目覚めたら相棒と最強装備と宇宙船持ちだったけど、やることもないし付き合ってやるかな 作:楠葉
画面に映る顔を見て、安堵する自分と、申し訳ないと感じる自分がいる。
知った顔だったことによる安堵と、自分の転生に関する何かに巻き込まれてしまったのではないかと二つの感情が心の内をしめる。
もちろん、顔に出したりはしない。
「落ち着け。俺にもよくわからん。ただ、お前が慌てているのを見ると夢じゃなさそうだがな。」
これで、普通に会話してきた方が現実味がなかっただろう。
ヒロは俺の顔を見て安心したのかシートへと座り直している。
「すまん、一人で考えてたところにカオルの顔が映ったからなんか知ってんじゃないかと思ってさ。」
二人での意見をすり合わせるが、結局何もわからんままだ。
ネルにも聞いたが、何も知らないらしい。
ヒロも元々の仕様を知っているため、
「にしても、ネルと会話ができることに違和感がやべえな。」
俺は思っても言わなかったことを口にして、ネルが怒りミネルバの武装の標準をクリシュナに向けて、
すぐにクリシュナが振り切る様に動き出す。ネルを宥めて、ヒロとネルの鬼ごっこが終わる。
「意外と操作は簡単だな。」
鬼ごっこを終えて呟く。
扱い慣れない操縦桿やフットペダルでの操作には若干苦戦したが、
直感的な操作が可能になった分、繊細な操作ができるようになったくらいだ。
武装の確認のため、小惑星が二つ吹っ飛んだが問題ないだろ。
冷静になったことで、わざわざこんな宇宙の何もないとこにずっといる必要もないので移動するかと
ギャラクシーマップを開いて現在地を確認しようとしてみるが、
表示されるのは『NO DATA』という無情な文字列。
マジかよ。ヒロも同じらしい。かなりまずい。
宇宙というものは広大なものだ。闇雲に動き回ってどうにかなるようなスケールのものではないのだ。
ゲームですら四年が経った今でも銀河中心部に辿り着いた人がいるとは聞いたことがない。
何を思ってあんなに大きくしたのかわかんが、本物の宇宙であると想定していたほうが無難だろう。
現在地の確認は諦め、お互いの船のステータスを調べてみる。特に賞金がついているということはなかった。
星系警備隊にいきなり追いかけ回されることはなさそうだ。
船の主である俺の所属や所持金を調べると所属はなしになっていた。
傭兵ギルドにすら所属していない完全な一般人だ。キャプテンネームはゲームの時に使っていたのと同じになっているようだ。
続けて積荷のリストを確認して、声をあげそうになる。
「おーい、どうした。」
「何でもない。レアメタルがやけに多いなと思っただけだ。」
リストの最後のそれを見て、確信したここがあの駄女神が言った世界なのだと。
ヒロは俺が巻き込んでしまったのではないのかと。
荷があることがわかると次に起こることが容易に想像はついてしまう。
このレアメタルというものを大量に持ち運んでいると、脛に傷を持つような輩に非常に狙われやすくなる。
ゲーム的に言えば、いわゆる宙賊と呼ばれる盗賊NPCとのエンカウント率が格段に上がる。
そんなことを考えていると、
「警告、所属不明艦船からスキャンを受けています。」
ネルから警告が入る。ヒロの方も騒がしくなる。
「早速だな。」
スキャンされたからといって相手が宙賊だと決まったわけではないが、十中八九奴等だろ。
「マスター、所属不明艦船の武装、オンライン。」
賞金首でもない相手にいきなり武器を向けてくるのは十中八九宙賊だ。
何やらヒロと話しているが、こっちはこっちで動く。
準備している間にバン、バン、バン、と特徴的な音を立てて超光速ドライブを解除した所属不明艦船が八機、周辺宙域に現れる。
既に全機の武装がオンラインになっており、いつでも発砲可能な状態だ。
超光速ドライブを解除した所属不明艦船の情報が次々にディスプレイ上に表示されていく。機種はてんでバラバラ。
どれもそれなりのカーゴ容量を持ち、武装もそこそこ、整備状況はあまり良くなさそうだ。傷やへこみも多い。典型的な宙賊船って感じだな。
『んんー? 二隻とも見慣れねぇ船だなぁ。そいつはどこの船だ?』
「ノーコメントで。」
「どこでもいいだろ。」
ヒロと同時に呟く。わざわざ返答してやるなんてヒロは優しいな。
これ以上増えそうにないな。所属不明艦船にスキャンをかけ終わる。
『へへへ、見ちまったなぁ? 見られちまったもんは仕方ねぇ。大人しく積荷を寄越しな。そうすりゃ命だけは助けてやるぜ』
「ヒロ、アクセス。」
「了解。」
メインジェネレーターの出力を戦闘レベルに引き上げながら引き金を引く。ミサイルと両舷のビーム主砲が放たれ、一気に四機爆散する。
『なぁ、いきなり!』
回線が繋がっている船から声が聞こえてくるが関係ない。動き出す前に残りの四機に狙いを定めるも打つ前に爆破する。
「お見事。」
見ると、クリシュナが変形している。いつ見て見事な早撃ちだ。
「やっぱりこれは現実か。」
手が少し震えているが問題ない、大丈夫だ。
ゲームの時同様に宙賊船の残骸から積荷とデータキャッシュ、そして破損状態がマシな装備を剥ぎ取りにかかる。
ステラオンラインの宇宙船にはこういった物資を回収するためのドローンが標準搭載されているのだ。当然、俺達の船にもドローンは搭載されている。
今回もっと欲しいのはデータキャッシュだ。こいつらは超光速ドライブを使用していたところ見て間違いなくマップデータは持っているのはわかっている。おまけもあればラッキーだ。
「ビンゴだな。」
狙い通り恒星系にある主なステーションの座標を手に入れることができたし、おまけに宙賊の拠点の座標を入手と。
この情報を売りつけるだけでも高い報酬を手に入れられるはずだ。
「データを見る限りこの恒星系には居住可能惑星は存在しないな。」
鉱物資源の豊富な小惑星帯が多いらしく、採掘ステーションや監獄(罪人に過酷な採掘を強いている)、そして交易コロニーなどが星系内にいくつか点在しているようである。
ネルにこのデータをクリシュナに送る様に頼むついでに、ヒロも回収する様に伝える。
クリシュナが乗ったの確認して、メインジェネレーターを巡航モードに変更し、
目的地をこの辺りで一番大きい交易コロニー【ターメーンプライム】に設定。
徐々に加速して、超光速ドライブへと移行する。
「おお、超光速ドライブってこんな感じなのか。」
格納庫からコックピットに移動してきたヒロが外に見える光景に驚きの声をあげている。
風景がぐにゃりと曲がり、光点であった星々が光る線と化して後方へと流れ始めるこの光景は今までに見ることがあるものじゃないから驚くのはわかる。
超光速ドライブの技術的な理論はゲーム上でも詳細は説明されていなかったのでよくはわからないのだが、これは主に恒星系内での長距離移動に使われる機能だ。
実際にコックピットから見える景色が動いているのが見えるので、単に物凄い速度で移動しているんだろうとは思うけれど。
ちなみに恒星間を移動する航行能力も搭載されている。そちらはハイパードライブという装置で、恒星系と恒星系を繋ぐ亜空間の回廊を通って光よりも遥かに速い速度で恒星間移動をするという技術なのだとか。
まぁ、俺は使えればいいので詳しくは知らん。
「どこに向かってんだ。」
ヒロも適当なシートに腰掛けて聞いてくる。
「交易コロニー【ターメーンプライム】。この辺りで一番大きいとこだな。情報を見る限り、この恒星系を警備する警備隊本部もそこにあるらしいから賞金首の賞金を受け取るのにも、宙賊から手に入れた本拠地の情報を売り払うのにも都合が良いだろう。俺達は今はモグリの傭兵ってとこだし、ちゃんと傭兵ギルドに登録とかしといた方がいいだろ。そこに行けばなんか情報もあるだろうかな。」
俺達は知っていることが少な過ぎる。何をするにも情報は間違いなく必要になる。
お互いに認識の違いもなくヒロも文句を言ってくることはない。
「まもなく超光速ドライブが解除されます。ドッキング要請を送信。」
通常空間に戻って見えたのは巨大なコロニー。ゲームで見るのと違って迫力があるな。
『こちらコロニー、ターメーンプライムの港湾管理局。当コロニーへのドッキング要請を受諾。ええと、キャプテン……? すみません、お名前の部分のデータが破損しているようです。』
「悪い、こちら機体名ミネルバ、名前は・・・・」
本名はどこにでも居そうな割とありふれていそうな名前なのだが、
この世界の命名法則的にはちょっと奇妙に聞こえるだろうな。
ここは先ほど確認したゲーム内ネームを名乗っておこう。
「カオルだ。俺はキャプテン・カオルだ。それとこの船にもう一隻搭載してある機体がクリシュナ、こっちのキャプテンは。」
途中で、ヒロと代わる。
「ヒロだ。俺はキャプテン・ヒロ。」
こうしてこの銀河に二人の傭兵が誕生した。
グラッカン帝国歴2397年8月10日のことであった。