消えゆく白の群像   作:来星馬玲

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第九章 破壊の翼舞う

 空の項

 

 

 喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。

 より強き侵略者の出現に、

 全ての命は沈黙する。

 

 

 銀色の巨鳥が鯨の方に突っ込んできた。鯨とその仲間達は、突然の侵略者の襲撃かと思い、巨鳥に対して身構える。巨鳥は一端宙返りをすると、鯨のすぐ側の上空で停止した。

 

 その様子を見ていた小さな白鳥が巨鳥の目前に踊り出た。白鳥は、そのほぼ全身が銀色の機械の装甲と化している巨鳥との意思疎通を試みる。

 

 巨鳥もその白鳥や鯨の仲間達に向かって、自分が敵ではないことを仕草で伝えた後、白鳥に対して己の言葉を伝えた。

 

 巨鳥が伝えた内容は驚くべきことだった。巨大な鋼の翼を持つ侵略者がこちらに向かっている。その侵略者ただ一体のみの力で、巨鳥の仲間は全滅したというのだ。

 

 その事実に、空を舞う魚や鳥達は恐怖した。

 

 この大空では、地上ほど強力な侵略者が出現したという情報はまだない。それ故に、皆はこの大空が地上のどこよりも安全な場所だと思っていたのだ。それが、わずか一体で、空の一集落を壊滅させるほどの強大な侵略者が出現することになるとは。

 

 巨鳥の助言で、鯨は進路を変更し、周囲の仲間達もそれに従った。それでも、向かい来る侵略者の恐怖は拭い切れない。

 

 

 

 風を切り、突き進んでくる巨大な敵影。海や地上だけでは飽き足らず、大空にまで破壊をもたらす鋼の翼。天空にそそり立つ白銀の装甲で覆われた巨人。侵略者は突然鯨の視界の脇の方より出現した。

 

 鯨が身構えるよりも早く、その侵略者は無数の青白い閃光を発射した。

 

 巨鳥が鯨の前に飛び出し、機械化したことで得た力を駆使し、結界を造り出す。閃光の多くはその結界に呑み込まれ、消滅していったが、何割かは防ぎきれず、周囲に閃光が飛ぶ。その閃光に当たった仲間達が為すすべもなく墜落していった。

 

 侵略者は鯨の目前まで迫り、間髪を容れずにその翼を振り上げた。避けきれない。

 

 その瞬間、一体の光輝くトビウオが飛び出し、侵略者に激突した。トビウオは光の粒子となって周囲に四散した。侵略者が怯んだ隙に、鯨はその側を一気に離れ、難を逃れる。

 

 白鳥はそれまで一緒に飛んでいたトビウオがあっけなく散っていく光景を目の当たりにした。それでも、侵略者は無傷である。白鳥は突然の友との別れを悲しんだ。

 

 侵略者はすぐにまた、鯨の後を追う。あっという間に侵略者は鯨の真上に来ると、その両翼を振り上げた。すると、それまで鯨の背の上で身構えていたエビが鋏を振り上げ、侵略者に飛びかかった。

 

 エビの鋏の一撃が侵略者の装甲に傷を付ける。だが、それだけだった。エビは侵略者の鋼の拳によって打ち払われ、赤い装甲を砕かれながら、鯨の傍らを落下していく。

 

 侵略者が態勢を立て直し、両翼を広げる。

 

 万事休すか。鯨と鯨の仲間達の誰もがそう思った。

 

 突然、地上より巨大な影が咆哮を上げながら舞い上がってきた。侵略者が動きを止め、そちらを見定める。その姿はこの世界に古くから存在すると言われている竜であった。竜の背には、先ほど傷ついたエビが乗せられている。竜が鯨の横に並び、エビは鯨の背に戻った。

 

 侵略者と竜が対峙する。先に攻撃を開始したのは侵略者の方だった。無数の青白い閃光を竜に向かって放つ。だが、それらは全て、竜の造り出した虹の輝きに阻まれ、消滅していった。

 

 侵略者が拳を振り上げる。構わずに侵略者の懐に飛び込む竜。衝突。侵略者は竜に押され、よろめいた。すかさず竜が鋼の尾で侵略者を打つ。竜の猛攻が侵略者の白銀の装甲を叩き割った。

 

 この竜の登場に鯨とその仲間達は戦意を取り戻した。真っ先に、行動に移したのは空を飛ぶエイ達。エイ達はその鋼のヒレで以て、竜と格闘している侵略者の装甲を次々と斬りつけた。

 

 鯨の仲間の魚達が加勢し、巨大な侵略者に群がっていく。侵略者は堪らず、翼をがむしゃらに暴れさせ、魚達を追い払う。竜はこの隙を見逃さなかった。

 

 竜は全身から虹色の輝きを放ちながら侵略者に喰らいついた。その激しい攻防に前にして、まだ群がっていた魚達も侵略者から離れる。竜は全身から凄まじい熱量を放ち、侵略者の装甲を溶かしていく。さらに、その鋼の爪で侵略者の両翼を切り裂いた。

 

 侵略者は飛行能力を失い、竜の手から離れ、地上へと墜落していった。

 

 それを見届けると、竜は鯨の方へと向き直り、会釈をする。それから、竜に感謝する者達を後に残して、彼方へと去っていった。

 

 先ほどの会釈で鯨は、竜が力無き者達を守り、侵略者と戦うという、自分と同じ志を持つ者であるということを知った。侵略者と戦う同胞の中には、あの様な力強い者がいると思うと勇気付けられた。

 

 だが、白鳥の心は重く沈んだままであった。これまで自分の一番の友であったトビウオが散っていった。あのトビウオもきっと夢見ていたのであろう。自分と同じ、異変によって失われる前の自分が生きた世界を。

 

 あのトビウオが見ることのできなかった世界。それを自分が代わりに見届けよう。そして、仲間達にあのトビウオの事を語り継ごう。共に戦いぬいた同士達のことを永遠に忘れることのない様に。

 

 白鳥の悲痛な決意は、自然に周りの仲間達にも伝わった。そして誰しもが思ったのである。これまでの戦い、先ほどの戦い、それに異変が始まった直後に為すすべもなく散っていった多くの友たちのことを。

 

 皆、それぞれにはそれぞれの強く想う仲間がいる。その仲間を忘れることのない様に後の世の者達に語り継ぐ。そのためにも、この異変を生き延びねばならない。

 

 虹の竜によって救われた鯨とその仲間達は固い意志を胸に秘め、銀色の巨鳥を新たな仲間として一行に加え、旅路を再開した。

 

 

 

 

「やはり未完成であったか」

 

 破壊された翼神機の残骸を前にして、フィアラルが言った。

 

「心のない神機を利用すること、私は最初から反対であったがな」

 

 ガラールが吐き捨てた。その機械の瞳には、激しい憤りの色が込められていた。

 

「それは私も同感だ。例え、相手が我らの仇となり得る存在であったとしても、同じコアを持つ生命を神機の実験台にするなど、許されることではない」

 

「その通りだ。我らの目的は殲滅ではない。この世界の統一だ。この様な物に頼っていては先が思いやられる」

 

「ああ。だが、仲間同士でいがみ合っていては、理想など達成できまい。今はこの神機を回収し、本部へ戻るとしよう」

 

「……。この神機、もしもこの姿に見合うだけの高貴なる魂を宿せば、我々とて心服していたであろうな」

 

 二人の機人は周囲の同胞達に支持を出し、翼神機の輸送を開始した。

 

 侵略者の科学力を結集して生み出された翼神機。今はまだそれに見合った魂を持たず、敵と見れば見境なく破壊をもたらすだけの傀儡に過ぎなかった。




関連カード


●グラン・ドルバルカン
冒頭の一分はこのカードのフレーバーテキスト。

本章に登場する「銀色の巨鳥」はグラン・ドルバルカン。
「より強き侵略者」は未完成の翼神機グラン・ウォーデンとして登場する。
トールやオーディーンは主に地上戦用と思われるので、空中戦を得意とする翼神機であったと解釈。

●翼神機グラン・ウォーデン
フレーバーテキストによると、後に、世界を侵す刃の翼から世界の守護翼へと変貌する。
北欧神話に登場する双子の狼ゲリとフレキ、フレイヤの神具の「鷹の羽衣」をモチーフとして取り入れていると思われる。

本章では、侵略者達が、魂を宿していない翼神機を破壊兵器として利用している。

●虹竜アウローリア
フレーバーテキストは白の章第14節。既に虚神との決着がついた後の話である。
ロロ曰く「座して滅びを待つのも、この世界の住人らしい選択」。
虚無の軍勢に勝利したとはいえ、多くのものを失い、歌声も無くなった世界はただ滅びゆく運命にあったのかもしれない。

本章では未完成の翼神機と戦うモビルフロウ達に加勢する。

●機人フィアラル
このカードのフレーバーテキストに登場する鎧神とは鎧神機ヴァルハランスと思われる。
北欧神話におけるフィアラルとガラールはドワーフの兄弟。赤い雄鶏フィアラルの伝承もある。

●機人ガラール
フレーバーテキストは白の章第14節。
ロロが「決定的な証拠」を発見している。
竜人、乱暴者、天使、魔族、巨人、侵略者の正体に関わるものであるらしく、紫の世界にいた蛇たちに会う決心をしている。

本章ではフィアラルとガラールは行動を共にする機人として登場。
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