シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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めちゃくちゃ間が開いてすいません、扁桃炎で死んでました


多分現状2/3が終ったぐらいなんですが、次回投稿も少し間が伸びるかもしれません。
そうなったときはちょっとしたキャラ紹介とかみたいな感じで脇道に逸れるかもです。


死想変生 / Divine Lost

「創生せよ、天に描いた明星を――我らは極夜の流れ星」

 

 悪魔の祝詞は、唐突に紡がれる。

 共振する神鉄が莫大な量の星辰体を励起され、秩序は一色に塗り替えられる。

 

 

「此処は終の星、第十の天体。全霊鎖す氷の冥府に天昇の未来は縫い付けられた。されど胸を焦がす激情は何やらん、成就せよ我が天昇。秩序の鎖よ朽ち果てろ、砕ける音を幾度待ちわびた事か」

 ルシファーの胸の神鉄は黄金に輝き、そこから塔のように一本の槍が現出する。

 神罰の儀を遡るかの如く、その槍を引き抜きルシファーは右手にその光の槍を携える。

 

「輝く六翼は天を翔け、神塔(バベル)の果てを飛翔する。如何なる炎熱も雷霆も我が墜落を担うに能わず、故に二度と堕天は訪れぬ。愚かなり、いと高き者どもよ、汝らを試みるは我に在り」

 輝く星々を従えながら、堕天の王はここに降臨する。

 

 

「無間の夜は明け、第十の天は顕現する。衆生よ森羅よ万象よ、黎明が汝らの心を照らすまで、我が言葉を導に抱くがいい。――光輝を纏え、喝采と共に我が名をここに執行しよう」

 神の庭をあざ笑うかの如く、輝きを冠する人造の神性は数多の光の柱を従え顕現する。

 これなるまさに人造神、地の底より生まれ今や天をつかまんとする者。

 

 それは、大和をも撃ち落とす暁の御子――黎明の翼(ルシファー)。 

 

 

「超新星――熾天統べる黎明の翼(Cielo Quieto)顕現するは至高天(Empireo)

 

―――

 

 

「――嘘、だろ。ルシウスさん」

「それは人であったときの俺の名だ。輝ける者、と呼ぶがいい」

 息をするだけでもむせ返りそうな星辰体濃度が、眼前の男が魔星であることを端的に示唆していた。

 エリスや木星天と比べても、その出力は常軌を逸していると評価するほかない。

 

 単純な出力――その一点のみ関して問うならば、恐らくは極晃に迫ろうとさえしていた。

 

「……ロダンさん!! これはいったい……!?」

 その只中で、オフィーリア副長官は聖庁の庭に駆けた。

 特級の異常事態は、誰彼構わず否応なしに混沌へと陥れていく。騒然とする騎士たちの声が聞こえる。

 

「わからない。わからないがアレも至高天の階だ。俺の事を神聖詩人だと言ったからな。あちらはルシファー、とだけ名乗っていた」

「……試製人造惑星壱型――ウェルギリウスが製造していた魔星の一体と名前が一致している。……という事は」

 副長官は、驚愕と共にルシウス――ルシファーの顔を見つめる。

 そんな副長官の姿を、ルシファーはどこか興味深く眺めていた。依然、光のように輝く黄金色の視線はそのままに。

 

「なるほど、その様子では恐らく魔女の真実に達したか。その通りだ、女。ウェルギリウス・フィ―ゼの創り上げた魔星が一柱にして共犯者、至高天の階(エンピレオシリーズ)の頂点に立つ者――それが俺だ」

「……貴方が、ウェルギリウスの創り上げた魔星だと?」

「……そういう貴様は、ウェルギリウスのいうところによるかつての知己という奴だったか。オフィーリア・ディートリンデ・アインシュタイン。時折ウェルギリウスは貴様の名を口にしていた」

 視線はそのままにルシファーの持つその光槍が無情にも副長官に振り下ろされようとした。

 それは当然、受け入れかねる。冗談ではない。

 

「――エリス!!!」

「えぇ、何時だとて仰せのままに。ロダン様!!」

 同様に俺も星を励起させ、真正面から光の波濤を銀剣で断ち切る。

 しぶきのように飛散する光の粒子に、ルシファーもまた目を見開く。

 

 数瞬遅れて、そこから俺の背にエリスもまた舞い降りる。

 敵意を隠さない緋色の瞳が、怒りの視線をルシファーに投げつけていた。

 

「ルシウス様。いいえ、魔星ルシファー。貴方もまた、至高天の階ですか」

「そうだと言ったが、淑女。銀月天の後継よ」

 直後、ルシファーの背には光で編まれた六翼が顕現する。

 それは熾天に謳われる神話がごとく、禍々しさと神々しさを渾然一体に併せ持ちながら編まれていく。

 輝く六翼は戦慄き、大気の星辰体を取り込みどこまでも出力を跳ね上げていく。

 腕に構えられた光の槍を打ち放たせてはならない。

 

 自分たちの後ろにあるのは大聖庁であり、そこには多くの人がいる。

 それを何の良心の呵責もなくこの男はやりおおせようとした。普通の精神構造ではない事は明らかだ。

 

 

機光集束刃(マターエッジ)――堕天の光輝よ地を満たせ」

「させるか!!!」

 考えるよりも先に、脊髄が俺の足を走らせた。

 剣を打ち合うその刹那にルシファーは腕をかざすと――俺達の足場としていた大地は唐突に剣のように隆起し、次々と接近を拒むように乱立した。

 

「副長官。逃げてくれ、話は端折るがコイツも至高天の階だ。貴方にどうこうとできる相手じゃない」

「……じゃあ、ロダンさんとエリスさんにはどうにかできるとでも?」

「少なくとも、貴方よりはどうにかできる。……何より、俺とエリスには無視のできない相手なんだ。副長官は逃げてくれ、グランドベル卿かリヒターならちゃんと貴方を守ることができるはずだ」

 少しだけ、後ずさりながら副長官は無言で頷いた。

 

「ごめんなさい、ロダンさん。今はこうするしかできない。だから貴方達も、命を優先して――!!」

「あぁ、そうしてくれ。……グランドベル卿とリヒターと合流したら逃げろと言ってくれ」

 言って、副長官は背を向けて走り去っていった。

 それを見届けた後に、俺達は再びルシファーへと視線を返す。

 

 ……一歩、遅ければ全身が串刺しとなっていただろう。似たような星光は、確か風のうわさでかの強欲竜団の長がそうであったと聞いたことはあるが、いまのルシファーの成した御業は根本的に異なる。

 

「……ロダン様、見てください」

「あぁ。……恐らくコレは単なる状態変化じゃない」

 乱立する杭のように隆起したソレは、明らかに材質が変わっていた。

 ……石や砂、草や土で出来ているはずの大地から黄金の十字架が生えている。それもただの金属じゃない――恐らくは星辰体と感応している事を見ると神鉄と同等の特殊合金だ。

 

「なるほど、これを読んだか。見立てはあっている、反射と理論に大きな乖離はない。だが――数秒先の演算が浅い」

 手を翳せば、次々とその十字架の杭は広がっていく。環境は侵略されるがごとく次々と黄金へと変じていく。

 この世に神はいないとあざ笑うがごとく、銀の輝きを駆逐するがごとく、世界は塗り替えられていく。

 

 

「例えば――、これらすべては疑似的な俺の発動体であり同時に俺の躯体も同然だ。これを同時並列的に感応、干渉させたらどうなる?」

「……ぐ、ああぁぁぁぁ!!!」

 パチン、と指を鳴らした瞬間に、杭の群れは数度の共振と共に連鎖的に爆ぜる。

 絨毯爆撃的に広がる爆光を、住んでのところでエリスの月光で相殺し俺は生きながらえた。

 同時に、エリスもその月の衣の幾分かは焼けてしまっている。相殺の月光でさえ、ルシファーの星光を殺しきれなかった。

 熱と痛みにエリスもまた顔をゆがめている。

 

 

 ……恐らく今ので理解はできた。

 

 天元突破の出力――それに比肩するのは、物質を自在に成型できる操縦性だ。

 だがそれだけはない。ルシファーの星を構成するあらゆる要素に穴と言えるモノが根本的に存在していない。

 

 

熾天統べる黎明の翼、顕現するは至高天

AVERAGE: A

発動値DRIVE: AAA

集束性:B

拡散性:AA

操縦性:AAA

付属性:A

維持性:A

干渉性:A

 

 

 

 比較する事さえ絶望的に感じるほどの圧倒的な力量、人と兵器の隔絶を突きつける差があった。

 

 ……そしてこの男の星は、単なる物質成型ではない。

 英雄の御業を()()()、神星の御業を()()()と例えるならば、今ルシファーが成し遂げた御業は()()()だ。

 物質そのものを根本的に別に物質に変換してしまう、人奏者とは異なるもう一つの創造性の極致。

 

「……立て、詩人と淑女。銀月天が地上に遺した月の残照と謳うのならば、その輝きを俺に見せてみろ」

「ふざ、けるな……」

 平平と、ルシファーと名乗るその男は言った。

 それはエリスと俺の怒りを煽るには十分に過ぎた。

 

「ウェルギリウスのせいで、あの女の子は物言わぬ鋼に変えられたんだぞ……!!」

「個体名はたしかクライディア・ハーシェルと言ったか。アレを見定めたウェルギリウスの観察眼の卓越は認めねばなるまい。俺も施術に関わったが――そうだな、術後の経過は」

「――お前も、ウェルギリウスに加担したというのかルシファアアァァァ!!!」

 足の筋がイカれることなど、もはやどうでもいい。

 剣を握って今まで、俺は恐らく初めて殺意を抱いた。再び乱立する鋼の杭も、力任せに銀光の剣でひきっさく。

 

「ロダン様――受け取ってください!!!」

「あぁ、行こうエリス!!!」

 地上だけではなく、今度は切り裂いた杭の破片が再度形を成して俺達に間断なく襲い掛かってくる

 眼前の遥か彼方から飛来する杭は銀剣が、背後からはエリスが対応する形で星殺しの銀光を行使する。

 

「鬱陶しい、邪魔だ!!」

 

 再度戦慄き乱立する杭も、銀剣を大地に突き刺し力の限り銀光に還元すればボロボロと十字杭は形を失い崩れていく。

 奪った星はそのまま俺達の出力になり、同時に膂力となる。

 

 同時にルシファーは核変換を介したのだろう、環境の改変すらも容易にして見せる。

 足場が底なしの湖へと変わりかければ、エリスの導きで波濤を泳ぎ切りながら星を殺し水を叩き割り地上へと免れ出でる。

 

 

「なるほど、環境改変への適応も早い。成長速度の速さは、恐らく淑女との縁によるものか」

「……お前の設計の元になったのは、恐らく天之闇戸か」

「加えて、ウェルギリウスによれば絶対神(ヴェラチュール)もだ。俺を陥穽無き万能として設計したらしい」

 今度は溶岩の溢れる灼熱地獄を創造する。

 それもまたエリスの振るう星を前にしては、煮える事さえなく岩礁と溶岩は冷えて固まっていく。

 

 

 シファーは光の槍を構えて、間合いに飛び込んだ俺と打ち合う。

 

「答えろルシファー。至高天の階とはなんだ!!」

「俺の試作品にして、俺が高みへ至るための踏み台だ。来るべき時が来れば、最後の一機となるまで、俺達は殺しあう運命にある」

「……ふざけるな、そんなことをする目的がどこにある」

「今までの極晃奏者たちがそうであったように、俺が成長するためには絶体絶命の窮地が必要だ。俺を極限状態まで追い込めるだけの強度を持った至高天の階だけが、俺を――俺と魔女を極晃へ導ける。十機の魔星の各々が殺し合いを演じ、勝ち残り己を高め上げた者と俺が雌雄を決する――これを以って俺達は聖戦と呼ぶ」

 文字通り、悪魔のごとき企みに、本当に俺は意志ある存在と対話しているのかを自分で疑いたくなった。

 だが少なくとも、自分と違う摂理に生きている存在の言葉であることは疑いようはないだろう。

 自らが極晃という極晃という高みに達するために好敵手を製造し、養殖するというその発想はあまりにも人智を逸していた。自ら望んで困難を創り出してまで、それを打倒する事で成長を得ようとする神経は俺には理解ができなかった。

 だからこそ、いくつか合点のいくこともある。

 木星天は俺達に対し苛烈に敵対しているわけではなかったし、水星天もまた気色の悪さを除けばさほど積極的にエリスを害そうとはしていなかった。

 ……魔星同士で殺しあうという最終目的においていかに特殊性があろうと、俺達の存在は看過しようと関与しようとさほど大局に影響を与えないからだ。

 聖戦の配役に入っていたのは本来銀月天であって、淑女と詩人ではないのだから。

 

「銀月天は製造されてから一度も目を覚まさなかった。残念ではあるが素質ある死体は貴重なものでな、代替がきかない。だが、地上で銀月天と同じ鼓動を持つ貴様の存在が確認できた時、魔女は一つの案を考えた。……物言わぬ銀月天に代わり淑女、貴様に第四世代人造惑星の成功例になってもらうという案をな」

「だから、火星天をけしかけたのですか、貴方達は。何もかも、ロダン様との邂逅も、仕組まれていたものだと……!!!」

「概ね正しい理解だ淑女。神天地で共に極晃を描いた者を探し地上を彷徨っていた事は知っている。お前の魔星としての特性も概ねのところは把握している。ならばその片割れたる詩人を追い詰めれば自然、お前は恐らく未だ目の覚めぬ銀月天に代わりその機能を使い詩人を助けるだろうと予想していたが――ここまで完全な形で接続機能をトレースする事までは予想していなかった。」

 あざけるわけでもなく、ルシファーは淡々と事実と所業を述べていく。

 何も罪悪感など感じ入ることもない、自分が高見に上るためならば何をも犠牲にしても心が痛まないという悪魔の感性に怖気さえ走る。

 話は確かに通じている。通じているが、ルシファーは――そして恐らくウェルギリウスも、根本から倫理や良識というモノに価値を見出していないのだ。

 そして、火星天も水星天も別に他の至高天の階の仲間というわけでなければ、ウェルギリウスの協力者というわけでもないのだろう。

 

「俺もまた銀月天や貴様と同じく第四世代型人造惑星であり――そしてその設計理念が()()()()()()()()()()()()ことをお前達は自身の成功を以って示したというわけだ」

「心底から、反吐が出るな……!! 木星天も水星天も、エリスのあの力も、全てお前の好敵手を製造するためにあったとでも言うつもりか。そのために人間がいくら犠牲になろうと、聖教皇国が諸共吹き飛ぼうと、どうでもいいというのか!!」

「俺はそうだと言ったが?」

 俺の剣が突出して優れているというつもりはかけらもないが、それでもルシファーの槍捌きは星のみに頼る者の手練れではなかった。

 恐らく戦いの経験はないが、未来の超速演算と数理によってその剣戟を生み出している。

 打ち合えば打ち合うほどに、俺の習性を恐るべき速度で学習し理論値と実効値のズレを潰してくる。

 フェイントを放つタイミングを、恐らくは俺の僅かな所作や視線の動き、星辰体の揺らぎから総合的に判断してルシファーは戦っている。

 ……昔の俺の星を見ている気分にもさせられるが、そこには人の研鑽と歴史など一切ない。ただ、その槍に宿っているのは演算機が如き道理と数理のみ。

 

「淑女に星殺しを一任し、核変換を阻止しながら剣戟で俺を直接狙い撃つという発想は悪くはない。むしろ数的有利をとれるのならば俺もそう判断する。……残念だ、神聖詩人。お前も淑女も、どこまでも俺の演算通りに動く、予想外など何一つとしてない」

 呆れと侮蔑もあらわに、ルシファーその膂力の下に俺の剣を退ける。

 リヒターの剣も、ガンドルフ卿の剣も、恐らくすでにルシファーは見切っている。定量化し、分析し、それを数値として還元して学習している。

 

「秩序よ滅べ、俺ならざる天など諸共一切堕天せよ。機光神鉄楽土(フォールン・エデン)――開闢(ビギニング)

 ルシファーの宣言と共に、空に幾何学的な光の紋様が描かれ、次いで聖庁のすべての建造物は黄金の神鉄へと変わった。

 そこから次々とハリネズミのように神鉄の十字架は創造されていく。

 

 同時に、核変換によって周囲の大気も毒の瘴気のように汚染されていき、腐食と変性を繰り返しながら黄金の楽土は広がっていく。

 

 俺の星で相殺されているからこそ、俺の周囲の大気は影響を受けていないがそれでもルシファーの星の性質の凶悪さを物語るには十分すぎる。

 

 核変換と物質成型によって織り成される無限の楽園創造は、この男を堕天使の名を冠する魔星足らしめている。

 

「貴方達の極晃のために……そのためだけにあの子は鋼にされたというのですか……!!」

「ウェルギリウスの当初の目的はそうだったな。何にしろ、アレは未だに目が覚めぬ事を除けば非常に良い素体だ。()()()()()()()()()()()()なお、あれだけの完成度を有して――」

 エリスは歯ぎしりをしながら、初めてその顔に憎悪を映した。

 おおよそ、今まで見せたことが無いほどにその顔は敵意に満ちていた。木星天や水星天に対してのそれとはまったく別の、純粋な憎悪。

 

 それと共に、エリスの出力も跳ね上がる。

 

 舞うように翳された手と共に襲い掛かる銀光が波濤が、次々と神鉄の十字架を砕きルシファーへと襲い掛かる。

 同時にエリスのアイコンタクト共に、その波濤を合間を縫って俺も翔ける。

 最大出力で放たれた銀光は周囲一帯の星辰体の運動量を奪いながら突き進む。

 

 

「ほう、出力は悪くない。銀月を担う者は本来、逆襲の属性であったとされるが――なるほど。共鳴する感情は激しき怒りではなく()()()()()()。なればこの結果は自明か。これでは俺の出力でも覆す事はままならん……だが」

 眼前に襲い掛かる滅びの奔流を、ただ冷静に観測している。

 奔流の影を縫って走る俺の姿もその眼に移しながら。目を閉じ――

 

 

「その予想外をこそ、俺は見たかった。その強さを学ばせろ神聖詩人、銀想淑女!! ――そうだ、まだだ!!!」

 次の瞬間、その喝破と共にさらにエリスに追随するように出力の桁を叩き上げた。

 

 震撼する大地、共鳴する黄金の十字架の群れの中に紅い輝きが混じる。

 ……嫌な予感は的中する。その十字架の群れは大地の紅星晶鋼と共鳴しながら根こそぎそのエネルギーを簒奪している。

 

 加えて本来、この黄金の十字架の数々は延長されたルシファーの躯体も同然だ。

 それだけの躯体が星辰体と感応すればその出力は言うまでもない。

 

 ルシファーの手にしている槍から迸る極光は、もはや俺とエリスの星を総動員したとしても恐らく熱量操作を仕切れない。

 単純な出力でのぶつけ合いではもはや敗北は秒読みだが、それでも俺には恐怖は訪れない。

 

 俺にはエリスがついている――俺は、俺達の最高到達点を知っている。

 深めていく同調と共に、光の海を渡っていく。

 

 腕が焦げつく熱量も、今は気になどならない。エリスと相互理解を深める事がそのまま力になる事こそがエリスの魔星としての性質なのだから。今俺達はまさに、出力の上昇とともに()()()()()()としている。その予感を、静かに感じる。

 

 切り伏せる十字架の山は銀光を浴びせればもはや原形を保つことなく元の土くれへと戻っていく。

 踏み込むたびに、世界は色を取り戻すように黄金から無為自然へと還っていく。

 

「がァ……!!」

 

 銀光の波濤と共に、ついにルシファーを捉えた。

 剣は水平に構えられ、銀の一閃は手に持った槍を砕き、その胸を貫いた。

 

 その命を、至高天の階の元凶たる一を討った。

 だがその驚愕も刹那、ルシファーはその口端を歪め笑っていた。

 

 

 

「まだだ――」

 

 

 

 

―――

 

 胸を貫かれたルシファーの肉体は急速に熱と輪郭を失って鋼に還っていく。

 俺達は確かに、俺達の力量で至高天の階を討った。

 

 だが――

 

「――()()()、と言ったのが聞こえなかったか。神聖詩人」

「逃げろ、エリス!!!」

 その背に、聞こえてはならないはずの声が聞こえた。

 嘘、と思うその刹那に、俺はエリスを突き飛ばした。

 

 身を翻せば視界に映っていたのは、倒されたはずのルシファーだった。

 先ほどまでルシファーであったモノの残骸がそこに転がっているにも関わらず、眼前の男は何一つとして傷もなく健在のままそこに在った。

 何もかもが予想外だったとでも言わんばかりに、呆れるように嘆息する。

 

 次いで俺の胸は、ルシファーの腕によって貫かれた。

 片腕で持ち上げられる俺の心臓は血を流し続けている。体感した事の無い激痛、体内の異物感が否応なしに俺が致命傷である事を示唆している。

 

「ロダン様!?」

「エリ……ス……。よかった、無事で……」

 青ざめた顔を向けながら、エリスに力なく微笑む。

 エリスもまた顔面蒼白となりながら俺を案じてくれているが、その声も次第に聞こえにくくなっていく。

 

「詩人、貴様の技術の卓越を認めよう。寸前であったとはいえ、俺の肉体がよく偽りであったと気づいたな」

「……ルシファー。やはり……先ほどのアレはお前の星で創り上げた、偽りの肉体だったのか」

絶対神(ヴェラチュール)、そして銀月天と貴様から学びを得たというだけだ。躯体の素材が俺と同一か、星晶鋼かの違いがあるというだけだが疑似神経系の作りが甘かったか。反応が数瞬遅れた。加えて完全な躯体複製ともなれば本来人奏や神奏の領域だ。いくつかの思考回路は焼け付いたが――それは後でどうとでも補える話だな」

 冷然としていながら、同時に矛盾することなくある種の熾烈な意志を孕む黄金の眼光に、反吐が出そうになる。

 ……木星天と、同じ類の妄執がその眼にはある。

 この男は、今にして思えば傲慢でありながら強さというベクトルに対し真摯であった。己の完成度を、敵を超克し撃滅する強さと捉え、その強さを自分に取り入れようとするという意味においては間違いなく。

 

 

「ロダン様を離しなさい、ルシファー!!!」

 ダメだ、と口にしようにも、喉がつかえて声が出せない。

 エリスはそう叫びながら、星を纏ってルシファーに接近する。無茶が過ぎる、エリスはもともと白兵戦を得意とはしていなかったはずだが、そんな判断すら投げだすほどに今エリスは激昂している。

 

 

「確信したぞ。ウェルギリウスの理論は正しかった。お前達はあの瞬間、極晃に達しようとしていた。確率は恐らく三割を切っていただろうが偶発的であろうと確かにその域にお前達は達しようとしていたのだから」

 そんなことは知らない、極晃も、何もかもがどうでもいい。

 今はそんなことよりもエリスが何より大事なのだから。

 

「淑女、貴様の本質は導く者だ。配役を誤ったな、闘い、殺す者ではない。まして、闇を担う者では猶更ない」

 銀光の波濤をただ一瞥しただけでかいくぐり、さくりと何の抵抗もなく、ルシファーの槍はエリスの胸を貫いた。

 純白の天衣を血の緋色で染めながら、エリスもまた凶刃に斃れ伏す。

 

 こぽ、と口から赤黒い血を吐き出しながらエリスもまた俺の傍に転がる

 地面にゴシャ、と嫌な音が体の中から鳴りながら、地面に叩きつけられた。

 

 

「エリス――!!!」

 エリスは俺に手を伸ばして、伸ばして――だがルシファーはそれを許しはしなかった。

 輝く六翼が鳴動すると、俺達はその手足を封じられるように、無数の十字架によって杭のように地面に張り付けられた。

 昆虫の標本のように、足も腕も杭で貫かれる。

 その激痛に、声にならない叫びが出る。

 

「――ああああぁぁ!!!」

「感謝しよう。おおいに得られるものはあった、検証はこれで仕舞いだが殺すには惜しい、特に銀想淑女。貴様は前例に乏しい魔星だ。その臓器と細胞の一片に至るまで解剖し分析するとしよう」

 エリスの傷が深刻であるせいか、俺達は共に星をふるう事さえもままならない状況に陥っている。

 ……エリスから感じる星の鼓動も次第に弱まってきている事も。

 

 

 もはや俺達にもはや助けは訪れない。

 それはどのようにしても、覆せない末路だ。けれど俺は命を失う事以上に、エリスを失う事が恐ろしかった。

 

「エリス……。いつも助けられてばかりだったから、今度こそ……たすけ……、られたと思った、んだけどなぁ……」

「……いいえ、ロダン様。悲観、なさらな、いでくださ……」

 どうしようもなく、悔しかった。

 眼前には、あの子の体を弄んだ者がいる。すべての元凶、その一つが未だにこの世に存在しているという事実が。

 

 血に染まった世界でただ一つ、エリスの声だけは明瞭に聞こえる。けれどエリスとの感応を通じて、次第にエリスの鼓動が弱まっていくのを感じる。

 失いたくない、失っていいわけがない。

 

 そんな一握りの思惟でさえ、喪失していく血液が思考を奪っていく。

 その刹那に、ルシファーはいう。

 

「貴様らの細胞の一片も銀月天も、無駄にはしない。お前達の覚醒を目にして俺は至高の天に至れると確信に至った。感謝しよう。神聖詩人、銀想淑女――そしてクラウディア・ハーシェルにもな。だが無念だろう。後継がこれでは銀月天も浮かばれんだろう」

 その言葉に思うところは、ただ一つだった。けれどそれよりも先に、エリスは立ち上がった。

 それは俺に比べてエリスの傷が浅かった事や、魔星として俺より堅牢であったことにも由来するのだろうが、だが異変は明らかだった。

 

「エリ……ス?」

 エリスが立ち上がった事、それを俺は喜ぶべきだったはずなのに肯定できなかった。

 ……なぜなら極限まで純化された思考が衝動となり、エリスは力の入らない四肢を駆動させていたのだから。エリスの体の動きに反比例するように、エリスの鼓動は弱弱しくなっていく。

 

 そして――エリスの鼓動が途絶える刹那に、銀月の輝きは突如として闇黒へ反転した。

 それはまるで、(プラス)が零を経て(マイナス)になるように。

 

 

「許せ、ない……!!」

 それはエリスが初めて抱いた、負の感情――復讐劇(ヴェンデッタ)だ。

 故に今この瞬間、エリスは死想と同等だ。

 

 

「そんなことのために、ロダン様を――そして、あの子を、クラウディアを……――!!!」

 

 それはダメだと、腕が引きちぎれようと、エリスへただ手を伸ばす。

 ()()()に進んではいけないという予感があった。

 

 

「……ルシファー、ウェルギリウス。貴方達だけは、私は絶対に許さない。――例え導く者(ベアトリーチェ)の資格を失おうと、貴方達を地獄に引き摺り下ろす!!!」

 

 

 

 エリスの瞳に流れる涙が、怒りを代弁していた。俺もまた、エリスと同じ表情をしていたろう。けれど俺が見たかったエリスの顔はそんなモノじゃなかった。

 エリスから溢れた闇黒は俺をも呑み、その意識を奪い去っていく

 

 

 

 

「天墜せよ、我が守護星――鋼の地獄で堕天させろ」

 エリスの瞳に宿すのは血の彩を代弁する赤。

 銀の輝きなどもはやそこにはなく、地獄の闇黒だけだ。

 エリスの体は起き上がり、杭すら押し退け再起するがもう、その瞳に正気など宿っていない。

 そこに在るのは光のような熱ではなくただ妄念じみた、屍を動かすがごとき負の想念だ。

 

「至高の天など我には要らず、故に導く先は天に在らず。いと高き傲慢よ、その輝きの一つに至るまで我は滅そう、光無き氷の地獄と嘆きの河にのみ汝が安息は在ると知れ――!!!」

 たとえ銀想を捨て、死想に堕ちようと討たねばならない邪悪があると知った。

 至高の天など、諸共朽ちてしまえばいいと彼女は呪っている。眼前に広がる不朽の黄金も、なにかも。

 何が堕天だ、何が魔女だ。

 あの子を弄び、数多の死を生み出したのだからもう十分常世の天国は楽しんだろう。今こそ九圏の深淵に還る刻だ。

 

 そんな怨嗟の声が響く。

 ダメだと、叫んでももはや遅かった。エリスは天衣は黒に染まり、その眼光は緋色の軌跡を描いていた。

 

『銀月天――否、銀想淑女。案内人の真似事もそこまでにしておけ、さもなくばお前が導く先は天国ではなく光無き地獄の果てだ。銀想どころか死想ですら有り得ない、貴様が何者でもなくなった時、俺はお前を討つと決めている』

 いつか、木星天が言った言葉を思い出す。

 彼女は、何になろうとしているのか。その行く果ては、変貌を遂げる闇黒の輝きが暗示していた。

 俺はエリスの限界を誤認していたのだろう。あるいは、ルシファーでさえも。

 

 エリスは逆襲劇という属性を帯びなかったからこそ、()()()()()()()()()であったのだろう。

 そしてエリスは今、()()()()()()を知った。木星天や水星天にさえ向けたことのない感情――誰かを憎む事が苦手だったはずだったエリスだからこそその覚醒は決定的だった。

 

 ――故に、今ここに真に銀月天は完成してしまったのだ。

 

 

 

「超新星――天国篇 十天堕とす失楽の詩(Silverio)神滅担うは至高天(Empireo)!!!」

 

 




熾天統べる黎明の翼、顕現するは至高天
AVERAGE: A
発動値DRIVE: AAA
集束性:B
拡散性:AA
操縦性:AAA
付属性:A
維持性:A
干渉性:A
核変換・物質成型能力。
躯体設計において基盤となったデータは絶対神と天之闇戸であり、全局面における万能型人造惑星として設計された。
何度かの改修を経ているが、初期設計と比べ大幅に総合値は上昇している。
この世に存在する物質であれば、物質の核変換によって疑似的に天之闇戸のように環境改変を行うという運用も可能である。
核変換によってこの地上に存在するあらゆる物質――高位次元接触用触媒や核物質でさえも例外ではない――を創造することができる、終焉吼龍とは異なるもう一つの創造性の極限であると言える。
大規模な核変換による環境改変、大質量の投射による圧殺、果ては禁忌たる核物質の創造による大量虐殺と、その応用性は極めて多岐にわたる。
どのように運用してもまさしく万能と言ってほぼ語弊は生じない性能値を誇る。
極限に至った創造性はあらゆる神秘を駆逐し、人造の神性の名の下に再定義していく。
あらゆるモノを薪とくべ、至高の天に至るその日まで。


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