消えゆく白の群像   作:来星馬玲

46 / 46
第四十六章 追跡

 三姉妹の項

 

 

 すべてを見渡す七色の複眼。

 侵略者とともに追う虚竜の巣。

 

 

 虚無の軍勢の手に落ちていたブリシンガメンの首飾りの奪還は成功し、ロキの指示のもと、機人たちがこの浮遊兵器の改造にいそしんでいた。

 

 試運転により、ソールの歌声を世界に響かせるという役割を果たせるということがはっきりした。ブリシンガメンの首飾りだけでは十分な成果は得られなかったであろうが、各地に建設された音叉の塔が効力を何倍にも高めてくれたのである。

 

 ブリシンガメンの首飾りの中枢区では、歌唱するソールの姿があり、その左右には、ソールに付き添う形で尽力しているウル・ディーネとベル・ダンディアも並んでいた。

 

 他方では、機人たちと共に作業に従事するウルの姿。ウルの心には、ベル・ダンディア、それに冥機を取り込むために犠牲となったフレイアの姿が焼き付いて離れなかった。

 

 ウルは、後方よりソールたちを見守る一人の氷の姫君の姿に気がついた。マーニ……ソールを献身的に支え続けている彼女を、ウルもよく見知っていた。

 

 ウルの心の中で、クウのものだった意識が強まっていった。クウ――歌姫の塔で、姫君たちのために働き続けていた道化。クウにとって、マーニという女性は同志でもあったのだ。

 

 空間を一筋の光が横切った。幾重にも重なった質量を持った空気の層を、滑らかに切り裂くナイフの如き存在。それは、ウルのすぐ目の前で静止した。

 

 七色の輝きを放つ光虫。ディースが最期の力を振り絞った歌声を発した際に生まれた、トンビュールだった。

 

(ウル。私はこれより、機械たちとともに白き虚龍の行方を追います)

 

 トンビュールの言葉を聞き、顔を曇らせるウル。白き虚龍……ル・シエル様。

 

(……あなたの迷い、私には見えています。ですが、あの龍を野放しにしておくのは危険すぎるのです。だから、私の能力を使い、龍が形成している巣を捉え、破壊します)

 

「……はい」

 

 ウルの心に重くのしかかってくるのは、クウの命の恩人である空帝ル・シエルのことだけでは無かった。クウの姉、ハク……即ち、虚竜を操る白き竜騎の存在だ。

 

(ウル。間もなく、完成した天弓マクラーンがあなたに送られます。新たな光雨を得られなかった代わりに、星のスピリットたちからわけてもらった魂の込められた、私たちの切り札。これは、虚神に対する決定打ともなり得る武器です。もう、一度しか放つことはできないでしょうが……)

 

 天弓マクラーンは、ロキが最終調整を行っていた。本来、光雨によって真の力を発揮する武器を、星の魂で代用するとなると、一筋縄ではいかないらしい。

 

(虚無の軍勢が怪しい動きを見せております。ブリシンガメンの首飾りも標的となるでしょう。……もしもの時は、ウル、あなたがソール様たちを……ベル・ダンディアやマーニも、あなたが護るのです)

 

 すーっと舞い上がる、トンビュール。去り行く光虫を見送るウルの視線の先に、一頭の獣の姿が映り、ウルは「おや」と思った。

 

 硬質化した皮膚に覆われた、獅子の如きたてがみを備えた狼の姿。狼は、ソールを見守るマーニの傍へとゆっくりとした足取りで近づいていった。

 

 

 

「マーニ様。お時間、宜しいでしょうか」

 

 背後から響いた声。氷の姫君とは異なる発声器官であり、マーニは相手が獣であることに即座に気がついていた。

 

 訝し気に振り返るマーニ。一頭の狼が、自分に向かって深々と頭を下げる様子が目に入った。

 

「あなたは……」

 

「スコール、と申します」

 

 マーニは、スコールの名に聞き覚えがあった。援軍として駆け付けた空魚の群れを率いていたドヴェルグやスノパルドたちと共にこの船に乗り込んでいた、鎧装獣の生き残りである。

 

「……良いですよ。どういった要件かしら」

 

「実は、先の戦闘で一時はぐれていたというスクルディア様……それに、私の弟、ハティの件なのですが」

 

 スクルディアとハティは、盾竜に襲われた際、どういうわけか地上に転送されていた。後で知った話では、それは樹氷の女神エイルの唱えたドリームリボンの呪文の影響であり、エイルが連れてきたゲリという名の鎧装獣の魂とハティを会わせることが目的であったのだという。

 

 スクルディア、エイル、ハティ、更に行動を共にしていた誓約の女神ヴァ―ルの四名は、六花の司書長サーガの協力により、既に船内に転送されていた。

 

「わたしとハティは機械によってもたらされた兵器……翼神機グラン・ウォーデンと一体化し、【虚無】と戦う覚悟を決めました。……ですが、スクルディア様はこれに強く反対しておりまして。結果、心身の乱れたスクルディア様ではソール様の礎になる役目も果たせず、此度、ソール様の負担も増してしまいました……」

 

 スコールの言う通り、叡智秘めし三姉妹は、三人揃ってこそ歌姫ソールの歌声を増幅するという役割を十全に果たすことできる。ソールの身を第一に考えているマーニは、スクルディアの姿がないことに疑念を抱いていたのだ。

 

 今、疑念は氷解した。確かに、スクルディアはお供のハティに強く依存していた――マーニは、自分が見聞きし、実際に目にした光景を思い浮かべた。

 

「我々の不注意でした。申し訳ありません」

 

「いいえ。あなた方は勇気ある決断をしたのです。それを何故、咎めることができましょうか」

 

「……あの、どうか、スクルディア様をお責めにならないでください」

 

 スコールの懇願。マーニは小さくため息をつく。

 

「わかっています……スクルディアは、まだ子供ですからね」

 

 そういうマーニであったが、内心では、スクルディアに対して羨望に似た想いを抱いていた、

 

 何故あのような生まれて間もない少女がこの様な大役を担わねばならないのだろう。ソールの力になるのは、自分が誰よりも望んでいるというのに……その役目、代われるものなら、自分が代わりたい。

 

(ベル・ダンディアも、鎧蛇の島の一件で相当悩んでいた。でも……)

 

 ベル・ダンディアはフレイアの覚悟を目の当たりにし、自分なりの決意を見出したのだという。迷いを捨てたベル・ダンディアは、ソールの礎として、姉のウル・ディーネと共にその役割を全うしているのだ。

 

「それから……ソール様の歌声により、各地で戦っていた同胞たちが救われたという報を聞いております。仲間たちに代わって、深く感謝を申し上げます」

 

 スコールは、マーニの前で跪いた。本来、スコールが感謝の意を伝えたいのはソールたちであろうが、未だ歌声を響かせているソールに直接対面するのは憚られたのだろう。

 

「面を上げなさい、スコール」

 

 マーニは目の前の獣に対して、優しく声をかけた。

 

「感謝をしているのは、むしろ私たちの方です。あなたたちが勇敢に戦い続けているからこそ、今の私たちがあるのですから……」

 

 常に、より命の危険にさらされてきたのは、前線で戦う戦士たちだ。マーニはそのことを心に深く刻み込んでいた。

 

「そして……かつての侵略者のもたらした機械と同化する、あなたやハティの決意。それは並大抵のものではない筈」

 

 翼神機グラン・ウォーデンの制御には、冥機グングニルと一体化したフレイアの力も関わっているのだという。それに、スコールとハティの魂も加わるのだとすれば……翼神機は、氷の姫君と獣、更には機械の力を結集した存在となる。

 

 マーニは思った――幼いスクルディアでも、やがて気づくだろう。最早、後には引けない、全戦力を尽くして戦わねばならないという、この戦いの実態を。

 

 

 

 トンビュールに導かれた機械の軍勢。部隊の切り込み隊長を買って出たのは獣機合神セイ・ドリガンであった。

 

 セイ・ドリガンは先の戦いでも敵の将を討ち取るという快挙を成し遂げていた。それ故に、機械の間でも強く支持する者は多かったが、度重なる連戦により、その負担が大きくなるのではと危惧する者もいる。

 

(セイ……本当に良いのですか。あなたには、ブリシンガメンの首飾りの護衛に回った方が良いものと思いますが)

 

 トンビュールもまた、セイが白の虚龍と戦うのを心配していた。

 

「ディース……いや、トンビュール、だったか。俺は、一度、あの龍をあと一歩のところでとり逃した。今度こそ、決着を付けなければならないのだ」

 

 ゲンドリルとの因縁にけりをつけたセイ・ドリガンであったが、次は虚龍を倒すことに執念を燃やしていた。

 

「俺なら、奴を倒せる筈だ。先の戦いで、それがよくわかった。だからさ、犠牲を最小限に抑え、今後の戦いに備えるためにも……これが、最善案なんだ」

 

(セイ……)

 

 セイは、焦り過ぎているのではないだろうか。トンビュールはそう思ったが、事実、現在の戦力で白の虚龍と対等に戦える者は、セイ・ドリガンを除いて他にはいない。

 

 あるいは、トールが居てくれたら――しかし、トールは自らの意思で生き残った獣たちの救援に赴いており、今から呼び寄せたところで、間に合う筈もないのだ。

 

 次元跳躍の能力を持つ冥機グングニルは、翼神機グラン・ウォーデンの制御に尽力している。遠方の空域には、今もなお盾竜たちの気配が残っており、隙を見せれば即座に攻め込まれるだろう。冥機を持ち場から離す選択も叶わなかった。

 

 一行は、今もなお忌まわしき虚空が広がり続けている空域を飛び、先を急いでいた。

 

 空路を僅かにそれれば、【虚無】の影響で変質していく空間に惑わされ、何処とも知れない所へ飛ばされるかもしれない。先導役を担うトンビュールの千里眼だけが頼りであった。

 

 

 

 歌い終えたソールには、深い疲労の色がありありと浮かんでいた。マーニはソールに駆け寄ると、よろよろと倒れそうになるその身体を支えた。マーニに続いて、スコールも静かに歩み寄って来る。

 

「ソール様……ウル・ディーネ様、ベル・ダンディア様。私の同胞たちを助けて頂き、有難うございます」

 

 遠方では、トールが【虚無】の神と遭遇したらしい。ソールの歌声がなければ、トールは無論、トールによって救われた獣たちの命も助からなかっただろう。

 

「スコール……あなたも、決心したのですね」

 

 ウル・ディーネは、その逞しい鎧装獣を真っ直ぐに見つめていた。

 

「以前、私が鎧装獣たちと共にいた時も……あなたには護られてきました。……そのうえ、あなたに斯様な決断をさせてしまった私たちを……許してください」

 

「いえ、より多くの御恩を頂戴しているのは我々の方。……私はあなた様に報いる為にも、機械と一つになる道を選んだのです」

 

 両者のやり取りを見つめるベル・ダンディア。

 

(……迷いを捨てきれたと言えば嘘になるけど、私は、この生かされた命を使って、生かしてくれた者たちの為に尽力する)

 

 それが、ベル・ダンディアの決心であった。

 

 ベル・ダンディアは、自分に向けられたある視線に気づく。その先にあるのは、【勇者】ウルの姿――。

 

(ウル……)

 

 ウルだけではない――ベル・ダンディアは、今もこの船のどこかにいるスミドロードの想いをも感じ取っていた。それに、ジューゴンやオッドセイ……失われていった多くの命。そして……。

 

(ヴァルキュリウス……あなたの愛したこの空。私も、護る力になりたいから……)

 

 まだ戦いの先行きは読めない。でも勝たねばならない。

 

 ベル・ダンディアは、遠方の空域を見据えた。今もなお、広がり続けている【虚無】。底知れぬ恐怖に対して、正面から向き合いながらも、今のベル・ダンディアの決意は揺るがなかった。

 

(フレイア様……見ていてください)

 

 次にかの者らが攻めてくる時――もう間近にまで迫って来ていた。

 

 

 

 トンビュールの追っていた虚竜の巣。それは、硬質化した雲を集めて作った白銀の要塞とでも呼べる代物であった。雲は異常な強度を持っており、生半可な攻撃ではびくともしないだろう。だが、セイ・ドリガンにとっては、脅威にはなり得なかった。

 

 セイ・ドリガンが大槍を回転させると、瞬く間に固まっていた雲の壁が崩されていった。空気中に形成された大渦は尚も留まるところを知らず、周囲の雲を巻き込んでいく。

 

 あぶり出される形で、白き龍の体躯が白日の下にさらされた。

 

「いたぞ。総員、戦闘態勢」

 

 セイ・ドリガンと行動を共にしていたボルヴェルグが号令を発する。今となっては、ボルヴェルグとセイ・ドリガン、更にはこの場で肩を並べているソードランダーの三人は、共に戦う同志として、硬い絆で結ばれていた。

 

 部下の動器たちが一斉に砲を構える。狙いはただ一つ、白き龍帝。

 

「撃て」

 

 放たれた無数の火線。だが、それらは合間に出現した虚空に呑み込まれ、掻き消えた。

 

「ち。あの騎士か」

 

 ボルヴェルグは、龍の背に乗ったまま大剣を振るっている竜騎を睨みつけた。その竜騎――プラチナムが更に大剣を一閃させると、次元を切り裂く刃が次々と機械たちの方へと降り注いだ。

 

 引き裂かれた空間に囲まれ、身動きできなくなる機械たち。

 

「プラチナム、手ぬるいぞ」

 

 プラチナムの傍らにいるアルブスがそう言うと、手にした銃を操り、空間に固定されている動器たちを次々に撃ち抜いた。コアを失った動器たちの残骸は、浮力を失って地上へと落下していく。

 

「く、怯むな」

 

 進軍ままならない部下たちにげきを飛ばすボルヴェルグ。そこに、セイ・ドリガンが割って入る。

 

「止せ。これ以上犠牲を増やしてはならない。ここは、私が」

 

「ぐ……セイ・ドリガン殿、すまない」

 

 セイ・ドリガンは大槍を振るい、アルブスの放っている熱線を弾いた。そのままの勢いで、一気に突進する。

 

「我も続こう。セイ・ドリガン」

 

 セイ・ドリガンの切り開いた活路を進む、もう一つの姿。竜機合神ソードランダーであった。

 

「ああ、頼む」

 

 セイ・ドリガンは一直線に虚龍に向かって突進していった。その後ろからソードランダーがのこぎり状の大剣を振るい、セイ・ドリガンを押し包もうとする鋼の雲を薙ぎ払う。

 

「まったく、大したコンビネーションだな。おい、プラチナム」

 

 アルブスの指示を待たずに、プラチナムは既に行動を起こしていた。

 

 幾重にも層を形成した虚空がセイ・ドリガンの進路を阻む。セイ・ドリガンは怯むことなく、これを打ち払ったが、アルブスの銃撃が加わわったことで、攻めあぐねていた。

 

「加勢するぞ、セイ・ドリガン殿、ソードランダー殿」

 

 ボルヴェルグの黒槍が強大な旋風を巻き起こす。それは質量を伴った風となり、アルブスの放つ熱線を防いだ。

 

「はあ」

 

 セイ・ドリガンが叫び、一気に虚龍との距離を詰めると、回転する大槍を振り下ろす。間一髪のところでこれを避けた虚龍であったが、衝撃で右翼に大きな亀裂が奔った。

 

「ふん。やはり正面から戦っても勝ち目はないな。……だが、それ故に、まんまと計略に引っかかってくれて助かったぜ」

 

 不敵に笑う、アルブス。

 

「何だと。俺たちが貴様の策に落ちたとでもいうのか。莫迦な、追い詰められているのは貴様らの方だ」

 

「ふん、愚かな。おびき出されたんだよ、お前たちは」

 

 機械の群の中に紛れていたトンビュールが、アルブスの言葉を聞き取り、動揺する。

 

(まさか……いや、私の眼を以てして見抜けない筈が……)

 

「プラチナム」

 

「…………」

 

 プラチナムが剣を振り上げると、空間が縦に避けた。たちどころに、次元の歪みが広がり出す。

 

「トールの部隊は獣どもの救援に周り、ブリシンガメンの首飾りにおける主力のお前たちは、俺たちの目論見通りにここへやって来た。今、歌姫の護りは手薄の筈だ……」

 

 ボルヴェルグが慌てずに切り返す。

 

「ふん、次元跳躍か。迂闊だったな、その手は喰わないぞ。ブリシンガメンの首飾りには空間を再構築する力がある。流石に、まだ遠方の浸食を止めるのは敵わないが……歌声が加わった今、歌姫の船の周辺の空域に、虚空を出現させることは不可能だ」

 

「迂闊なのはお前たちの方だ。これが、その虚空に見えるのかな」

 

 空間を破って現れたのは、かつて空母鯨モビルフロウたちが空で目にしたものと同じ――異界の門だった。

 

「な……」

 

 ボルヴェルグは絶句した。

 

「門は、この世界本来の機構だ。空間の修復によって、これを止めることはできない」

 

「だ、だが……船の傍に、門がある筈は」

 

「ゲンドリルの置き土産だよ、奴が門をブリシンガメンの近隣に移動させておいた。知将と呼ばれた奴だ、ただ何も策を講じずにやられたとでも、思っていたのか」

 

「御託はいい。その門を破壊してしまえば、問題ない」

 

 大槍を振るい、逃げようとする虚龍の先手を打って門を貫こうとする、セイ・ドリガン。そこに、一筋の白い閃光が直進し、大槍を弾いた。

 

「何、貴様……」

 

「久しぶりだな、セイ」

 

 新たに現れたのは、黒き装甲を光らせている機人。神将の一人、デュラクダールだった。

 

「お前らの相手はそのデュラクダールがやってくれる。……そして俺たちは、歌姫の首を頂くとしようか」

 

「ぐう、逃がすか」

 

 虚龍に追いすがろうとするセイ・ドリガンと、それに続くソードランダー。しかし、デュラクダールが振り上げた爪を合図に、それまでどこに隠れていたのか、盾竜の群れがどっと押し寄せ、行く手を塞いだ。

 

 開かれた門の中に入っていく空帝ル・シエル。哄笑するアルブス。その傍らにいるプラチナムは、機械たちと戦う神の騎士、デュラクダールを見ていた。

 

 プラチナムの視線に気づいたデュラクダールは、彼女に視線を返す。

 

(プラチナムよ……君には、君の信じる道を進んで欲しい。私には、できなかったから)

 

 デュラクダールの悲壮な想いを、プラチナムは感じ取っていた。

 

 ボルヴェルグがル・シエルの胴体を目掛けて、黒槍を投げつけた。舞い上がったデュラクダールが爪状の武器を振るい、これを叩き落とす。妨害を振り払う勢いでル・シエルは門の中へと消えていき、それと同時に門は閉じられ、跡形もなく消え去った。

 

(おびき出された……私の能力を熟知したうえで……)

 

 トンビュールは驚きを隠せない。竜騎たちは、自らの居場所を探られているのを承知の上で、機械の軍勢がこの場に集まるように仕向けていたのだ。

 

「ち。門だと……ブリシンガメンの首飾りに続き、また侵略者の兵器が」

 

「よせ、セイ・ドリガン」

 

 セイの侵略者への怒りが再燃することを恐れたソードランダーが、セイ・ドリガンを諫めた。

 

「いや……門は、我々が造ったわけではない」

 

 ボルヴェルグが力のこもっていない声で呟いた。

 

「なに……ならば、あれは何だというのだ」

 

 セイ・ドリガンの問いに応えようとするボルヴェルグを遮り、デュラクダールが口を挟む。

 

「教えてやろう。門は世界創世の際に造られたのだ、大いなる意思によってな」

 

 デュラクダールはそう言いながら、構わずに敵へ襲い掛かろうとしていた盾竜たちを片手で制した。

 

「この世界を侵略しにきた機械たちは、最初から存在する、世界そのものの機構を利用して侵入していただけに過ぎぬ。……厳密には、この世界も侵略者の故郷も同じ世界、門は一つの世界を異なる性質ごとに細分化する為に造られた」

 

 セイ・ドリガンにソードランダー、ボルヴェルグは各々の武器を構えたまま、デュラクダールの話を聞いていた。部下の動器たちは、攻めて良いものかどうか逡巡している。

 

「我々は幾つもの次元を隔てた先、正真正銘の別世界からやって来たのだ。世界の機構を知り尽くした我々の技術を以てすれば、この世界の門を操作することもまた、造作もない」

 

「何者だ……貴様らは」

 

 セイ・ドリガンが怒気を露わにして詰め寄る。

 

「同じだよ。お前たちと。ただ、住む世界が違っただけ……」

 

 デュラクダールは再び、爪状の武器を構える。

 

「さて。そろそろ始めようか、セイ。お前があの時からどれだけ成長しているのか、楽しみだよ」

 

「……ぬかせ」

 

 大槍を構え直すセイ・ドリガンであったが、その意識の片隅では、あることを思い出していた。

 

 【虚無】の騎士を率いていたデュラクダールとの戦い。あの時、撤退していくデュラクダールに対して、無謀にも単身で追い打ちを仕掛けようとしたセイを、デュラクダールは殺そうと思えば殺せた筈だった。

 

 突進するセイを軽く打ち払ったデュラクダール。その時、デュラクダールはセイに向かってこう言った――「己の命を粗末にするな」、と。

 

 セイ・ドリガンは、己の中に生じた微かな迷いを振り払った。

 

 今、セイ・ドリガンの熱量はデュラクダールを大きく上回っている。それでも、このデュラクダールもまた油断ならない強敵であるに違いなかった。

 

 新たに始まる、戦い。それを見守るトンビュールは、この戦闘の行く末と、ソールたちの無事を強く願っていた。、




関連カード


●トンビュール
白の光虫。
「七色の複眼」により、かつての侵略者と協力して「虚竜の巣」を追った。


冒頭の一文は、このカードのフレーバーテキスト。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。