消えゆく白の群像   作:来星馬玲

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第十四章 月下の銀狼

 機人の項

 

 

 門の向こうで、機人達の故郷を照らす母なるダイヤモンドの月。この月は獣達の暮らす世界においては異変の象徴であり、唾棄すべき禍の月とも言えるが、機械達にとっては尊いものとされていた。

 

 月下に散乱する残骸。その多くは今回の大戦で破壊された機械達である。その残骸の中を一人の機人が徘徊していた。常に中空に浮いている人魚の様な姿をした機人。ワルキューレ三姉妹の長女、クイーンであった。

 

 クイーンは残骸の中から様々な物を物色していた。まだ使えそうな回路、動器達の装甲、そして未だ消滅していない、輝くコアの破片。それらを彼女は下半身にある空洞に収納しながら集めていた。

 

 しばらくすると、クイーンはその場を離れ、大きな淡黄色の箱の様な建物へと引き返して行った。

 その建物の中では妹のヒルドが何やら機械を継ぎ接ぎしながら作業を繰り返している。クイーンは背後から軽く声をかけると、収納していた物を次々とその傍らに並べていった。

 

「まだこれだけのコアが生き残っていたわ。やはり、ここの月の下なら安心ね」

 

 獣達の住むあの世界では未だ世界の改変が完成しておらず、保護を失ったコアを長く維持することができない。外部の損傷が激しくなりすぎると命であるコアの維持もできなくなるということは、獣達にとっては当たり前のことであるのだが、機械達の場合、何らかの手段でコアを保護し、新しい体を造り出すということが行われている。

 

 その為、機械達は、獣達ならばまず助からないような致命傷を負ったとしても、門の内側に逃げ延び、母なるダイヤモンドの月の下へと向かえばその命を取り留めることも可能である。

 

「ええ、姉さん。では、この中から使えそうな部品を選別しましょう」

 

 クイーンとヒルドが協力し、何やら大きな機械人形を造ろうとしている。特に難しい、欠けたコアの複合作業はすべて姉のクイーンが担当する。機械が繋ぎ合わされていき、徐々にその機械人形の姿が完成に近づいていく。

 

 何度か往復と作業を繰り返し、遂にその機械人形は完成した。その姿はどことなく敵対する獣を思わせるものでもあった。

 

 クイーンが傍らのレバーを掴み、それを一気に引き下げた。レバーの付いた黒色の機械から伸びているケーブルを電流が迸り、強烈な熱量となって、繋がっていた機械人形を直撃する。

 

 機械人形ががくがくと激しく振動する。体内に収められている複合されたコアが強い命の光を放ち、機械人形の鋭い眼光が煌めいた。

 

 おおーおおーおー。

 

 機械人形が何やら獣の咆哮の様な声を上げた。自分と繋がっているケーブルを引き千切り、ゆっくりと立ち上がる。そして自分を造り出した二人の姉妹を黙って見降ろした。

 

 

「私の言葉が分かるわね。あなたは多くの命が一つとなることで生まれ変わったのよ」

 

 クイーンの言葉に対して、機械人形は黙って頷いた。

 

「あなたは生まれながらの騎士。ガグンラーズ、それがあなたの名前」

 

 ヒルドがそう言うと、機械人形はか細い声でこう言った。

 

「……俺は……ガグンラーズ。俺は……騎士。」

 

 ガグンラーズは己の脳内にあるプログラムより言葉を捻出し、自分の名前を何度も何度も繰り返した。

 

「俺は……騎士。俺は……ガグンラーズ。俺は……」

 

 二人の機人に見守られる中、ガグンラーズは徐々に己の自我を形作っていった。混在する多くの動器達の記憶。それらを整理し、今の自分にとって必要と思われるものを集め、再構築していく。

 

「俺はガグンラーズ。そしてあなた方は俺の母。母達よ、騎士であるこの俺の役目を教えてくれ」

 

 機人の姉妹は顔を見合わせ、お互いに頷き合った。クイーンがガグンラーズに語りかけた。

 

「あなたの役目……それは私達の妹、ワルキューレ・ミストを守ること。何があっても。絶対よ。そう、例え私達がミストの敵として立ちはだかったとしても、あなたはミストを守る為に、母である私達を斬り捨てなければいけないのよ」

 

 クイーンの申し出にガグンラーズは若干躊躇した。だが、自分の脳内のプログラムを整理し、その中からワルキューレ・ミストのデータを探し出すと、クイーンの言った事を自分が生きている限り永久に忘れる事のないように焼きつけ、二人の機人に向かって言った。

 

「理解した。俺はワルキューレ・ミストを守る騎士となる。母であるあなた達よりも何よりもミストに従い、守ることが俺の存在意義。騎士としての俺の最優先事項」

 

「よく言ったわ。では、あなたにはすぐにミストのもとへ向かってもらうわよ。彼女は今、とても危険な状況に置かれているの。付いてきて頂戴」

 

 ガグンラーズは二人の機人と共にその建物を出た。

 

 

 

 クイーン達は、特定したミストのいる現在地の座標を教え、門より出撃するガグンラーズを見送った。

 

 本当は最新鋭の機材と技術を駆使したかったが、その様な事をしては同胞達の眼に付くことは避けられない。ミストの為に新たな騎士を生み出したということは仲間達に知られてはいけないのである。ミストは目下、裏切り者の烙印を押されているのだから。

 

 次にあの騎士と会う時は敵同士かもしれない。そう思うとクイーンとヒルドは気が滅入ったが、これが愛する妹に対する自分達のけじめ。後悔はしていなかった。

 

 名も無き動器の集合体と言えるガグンラーズ。彼は獣達や、同胞である機械からも追われる立場にあるワルキューレ・ミストを守り戦うという、母から与えられた騎士としての使命を全うする為、ミストを求めて月下を疾走した。

 

 彼を照らす月はこの世界の月であると同時に、故郷より覗くダイヤモンドの月。ガグンラーズの鋼の皮膚がそれらを反射し、まるで銀毛に覆われた狼の様な姿が地上に顕現していた。




関連カード

●銀狼皇ガグンラーズ
白の武装・戦騎。
フレーバーテキストは白の章第9節であり、虚無の騎士との激しい攻防が書かれている。
戦騎に関連する効果を持つマジック、キャバルリーのイラストにその姿がある。
キャバルリーとは騎士道を意味し、イラストでは立ち上がったガグンラーズと白い翼が描かれている。

章題は銀狼皇ガグンラーズのこと。
ワルキューレ・ミストを護る騎士として、無数の動器の残骸を使ってクイーンとヒルドが共同で作り上げた。
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