消えゆく白の群像   作:来星馬玲

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第二十八章 星創る者

 歌の項

 

 

 星創る者の三従者、時空を超え現れ出で、導きし降臨。

 成されるのは無残なる終焉か、力満ちし誕生か。

 

 

「世界が死んでいっているのよ」

 

 その女性は結晶に囲まれた泉の水面上でうずくまり、自分の殻に腕を乗せ、半ばあきらめ顔で呟いた。ドヴェルグは彼女には背を向け、無言で僕を先に促した。僕はその女性に向かって頭を下げ、ドヴェルグと共にその場を立ち去る。

 

「失われたのは活力、人も大地も」

 

 背後から彼女の言葉が響き、僕の胸に刺さった。僕には彼女の悲痛の想いがよく分かる。だが、僕の力ではどうすることもできない……。

 

 

 

 門をくぐり、この世界に訪れた時、最初に出会ったのは見上げるほど巨大な機械人形であった。門を出ると、そこには銀色の海が広がっていた。海岸沿いは微かに青みがかっているが、一目でその海が何かに汚染されていることが分かった。空は鉛色をしており、重い空気が空間に満ち溢れている。

 

 この奇妙な世界に呆然と立ち尽くしていると、僕の背後にある未だ開いたままであった門から巨大な影が、ゆっくりとした動作で這い出てきた。

 

 機械人形は僕を睨み据え、眼を光らせた。本能が危険だと知らせる。大急ぎで逃げると、機械人形は腕を突き出して、此方に迫って来た。

 

(やられる)

 

 そう思った時、天より一体の竜が飛来した。虹色の輝きをまとった竜。あの虚竜を連想する姿であったが、どことなく雰囲気が違った。

 

 虹の竜は一瞬僕の方へ視線を送ったが、すぐに機械人形の方へ向き直った。機械人形は突き出した腕から熱線を放ち、熱線は虹の竜に向かって直進していく。竜の虹の輝きが急速に強まると、熱線は竜の眼前で打ち消された。どうやら、虹が防壁の役割を果たしているらしい。

 

 攻勢に出た竜。勝敗は一瞬で決まった。竜の爪によって胴体を引き裂かれ、巨大な機械人形は力を失い、轟音と共に砂浜に倒れ伏した。

 

 竜は機械人形から目を離し、その視線を此方に向けた。やがてその竜の声が直接僕の脳裏に響いて来たのである。

 

(君は……何者だ。どこから来たのだ)

 

 僕は答える。

 

「私の名前はロロ。門をくぐり、青き世界よりこの世界を訪れました」

 

(そういうことか……)

 

 竜は地に降り立つと、真っ直ぐにこちらを見た。

 

(私の名はアウローリア。この世界を見守る竜の一人だ。私は君のことを待っていたのだよ)

 

「私を」

 

(君はこことは違う……五つの世界を見て回った筈だ。そして、その世界の行く末もな……)

 

「どうしてそのことを……」

 

 竜の言うとおり、僕は今まで、五つの世界を旅した。最初に訪れた赤き世界はその後どうなったのか分からないが……他の四つの世界は【虚無】に呑まれてしまった。ただ、あれで本当にすべてが消滅してしまったのかどうかまでは分からない。どうか生き延びていてほしい……今まで出会った者たちのことを想い、僕はそう願っていた。

 

(君は【星創る者】に導かれてここまで来た。それはこれからも変わるまい。……【星創る者】が決定するその瞬間までは)

 

「それは……どういう意味なのですか。」

 

(すぐにわかる。それよりも……君に客人だ)

 

 竜がそう言うと、竜の背から、一人の長身の人物が降り立った。全身白尽くめの衣装を身にまとった男。その人物は此方に歩み寄ると、手を差しだした。その人物の意思が何となくであるが伝わってきた。僕がその手を握ると、男は此方の手を固く握り返してくれた。がっしりとした体躯の屈強な男であることがすぐに分かった。

 

(彼の名前はドヴェルグ。彼は最初から君を待っていたのだ、【星創る者】の意思に従って)

 

 【星創る者】が何を示すのか、その時はまだ分からなかったが、僕はその者の意思に従ってここまで来ることが出来たというのならば、今はそれに従おう、とそう考えた。

 

 こうして、僕とドヴェルグの旅が始まったのである。

 

 

 

 六番目にやってきたこの世界は、これまでで最も異質な世界であった。まるで生命力というものが根こそぎ吸い尽くされ、すべてが永久凍土の中に閉ざされつつあるような無機的な世界。

 

 ただ、生命力の失われた世界は一方で美しくもあった。不謹慎かもしれないが、人工的な芸術作品を思わせる世界であり、何か大きな……【神】とでも呼ぶべき存在がこの作品を一所懸命に完成させようと苦心している……そんな印象。

 

 例えば、空魚。

 

 美麗な作り物めいた鱗の光沢が、ゼリーのような海の上に広がる鉛色の空を泳ぐ姿は美しい。過去に訪れた緑の世界の美しさも、実にすばらしかったが、こうした人工物めいたものにも独特の美がある。

 

 そう思ってしまうのは、僕がそういうものに慣れ親しんだ人間であるからかもしれない。もしこのことをドヴェルグに話せば、彼は怒るだろう。だから僕はそういったこの世界に対する感想を、自分の胸の内にそっとしまっておいた。

 

 この世界を侵す侵略者。その一人がまたもや僕の前に現れた。巨大な二つの鉄球を備えた赤子の姿。赤子は悪意のこもった笑みを浮かべたまま、僕に近づいて来た。その口から、銀色の鋭い牙が生えている。

 

 赤子が襲いかかってくると、ドヴェルグが手にした鞭でこれを迎え撃った。赤子は怯むことなくドヴェルグを殴り倒し、此方に飛びかかって来た。

 

 僕は、過去の世界で学んだ護身術を駆使し、ドヴェルグから渡された棍棒に渾身の力を込めて赤子を打ちつけた。しかし、赤子に当たった棍棒は圧し折れ、跳ね返された。赤子の鉄球で僕は打ち倒され、その赤子は僕に圧し掛かって来た。

 

 ドヴェルグに助けを求めようとしたが、彼は地に伏したままであった。

 

 僕に圧し掛かっていた赤子はしばらく黙って此方を見下ろしていた。僕は不思議に思い、その赤子の顔を見上げる。赤子は先ほどまでとは打って変わって、無邪気な笑みを向けてきた。

 

(やあ、君がロロかい。僕はロキ。いきなりこんなことして悪かったね。いや、本当は君がもっと強いと思ったから、これくらいの悪ふざけ、どうということはないだろうと思っていたんだけどね)

 

 それは僕の脳裏に直接話しかけてきた。アウローリアと同じだ。

 

 赤子が僕の上から降りた。僕は警戒しながら立ち上がると、ふとドヴェルグの方を見やった。ドヴェルグはまるで何事も無かったかのようにそこに立っているではないか。

 

(ドヴェルグも君のことを試したかったんだよ。ま、結果はこんなだったけど……。でも君の強さは単純な腕力なんかじゃない、【星創る者】がそれを証明している。だから気にすることはないよ)

 

 また、【星創る者】である。ロキと名乗った赤子は話を続ける。

 

(君も知ってのとおり、この世界は僕の同胞である機械たちの侵略を受けている。でも、このままでは、結局共倒れになるしかないんだよね。分かるだろう、【虚無】だよ)

 【虚無】……。僕は黙って頷いた。

 

(その【虚無】を止めるためには君の協力が必要なんだ。五つの世界を見て回った君の、ね。君は【星創る者】の三従者に会う必要がある)

 

「三従者、それは一体」

 

(三従者は君を探している、でもこちらから探しにいくことはできない。三従者は時を越えて、今というこの時代を探しているからね。時の旅というものは、僕らが想像できる範疇を凌駕している。……まあ、もうすぐ君が体験することなんだけど)

 

 僕はさらにロキへ向かって問いを投げかけようとしたが、ロキは両腕の鉄球でそれを制した。

 

(君はそれまで無事でいること。そのことだけを気にしていればいいんだ。僕はもう帰るよ。じゃあね)

 

 それきり赤子は動かなくなった。

 

 

 

 まさに動く要塞。その存在を前にして、僕は瞬時に過去の光景を連想した。龍皇ジークフリードと白い機械の巨人が合体する……あの機械が眼の前にいる要塞皇であることは間違いなかった。

 

 要塞皇の後ろの機械の群れの中には、鋼の人魚を思わせる機人の姿がある。その機人は先ほど僕を襲ったあの機人だった。

 

 僕が赤の世界にいた頃に学んだフレイムダンスの呪文を、あの鋼鉄の人魚は弾いた。危ないところであったが、ドヴェルグの鞭が人魚の装甲を打ちつけ、外敵を追い払うことに成功したのである。

 

 周りにはドヴェルグの仲間である獣たちが集っている。そして、この都市を一度制圧した要塞皇の砲撃が今まさに再開されようとしていた。

 

 その時、要塞皇の背後から一人の機人が飛び出した。機人は僕を襲った機人とよく似た人魚の姿をしていたが、どうやら別人であるらしい。その機人のもとから二人の妖精が舞いあがり、僕はあっと言った。

 

 ドヴェルグの方を振り返ると、ドヴェルグは黙って頷いた。二人の妖精は、この都市に訪れた際に出会った不思議な道化、フギンとムニンであった。

 

 フギンとムニンは要塞皇にとりつくと、こちらに視線を送った。そして、僕にこう伝えた。

 

(ワーグナー様の命により、この者をあなたの知っている灼熱の世界に転送します)

 

 すると、要塞皇の全身が光に包まれ、やがて消え去った。

 

 これにより、侵略者たちは動揺し、獣たちの一斉反撃が始まったのである。特に獣を導く竜戦車アースガルドの働きは目覚ましかった。竜戦車が敵の門を粉砕したことで、勝敗は決し、敗走する侵略者の掃討が開始された。獣たちは日頃の恨みを爆発させ、徹底的に敵を叩いた。凄まじい執念であった。

 

 僕とドヴェルグは急いで、その場を立ち去ろうとしたが、背後から機人の一人が飛びかかって来た。ドヴェルグが迎え撃とうとしたが、その機人は手強く、このままではドヴェルグの命が危ない。

 

 僕はフレイムダンスの呪文を唱えた。機人の全身は炎に包まれた。それでも機人はドヴェルグに襲いかかろうとしたが、ドヴェルグが鞭を一閃させ、機人の胴体を破壊した。機人はもう動かなくなった。その様子は哀れであり、僕は友を救うためとはいえ、機人を手にかけてしまったことを悔やんだ。

 

 僕たちは機人の亡骸を後にした。

 

 

 

 ドヴェルグの主という氷の淑女スノトラの住まう塔に、僕たちは足を運んだ。そして、その地で、【星創る者】の従者に出会ったのである。

 

 スノトラのもとで数日を過ごした後、再び旅立とうとした時、星が天を過った。だが、すぐにそれが星ではないことを知る。

 

 それは真っ直ぐ、此方に迫ってきて、塔の門の前で降り立った。それは、一匹の金色の毛を持つ狐であった。やがて、狐はこう言った。

 

「探しましたよ、ロロ」

 

 澄んだ、女性を思わせる優しい声であった。僕の横にいるドヴェルグとスノトラが恭しく頭を垂れた。狐が話を続ける。

 

「あなたにはこれから私と共に時を遡っていただきます。そして、この世界の真実を知るのです」

 

 僕はドヴェルグとスノトラの方を見た。二人は異を唱えるそぶりを微塵も見せない。

 

「お行きなさい、友人ロロよ」

 

 スノトラがそう言った。僕に断る理由はない。僕は、頷くと狐の側に歩み寄った。

 

「では、参りましょう」

 

 狐の体がすうっと舞いあがると、僕の体も同時に宙に浮いた。僕は狐と共に夜空を飛ぶ。

 

「ロロ……まず、あなたに問います。あなたはこの世界を救いたいですか。つまり、あなたが見てきた世界のように、この世界が【虚無】に呑まれ……やがて永久に失われることを、あなたは拒みますか」

 

「私は、この世界を救いたいです。そして……できることならば、今まで私が見て回ったすべての世界が救われることを、私は望んでいます」

 

 迷う理由など無いのだ。僕がこれまでの旅で出会ったすべてのものを思えば、そう願うのは当然のことなのだから。

 

「よろしい。それこそが【星創る者】の望み」

 

 夜空を疾走する金色の狐の姿……僕は何となく、「飛鋼獣」という呼び名を連想した。

 

「そうです、【星創る者】は私を飛鋼獣と呼びました」

 

 僕の心を読んだ飛鋼獣が言った。

 

「……その【星創る者】とは一体……」

 

「時を越えます。今この世界に生きる者にとっては一瞬の出来事ですが、あなたにとっては永久に近い旅かもしれません」

 

 視界が白色で満たされ、自分の五感が急速に変化していった。人間としての感覚ではなく、ましてや直接魂で感じる、というのとも少し違う。敢えて言うならば、「神の感覚」か。

 

 

 

 長い旅だった。どれだけ長い旅だったかもう思い出すこともできない。ただ、私は何か大切なものを得たし、少なからずこの世界に何かを残せたことも確かだ。私はこの白き世界の始まりから終わりまでを見たことが何となく分かる。

 

 断片的な記憶を拾い上げてみると、私はこの世界の過去の大戦に立ちあい、【虚無】の存在を何度も忠告して回った。青の世界では無駄だった忠告だが、様々な時代、様々な場所で私が現れ、忠告を繰り返したことで、目覚ましい成果を上げたことは間違いない。

 

 侵略者とこの世界の住人の多くが【虚無】を今になっても黙殺し続けていることもまた事実だが、これにより【虚無】の存在をはっきりと理解し、対策を本気で講じようとする者たちが現れた。

 

 それは、先代の勇者の天戒機神グロリアス・ソリュートであり、ロキであり、ウル・ディーネであり、ソールを始めとする一部の氷の姫君たちであり、ドヴェルグであり、ディースであり、アウローリアであり、……まだまだいた筈であるが、一番の成果は野望と憎しみに燃えていた氷の魔女ヘルが、己の内に閉ざしていた真の心を目覚めさせたことであろう。

 

 ヘルにはヴァールという名の愛娘にも等しい従者がいた。彼女に対する愛が無ければ、【虚無】を認識したとしても、ヘルの悪意は決して衰えたりはしなかっただろう。それがきっかけでヘルもスノトラ、エイル、フレイアといった良き理解者を得たのだ。

 

 この時代に帰る途中、ここ最近に起こった事件なども一通り見てきた。

 

 空母鯨モビルフロウ――名付け親は私であるが――の旅路。その中で一時の英雄となったロブスタークの姿があった。ロブスタークは生命対機械という、あまりにも分が悪い戦いにも挫けずに戦いぬいた。

 

 未完成であった翼神機グラン・ウォーデンとの戦いで散っていったヴィゾフニル、翼神機を迎え撃った虹竜アウローリアの姿……他にも無数の空魚たちが生き、そして散っていった。侵略者と共に……。

 

 モビルフロウは鋼翼魚オルカノンと共闘し、白き虚龍に挑んだが善戦空しく消滅していった。だが、極甲王グラン・トルタスがモビルフロウたちの遺志を引き継ぎ、モビルフロウが護りぬいてきた生命は、今も旅を続けている。

 

 この一連の出来ごとの中で私は、一羽の白鳥の存在が強く印象に残った。他の者たちと比べて大した力は持っておらず、特に活躍したわけでもないが、その内に秘めている星の輝きは私の心を強く引きつけた。そして、その白鳥を竜騎であるアルブスから救った同じ竜騎のプラチナム……。

 

 プラチナムの弟がソールの塔で働いている白い道化師であったということを私は知っている。そして、その道化は、ロキによって鎧蛇の島の勇者アインホルンと融合し、この世界の【勇者】となったのだ。

 

 巨神機トールと戦い散っていったエレファンタイトたち……。エレファンタイトの一族は滅んでしまったが、その魂の叫びはトールの心へと届き、トールがロキと協力するきっかけとなったのだ。彼らの滅亡を無駄にしないためにも、【虚無】は食い止めねばなるまい。

 

 私は一瞬、現在に近い時間に出現した際、ブリシンガメンの首飾りに狙われた。だが、私はすぐに違う時空へとその身を投じ、難を逃れたのだ。あの場にいた者はおそらく全滅してしまったのであろう……。

 

「ロロ、あなたは理解していますね。自分が誰であるのか」

 

 やがて、私から「神の感覚」が徐々に失われていき、私は今となってはとても懐かしい……人の形となった。

 

 私を取り囲む三体の異形。一つはあの飛鋼獣。もう一つは、恐竜とコブラを合わせたような姿を持つ、真紅の蛇竜。もう一つは、三つの首を持ち、骸となった地獄の番犬を連想させる獄獣。

 

「星創る者の三従者、時空を超え現れ出で、導きし降臨」

 

 そして、私は飛鋼獣の問いに答える。

 

「はい、私が【星創る者】です」

 

 三従者は同時に頷いた。

 

「そのとおりです、【星創る者】よ。ただ、あなたにはまだ気がついていないことがあります」

 

「それは何でしょうか」

 

「【星創る者】……それは本来、あなたが生まれ育った――そして、あなたが【スピリット】と名づけた魂の根源でもある、青き惑星そのものがなる筈だったのです」

 

「青き惑星……」

 

 そうだ、私はそこで生れ、育ったのだ。

 

 今度は蛇竜が語り始めた。

 

「【星創る者】よ。心したまえ。あなたの生みの親でもある母なる青き惑星は、今後あなたを脅かす存在となろう。何故なら、青き惑星もまた【星創る者】であり、【星創る者】は自分がそうなるよう、未来から過去の自分を自分のもとへと導いている。……あなたという一人の人間を、未来の【星創る者】は自分があなたとなるよう全霊で以て導いていると同時に、あなたが【星創る者】となることを全力で阻止しようとしているのだ。青き惑星のためにな」

 

 獄獣が言葉を継ぐ。

 

「【星創る者】。そうなるべきだった青き惑星は汚れてしまい、汚れた青き惑星が【星創る者】となることを、この世界の意志が拒んだ。しかし、【星創る者】は複数の世界が重なることで存在しているこの不安定な宇宙には、必要な存在だった。そこで、青き惑星の遺伝子を持つ一人の血肉を備えた人間が選ばれた。それが、ロロ」

 

 飛鋼獣が再び口を開いた。

 

「人間であるあなたの身体では、時を遡り、神の領域に達することなど、不可能でした。そこで、【星創る者】は不死の実を創り出し、それを世界樹に託したのです。それによって緑の世界はより強大な困難に直面してしまったのですが……」

 

 私が気づくと同時に、飛鋼獣は話を続けた。

 

「そうです、【星創る者】。【虚無】に完全に呑まれてしまっては、後に【星創る者】が全世界を再生するという使命も果たせなくなります。【虚無】に完全に呑まれることを防ぐことができれば、【星創る者】は壊された世界を救済できます。もっとも、ロロ、あなたが唯一無二の【星創る者】とならなければそれも果たせませんが……」

 

「今は、緑の世界の救済に力を注ぐべき、ということですね」

 

「【星創る者】よ、では、我々に命令してください」

 

「はい。飛鋼獣ゲイル・フォッカーよ、【星創る者】が命ずる。君は緑を守護する使命を帯びた騎士、鉄騎皇イグドラシルを緑の世界へと誘いなさい」

 

「分かりました、【星創る者】」

 

 飛鋼獣の姿が掻き消えた。今度は獄獣の方へと向き直り、こう告げた。

 

「獄獣ガシャベルス、【星創る者】が命ずる。君は紫の世界へと赴き、疫病でかの世界を滅ぼさんとしている魔界七将デスぺラードの心に問いかけ、彼を本来護るべき緑の地へと導きなさい」

 

「了解した」

 

 獄獣も消えた。

 

 やがて、蛇竜が語り出す。

 

「ロロよ、間もなく、あなたはこれまでの記憶の大半を失う。あなたは【星創る者】そのものであると同時に、【星創る者】の意志に反抗する敵対者であるからだ。あなたが神の視点でこの世界を見たこと、【星創る者】はそれを許しはしない。必ずや、母なる青き惑星はあなたの前に立ちはだかる。その時、我々はあなたに仇為す敵となるであろう。我々は【星創る者】の命に従うのみだからだ」

 

「心得ています、蛇竜キング・ゴルゴー」

 

「母なる青き惑星も汚れた一面だけの存在ではない……これも心得ておいて貰いたい。汚れる前の天地を司る高潔な一面もまた同時に存在しているのだ。ロロ、青き惑星があなたに仇為す時、天地司る意思に問いかけよ。その者の協力を得ることができれば、たとえ相手が悪しき幻羅であったとしても、勝機はある。では、さらばだ、ロロ。我々は、あなたが【星創る者】となることを阻止しようとするが……見事あなたが真に【星創る者】となること、望んでおるぞ」

 

 最後まで残っていた蛇竜の姿も消えた。そして、私の意識も……。

 

 僕は……誰だ。僕は、僕だ。放浪を続ける一人の旅人。不死の実を口にした人間。

 

 

 

「動いたな、【星創る者】」

 

 白き機神獣の双眼がそれを見抜いた。

 

「だが、放浪者であろうと、幻羅であろうと、我が邪魔はさせぬわ。我々は【虚無】の代行者。創造主などは必要ではないのだ。そうであろう、我が同士たちよ」

 

 【虚無】に意識などは存在しないが、明確な意志はあった。すべての宇宙を滅ぼし、【虚無】に還すという意志。それが、【星創る者】とは決定的に違っていた。




関連カード

●飛鋼獣ゲイル・フォッカー
星創る者の三従者の一体である、白の剣獣・機獣。
緑と白の軽減シンボルを併せ持つ。
ドラマCDにおける星創る者の三従者は幻羅星龍ガイ・アスラの配下として登場した。
また、アニメにおいても異界王が幻羅星龍ガイ・アスラと共に星創る者の三従者を使用している。
創界神ネクサスとして登場した異界王の《神託》は無魔と機獣にも対応しており、
星創る者の三従者との関連性が窺える。

本章における冒頭の一文はこのカードのフレーバーテキスト。
自分の小説では、「無残なる終焉」と「力満ちし誕生」の選択が、
まだ確定していない【星創る者】の手に握られているという解釈。

●獄獣ガシャベルス
星創る者の三従者の一体である、紫の無魔・想獣。
紫と黄の軽減シンボルを併せ持つ。
フレーバーテキストは終章第5節。
放浪者ロロは星創る者の三従者を過去に見たことがあるらしい。

●蛇竜キング・ゴルゴー
星創る者の三従者の一体である、赤の皇獣・異合。
赤と青の軽減シンボルを併せ持つ。
フレーバーテキストは終章第5節。
飛鋼獣ゲイル・フォッカーの前半部分に獄獣ガシャベルスを足した内容。
なお、創界神ネクサスの異界王の《神託》は、皇獣・異合には対応していない。

●魔界七将デスペラード
3番目の魔界七将である夜族・呪鬼。
紫の世界に疫病をまき散らしたが、
後に緑の世界でキングタウロス大公と融合して大甲帝デスタウロスになったと思われる。
大甲帝デスタウロスは緑の章第12節。
ブラックタウロス大王が「森を消した怪獣」と戦う場面とどちらが先であるかは不明。

●幻羅星龍ガイ・アスラ
赤の神星・星竜。
太陽と月をも滅ぼす最強最悪の星と交渉人ミクスは言う。
ドラマCD『異界見聞録 完結編』では、
世界のひずみを吸収するタマゴが限界点に達したことで誕生する、世界を滅ぼす者。
そのタマゴを管理している人物が星の巫女クシナである。
アニメでは異界王のキースピリット。
ドラマCD、アニメ、何れにおいても星創る者の三従者と共に並ぶ場面があり、
創界神ネクサスの異界王も系統:神星と名称「幻羅」に関する効果を持つことからも関連性が窺える。

本章では、【星創る者】の一つの可能性としてその存在が示唆されている。
現時点では【星創る者】は決定していない。

●天地神龍ガイ・アスラ
赤の神星・星竜。
八星龍の一体であり、地球を体現する。
太陽と月の戦いに呼応した幻羅星龍ガイ・アスラが取り戻した本来の姿であると思われる。

本章に出てきた「汚れる前の天地を司る高潔な一面」とは、
天地神龍ガイ・アスラの示唆。



●フレイムダンス
マジック。
背景世界ではロロがアイバーンやクイーン・ワルキューレに対して使っている。
イラストでは機人ラグーナが焼かれている。

本章ではロロが機人ラグーナに対してこの呪文を使用。
ラグーナは第十章で登場していたが、あの時とは別視点の同じ場面。
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