ロックマンエグゼ:実績『見損なったぞカーネル!』『負けないアイ』開放ルートRTA   作:ヌオー来訪者

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EX03 アイリス

 ゼロの不調はすぐに治った。

 学校から出て行くタイミングでふと何かノイズが走ったような気がしたがまるで気のせいだったんじゃないかと言うくらいに、何事もなかったかのようなゼロの様子に少し安堵こそした。

 ……が、家に帰ってみると不安という不安がじわじわと大きくなり始めていた。

 

 

 

 思い立って九十九は自身のPCにPETを繋げた。

 但し、九十九が普段使っているPETそのものは特別製。

 多少ガジェットに明るい九十九でも下手に内部データなどを触れるようなシロモノではないので素人が見たところであまり意味はないのだが。

 

「ゼロ、調子はどうだ」

 

『問題はない。……いや、あるか。普段よりお前の声が遠い』

 

「奴はブラクラつってたな。となればそりゃあそうなんだろうが……アマチュア如きが修理なんざ無理だよなぁ……」

 

 城金に連絡しようにも時間が遅過ぎる。

 もうこの時間帯に科学省にもいないだろう。深夜に叩き起こして科学省まで呼び出した挙句ゼロのメンテナンスをしろと言うのも無茶だ。

 そもそも科学省は働き方改革の一環で時間を過ぎると強制的にほぼ全ての職員を引き払わせるようになっている。

 

 九十九は椅子の背もたれに体を預けてぶらんと力なく手を落とした。

 

「今時伊達や酔狂でブラクラの名前を持ち出しちゃいないってことか」

 

 シャイニングブラウザクラッシャー。

 当初こそふざけた名前だと思ったものの、ただではデリートされないという彼らの戒律とやらには則ってはいるらしい。

 

 だがその事実を前にしてもゼロはどこ吹く風。元々みゆき以上に感情の起伏が小さいナビだ。そのせいでまるで平気なように見える。

 何故そう平然としていられる? 

 このナビには並々ならぬ熱い意志が宿っている。

 何が彼を動かすのか。それは──

 

 

 

『……む?』

 

「どうした、ゼロ」

 

 九十九のPCの電脳の中心でゼロがインターネットに繋がるワープホールに目を向けていた。

 こんな時間帯に来客でも来たか。──そんなはずはない。

 九十九のPCの電脳はそこそこランクの高いセキュリティーキューブを設置している。

 ゼウスハンマーでも砕けない堅牢さを持つそれは九十九が「どうぞ」と許可をするかPコードを所有しないと通れないようにできている。

 

 ネオゴスペルの刺客か。

 しかし今このタイミングで現れるのはまずい。いくらゼロでもオペレーション出来るか怪しい状態では撃退は見込めない。

 

『……来るぞ』

 

 バシュン、とワープホールから一筋の光が落ちる。その光は地に落ちると細くなりヒトの形を作り出す。

 それはナビにしては人間的であった。

 

 

 飴色の長い髪をたなびかせ、紫のブラウスに薄紫のスカートを身に纏う。

 予想していた『刺客』とはかけ離れた来客に九十九は言葉を失った。

 

 

 

 あのメトロライン暴走事件で出会ったナビだった。

 

 

 

 何故こんなPCの電脳までやってきたのかは分からない。しかしここにいると言うことは事前に用意したセキュリティーを突っ切ったということは確かだ。

 そのこともあって九十九の警戒は消えなかった。

 

『……あの時のナビか。何故ここにいる』

 

 当然ゼロも同じ感想だったらしい。ゼットセイバーこそ呼び出してはいないが脚の運びが完全に臨戦態勢だった。いつでも攻撃をかわせる、そんな脚運びだ。

 

『分からなかったから』

 

 シンプルかつ意味不明な返答だった。

 何が分からないと言うのだ。

 

『あなたたちが、警告を無視してまで何故突入したのか』

 

 先の謎のメールの送り主はどうやら眼前にいる少女型ネットナビらしい。

 その疑問が解けてもまた新しい疑問がぶち当たる。そう、この目の前にいるナビが一体何者なのかということだ。

 

「催眠状態の人間がうろうろしてる状況を放っておけるかって。そう思ったんだ。……それによく知らんやつからの警告を素直に聞けるほど聞き分けがいい奴でも想像力のある聡い奴でもなかったのさ」

 

 最後の一言は自嘲のつもりでもあったが、完全に余計な一言だったようだ。彼女の目元に影が差す。

 しまった。

 慌てて謝ろうとした矢先、彼女は再び口を開く。

 

『もしあなたが後悔するきっかけがそこにあるとしても?』

 

 その瞳は九十九を責めているようにも、憐れんでいるようにも見えた。

 それが九十九の神経を少しばかり逆撫でさせた。

 一方的に知ったような口で自己完結されて面白いはずがない。

 

「後悔?」

 

 今回の事件で思うことは腐るほどある。

 もっと上手くやれなかったのか、とか。あそこでどう行動をしておくべきだったかなんてたらればが頭の中でとぐろを巻いている。

 しかしそのことを言っているわけではないことは薄々感じ取れた。

 彼女は目を閉じて首を横に振る。

 

『忘れていい思い出もある……()()()()()()は。今日は運が良かっただけ……』

 

「あ?」

 

 何か引っ掛かりのある言葉だった。

 自分が何かを忘れているとでも言うのか。それともこれから忘れるのか。

 

「えっと失礼。誰かな? 君のオペレーターは」

 

 まだオペレーターの方が話が通じそうな気がした。ナビの個性というのは時として人間以上の強烈さを持つ時がある。

 その時はオペレーターと直接回線繋げて話した方が速いというものだ。

 

 ……が、彼女は首を横に振った。

 

『わたしにはいないわ……』

 

 オペレーターがいない。その事実に九十九は頭を抱えた。可能性は元々十二分にあったとはいえ、このタイミングで出くわしたくはなかった。

 

 野良ナビ、それはオペレーターを持たず電脳世界を彷徨う存在だ。

 人間の言葉で言うならばホームレス。

 買ったナビが気に入らなかったり喧嘩したりして電脳世界に放逐されたというナビはそこそこいる。それが問題になったりすることもよくあることだ。

 

 当然オペレーターからのサポートが受けられない上にリカバリーの手段も乏しいためウイルスに襲われてデリートされるのがほとんどだという。

 

 だがしかし眼前に映るナビは量産型とは到底思えない人間の女の子のような外見で、その辺の素人が作り出せるような雰囲気ではない。そこそこいい技術者が頑張ってカスタマイズしてもメイルのロールが関の山だろう。

 ゆえに、愛されていたか愛されなかったかと言われたらきっと前者。九十九はそう思いたかった。

 

 オペレーターが死んだのではないか。

 そんな可能性が突き当たり、なおのこと申し訳ないことを言った気分になる。

 その一方でなおのこと自分に接触するわけがわからなかった。

 

 その時──ゼロが割り込んだ。

 

『疑問に答えるなら……アイツは友を、その街に生きる人々を守りたかっただけだ。そこにきっと理由は要らない。人間の言葉で言うならいわゆる──本能。という奴だ。そしてオレはヒトによってこの命を拾った。誰かを助ける為に力を振るうのならばオレは手を貸し、背中を押す。……そのためにここにいる』

 

 ゼロが自ら話すことはあまりないのだが、光親子の機転によって本来消滅する運命から救われている。

 それが、ゼロを動かす『理由』になっている。

 理由は要らない、とゼロは言っていた。

 けれども理由無き行為は得てして存在しない。

 ふと思い立つにしてもそれまでの経験と人格の蓄積によるものだ。

 

 ──ならば俺は、なんだっけ? 

 

 ずきり、と頭が痛んだ。

 全力疾走していたら突然壁が現れてぶつかったような痛みに九十九の表情は苦悶の色を浮かべる。

 

『……譲れんものだ』

 

 全てを語り尽くしたゼロに九十九は思う。

 彼も彼なりに思うことも考えていることがある。

 その考えが確固としたもので敵わないなぁ、と九十九はその確固たる意志を羨ましく思っていると彼女はゼロの語りに何を思ったのか、無言のまま九十九の方を向く。

 それから、ゼロの方を向き直って真っ直ぐ歩み寄り始めた。咄嗟に身構えたがその動きに敵意らしきものは一切見当たらず、そのままゼットセイバーの間合いに入った。

 

『……動かないで。あなたの身体はフラッシュマンの呪いに蝕まれている。このままだとOSごと破壊されるのも時間の問題だわ』

 

 一目で見極めて見せた彼女に九十九は返す言葉を失った。

 ゼロの状況を一目で察知しただけではなくこの先起こり得ることまではっきり言って見せた。

 このネットナビはやはり只者ではない。

 

『手を出して』

 

 彼女はゼロの手を取り、その小さな手で包み込む。するとゼロの体が俄にぽう、と淡い光に一瞬包まれその光は消えた。

 

『……む? 何をした』

 

『これで呪いは解けた。でもこの先無茶はしないで。あなたたちがあなたたちであるためにも』

 

 言うだけ言ってから踵を返し、ワープホールに向かっていく。

 言いたい放題言っておいてこっちの疑問は何もかも解決しちゃいない。

 勝手に1人で意味深なことを言って1人で満足して。面白いはずがない。

 

「お前は──誰だ」

 

 誰の差金なのか、一体何のためにここにいるのか。ありとあらゆる思いが綯交ぜにされたその言葉は彼女の足を止め──振り向いた。

 

『……アイリス』

 

 それが彼女のこの九十九のPCの電脳で残した最後の言葉だった。




タウンエリア某所、掲示板より抜粋


ムラサメ 【神隠し】
あ、そうだ(唐突)。
テレビを観てたら特番やってたんすけど……数年前バスが急に失踪してその3ヶ月後に数名救出されたって言うの。みんな覚えてますかねぇ?

コイチ 【Re:神隠し】
覚えてる覚えてる。
確か才葉シティだったかエンドシティだったかデンサンから西側で起きたって言うやつでしょ?

ルピス 【Re:神隠し】
おや、随分と懐かしい話をしていますね……
失踪した当初捜索して見つかったのは大人たちの死体のみ。その後数名の子供たちがばらばらの場所で見つかった。不可解な情報だけが残ってましたね。
1人は記憶をなくしていたし、他も精神崩壊してたりとか得られた情報も大したことなかったとかで迷宮入り。今思えばおかしな事件でした。

シクラメン 【Re:神隠し】
奇跡の子供たちとかあの時テレビで騒がれてたけど、偽者説とかふざけた陰謀論も飛び交ってたけど元気なんすかねぇ? なんか噂だと、一人はオフィシャルやってるらしいッスよ。

シマダ 【Re:神隠し】
えっそうなの!? 大事件の被害者がオフィシャルになんてドラマチックだなぁ〜! 番組に取り上げられたりしないかな!?

はっぴぃ 【Re:神隠し】
いや、そっとしておけや……

シマダ 【Re:神隠し】
もったいないって! 奇跡の子供たちとかヒーローだしいいことじゃん!3ヶ月も見つからなかったのに生きてるなんて!
どうして目立たないかなぁ!?

コイチ 【Re:神隠し】
そっとしてあげましょうよ。トラウマになってる人沢山いるんですから

ムラサメ 【Re:神隠し】
久々にひどいクソガキを見た。
事件当初世論もそんなノリだったのを思い出していやぁ〜キツいっす。
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