気がついたらオリキャラ(女)になって原始時代にいたけどメス堕ちはしない主人公君 ※ 作:キサラギ職員
「それ食えるのか?」
「食えないよ!」
俺は、石鹸を手にしていた。そう、固形石鹸である。旧石器時代前に石鹸とか、これもオーパーツだよな。木炭の代わりに海藻の灰を使ってみたところ、なんと固まったのだ。よかったよ、いくらでも海岸に流れ着いてくる海藻が使えて。
この世界の人間に、衛生という概念は無い。もう少し時代が行けばケガレの概念が出てくるので、ある面では衛生の概念といえるだろうけど、その概念すらないので食事の前に手を洗うなどということはしないし、出産に携わる人間も同じである。
そう、汚い手で子供を取り上げて体を綺麗にしたりすらしないのである! 雑にへその緒を千切って終わりである。医療の医の字もないからね、仕方ないね。
「これはね、手を綺麗にするものだぞ。ちょっとやってみるか」
せっかくなので、アキラスに手を洗わせてみようと思う。川まで行くと、実践してみせる。
石鹸に水を含ませて、液を手に付けて擦り合わせる。
「水をつけるとぬるぬるが出てくるから、ごしごし擦ると………」
「よくわからないが……」
首を傾げるアキラス。そうね。手だけじゃわからんかもしれんな。とにかくやらせてみるか。
俺は石鹸を渡すと洗わせる事にした。
「こうして、こうか…………ぬるぬるしていておかしな気持ちだ」
「そうそう。で、水で流してご覧。どう、手がさっぱりしてない?」
アキラスは手を石鹸で洗うと、川につけて成分を取り払った。手を水面から上げると、皮膚を触ったりしている。
「おお………確かにさっぱりとするな。このセッケンとかいうものは体を洗うこともできるのか?」
「もちろん。量産できるようになったら、毎日とは言わないが定期的に体を洗うようにしていきたいと思ってる。体を清潔に保つことは大切なことだからな」
石鹸の量産には、油と灰の量産が必要だ。油は現状獣の肉に頼っているので量産には程遠い。油を絞れる植物を見つけなくてはな。
「で、臨月の妊婦さんとかがいるわけだけど、お願いしたいことがあるのよね」
俺はアキラスを伴って自宅に戻っていた。取り出したのは石鹸、なめした毛皮である。
「出産の手順を変えたいんだ」
「というと?」
俺は石鹸を指差した。
「まず、子供を取り上げる人とか、赤ん坊に触る人は全員石鹸で手を洗ってもらう」
「どうして?」
「手についている汚れのせいで病気になったりするから。赤ん坊は特に汚れに弱いんだ」
「なるほど」
「赤ん坊は毛皮で包んでおきたいね。せっかく毛皮の数が揃ってきているから。赤ん坊は体温を一定で保つようにするべきだ」
これくらいしか出来ないのが歯痒いね。出産の時に内出血で死亡するケースも多いわけだが、俺にはどうすることもできない。医学の知識は基本的なことしか知らないからな。
出産の際に大量出血でもしたら死ぬしかない。帝王切開をしてでも赤ん坊を救うか? 母体の死を厭わないなら、帝王切開は楽だからな。
「その石鹸というのはたくさん作れないのか?」
「詳細は省くけど油と灰があれば作れる」
「灰はいくらでもあるが油はな……」
そこなんだよなぁ。そこがボトルネックなんだ。灰はいくらでもあるんだが、油は無い。現在の主流は獣の肉だが、取れる油の量は一定ではない上に、臭い。長時間煮込んでからじゃないといけないのがつらい。
「ほかに油というのは取れたりはしないのか?」
「ある。麻の実がたくさん取れたでしょ。あれを絞ると油が出てくる」
麻は素晴らしい植物だ。繊維は糸に出来るし、葉っぱも使いようによっては医薬品になるし、実は食べることもできて、油も取れるのだ。
「さっそく絞ろう」
「アスレイ君にお願いせにゃならんなぁ………」
油絞りの原理は簡単だ。圧力をかけるのである。日本では板と板の間に対象を挟み、楔を打ち込むことで締め上げる形式のものが主流な時代があった。現代では、ハンドメイドの油を作る際にはネジを締め上げることで圧力をかけるものが主流だ。
「木製ネジとか無理ゲーすぎない?」
金属自体作れてないのにネジ作成は無茶苦茶過ぎる気がする。ろくな工作具もない(石器のナイフとハンマーくらいしかないぞ)のに精密さが要求されるネジを木で作れは流石に……。
梃子を使うか。楔を打ち込む方式でもいいが……。
俺は腕を組み考え結論を出した。
「いや、今年はやめよう。なにより、麻の実の量が少なすぎる」
「あんなにたくさんとれたのにか!?」
アキラスがびっくりしたのか音量を上げた。
確かに村中にいきわたるくらいには麻の実がとれたけど、油を絞ったら何リットルか作って終わりになっちゃいそうなのだ。石鹸を量産するならば、もっともっとたくさん取らねば。
「来年蒔く分以外は、食べちゃおうか。もったいないし」
「わかった。それでこの石鹸はどうする?」
「臨月の妊婦さんいたでしょ。使い方を説明しておいてもらってもいい?」
「わかった、行ってくる」
俺はアキラスを見送ると、家に戻った。
程なくして村人の一人がやってきた。手には毛皮の服がある。
「神様。頼まれていた服出来上がったよ」
「アンセイカさん! どれどれ……」
俺はアンセイカさんから服を受け取ると、確かめてみた。貫頭衣(ポンチョみたいなもんだ)タイプの服ではなくて、長袖長ズボンの服をお願いしていたんだ。ちゃんと寸法を取っているので、作り方さえ間違わなければぴったりのはずだ。
早速今着込んでいる服もとい葉っぱを脱ぐと、革の服を着てみる。アクでなめしているせいなのか微かに植物の香りがする。ボタンを留めて、腕を広げたり足をあげたりしてみる。
―――上等な服じゃないか!
「素敵ね! 暖かそうだし、みんなの分も作ってあげたいわね」
「どんどん作ってあげて欲しい。麻で布を作れるようになったしね。冬が来る前までには、大人にも服を着せたいなって」
衣食住の充実こそが、この村に必要なことなんだと思う。何はともあれ、生き残らないといけない。
俺が言うとアンセイカさんはにこにこと笑った。
「感謝してるわ。毎日食べ物に困らなくなったし、温かい飲み物も飲めるし、雨が降ってきても濡れなくなったから」
「俺一人じゃなにもできなかったよ」
本音だ。俺一人でも生きていくことはできただろうが、毎日生きているだけの寂しく侘しい生活になっていたことだろう。みんなが慕ってくれて協力してくれるから、楽しく生きていけるんだ。
「この縫い物って楽しいわね。針と糸でものを作るなんて、以前じゃ考えもしなかったわ」
「裁縫っていうんだけどね。裁縫は偉大だよ。服を作る仕事って地味だけど、とても大変で、偉いことなんだよ」
俺はその場でくるりんと回転してポーズを決めて見せたのだった。