後多分話の通じなさで言えば水星天より上です。
夜、ポースポロスは寝たふりをする。
ジュリエットが寝静まったことを周到に用心深く確認すると、ゆっくりと音を立てずに寝所を抜け出す。
「済まない、ジュリエット」
すぅすぅと寝息を立てるジュリエットを後目に、ポースポロスは済まないと一言謝りそして家を出る。
例え罠だと分かっていても、今の彼には対峙しないという選択肢はなかった。
結局、こうなる。悪魔を殺す事は彼女を悲しませる事でもある。
だが、それで立ち止まれるようなら報復等最初から考えていない。そのような利口な設計をされていない。
摩天震龍なる人物は自分とジュリエットの事を知っている――その事実がポースポロスに無視を許さなかった。
静かな夜の中、ポースポロスは皇都の外れへと赴く。
総てはあの手紙の主、摩天震龍という男に相対するために。
人一人いない街を越えて、霧が濃く、鬱蒼とした森へと歩みを進めていく。湿り気を帯びる土の音が、否応無しにポースポロスの勘を研いでいく。
「――っ、!!!」
微かに風の音が響くと同時に、その頬を戦斧が掠めた。
まるで意志を持つかのように巨大な戦斧は弧を描きながら飛翔する。ほんの一瞬でも肌を撫でれば挽肉に変えかねないほどの鋭利さと質量を帯びながら、戦斧は尚も飛翔を続ける。
その異変に気付くとすぐさまにポースポロスは駆けだした。
確証はない――ないが、摩天とやらの差し金なのだという事は理解はできた。
背後から襲い掛かる斧を一瞥すらせずに宙返りと共に蹴り飛ばし、着地と同時に右腕を軸として体勢を反転させ、残る一振りを済んでの所でかわす。
その間一秒として足らず。神速の武錬をさらりと披露しながら同時にポースポロスは疾駆を続ける。
あちらもこちらが見えていないだろうに大したものだと感嘆する。真っ当な使い手でなければ練度でもない。
ほぼ恐らく戦場の勘でこちらを丸裸同然に見抜いている。
「シィ――!!」
木の一本に五指をめり込ませ根ごと引き抜き、それを渾身の力で振り抜く。
ポースポロスの人知を逸した膂力はそこらに生えている単なる名も無い木を音速の質量兵器に変えてしまう。
だがその返答の如くその木は両断され、次の瞬間にはポースポロスへ両断された木が蹴り返される。
開ける視界、その彼方に邂逅するのは――土星天だった。
暗中で鋭い脚撃を交わしながら、その勢いでポースポロスと土星天は後ずさる。
「俺の名は
「……」
その男の出で立ちはポースポロスをして異様と思わざるを得なかった。
威風を示す筋骨と長身、両腕に握られた己が半身程の大きさの戦斧――そして先ほどの戦い。
総てがその男が戦場で生きてきた存在である事を示していた。
であるというにも関わらず、その男の目は闇に淀んでいた。光を求め、闇の一色に染め上げる事のみを至高とする歪んだ感性の発露がそこに在った。
「貴様が至高天の階であるというのなら俺の敵だ」
「然り。俺はお前を殺す為だけにこの機を待ちわびてきた。……お前に奪われた総てを、この手で取り戻すために」
ポースポロスの言葉にテュポーンはくつくつと、沸騰寸前の鍋蓋のような薄い笑い声を上げると――ポースポロスの持っていた二刀を彼に向って放り投げた。
間違いなく挑発だ。
「刀を取れ、全霊の貴様でなければ俺が打ち砕く意味はない」
「望み通り、露と散らしてくれる。意味なく散るがいい悪魔め」
それをポースポロスは掴むと、怒りの灯った視線をテュポーンに向けた。放射線の如き凄絶なエネルギーを孕んだ視線に恐怖するどころかそれでこそとテュポーンは嗤う。
ポースポロスの心臓がテュポーンが不倶戴天であると教えていた。
「俺と戦うがいい、英雄。お前の骨を噛み砕き、その血で喉を潤し、その肉を腹に納めた時こそ俺の救済は訪れる。……いいぞ英雄、その目だ。その目こそが俺を滾らせる」
「……強欲竜の類か、いずれにせよ貴様は今ここで殺すと誓った。――俺の二刀は俺の骨肉も同然だ、貴様如きが弄んで良いモノではないと知れ」
二刀に怒りを代弁するがごとく紫電が走る。
その二刀こそ、彼の素体となった者たちの鋼を材料として創り上げられた彼だけの得物なのだから。
「俺はお前という全存在を打ち砕き蹂躙する。その時を夢想する刻こそ俺は――嗚呼――俺は!!!」
闇の深淵を映す瞳が、狂気の緋色を描く。
暴力的で身勝手なまでの歓喜に、テュポーンの星光は打ち震える。
それは毒々しく、そして壮絶だった。英雄の討つ摩天の牙がここに顕現する。
「創生せよ、天に描いた遊星を――我らは彼岸の流れ星」
紡がれる起動詠唱に淀みはなく、朗々と闇を紡ぎあげていく。
「此処は土の星、第七の天体。傲慢なるかな絶対不敗の天頂神よ、汝が雷霆が総身を打ちのめす。大地を舐めて幾星霜、土の味だけが我が空虚を繋ぎ止める。朽ちる総身の何たる無残、我が骨肉だけが屈辱の忘却を許さない」
びきびきと青筋を立てながら狂気と共に隆起する躯体が男の変貌を物語る。
もはや正気を宿していない闇の眼光が炯々と輝く。
「英雄譚よ腐れ堕ちろ、我が所望は堕天ただ一つ。決しよう天頂神――勝利の果実を共に争おう、
これなるは配役を変えた神話の再生。
故に
「超新星――
―――
テュポーンの星光による異変は即座に現れる。次々と枯れ落ちる。
命在る者一切絶滅してしまえばいいとばかりに、テュポーンはその輝きを放つ。
光――光。命を否定する、絶滅の輝きがテュポーンから溢れている。
その瞳を闇に濁らせながら、歓喜にその巨躯を震わせている。
「核分裂、放射能光。だが――」
その輝きにポースポロスは既視感を覚える。
……既視感、どころではない。知らぬはずがない、英雄の系譜を継ぐ者。
だが、なぜこの男はそれを振るっているのか、ポースポロスをして理解が追い付かなかった。
「英雄――英雄、ああそうとも。お前が知らぬはずはない、お前が俺に教えた
勝利の栄光は爛れ堕ちる果実が如く、顕現するは土星天
AVERAGE: AA
発動値DRIVE: AAA
集束性:C
拡散性:E
操縦性:D
付属性:AA
維持性:AAA
干渉性:AAA
「維持性――放射能光の付属の巧みさを鑑みれば付属性にも秀でている。加えて分裂光を連鎖的に引き起こす超高次の干渉性。撒散らし汚染する事を至高とする闇黒の光か」
「然り――お前のお前の落日に相応しかろう!!!」
星を持たぬ者なら、秒で即死するだろう。白血病、ないしは最たる例は癌だ。
瞬時の判断で全身に星を巡らせなければ、半人半機たるポースポロスですらも毒光に蝕まれていただろう。
絶滅光とは原理は同一だが、根本的な指向が違う。
絶滅光に比べれば確かに土星天の毒光は遅効性だ。即死に至らしめる性質のものではない。
だが必ず蝕み殺す、千年かかろうと、万年かかろうと呑み殺す。蛇の如く総身で縛り上げ、肉も骨も砕き、毒を流し込み、総てを喰らう――その妄執を光に垣間見る。
半減期等ありはしない。名誉も大地も血肉も、総てを半永久的に汚染し貶め嘲笑する事を至上としている。光でありながら、絶滅光の対極にある闇黒の光だ。
「なるほど、故に
二振りの戦斧と二刀が宙を踊り、撃滅の輝きを散らしながらつばぜり合う。
断頭台の如く振り抜かれる光の軌跡を真っ向から迎撃しながらテュポーンもまた疾駆する。
体表に纏う毒光は攻防一体の核熱の鎧となり、駆け抜けた後に残るモノ総てを枯れ堕とす。辺り一面の線量はけた違いに跳ね上がっていき、脆弱なる生命を駆逐していく。
焼け爛れた大地にただ一人ポースポロスは二刀を構える。
全身に纏った荷電粒子の電界が毒光を偏向させる事で彼もまた毒光を中和しているが、それでも段々と末梢に感覚に違和を覚える。
加えて、閃奏の星を借り受ける事もまた今のポースポロスの炉心の状態では難しい。
仮にそれを成せたとしても、言うまでもなく土星天の毒光の維持性が生半可な蘇生を許さない。
常にポースポロスの身を削り続ける以上、たかが一度や二度の奇跡等諸共に蛇竜の毒に蹂躙されるだけだ。
「英雄――貴様は果たして何を俺が奪えば絶望する? あぁ――そうだな、ならば食前酒に例えばあの女がいい。たしかジュリエットとかいったか? そうだな、俺も魔星になってから久しく色というモノを味わっていない」
「――貴様」
憤激の輝きがポースポロスの隻眼に灯る。抉られたがごとき眉間の皺が、その怒りを代弁している。
握り潰さんばかりの握力を籠めながら、二刀は握りしめられる。
「その穢れた口を閉じろ、貴様が如き魔星風情がジュリエットの名を口にするな。俺達の下らん宿業に彼女を巻き込んでみろ。貴様の細胞の一片までこの世から葬り去ってくれる」
「その怒りをこそ俺は待――」
怒りの執行者は言葉を待つことない。ポースポロスの刀をその殺意を告げるかの如く、加速器と化した刀を振るう。
その瞬間に、振り放たれた光芒は幾条もの光の矢となり、プリズムのように分裂し一面を焦土に還した。
ただの直線的な極光斬撃だけではない、英雄には持ち得なかった超高次の操縦性こそがこの芸当を可能としている。
幾条にも及ぶ光芒の軌道を総て制御し槍衾のように撃ち抜く芸当はまさしく神業と言えるだろう。
皇都の外れが震撼する。尽絶なるエネルギーの炸裂は遠目からでもうかがう事に難くはないだろう。
しかし過たず撃ち抜かれた光条の合間を縫って、毒光を纏ったテュポーンはその只中を最小限の負傷で潜り抜ける。
その程度の苦難など難なく潜り抜けるだろうとポースポロスもまた、第六感を頼りにテュポーンへと駆け抜ける。
「英雄、それでこそ貴様は、貴様はァ――!!!」
「誰の事を云っている、間抜けが」
侮蔑を露わにポースポロスは一刀を翻し怒りと共に地面に突き刺した。
音速を越えて駆け抜けるテュポーンへ向かって、その全霊を右脚に込めて突き刺した刀の峰を蹴り上げる。
「ぐ、ごァ……ッ!!」
「散れ、
鎧たる毒光でさえ、天霆を受け止めるには藁屑同然であり深く肩口を抉られた苦悶をテュポーンは漏らす。
極限まで加速された荷電粒子は擦過するだけでもその傷口を焼き尽くす。痛みは当然尽絶なモノに他ならない。
振るわれる二の太刀が胴を両断せんと飛翔するがそれを土星天は許さない。
戦斧でその一撃を受け止めると膂力を以ってこれを押し返す。
「ぬ……ぅ!! さすが、それでこそ――それでこそお前は俺が殺す価値があるぞ
「――そう言う事か。これでは水星天の方がまだこれでは話が通じる」
テュポーンは確かに今ポースポロスと相対していながら、しかし彼を見てなどいなかった。
見ているのは、過去の英雄。絶滅光の担い手――クリストファー・ヴァルゼライド。
もとより、ポースポロスは彼の極晃への接続を目的とした躯体設計となっており、加えて身体的特徴や嗜好等、記号上においても細かな点を限りなく英雄へと近づけて設計されている。
故に英雄と見紛うことに無理はないが、それにも限度というモノが当然ある。例えるならばもっとも最たる例は星辰光の資質だろう。
集束性は無論継承しているにせよ、ポースポロスの特化している第二の資質は操縦性であり、英雄は付属性である。
英雄を模してこそはいても、それでも完全に同一視しきれない差異というものはどうしても存在する。
だが事ここに至るまでテュポーンの述べている文脈はほぼその総てがポースポロスではなく故人へとたたきつけられている。
人違いにもほどがある。ともすれば錯乱しているとも捉えても差し支えはないあろう。
「応報の機を授けた事に感謝するぞ魔女よ。英雄を討った後に貴様らも諸共に討ち滅ぼしてくれる」
「魔女に何を吹き込まれたかは知らんが俺は英雄ではない、人違いだ他を当たれ」
無論、他を当たる前にポースポロスが殺しに行くだけの話だ。
尚もポースポロスを観ようとしない有様はまさしく妄執だ。何が起因しているかは知らないが英雄への妄執という一点において、彼は強欲竜にすら伍するだろう。
「英雄を俺の手で討たせてもらう取引として堕天と戦う事――それが魔女が土星天に突き付けた条件だった。そして今こうしてお前を戦っている――ならば是非もあるまい英雄よ、貴様の敵はここに居る!!!」
「
ポースポロスには言葉を交わす気さえも蒸発していた。
この男は何処までも自分と問答をする気等ないし、彼もまた真っ当な解答を土星天に期待などしてなかった。
「俺を滅ぼし堕天を滅ぼし、魔女も滅ぼす。よかろう、それで貴様は何を為す」
「知れた事。貴様に奪われた俺の国を我が戦斧と共に打ち立ててやる」
「それを誰が喜ぶ。お前の打ち立てる帝国とやらの復活を望む者がどこに居るという」
「――どこにも居ない。もう、何処にもな。臣も、民も、誇りも、帰るべき場所も総てお前に奪われた、お前が奪ったのだ英雄。貴様が言えた言葉かァァァァ!!!」
「貴様の事情等俺が知るかと言っている」
闇のケダモノのその慟哭だけは、真に迫っているような気がした。
渾然とした闇の根源にあるモノ、それは決して狂気などではない。英雄に総てを奪われた――それをしきりにこの男は口にする。
「貴様にどのような過去があったか等知り得はせん。だが俺を無視するというのならそれで構わん、俺の名を知らずに死んで逝け、今の貴様には名を覚えられる事すら不快だ」
荷電粒子の光刃は音すら置き去りにしながら戦斧と打ち合う。
それでもなお、土星天のその戦斧捌きは微塵も曇っていない。眼前の男を粉砕せんと猛る限り、在りし日の武錬を十全以上に発揮し続ける。
「う、おおおおぉぉぉ!!!」
「はあぁぁぁぁ!!!」
極輝の斬光剣が、被爆光の戦斧が正面からぶつかるたびに尽絶な爆圧が生じていく。
切り結び合う度にその出力の桁が跳ね上がっていく。
世界等壊れてしまえとばかりに、物理法則に二人は挑戦状を突き付け続ける。
だが土星天の眼光にもはや正気の光は宿っていなかった。わけのわからないうわごとを叫びながら、尚も限界を超えてポースポロスと打ち合っていく。
それは光と闇の戦争の再現であり、互いに出力を跳ね上げながら際限なく殺し合いを演じていく。
そして数百合打ち合った後にキン、と甲高い音と共に、互いにあとずさりながら得物を構え合う。
ポースポロスは一刀を大地に突き刺し、祈る様にもう片方の一刀を天に掲げる。
成層圏を睨むように、その刀は空高く光が立ち上る。
同時にポースポロスのその背に星辰体で編まれた片翼のようなものが生じる。
それは形状として近いモノを挙げるなら翼と呼ぶべきだろう。実体はなく、しかし一種の神話的な神々しさが宿っている。
神話に謳われる終末的光景――光の羽毛が舞いながら綾を織る様に幾条もの輝線を束ねて一筋の極光剣となる。
対して土星天もまた、その星を漲らせていく。
放射線量の桁を跳ね上げていく。もはやその熱量に土星天の外殻が耐えられていない。
干渉に次ぐ干渉によって己自身が星辰体と物質の中間とも呼ぶべき存在に変貌している。もはやそれは人どころか魔星ですらない。己が肉体の主体を星辰光に塗り替えられている。
強いてこれに近い生態を上げるとするならば、自立活動する星辰光の代表格たる冥狼だろう。
「散れ、土星天。お前に嘆きは訪れない。ここが貴様の妄執の終着駅だ」
「否――俺は往くぞヴァルゼライド!! 俺は、お前に――」
ポースポロスは、その腕を全霊を以って振り下ろした。
光の奔流と共に、土星天の断末魔は最後の言葉が紡がれる事なく焼き尽くされた。
その夜、皇都には地震が起こり、名も無き森の一角は隕石が落ちたがごとく焼け爛れていたという。
―――
その夜、皇都が揺れたという話をジュリエットは朝になって知った。
体を起こして、ベッドから起きようとするとポースポロスがそこにいた
「……ポースポロス。夜更かしでもしてた? 顔、なんかすごいけど」
「元々、あまり落ち着いて寝付ける性分ではない。心配させたか」
「いえ、別に。そんな事よりほら体見せて。傷の具合見るって言ったでしょ」
彼女の言葉にポースポロスは一瞬難色を示した。
あの皇都を文字通りに震撼させた夜、ポースポロスはこの家に帰った。
自分が何をしたのか、それを知られる事はあまり好都合ではなかった。だがそこで言い訳する気もなかった。
椅子に腰かけさせられ、上着を取り去る。
包帯を解かれると、彼女は傷の具合を診ながらまた手当を続けていく。
「うん、治りが思ったよりも結構速い。あと四日は余裕をもって見積もった方がいいけど」
「……」
彼女は、不気味なほどに何も問わず、ただ傷の具合を粛々と見ている。
筋肉の緊張状態や、星辰光の行使への負荷等容易に見抜けるはずなのに彼女は口にしない。
「じゃあ、ほら。これで良し。寝てもいいよ、ポースポロス」
「……ジュリエット。お前は、俺が昨日の夜何をしていたのか知らないのか」
「……分かってますよ、そんな事。貴方の体からは極めて強い星辰体感応の痕跡が見える。筋肉の緊張状態も当然触診から分かる」
彼女はその背にぺたりと手を添える。
どうして貴方はそうなのかと、力の限りで抗議するように。
「お前には、明かせない」
「そう。それは貴方の言う悪魔に関する事?」
「もとより俺は悪魔だ。故にお前の優しさを施されるべき資格はない」
只人として穏やかに生きるという選択肢はあり得なかった。
あらゆる困難を塵屑のように踏みつぶし踏破し、結局最後にはやり遂げてしまう――その性質を指して、光という。
けれど。
「よかった、……他人の空似だから当然だろうけど貴方は英雄じゃない。――今の貴方は、まるで
「――」
子供のよう――それは一側面としては正しい事実だ。
ポースポロスは製造されてから一年も経っていない。
自己評価の低さ、自罰的な思考、そんな部分を彼女は察している。
「……理解者面されるのが不愉快かもしれないけど、それでもポースポロスの事は患者としてなら誰よりも理解しているつもり。だから貴方を決して見捨てるつもりはないし、通報するつもりもない」
「……済まない」
「返事はちゃんとしているように見えて、自分が悪かった、済まなかった、お前には何も明かせない、の三種類の内の大体どれか。別に多分会話を打ち切ろうとする意図はないんだろうけど、そういうのは良くないと思う」
……ポースポロスの拳は、今はもう握りしめられてはいなかった。
彼女の想いをこうして踏みにじり、これからも悪魔を皆殺しにするまで踏破する。
その果てに自分自身を焼き捨てる事こそが閃奏に星を借り受けるための契約だった。勝てるかどうかではない、勝つ以外の道を彼は考えない。
故に、結局最後は彼女はポースポロスを救えない。ポースポロスはその病を抱いたまま、いずれ必ず消滅する。
だから、少しだけポースポロスは彼女の献身に淡い想いを馳せる。例え確率が絶無であろうと自分が地上を去る前に、彼女の手が自分の病に届くことを。
―――
エリスさんとロダンが聖庁に向かった日、イワトおじさまから伝えられたのは二人が星辰体研究のために聖庁に保護されるという事だった。
けれど、イワトおじさまはどこか私に甘い所がある。
本当の事を聞かせてほしいと私がねだれば、歯切れは悪いながらも教えてくれた。
全容は知らないけれど、それでもロダンがエリスさんの研究協力に頷かずにエリスさんを護ろうとしたことは聞かされた。
エリスさんは当初、その研究協力に反抗して星を使った事。
それからロダンはエリスさんを護って戦った事。
……だからこの名目上の保護は収容の意図もあるという事。
エリスさんはそんな事をする人じゃないと私は知っている。
そんな風に反抗するという事はやっぱり、別に研究協力の名目というのは半分嘘で、この国ではない星辰奏者として収容されているという事なのだろうという事も察しはついた。
そんなエリスさんをロダンが庇った事も想像に難くなかった。
そう、ロダンはいつだって優しい。
私は彼に救われてきた。親を失った私の家族代わりとなって、ずっとついてきてくれた。
……それもきっと私の主観ではそうだというだけでしかない。
私は――違う。ロダンが付いてきてくれたんじゃない。私が、ロダンに依存してきた。
姉として慕われるたびに私は嬉しくなった。始まりが家格に起因する彼への優越感だとしても。
彼は正直、あまり社交的な人じゃなかった。いつも彼は本が好きで、そんな彼を外に連れ出そうとしたのが私と彼の付き合いの始まりだったと思う。
走るのがやっぱり彼は慣れなくて、それでもいつだって私に懸命に駆けてついてきてくれる。
かくれんぼや鬼ごっこの途中でこけても膝をすりむいても、泣きそうになりながら私の背中を追いかけてくれる。
姉さん、姉さんと彼の口とイントネーションで言われるたびに、私はとても嬉しく思う。
背を追う者と追われる者が逆転したのは、私が親を失ったあの時からだった。
彼はもう一度私が歩けるようになるまで、今度は自分が待つ番だと言ってくれた。
だからもう一度立ち上がって、立ち直って。もう一度彼に背を追わせてあげたいと思った。
今だって、正直全然立ち直れてなんかいない。
胸にわだかまる悲しみと私は訣別できていない。未だにこの屋敷の中に親の姿の幻視するし、夢に親は出てくる。
本当に、大好きだった。
母さんはよく私の頭を撫でてくれて、父さんは私が自分のお小遣いで初めて買ったハンカチをいつも大事そうに身に着けていてくれた。
今は、ロダンがいてくれる。
彼はいつだって私を一人にはしなかった。
歴史にもしもというものはないだろうけどもし彼が騎士を続けていたら、彼は亡きルーファス卿にだって負けない優しい騎士になれていはずだ。
例え彼が誰に評価されなくたって、私だけは彼の良い所を知っている。
だから、彼が誰かにその優しさを向けるという事は喜ぶべき事なんだろう。
エリスさんは切なさそうな顔で、ロダンに対する想いが自分でも分からないと言っていた。
ロダンとエリスさんはどういう仲だったのかは分からないけれど、それでも彼と彼女の仲は大きく変わったことは分かったし、そんな顔をして言葉を絞り出しているならもう自分で答えを言っているようなものだと思う。
……エリスさんは、きっとロダンが好きなんだろうし、ロダンはその優しさを今はエリスさんへと向けている。
エリスさんが少しだけ羨ましいと思えた。
昔から彼を知っているのは私だけ。そんな無意識なエリスさんに対する醜い優越感が私にはあった。
それに対し、エリスさんのなんと純粋な事だろう。純朴、無垢、そんなところをロダンは気に入ったのかもしれない。
だから、悔しかった。
……こんな私を、エリスさんにもロダンにも知られたくない。
私は事故によって親を奪われた。
――なら、ロダンを私から奪うのはエリスさんになるのだろうか。
私はエリスさんが大事だ。私にできた友達だったから、それは決して変わらない。
別に、逢えなくなるわけじゃない。
親を亡くしてから何度かあった名家の縁談を断ったのは、気持ちの通わない婚礼を快く思わないかったのもあるけれど、ロダンとそもそも物理的に逢えなくなることを恐れたからだった。
エリスさんとロダンが仲良くしている分には別に、物理的に私とロダンはあえなくなるわけじゃない。
けれど、ロダンの気持ちは今エリスさんに強く向いていることは分かる。
物理的な距離の隔絶がない事が保障されている今は、心の距離の隔絶が怖かった。
それは身勝手で強欲な願いなのかもしれないし、欲するところに天井がないと笑われても仕方のない有様なのだろう。
もしエリスさんとロダンが結ばれる日が来るとしたら。私はその時本当に彼女を祝福できるのか、今の私には自信がなかった。
勝利の栄光は爛れ堕ちる果実が如く、顕現するは土星天
AVERAGE: AA
発動値DRIVE: AAA
集束性:C
拡散性:E
操縦性:D
付属性:AA
維持性:AAA
干渉性:AAA
核分裂・放射能光発生能力・汚染型。
発動値を維持し続ける限り放射能光に酷似した性質を発揮し続ける、半減期無き闇の光。
突出した付属性、維持性、干渉性により半永久的に付属させられた対象を毒光で蝕み続ける、極めて猛悪な性質を持つ星光。
その干渉性により常に連鎖的に核分裂に次ぐ核分裂が常に生じている状態でもあり、その光を攻防一体の鎧としても扱うことができる。
闇の属性にありながら光という形で星が顕現したのは、一重に素体となった男が絶滅光の味を極めて詳細に知る一人であるためだろう。
脆弱な生命を否定する、闇黒の光はただそこに在るだけで無尽の災禍を齎すだろう。まさしくその有様は土星の龍――そして天頂神の敵対者が如く
そして忘れてはならない。土星天の妄執に半減期という概念は根本から存在しないという事を。