霧雨魔理沙の来たる森 作:ドリズリング・アズライト
「...........」
魔理沙は未だ戻らない管理人やシオリがどうしているか、気にかかって仕方がなかった。
資料館の中は掃除こそされているようだが、細部に埃が溜まっているらしく、床に埃の塊などが転がっていたりなど、注意して見れば微妙に目立つ汚れが彼女の鼻腔をくすぐっていた。
「...遅いなぁ」
一人、ぼそりと呟く。ミニ八卦炉のフラッシュが辺りを照らしているが、一向に二人のどちらかも来そうにない。本を読もうかとも思ったが、暗いせいでまともに読めず、いたずらに視力をすり減らすだけだろう。
とん、とん。肩を叩かれて振り向いた先には、先程の管理人がいた。メモを差し出してくる。彼の周りにはシオリはいなさそうだった。
『魔理沙さん』
「......どうした?なにかトラブルか?」
『中に人がいます、玄関の鍵を閉めます。管理人室で休んでいてください』
「...ん。わかったよ」
ガチャリ。玄関のキーを使って鍵を閉め、管理人が階段を上っていく。かなりの高身長だったが、凄まじい目つきの悪さをしていた。そんな事を考えていると、上の方からどたどたと、煩わしい音が聞こえてくる。誰か......というより、シオリか管理人のどちらかが走っているのだろうか?
......だが、その考えは間違いだった。魔理沙の前に姿を現したのは、濃い紫色の珍しい色合いの髪をした、女学生だった。
「はぁ、はあっ......っ......誰、あなた?」
走ってきたのだろうか、息を切らした女学生が、魔理沙に名を尋ねた。
「......霧雨魔理沙。なぁ、シオリ見てないか?」
「シオリ......あぁ、あなたお姉さんの友達の人?早く出た方がいいよ、ここの管理人、頭おかしいから......」
「頭がおかしい......って、なんじゃそりゃ?」
「いいから......っ!?鍵閉められてる!?......ああ、もうっ!」
女学生が、鍵のかかったドアに拳で殴りつけるが、いくら木製のドアとはいえ、少女の力では傷一つさえ付かない。苛立つ少女と、それを見かねて声をかけようとする魔理沙。そこにシオリが現れた。
「......あっ、さっきの........あ!魔理沙ちゃん!大丈夫だった?」
「え?大丈夫って......何が?」
魔理沙が困惑する。女学生は二人に向かって焦るように言う。
「とりあえず、私は別にどこか出れる場所を探すから。お姉さん、と......そこの、魔理沙さん?はアイツに見つかっても私の事、絶対に言わないでね」
そう言い残して女学生は別の部屋に入っていってしまった。シオリと魔理沙が残される。
「あっ、待って!......と、とりあえず魔理沙ちゃんも出た方が良い...みたいだよ?じゃあ、後でね」
「ちょっ、待っ......」
魔理沙が引き留める間もなく、シオリも二階に上がっていってしまった。「参ったな...管理人と会ってるって、言う間もなかった」と、魔理沙は頭を悩ませるしかなかった。とにかく待っていれば管理人が二人を捕まえてくれるだろうと思って、一階のどこかで休もうと部屋を移った。
◆❖◇◇❖◆
二階へ続く階段を、音を立てずに昇っていく。時折床が軋む音が、上の階から聞こえてきた。
「とは言っても、他に出られそうな......というか、開いてた場所って三階の部屋にしかなかったよね...どうしよう」
シオリが考えながら階段を昇っていると、不意に目の前に青く輝く、長い何かが映った。それはピンと沿っており先端は鋭く尖り、まるで刀のような印象を与える。シオリは目を凝らす。
「......刀?」
...........そして、それは確かに刀だった。原理はわからないが、妖しく光る刀身に照らされるのは、上下に黒い服を着込んだ、とても身長の高い男だった。その男はどうやら後ろの扉から出てきたらしく、後ろ手でドアの閉まりを確認すると、辺りを見渡すような素振りを見せてから廊下を歩いていった。
「ここから、出てきた...のかな」
シオリがドアノブに手をかけると、鍵は閉まっておらず簡単に開き、中には数冊の資料などが収められている本棚がある。カンテラに火を灯すと、部屋の様子はより一層顕になり、机の上に光る石が置かれているのが見えた。その他に薄く光る装飾品のようなものが飾られたガラスケースや、人物画が壁に掛けられている。
人物画は相当古いのか擦り切れてしまっており、顔の部分の判別が殆ど付かない。
それに、それ以上に目を引くのは、机の上に置かれた淡く光る石だ。
「......綺麗だなぁ」
指で触れると、冷たくも光が温もりとなって指に伝わってくるような気持ちになった。暖かいというか、安心感のようなものを覚える。
石の詳細が知りたくて周囲を見渡すと、この石についての細かい記述がなされた張り紙があった。
『──夜光石──』
「やこう...せき......?」
『これは夜光石を球体に加工したものである。大昔、村の''オガミ様''と呼ばれた霊能商を行っていた村民は、これを使用していた』
霊能商。そして夜光石を使用していた......そのワードを見て、シオリは二階で読んだ絵本の中に、夜光石をつかって''ことりおばけ''を撃退したという男の存在が浮かんだ。
「(......もしかして、昔からある石だったのかな)」
夜光石から離れながら、思案を重ねる。──思わず触ってしまったが、仮にも展示品なのに、触っても良かったのだろうか。そんな事を思いながら部屋を出た。
...........無論、音は立てずに。