしてるのか聞いたのよ。大方、一人で心細そうに歩いてるあんたを見て元気づけてあげようとでも思ったんでしょ。ね?」
「うん!巫女さん、なんだかキョロキョロしてたからもしかして一人ぼっちで寂しいのかなって思ったの!」
理沙の言葉を聞いて巫女ははっ、とした顔をした。どうやら思うところがあるようだ。
「それは……お気遣いありがとうございます。お誘いは嬉しいですが、先程も言った通り私はこれから里を回らなければいけませんので。申し訳ありません」
申し訳無さそうに、しかし喜色を含んだ声で巫女は微笑んだ。
「大丈夫!また今度遊ぼうね!」
「また今度、ぜひ。……それにしても、霊夢さんはそれが素なのですね。そちらのほうが、なんと言うか物凄くらしいです」
「……ん?あれ、もしかして口調戻ってました?」
「えぇ。でもそのままで大丈夫ですよ。裏表のない素直な貴方の声、とても素敵です」
「……そこまで言われるとは、ちょっと照れるわね」
ちょっと気を抜いた拍子に敬語が抜けてたらしい。元々敬語はそんなに使うことがなかったからか全く癖がついてない。でもそんな私を見ながら臭いセリフを恥ずかしげもなく言うものだから、私は巫女を直視することができず日を眺めるように目を逸らしてしまった。
「あー、っと。そろそろ行った方がいいんじゃない?行くところまだまだあるんでしょ?」
思い出したかのようにわざとらしく話題を変える。
「そうですね。これから稗田邸に向かわなければいけませんので、名残惜しいですが今日はこれで失礼させていただきます」
「ん、またね」
「次は絶対遊ぼうね!またねー!」
手を振る私たちに深々と会釈をした巫女は振り返る素振りも無く立ち去っていく。
「あ、ちょっと待って!」
だがその後姿を私は慌てて呼び止めた。
「はい?まだ何か……」
足を止め嫌な顔ひとつせず振り返り反応してくれる巫女。
「あんた、稗田邸の場所わかってるの?」
「あ……その、いいえ。少々良い雰囲気でしたのでこのまま別れて歩いて探せばなんとかなるかなー、と」
「……稗田邸は逆方向よ」
「え!」
随分大袈裟に驚くわね。うーん。どうにもこの巫女はどこか抜けてて頼りない印象がある。巫女としての素質は十分なのだろうが、このそそっかしさは放っておけない雰囲気がある。
「しょうがないわね……。理沙、今から少し出かけましょう」
「……!わかった!!」
「えっと、お二人とも何を……?」
球を抱えた理沙と共に巫女の両隣に並び立つ。
「稗田邸はあっち。里を知らないあんただけじゃ日が暮れちゃいそうだから、私たちが一緒に案内してあげるわ」
「そ、そんな。霊夢さんと理沙さんの手をわずらわせることなんて……!」
食い下がる巫女だが、幻想郷の住人として、そして博麗の巫女の先輩として孤独な姿を見過ごすことはできなかった。
「巫女さん、私たちはもう友達でしょ?」
「そうそう。せっかくこうして会えたんだから、もうお別れなんて寂しいでしょ」
左右の私たちを交互に見つめ、巫女は意を決したように強く頷いた。
「ありがとうございます!」
「先代より任を継ぎました、今代博麗の巫女でございます。幻想郷の安寧の為尽くさせていただきますゆえ、末永くよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。それにしても、慣れぬ人里で道中大変だったでしょう。差し支えなければ案内役として女中をつけましょうか?」
「……せっかくの申し出ですが、ご遠慮させていただきます」
「おや」
「外で頼もしい友達が二人、待ってくれているのです」
この後上白沢宅を訪問する予定だったことが判明するが、巫女が霊夢が上白沢姓であることを偶然と思って二度手間になる下りはカット。