シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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Q、ロダンって五感奪うテニスしたりするんですか?
A、テニスはヘタクソです。

Q、第四世代魔星についてウェルギリウスはどう思ってるの?
A、少なくとも第二世代よりかずっと遥かに人道的なアプローチだと思ってます。


緋色の追憶、赫怒の霹靂 下 / Phosphoros

 エリスとロダンの去った応接間で、イワトとオフィーリアはただエリスが蹴り破った窓を見つめていた。

 

「……オフィーリア副長官は、エリス嬢について初めから知っていたので?」

「確証はなかったわ。ランスロット卿の報告を聞いたとき、それから星辰体濃度のモニタリングをしていた時はにわかに信じがたかったけれど」

 オフィーリアは何枚かの資料を机の上に広げながら、そうイワトへと言葉を返す。

 

「それを言うなら、第一軍団もでしょう。確かにエリス・ルナハイムという人物は一劇団員である事以外の情報はなかったもの。監視をしている時点では本来なら放っておいてもおかしくはない対象だったもの。……それとも別の意図でも?」

「別に謀などはなかった。ただ、ハル嬢の屋敷に出入りしていると聞いたときにハル嬢にも友人ができたのかと思っただけだ」

「……あぁ、なるほど」

 すとんと、そこでオフィーリアは合点がいった。

 ハル・キリガクレという人物はある意味ではイワトにとっても因縁深い人間ではあったからだ。

 より正しくは、本人ではなく亡き親と因縁があるという意味である。

 

「アイツから、託されたのでな。ハル嬢に、あるいは自分にもしものことがあれば、お前が面倒を見てやってほしいと」

「……もしもの事、ね」

「おかげで最後の最後に勝ち逃げされたままだ。全く我が身ながら情けないし未練がましい話だが」

 ……元々、ハルの父は一人の女性――後にハルの母となる――を巡って争っていた友人であり恋敵だった。結果として、ハルの母が選んだのはイワトではなかった。

 その恋敵が、あの運命の日の直前に「自分やハルに何かがあれば」とイワトにそう託したのだ。まるで自分の末路を暗示しているかのように。

 

「話を戻そう。オフィーリア副長官、この後は如何様に?」

「そうね。……まずは経過を見守りましょう、手出しは不要です。グランドベル卿とランスロット卿を信じて待ちましょう」

 

 

 

―――

 

 荘厳にして、圧倒的。その男は雷鳴と共に現れた。

 怒りに燃える双眸がマリアンナを射抜く。

 ユピテルの様にその場の誰もが息を呑む。光纏う二刀の使い手、集束性の極点を体現するが如き光輝の星――その顔。

 記号的な符合が、過去に軍事帝国アドラーに実在していた一人の男の姿を幻視させた。

 その二刀を握りしめる軋みが往くぞと雄弁に告げていた。

 

「英雄――救世主――その系譜に連なる者と見受けましたが。……その星に、私は聞き覚えがあります」

「ポースポロス。歪んだ光を滅する怒りの執行者と知れ、鉄血聖女」

 焼き切るような赫怒の視線を一身に浴びるマリアンナは尚も臆しない。

 その様をして、エリスはマリアンナを人間だとはもはや思えなかった。当たり前の理屈だ、人は太陽を、放射線を前にして正気で相対して等いられるわけがない。ユピテルの怒りとはつまりそういうモノなのだ。

 魔星を魔星たらしめるものが衝動であり、そしてユピテルの星の根源とはすなわち怒りだ。

 それから憐れむように、わずかにロダンとエリスへと視線を投げる。

 

 そこには、マリアンナに向けていたはずの空恐ろしい熱量は消え失せていた。

 ともすれば、二人を――特にロダンを案じているような視線で。

 

銀月天(ルナ)――否、銀想淑女(ベアトリーチェ)。案内人の真似事もそこまでにしておけ、さもなくばお前が導く先は天国ではなく光無き地獄の果てだ。銀想どころか死想ですら有り得ない、貴様が何者でもなくなった時、俺はお前を討つと決めている」

「貴方に言われるまでもなく、理解しています。私は誰よりロダン様を護りたい」

 鋭い緋色の視線を、ユピテルに真っ向からエリスは叩き返す。

 その様にユピテルは思案を巡らせる被りを振って、それからマリアンナへと向き直る。

 

 ……依然、判決は変わらないとでも言いたげに。

 

「鉄血聖女。貴様の刃は今、罪もない者を裁こうとしている。銀月天が如何なる罪悪を為した、如何なる不正義を行った。言葉があるというなら言って見せろ」

「ありません。死と運命を司る原初の魔星、その宿業を継ぐ者を見逃せとでも? 貴方方魔星があの帝国において何を為したか、知らぬとは言わせません」

「いずれ未来に犯すかもしれない罪の目を摘み取るためにか。今という時間が、二度訪れることなどない。その上で尚、この女を貴様の正義が裁くというのならよかろう。――この明星が敵に成ろう」

 緊迫する空気。マリアンナも、ユピテルも、もはや対話の余地はない。

 膨れに膨れ上がった風船が如く、激突は秒読みだった。

 

 マリアンナとユピテルは互いを撃滅するために。

 ロダンとエリスは、その争いを食い止めるために。

 

 

 そしてその次の瞬間には三つ巴の決戦が始まった。

 ユピテルの初撃は挨拶代わりの極光撃だった。

 

 刀身から放たれるのは超々密度に集束・加速した荷電粒子。

 超高次の操縦性と集束性を以って放たれる荷電粒子加速能力こそがユピテルの星だった。何ら特殊性もなければ、特筆すべき特徴もありはしない。

 呆れるほどに愚直で破壊的な星の光。

 

 それに対抗するはマリアンナの焔だったが、それすら藁屑のように引き裂いて大地を抉り焼く。

 ぶすぶすと、溶融すらした地面を駆け抜けながらマリアンナはユピテルの二刀を捌いていく。

 

 代わる代わる、襲い掛かる光刃はその総てが余すことなく、過つことなく絶技だった。速度も、技巧も、他を隔絶して余りある。

 マリアンナですら、防勢に回りながら反撃の機をうかがっている有様だ。だが、だからと言ってマリアンナの弱者の証明とはならない。

 マリアンナの星の焔は激しさを増しながら、ユピテルの躯体を焼き尽くさんとしている。

 

「鉄血聖女、貴様の論は正しかろうよ。魔星が如何なる存在で、如何なる災禍を撒いたかなど殺塵鬼や氷河姫をはじめ前例は掃いて捨てるほどに在る。だがお前は生まれたばかりの無垢な存在ですら捕らえ管理するというのか。生まれる事を罪と断じる傲慢とどのような違いがあるという」

「彼女はロダンがそう認めたように、純粋な人間性と呼ぶべき優しい性質は持っているでしょう、それは否定する要素はない素晴らしい事です。ですが、なればこそアレが何の目的で生まれたのかを問わねばならないのは自明です。……干渉性特化、加えて死想に酷似した星辰波長が意味するモノなど言うまでもないでしょう。彼女が望んで運命を担ったわけではない事が、彼女を管理しない理由にはならない」

「……なるほど、魔星の子は魔星だと。咎も宿業もまた技術と共に継承されるのだと。ふざけるな――それを裁定していいのは貴様でも、俺でも、誰であってもならぬであろうがァ!!」

 ユピテルの炉心の燃料はすなわち怒り。

 劫と焔をたぎらせる限り、神星鉄は無限に彼に応えるだろう。怒りはそのまま彼の力となる。

 

 

墜落の霹靂(ポースポロス)よ焼き尽くせ――!!」

 暴発寸前なまでに充電(チャージ)される怒り(エネルギー)が、ユピテルの両腕を奔る。

 断頭台の如く振り下ろされた一撃が天衝く光輝となり、マリアンナの槍さえも軋ませた。

 恐らく受けきれたとしても、何度も何度も槍が持ちはしないとマリアンナは直感する。正真正銘、集束性の化け物だ。

 

「そしてポースポロス、貴方の正体は何者ですか。英雄は既に地上を去った。創星計画もその黒幕はいない。だというのにその光輝も、その怒りも。何もかもが英雄と酷似している」

「俺を設計した人間の悪趣味だろう。下らん宿業だ、神星と英雄の構図を当てはめようとでもしているだけだろう。堕天も、魔女も、結局は理解するところは筋書きだけだ、事績をなぞれば覚醒を得られるとでも思っている塵屑だ」

 心底から反吐が出るとばかりにユピテルは掃き捨てる。

 自分の生まれを心の底から憎悪しているかのような怒りを乗せて。

 

 

「貴方の設計者とは誰ですか」

「答える義理はない。俺の宿業は俺だけのものであるべきだ」

「では貴方の今の行動は設計者に命じられたことですか?」

「――否」

 その言葉にだけは、ユピテルは毅然と返した。

 誰かの命令でそうしたのではないと、己が内より生まれた怒りを以って遂行していると

 

「俺は銀想の末路を担うと決めている。故に俺は貴様と何も変わらんだろうよ」

「私は彼女を殺すつもりは在りません。一緒にしないでください」

「だが、矛を交えてまでその身を掌中に収めんとしている」

「彼女の意図を尊重するならば、抵抗はして然るべきでしょう。それでも私はこの国を、人々の暮らしを護らなければならない。貴方が行き着く先は結局虚無です、怒りのままに何もかもを焼き尽くし、何も残さないために戦っている。護るべきモノもない、熱を供給すべき負荷(人々)さえもなく空転する怒りの反応炉。それが貴方という存在なのだと理解しました」

 何処までも話は並行を往く。

 剣戟は未だユピテルが長じている。でありながらも決して状況がユピテルに味方しているかというとそうではなかった。

 

 端的に、それはユピテルがあまりにも攻撃性に特化しすぎた星光の持ち主であるためだろう。

 本質的に、ユピテルは防御力というという概念とは無縁だ。マリアンナの空間を制圧する焔の星光に対して何ら対処手段を持たない。

 

 だが――

 

「死ぬ前に殺せば問題なかろう、俺には十分すぎる」

 言って捨てるユピテルは依然苛烈な攻勢を維持し続ける。

 ヒト型の粒子加速器は縦横無尽に斬光を放つ。絶滅光を連想させるような苛烈さを発揮する。出力ではもはやマリアンナはユピテルに突き放されているにも関わらず、星による爆発的な加速だけを頼りにその膂力をぶつけていく。

 

 一合一合打ち合う度に、互いに身を削り合いながらも尚マリアンナとユピテルは引かない。

 

「エリス。……アレは、恐らく至高天の階なんだな?」

「明察の通りです、木の星を司る赫怒の代行者。それがあのポースポロスという男の在り方です」

「やっぱりか。なんとなく、エリスやアレの言葉から類推したけども」

 その壮絶極まるユピテルの有様、まるで面識があるかのようなエリスとの会話からも明らかだったろう。

 ……単純な戦闘力。その一点だけに絞るならば火星天さえ優に超えている。水星天を不滅の極致と例えるならば、木星天は撃滅の極致だ。

 融解しないのが奇跡だとさえ思えるほどの熱量をその刃は孕んでいる。

 そんなモノと、マリアンナはまともに相対しているのだ。見せかけだけとは言え、拮抗を演じているのだ。その埋め合わせはマリアンナの体が支払っているに他ならない 

 マリアンナを倒さなければエリスは捕らわれる。

 同時にユピテルを倒さなければマリアンナは死ぬだろう。

 だからこそ。

 

「往くぞ。俺はグランドベル卿を死なせたくない」

「えぇ、それを成すにはこの馬鹿げた戦いを終わらせる事だけでしょう、ロダン様」

 飛来するのは銀月の剣。

 第三勢力と言えば聞こえはいいが漁夫の利同然の襲撃であり、しかしマリアンナとユピテルは乱戦の最中で在りながらもそれに対処して見せる。

 無尽の雷輝を以ってユピテルは銀の光を真っ向から迎え撃つ。星と星殺しの相性さえも紙切れ同然に引き裂いてその輝きを突き付ける。

 

 撃滅無双の荷電粒子の光刃は減衰を遂げていたが、銀光がソレを打ち破るには集束性がやはり致命的に足りていない。

 エリスも旗色の悪さは同じく感じている。

 次いでユピテルとロダンは剣を打ち合わせる。

 

 

「俺と戦うつもりか。神聖詩人」

「その通りだ。グランドベル卿を討つというのなら、俺はお前と戦わなければならない。……これは俺とグランドベル卿の問題だ、部外者が首を突っ込むな!!」

「ならば俺も宣しよう。――銀想淑女を裁くのは俺の役目だ、故にここで詩人も淑女も虜となるべきではない。然るべき運命を決すべきその日まで」

 その有様はまるでエリスとは真逆だった。太陽を写すかのような輝く瞳がまっすぐにロダンを、エリスを射抜く。

 止まらない、止まれない、止められない。

 まさしく光だ。遮蔽物がないかぎりはどこまでも遠くへ突き進む。

 

「……裁定者気取りですか。さすがは明星の翼の名にふさわしい、英雄とここまで瓜二つとは反吐が出ます。――私は、誰の運命の虜囚になるつもりもございません」

「審判者気取りで上等だ、お前の怒りも嘆きも至極真っ当だとも。故に咎は地獄で受けよう、お前には生きて、恨むみ憎み、抵抗する権利がある」

「高みに止まって私を、私の命を、運命を、値踏みする事がそれほど好みだとでもいうつもりですか!!!」

 心底から、エリスはユピテルへ嫌悪を示していた。

 月と太陽は、黄金と銀は相容れないのだと吐き捨てて、エリスは尚もロダンと同調を深める。

 だが、それでもなおユピテルの光刃を砕くことはできなかった。

 

 どころか、下手にそこに干渉と操縦を施そうものならば、ユピテルの出力と熱量はエリスとロダンを自爆に陥れるほどだ。

 過剰な熱量操縦によるフィードバックは月を照らす光源になるどころか焼き尽くすだろう。

 

 光の刃がロダンの頬を掠めながら、その剣戟の卓越ぶりにロダンは息を呑む。

 特筆すべきは剣の速さと重さだろう、剛直にして堅実。でありながら時として知性を試すかのようなフェイントを織り成しながらユピテルの二刀は踊る。

 恐らく蛸や蜘蛛ですらここまで腕が達者はないだろう。

 

 披露する剣の総てが殺戮技巧の芸術であり、限りなく理論値に肉薄している。

 

 

 人知を逸した戦いを前にして、リヒターですらも圧倒される。さながらそれは神話のようだった。

 

 エリスと同調を深めていくロダンは、さらに際限なく出力を引き出していく。

 星殺しを凌がれたと同時に、その輝きを反転させる。

 雷焔を、銀の光に還元しさらに進化していく。月が、雷が、焔が、一色に世界を染め上げんとばかりに唸る。

 三者三様に、衝動に突き動かされるかのように戦う。

 

 暴発寸前のエネルギーが居合を構えるユピテルの腕と刀身に奔り、抜き放たれた刹那の後に訓練場の壁は綺麗に斬り裂かれていた。

 

 輝剣の軌道上の一切は光刃を阻む事さえ敵わずに両断される。

 純然たる暴力の極限、破壊というカタチの一つの完成形をユピテルは体現していた。殺傷力――貫徹力。その点において間違いなくユピテルの光刃はかの絶滅光に比肩していた。

 

 縦横十字に振り抜かれる一撃に曇りはない。世界を両断しながらも尚、眼前のマリアンナを撃滅せんと猛る。

 横殴りの銀光もまた襲い掛かる中でさえ、マリアンナは踊るように槍を振り乱しながら焔の斬光撃を飛ばして相殺する。

 

 同時に二刀を翻すとユピテルはロダンを迎え撃つ。

 

「神聖詩人。貴様もまた自覚がないというのなら哀れ窮まるというものだ。理解していないというのならよく聞くがいい――狂い哭け、貴様の末路は詩人以外に有り得ない」

「抜かしたな、木星天。俺が詩人というのなら、お前の末路は英雄どころか英雄にもなれない誰かだ。その怒りの根源すらも自覚していない男が、俺達を知った顔で品評するな!!!」

 ロダンの赫怒を銀光が代弁する。

 怒りと雷の黄金、詩と月の白銀は相容れぬとばかりに鍔迫り合いながら、しかしそこに再び焔が参じる。

 

 もはやその災禍の規模は超人大戦にすら肉薄している。

 際限なく同調を深めていくロダンとエリス。

 

 その光の波濤をマリアンナはかいくぐる。

 ロダンとの剣戟を続けるユピテルの虚を捉えて、マリアンナは飛翔する。

 

 

「終わりです、ポースポロス!!!」

 ポースポロスを正眼に見据えたその瞬間、マリアンナはついに意を決する。

 多段に重ねた、自らの焔による加速飛翔。加速の衝撃で潰れる臓腑の痛みさえも飲み下しながら、彼女はついにその刃をユピテルの心臓に叩き込んだ。

 

 焔と共に捻じ込まれる断罪の槍が、ついにその神鉄に食い込んだ

 口から血を吐くユピテルに、確かにその命を絶った実感をマリアンナは理解する。そして――。

 

 

「――まだだ」

 その違和をマリアンナは感じ取る。

 

 心臓に確かに刃は届いた。間違いなく、その腕の感触が事実を伝えていた。

 だというのに、悪寒がした。

 

「まだ、まだだ」

 みしり、と、何かが軋む音がした。

 

 聞いてはいけない音が、聞こえてしまった。目になど見えない、しかし確かに()()()()()()が、ユピテルの心臓から広がっていく。

 次いで、ばきばきと、ガラスが割れるような音へとソレは変じた。

 

「あぁ、そうだ。まだだとも。俺は未だ、怒りを完遂してなどいない――!!!」

 

 何かが砕けようとしている。

 そして、今ソレは確実に砕けた。

 

 世界が文字通り、ひび割れて。次の瞬間には無傷のユピテルがそこにいた。

 マリアンナの槍には血の一滴すらこびりついていない。

 

「――嘘、でしょう」

 此処にきて、初めてマリアンナは驚愕した。

 一体、今この男は何をしただろうか。

 確かに命を奪った。奪ったはずだが、その光景は()()()()()()()()()()()。回復というカテゴリに分類される星辰光も騎士団には存在しているが、そんな性質はハナからユピテルは有していない。

 

 加えて、ユピテルの体表には黄金の輝きが溢れていた。

 ……その雷霆は、極めてよく似ているが決してユピテルのそれではなかった。禍々しく、毒々しい、命を否定するかのような熾烈極まるその輝きを、マリアンナは知っていた。

 絶滅を意味しながら同時に敵味方の別なく総てを魅せつける煌めく光。

 

「……有り得ない。そんな事、そもそも貴方は――」

 絶滅光(ガンマレイ)――鏖殺の雷霆(ケラウノス)が、三次元空間上に確かに存在していた。

 因果の突破に至った閃奏が成し得る御業の片鱗をユピテルは纏い、地獄の淵から不死鳥の如くに舞い戻った。

 嘘だ、有り得ないと叫ぶ以前に困惑が頭の中を埋め尽くした。

 

 なぜ鋼の限界突破が如く、閃奏の片鱗をこの男が宿しているのか。

 あの極晃を宿す資格を、なぜこの男が有しているのか。有り得ないはずだ道理が通らない。

 

 

 間も無く返す刀で振り下ろされる極光剣が、マリアンナの胴を真一文字に絶滅の光と共に断った。

 

―――

 

 殺し返された。マリアンナの胴は無慈悲に割かれた。

 裂かれた、はずだった。

 

「は、ああああぁぁぁぁ!!!」

 だが、マリアンナは肺腑を奔る激痛に一顧だにすらしなかった。

 直後、深々と刻まれた傷口を在ろうことか自分の焔で灼いて強引に繋いで見せた。

 開き離れかけた肉と肉を、焔で焼いて溶接した。こんなモノは蘇生などとは到底言えはしない、今度はユピテルが驚愕を返す番だった。

 

 尽絶な――それこそ英雄か強欲竜ぐらいしか耐えられないであろう激痛をマリアンナは味わったはずだ。地獄の方がなおマシだと思えるほどの痛みを、マリアンナは感じたはずなのだ。

 

 今しがたユピテルが成した奇跡には到底及びなどしないし、奇跡などと認めていいわけがない。

 それでも、マリアンナは例え末路を遅らせるだけであろうと死を回避して見せた。その一点において、間違いなくマリアンナはユピテルと同等の奇跡を即興で遂行したのだ。 

 

「ぐァ……!!」

 振り放たれるは鉄血の焔。

 身を削った奇跡は、だからこそここに結実する。今度こそ、マリアンナはユピテルの骨肉を袈裟に断った。 

 

 二度目の致命をもねじ伏せんと、ユピテルの心臓は駆動する。

 数度の鳴動はしかし、奇跡の成就に至らなかった。

 

 ユピテルの躯体でさえ、煌めく光を二度も宿すには容量が不足していた。それほどに英雄の極晃は規格外であったのだろう。

 甚大な吐血を伴いながら、しかしユピテルは尚も膝をつかず星も解かない。怒りに燃える、放射線の如き視線はもはやそこにはなかった。

 

「……潮時か。炉心の酷使が理由だろうが、仕方あるまい」

 そうとだけ、ユピテルはつぶやく。多大な血を流し床に血だまりを作りながら、一顧だにせず星を解く。

 光の残照を散らしながら、次第にユピテルの体は光の粒子に変わっていく。

 

 マリアンナは膝をつき、ユピテル以上の出血を晒しながらも彼を睨む。

 

「貴方は……この国で何を為そうというのですか」

「言ったはずだ。歪んだ光を、その眷属を諸共に焼き尽くす。そのためにだけ俺の心臓は在る」

 ただ、そのためにだけ俺は生きているのだと、ユピテルは告げる。

 それからロダンとエリスにその視線を写す。その姿はやはり、今まで戦っていた時のそれとはまったく別だ。ともすれば教養を感じさせるほどに静やかですらあった。

 

「……銀想淑女。最後に滅ぼす魔星がお前である事を俺は祈る」

「英雄譚と逆襲劇の再演でもしろとでもいうのですか。そんなモノは例え死んだとしても御免です、そんな運命に、ロダン様を巻き込む等許されません」

「無論、俺達の運命は俺達が完遂すべきだ。神聖詩人に咎はない」

 そのユピテルの受け答えにエリスは一種、呆れと諦観の混じった顔をしていた。

 致命的にユピテルと自分では考えがズレている。そう言う事を自分は言っているのではないと、エリスは歯噛みする。

 水星天とは別の意味で話が噛み合わない。ユピテルは知性はあるし、人の話に耳を傾ける度量もある。その上で、結局方向性も何も変わりはしないのだ。

 自分が至高天の階と敵対する理由はユピテルの掲げるごもっともで自己犠牲的な義務感から生じたモノではなかったからだ。俺達、などとひとくくりにされる事を、エリスは嫌悪していた。

 

「私が、貴方諸共滅ぼします。そして私は生き続けます」

「否。総てを滅ぼした後に俺自身が灰となる事でのみ運命は達成される」

 エリスは、そう凜然と告げる。

 淑やかで、ミステリアスで、つかみどころがなく。けれどロダンの事となれば彼女は驚くほどに態度が変わる。

 その様に、ユピテルはほんの少しだけ思案を馳せる。

 生まれて間もない命をいずれその手で裁くと決めている。その罪深さを理解していながら止まれない己自身に何より彼は何より激怒していた。

 その怒りを、自分自身ですら制御ができない。天井というものが欠落していた。

 

 瞼を閉じれば、その怒りの視線は自分自身に向いていた。

 ほどなくして光となってユピテルはこの場から掻き消えた。

 

 再度の激突を予感させながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




渾沌裁く審判の霹靂(Cielo di Giove)顕現するは木星天(Dawn-Ray Phosphoros)
AVERAGE: B
発動値DRIVE: AAA
集束性:AAA
拡散性:E
操縦性:AAA
付属性:E
維持性:E
干渉性:E
荷電粒子超々集束・亜光加速能力。
光速度に準ずる速さまで荷電粒子を加速させて斬撃を放つ能力。
発動体たる二刀を加速器にして放つ超高密度の斬撃に貫徹できないモノは存在しない。
超出力・超集束によって放たれる一撃はまさしく歪んだ光の楽園を焼き尽くし、堕天を齎すに相応しい幕引きとなるだろう。

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