機人の項
心を持たない軍勢との戦闘は熾烈を極めた。
恐怖も何も感じることのない盾竜の軍団は一寸の迷いもなく全身を武器にして、飛行する機械の艦隊へ次々と突撃してきた。
多くの盾竜が歌姫を乗せた軌道母艦に直進したが、これを死守するべく護衛の艦が砲撃を継続しつつ盾竜の進路に躍り出ることで攻撃を防いだ。艦隊の砲撃は盾竜に効果はあったのだが、敵の数が多すぎる上に、その一体一体が砲撃を直撃させない限り落ちないだけの耐久力を備えている。
そして、遠方にブリシンガメンの首飾りが出現したところで、敵の進撃はより苛烈なものとなる。
盾竜の群れに混ざって、空中に無数の魔法陣が現出した。艦隊から放たれた一斉射撃はこの魔法陣に触れるとたちどころに軌道を捻じ曲げられ、威力を分断され、中空へ溶け込むようにして消えた。
これにより、艦隊の攻撃を掻い潜って艦まで到達する盾竜の数が急増し、全体を蜂の巣の様にされた機械の船が群がる盾竜に張り付かれたまま、墜落していった。
戦況はさらに悪くなったと誰しもが考えていたが、この事態に直面したところで、軌道母艦を動かしているロキの心中にはある疑念が生まれていた。
(妙だな……。ブリシンガメンの首飾りの方から出向いてくるなんて)
あの魔法陣はおそらくブリシンガメンの首飾りを動かしている敵将によるものだろう。元来、ブリシンガメンの首飾りは地上への攻撃力に関しては強大であるが、敵の接近を許してしまうと小回りが利かないという弱点を露呈してしまう。
(ブリシンガメンの首飾りは対抗手段の無い地上の獣たちを攻撃する為に使われていた。それをこんなところで空中戦に投入してくるなんて、普通じゃ考えられない)
歌姫や勇者を根絶やしにする為に虚無の軍勢も主力を差し向けてきたのかもしれないが、それには相手も相応のリスクを負う筈であった。
(僕の計画では、今は世界中を逃げ回りつつ、結集した戦力で徐々にブリシンガメンの首飾りを包囲し、奪還するつもりだったけど。……これは、もしかしたら千載一遇の好機かもしれない)
罠の可能性もあった。しかし、敵の進軍を止める手立てが乏しい今となってはこのまま撤退を続けるのは得策とは言えない。魔法陣に押し出されるようにして迫ってくる盾竜の速度はこちらを数段上回っているのだ。
(やるしかない。こっちにとっても賭けになるけど、ここでブリシンガメンの首飾りを手に入れることが出来なければ、もう虚神との決戦に臨める機会もないかもしれないのだから)
ロキはヴィ―ザルたちの了承を得るよりも早く、全艦隊に一つの指令を発した。
「なんだと。ロキの奴、正気か」
ロキの電文を受け取ったボルヴェルグは、困惑と憤りの混ざった声を上げた。
ここは敵を迎撃するしんがりの役目を担っている黒鉄の船のブリッジ。船の操縦や索敵に従事していた機人たちのうちの数名が、上司のボルヴェルグの方へ視線を向けた。
「つい先ほどまでは全軍に撤退命令を出していたロキが、今度は全戦力で以て敵陣へ攻め込めと言ってきおったわ」
確かに、敵の進軍は早まり、迎撃しきれない盾竜のもたらす被害は刻々と増していくのみであった。しかし、当初の計画では多少の犠牲には目をつむり、歌姫を無傷のままこの世界に残された聖地、巨獣守りし神域へ送り届けることが最優先事項であった筈だ。
「ロキめ、ここはまだ決戦の場ではないのだぞ。歌声と勇者を失ったら残存勢力でゲリラ戦を継続するのが関の山だ。聖地に籠城するいう受け身な戦術は俺も好かないが、それ以外に有効な選択肢など、あるわけがない……」
「ボルヴェルグ殿、ヴィーザル殿より通信が入りました」
部下の機人が言った。ボルヴェルグが通信を繋ぐように指示すると、すぐにブリッジ内の中空にヴィーザルの姿が映し出される。
「ボルヴェルグ殿、貴殿は承服しかねている様子であるが、私はロキの作戦に従う決意を固めた」
「ヴィーザル殿……また、あなたか」
ボルヴェルグの脳裏に、この世界の住人との和睦の件でヴィ―ザルと争った時の記憶が呼び起こされた。あの時も、ヴィーザルはロキに追従するような態度をとっていたのだ。
今となっては、あの判断は正しかったのかもしれないという気がしているボルヴェルグではあったが、今度もそう言えるとは限らない。
「ここは決戦の場ではないのだ。我々が全戦力をすり減らしてまでこの場を勝利したとしても、後に待っているのは全滅しかない」
「ブリシンガメンの首飾り……あれを何としても奪還する」
ヴィーザルは即答した。一瞬気圧されたボルヴェルグが口を開くよりも早く、ヴィーザルは話を続ける。
「あれと同じ物を造っている余裕など、我らにはもう無い。あれは歌姫の歌声と合わせることで、全世界へ【虚無】に対抗する力を与えることが出来る……言わば、我らにとっての最後の切り札」
「……そうか、ロキはブリシンガメンの首飾りを利用して、歌声を浸透させようと言うのだな。しかし、この状況下でそれが可能だとでも言うのか。主力を失った末に奪還出来ず、破壊しか出来なかったとなれば我々に得るものは何も無い」
「あれを動かしている者は【虚無】の中でも相当な強者と見た。虚神の気配が途絶えているにも関わらず、一帯の盾竜の進行速度が急激に増しているのは、敵将の介入があったからこそだろう。即ち、その者を討ち取ることが出来れば、敵の進行を食い止めると同時に制御を失ったブリシンガメンの首飾りを手に入れることが出来るかもしれない」
【虚無】の将を討ち取る。それが出来れば統率されている盾竜の指揮系統も乱れ、戦況を覆せるかもしれない。
「無論、歌姫とその礎たる者たちは何があっても守り抜かねばならない。信頼できる者たちを護衛に当たらせている。……ボルヴェルグ殿、私はたった今集めた決死隊を率いて、敵の陣中に突入する。出来れば……貴殿の助力も乞いたい。頼む」
ヴィーザルがそこまで言ったところで、不意に通信が途切れた。それと共に艦に激突してきた盾竜の衝撃が艦内を激しく揺さ振る。部下の機人や動器たちが消火活動と、侵入してきた敵の撃退の為に走り回った。
ただ逃げ回るだけという消極的な戦術を止め反撃に出る……。ヴィーザルの覚悟を目の当たりにして、ボルヴェルグは逡巡していた。
ロロの身柄を拿捕するべく、ゲンドリルは冥機の指示に従い、己の手勢と周辺の盾竜の指揮をとっていた。
母艦の守りは固く、百戦錬磨の知将と言えども、攻めあぐねていた。だが、ここでロロを捕らえることが出来なければ、未だ【虚無】の影響の届かない所へ逃げられてしまう。ゲンドリルは焦っていた。
(ゲンドリルよ、我も我が分身を使って陽動を試みよう。お前はこのまま母艦を追い詰めるのだ)
「了解致しましたぞ、我が神」
冥機の言っていることが神の言葉であると信じて疑わないゲンドリルは、そのまま冥機に従った。
冥機はふわりとブリシンガメンの首飾りから離れると、片腕を突き出した。空間に歪みが生じ、冥機の身体がその歪みを通過する。そのまま冥機の姿は消え去り、見えなくなった。
「うひゃあ、怖い怖い、やめて、こっちこないでえ」
「きゃあ、フギン、そっちからも来たよ」
軌道母艦への侵攻を阻止するべく、艦隊は全力で盾竜に向かって砲戦を続けていたが、それでもそのすべてを殲滅することは敵わず、何体かの盾竜の侵入を許してしまった。
心を持たずとも獰猛さと残虐性だけは底知れない盾竜は、母艦の居住区にまで入り込んできていた。本来戦闘用ではない機人たちも護衛と協力してこれに応戦せざるを得ない状況である。
双子の妖精は次々と接近してくる新手の盾竜から、泣きじゃくりながら逃げ回っていた。周囲の獣や機械にはこの道化たちに構っている余裕などなく、己の身を守るだけで精一杯となっている。
「フギン、ムニン」
二人の悲鳴を聞き取ったミストが、自分の受ける攻撃も顧みずに、飛び出した。
「ミストぉ」
「助けて、助けて」
フギンとムニンがミストの懐に抱き着く。ミストは、二人の背後から迫っていた盾竜から二人を庇い、鋼の装甲でその爪を受けた。金属音が周囲に響き渡り、破損したミストの装甲が宙を舞った。
ミストは無力な妖精たちに凶器を振るう眼前の敵をきっとにらみつけたが、感情の欠落したその眼光と眼が合い、一瞬たじろいだ。盾竜たちはその隙を見逃さず、ミストに喰らいかかってきた。
ミストは慌てて両腕から光弾を放ち、迫り来る盾竜を狙い撃ったが、盾竜の装甲を完全に破壊することは敵わず、右腕に鋼の牙を突きたてられた。
喰らいついている盾竜の口内へ再度光弾を放ち、内部から致命傷を負った盾竜を振りほどくと、ミストは大きく後退した。既に、前方には別の盾竜が続々と迫ってきている。
「ミスト……ごめんなさい、私たちの為に」
ムニンが傷ついたミストを労わりながら呟いた。フギンの方は未だ泣き声をもらしており、まともに言葉を紡ぐことも出来ない様子であった。
「私のことは気にしないで……私が、あなたたちを護るから」
ミストは自分の腕の中でぶるぶると震えている双子を見て、その姿が、機械の同胞たちから逃げていた二人を籠の中に匿っていた頃の姿とダブった。
盾竜が間髪入れずに飛びかかってきた。撃ち落とそうと、ミストが両腕を突き出すのと同時に、横から小さな機獣が飛び出し、全身で盾竜の側面にぶつかった。盾竜はもんどりうって壁にぶつかった。
「ウリボーグ、ありがとう」
ミストはいつも傍にいたウリボーグがとても頼もしく見えたが、盾竜が上体を起こして即座にウリボーグへ襲い掛かろうとするのを見て取ると、急いで両者の間に割って入り、盾竜に向かってありったけの熱量を浴びせた。破損した装甲の内側を焼かれた盾竜はその一撃で絶命した。
「このままではもたない……急いで、この子たちをもっと安全な場所へ避難させないと」
ミストは抱きかかえたフギンとムニン、それに追従するウリボーグも連れて、なおも交戦状態が続く回廊を滑るように浮遊しながら疾走した。
所々で爆音が轟き、侵入してきた盾竜と戦う動器や神機、それに獣たちの姿があった。ミストは仲間に加勢したかったが、この無力な妖精たちと、ウリボーグを護る者が自分しかいないと自覚していたので、可能な限り戦闘を避けた。
さっきの居住区が駄目だとすると、他に安全と言える場所があるのか、甚だ不安であったが、ミストは僅かな希望にすがる思いで回廊を進んでいった。
前方から高速でこちらに急行してくるクイーンに姿が視界に映った。ミストは、クイーンの様子から只ならぬ気迫と不安を感じた。
「ミスト、大変よ」
ミストの眼前で急停止したクイーンの表情には、絶望の色がありありと浮かんでいた。
「ヒルドが……ヒルドが、あの竜に」
「ヒルド姉さんが……」
ミストはクイーンの言葉を終わりまで聞かずに、クイーンの飛んできた道を疾走した。クイーンとウリボーグが慌てて後を追う。
「ヒルドは歌姫の塔を攻める時の戦闘で負った傷がまだ癒えていなかったの。応急処置で新しい装甲を装備していたけど……」
機人の多くはコア以外を造り物の機械の身体で賄う他の機械とは違っていた。また、これは神機たちとて同様であるが、たとえ新しい機械で補ったとしても、それが身体に馴染まなければ十分な力を発揮することはできない。
「居住区の方で爆発があって、あなたがその妖精たちのことが心配だからと飛び出して行ってから……すぐ、盾竜が私たちのところにも攻めてきて……」
前方に、それは見えてきた。変わり果てたヒルドの姿が。
「私たちも応戦した。でも、あの竜たちを抑えきれなくて。……そんな状況下で傷ついたヒルドは、最期は私を庇って……」
ミストは悲鳴をあげ、ヒルドの亡骸にしがみついた。ミストの嗚咽が回廊に響いた。
その様子を後ろから見ていたフギンとムニンは思わず互いの顔を見合わせた。双子は全く同じことを考えていた。ミストは私たちを助けようと二人の姉をその場に残して駆けつけて来てくれた。もし、私たちがこの船にいなかったら……ミストがその場を離れることがなければ、三人で盾竜に応戦していれば、ヒルドは無事だったかもしれない。
その場に居合わせた全員が、新手の盾竜の気配を前後から感じ取った。ミストたちは、悲しんでいる時間すらないという事実を突きつけられた。
万全の状態とは言えなかったが、セイ・ドリガンは意を決して戦火の渦中へ出撃した。
セイ・ドリガンは前方を飛行していたヴィーザルの指揮する精鋭部隊を抜き、先陣に躍り出た。
無謀ではない、この役割は俺たちにこそ相応しい――セイ・ドリガンは、己と己の中で生きている同志たちに心の中でそう言い聞かせる。
今や後方にいるヴィーザルたちもセイ・ドリガンが率先して前に出ることを咎めはしなかった。むしろ、ヴィ―ザルたちはこの獣機合神の雄姿がとても頼もしく思えた。
盾竜たちの猛攻は激しかったが、それを迎え撃つセイ・ドリガンの力もまた凄まじかった。
先端が回転するドリルとなっている大槍で、襲ってきた盾竜を正面から穿つ。バラバラに粉砕された盾竜が地上へと落下していった。
盾竜の密集している空域に突入したことで、更なる激戦が繰り広げられる。一直線にブリシンガメンの首飾りを目指していたセイ・ドリガンであったが、全方位から攻めてくる盾竜との戦闘で、思うように攻め込めなくなっていた。
大槍を振り回しながら盾竜を薙ぎ払い、悪戦苦闘しているセイ・ドリガンに、ようやく追いついたヴィーザルの部隊が加勢する。それでも、圧倒的な物量で攻めてくる盾竜を追い払うことは敵わず、戦況は不利であった。
盾竜の特攻を受け、ヴィーザルの部下の何名かが胴体と浮力を失い、地上へ落ちていった。艦隊から飛び出してきた機械たちの数は徐々に減っているのに対して、陣中に踏み込んだ外敵を打ち倒すべく集まってきた盾竜の方はその数を増していた。
(ぐう……このままでは全滅も時間の問題か)
ヴィーザルは己の心中を巣食おうとする絶望に抗うかのように、己の蹴激皇という異名に恥じぬ戦いを成そうと、自分の得意とする蹴り技を放った。
ヴィーザルの脚部に凍てついた冷気が宿り、襲い来る盾竜の軍勢を次々と薙ぎ払っていく。この蹴りを受けた盾竜は剥がれた装甲から凍結していき、浮力を失って落下した。
それでも、全方位から攻めてくる盾竜を一蹴することは蹴激皇であっても敵わず、その頑丈な騎士の装甲でさえも盾竜に傷つけられていき、一瞬でも気を抜けば致命傷を負いかねない状況であった。
機械の艦隊の方面より、無数の飛行物体が接近してきた。ヴィーザルはそこから発信されている信号を受け取る。
「ボルヴェルグ殿……来てくれたか。かたじけない」
援軍の存在に勇気づけられたヴィーザルは、力を込めて眼前の盾竜を蹴りつけ、粉砕した。
最前線で戦うセイ・ドリガンやヴィーザルの部隊に加勢したのは、黒槍機ボルヴェルグ、それにロキの指令に従う動器や神機の軍団。さらには、急造したと思しき、ロキが自ら遠隔操作する飛行戦用の魔神機ビッグ・ロキの姿もあった。
更なる遠方では、盾竜を振り切った何隻かの船が後方から援護射撃を放っていた。
既に艦隊の覚悟は決まった。ブリシンガメンの首飾りを奪還し、この戦局を覆すべく、皆が一丸となって行動に移したのである。
(むう……奴らめ、反撃に転じてきおったわ)
ゲンドリルは顔をしかめた。まだこちらの方が戦力では優勢と言えるが、艦隊から出撃してきた軍勢は先ほどよりも深いところまで入り込んできている。予断は許されない。
ゲンドリルの真横の空間がうねり、歪んだ。何事かとゲンドリルがそちらを見やると、空間を破って一人の白い騎士の姿が現れた。まぎれもなく、それはデュラクダールであった。
「ゲンドリル殿、何故あなたはこのような所まで出張っているのだ。神はゲンドリル殿が勝手に前線へ出ていることにお怒りであられるぞ」
デュラクダールの言葉はゲンドリルにとって意外なものであった。すぐさまゲンドリルは答える。
「何を言うか、儂は神の御意思に従い、この場にいるのじゃ」
デュラクダールの方もゲンドリルの言葉が予想していたものと違っていたので、困惑した。
「デュラクダール、貴様、儂が出した命令に逆らったな。お前にはロロのあとを追うように言っておいた筈だ」
デュラクダールは一瞬、動揺を隠せなかった。もしかしたら、自分が鎧蛇の島で放浪者ロロに会ったこと、ロロに伝えたことを感づかれてしまったのでは……。
ゲンドリルはデュラクダールの変化を見逃さなかった。
「いや、それは違う。私はロロの行方を追ったが、結局消息は掴めず……」
「黙れい。この裏切り者めが」
ゲンドリルの杖が一閃し、雷撃が放たれる。デュラクダールは咄嗟に腕に装着しているガントレットで防いだが、空間をうねりながら迸る雷撃はデュラクダールの装甲の所々を砕いた。
(ゲンドリル殿の眼……正気ではない)
デュラクダールは、今のゲンドリルには何を言っても無駄であると悟ると、急いでその場から退いた。
背中からゲンドリルが追撃を放ってくるかと警戒したが、その気配は無かった。どうやら前方の戦況に執心しており、自分に構っている余裕などはないらしい。
デュラクダールは戦線から離れながら、周囲の盾竜たちを見やった。自我を持たない盾竜は、機神獣の指示が届かないこの場では、ただゲンドリルの命令に従うのみの傀儡であった。
「脆いものだな。心を持たない軍勢など」
デュラクダールが呟いた。
戦闘の最中、冥機グングニルは空間を跳躍しながら、着実に軌道母艦との距離を詰めていった。
ゲンドリルには陽動と言ったが、冥機の思惑は全く別の所にあった。
(放浪者ロロ。未来の【星創る者】。我らの敵。世界を滅ぼす際に最大の障害となる者。今すぐ消さねばなるまい、我らの為に)
冥機が周囲に思念を放つ。【虚無】を求めるもの。己を含めた世界の滅亡を望む魂。その残留思念。それらをかき集める。
冥機の傍に複数の盾竜が集まってきた。その眼光には歪な紫色の輝きが宿っていた。
(お前たちも滅びを望むだろう。傀儡となって、利用されるしかないお前たちならわかる筈だ。この世界の真実が、真なる【虚無】が)
冥機のもとに集った盾竜たちは、ゲンドリルの命令とは異なるものに突き動かされていた。
(では、共に参ろうか。世界を確実に消し去る為に)
冥機は軌道母艦の死角を瞬時に割り出すと、そこへ直進した。冥機に操られた盾竜たちもそれに続く。
その時、冥機は軌道母艦に向かって接近してくる新手の一団の存在を認識した。
(あれは道化のドヴェルグ……それにフェンリルの半身か)
一隻の高速艇と、高速艇を護衛する、全身に針を備えた装甲を持つ青色の空魚たち。
(時間が無いな。この好機を逃すわけにはいかぬ)
冥機は先を急いだ。この世界を再生する可能性を秘めている【星創る者】を抹消する為に。
関連カード
●サウザンニードル
獣使いドヴェルグの護衛を務めている空魚。
名前の通り、フグ目の魚であるハリセンボンがモチーフ。
フレーバーテキストは白の章第11節。
この一文により、ロロは過去へ行っていたこと、ドヴェルグとは行動を別にしていたことなどがわかる。
キグナ・スワンの白の章第10節では空中戦が行われているので、空魚であるこのスピリットもそれから間もない時期に登場したのかもしれない。
ドラマCD『異界見聞録 完結編』の設定では白の世界には過去に戻る術が存在し、
赤の世界の力を借りる為にその力を使ったという話題が出てくる。
その際、聖皇ジークフリーデンの誕生も関わっているという設定であった。
ただ、具体的に赤の世界からどのような力を得たのかは明らかにされていない。
また、双子妖精フギン&ムニンのフレーバーテキストは白の章第7節であり、侵略者との戦いの最中にその術が使われたことになり、第八節から第十節の間はドヴェルグと別れていたという話になるのかもしれない。
終焉の騎神ラグナ・ロックや大甲帝デスタウロスの存在に関しては触れていない。
自分の小説では、ロロは氷の淑女スノトラの助言に従い、飛鋼獣ゲイル・フォッカーら星創る者の三従者の介入によって過去へ戻ったという設定。
ゲイル・フォッカーのフレーバーテキストには「時空を超え現れ出で、導きし降臨」という記述があり、それが白の章第11節と関わってくるという解釈。
ただし、過去を旅した時の記憶の大半は失われており、ロロが担った主な役目は白の世界に時代を越えて警鐘を鳴らすこと。
また、設定について補足しておくと、
ロロは異界の門をくぐるたびに未来の【星創る者】の介入によって過去へ遡っており、その為に、連絡を取り合っていた虚無の軍勢は、複数の世界で放浪者の姿を同時に目撃している。
ロロがくぐる時だけ門が違う役割を果たすという設定は、「巨人機ユミール」のフレーバーテキストも考慮。
●巨獣守りし神域
名所千選616。
伝説の聖地。
ここへ歌姫を送り届けようとしたが、挫折した。
ロロは「非常に無念」と言っている。
巨獣皇スミドロードのフレーバーテキストによると、無限なる軌道母艦は墜落しているので、それが挫折に直結しているのかもしれない。