霧雨魔理沙の来たる森 作:ドリズリング・アズライト
電車に揺られている間だけは、幻想郷のあの雰囲気を忘れていられた。あの何でもアリの世界は楽しいが、それが当たり前になってしまうと身体が刺激に慣れきってしまうのだ。その点、大した事の無い電車の揺れは、激しい綺麗さに慣れたこちらの身には程よい心地良さと共に伝わってきていた。
「─────そうだな、私も少しぐらい、顔見せてやろうかな」
魔理沙がそう言ったのを聞いて、シオリは優しい笑みを浮かべた。そして、はっとした様子で魔理沙に質問を投げかけた。
「......魔理沙、さん...は、どこの出身なんですか?」
「ん?......出身ねぇ」
そう聞かれると、どう答えようか悩んでしまう。正直に言っても幻想郷だなんて言われたってシオリも困惑してしまうに決まっている。だが、かといって外の地理には疎く、適当言ったところでボロを出す確率の方が高い。
「そうなぁ......ずっと、向こうだよ。人が近付かない、ずっと山の向こうがわ。そこにゃ、神様とかが凄く身近にいてさ。いっつも喧嘩したり酒盛りしたりしてんだ」
「それって、とても素敵ですね。神様を身近に感じられるって、とってもロマンがありますね」
シオリが目を輝かせる。
「うんにゃ、そんな良いもんじゃないぜ。ご利益だってあんだかないんだか。それに案外粗雑に扱われてる。実際私の親友で巫女をやってるのがいるんだけど、そいつ自分の祀ってる神様の名前忘れてんだぜ?」
そう言って親友の顔を思い出して含み笑いする。シオリは、魔理沙にとって神様とは思ったよりカジュアルな存在なのだろうか、と考えた。
「それに、そいつらが何かしらの異変なりを起こしたら私達が治めに行くからな。忙しくてたまったものじゃなかった。それに、私にとってあっちは騒がしすぎたらしいものでさ。こうして電車に揺られているのが、今は楽しいんだ」
魔理沙は誰もいない座席に手を着き、足を伸ばして伸びをする。シオリも隣に座って、彼女の話を聞こうと身を傾ける。
「じゃあ、元々電車に乗れるような場所に住んでなかった......って事ですか?」
「ん......まぁ...そうなるかな。というよりかは、元々電車みたいなのが無くて、基本空を.....いや、徒歩だったなぁ」
魔理沙は頭を掻き、へへへっ、と笑う。
「......思ったよりも、過酷な所で住んでたみたいで、なんというか興味が湧きますね」
「そうか?不便ってつまらないぜ。私としては空を飛ぶよか車とか電車とかに乗れる方がずっと楽だ」
「空......私は飛んでみたいですけれど、ヘリコプターなんて乗った事ないし、子供の時にちょっとした旅行で飛行機に乗ったくらいで......」
「飛行機!あのでっかい鉄の箱か......良いなぁ、私のいた所じゃあ妙ちくりんなからくりしか拝めなかったから、話を聞くだけでも楽しいもんだ」
シオリは、そう言いながら笑みを浮かべる魔理沙を見て、まるで別の世界に生きてきたような存在だと思わずには居られなかった。常識に縛られない彼女の雰囲気は、シオリの目にはどことなく西洋的、或いは古風に写った。
「あぁ、それと......私はまだ16だ。あんた見たところ、私より3つか4つは上だ。私だけ砕き言葉を使うのも気が引けるし、あんたも丁寧言葉をやめてくれると気が楽なんだが」
魔理沙がそう言う。じゃあ、と、シオリは彼女の名前をこう言った。
「わかった、魔理沙ちゃん」
呼ばれ慣れていなかったのだろう。驚いたような顔で、彼女は素っ頓狂な声をあげた。