シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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神域に臨む者、その孤独 / Cielo Cristallino

 戦端は、アメノクラト達の放つ輝線によって開かれた。

 無警告での星光行使にルシファーは特に惑うこともなく、光翼を盾に凌ぎきる。

 

 光翼の材質表面に纏う電界が、その軌道を歪め散らしてく。

 

「創生せよ、天に描いた明星を――我らは極夜の流れ星」

 それとほぼ同時に、アメノクラト達の只中をウェルギリウスは空を切りながら進む。

 その疾駆と星は紛れもなく、魔星の証明だった。

 

 

「此処は暁の星、第九の天体。星霜の刻を超え至高の賢者は星を仰ぐ。深淵に伏したる輝ける者、不遜なりし光の翼。汝が枷を解き放ち氷の刻を破却しよう、その飛翔を我が許そう。今、地獄の嘆きは喝采に成る」

 動員されたアメノクラトは合計で三四機。

 その内の既に二機をルシファーは事も無げその翼で引き裂き内燃機関を引きずり握りつぶした。

 同時に光のように疾駆するウェルギリウスのその腕には淡い星の燐光が宿る。ずぶり、とその装甲はひしゃぎ、メスを執り手術するようにその制御中枢へと星を流し込み爆散させる。

 

 かつての友人のその変貌を前にして、それでもなおもオフィーリアは立ち向かう。

 常人が魔星になるという事の意味を、彼女もまた知らないはずはなかった。ウェルギリウスの考えが何も、分からなかった。

 人である事を捨て、犠牲を積み重ね、その翼でどこを彼女は目指しているのか。

 

「地獄の彼方より光を目指して堕ちたる翼は天翔けた。地獄で鍛えたその翼の眩しさに我は心を奪われる――愛しき暁の子、堕天は二度と訪れない。淑女の導きなど我は請わぬ。求めたが故に、どこまでも往こう。十天の彼方に至るを以って我等は旅路は終えるのだ――星を巡れ、星天賢者(ウェルギリウス)

 

 

「超新星――神域臨む賢者の旅路(Cielo cristallino)顕現するは原動天(Vergilius)

 

 

 

「さて、オウカ様の真似事、とまではいかないけれどこれでも私は教えを受けているの。――例えば、こんな風に」

 黄金の眼光が軌跡を描きながら、まるで舞うように彼女の腕は振るわれる。そのたびに、アメノクラトは損傷していく。

 その手に燐光を放ちながら、同時に間断なく迫るアメノクラトの襲来をまるで未来予知によって読み切っているかのようにいなし、或いは回避しながら。

 

「……貴女は、机仕事(デスクワーク)が主だったでしょう」

「何を驚くことがあるかしら。私がオウカ様から何を教わったと思っているの? 貴女こそ、その鉄人形を操るのなら亡き教皇猊下ぐらい徹底的に突き詰めるべきだったわね」

 中華、或いは神国大和の古来の武術がベースだろうか。支点と力点のコントロールを主眼に置いたウェルギリウスの体術は、決して何ら達人に見劣りするものではなかった。

 ウェルギリウスはオウカの体術の見様見真似からそこまで昇華させている。

 師の教えが佳かった、とでも言うべきなのだろうし、ウェルギリウスの天稟故ともいえるだろう。

 

「なるほど、私がアメノクラトを調整していたころに比べて出力が低下している。けれど制御性、或いは特定資質の先鋭化に関しては原設計よりも改良がみられる。過剰な性能を廃し、より人に操縦しやすいように制御項目も削られている。……ここまでの進展を成したのはオフィーリアの手腕、或いはシュウ様。合理的に考えてそれ以外はないでしょうね」

「ほざきなさい――!!」

 オフィーリアもまた、星は纏っていた。

 その星光の性質は――自分の思考速度の多元・超高速化。そしてそれを最大限に生かすために、腕に装着された専用端末によってアメノクラトの操縦を担っている。

 

 だが、そんな彼女の演算をあざ笑うかのように――あるいは()()()()()()()()()の如く、オフィーリアはアメノクラト達を攻撃をかいくぐっていく。

 

 生身では対応など不可能な環境設定――溶岩の海を形成させればそれよりも先にルシファーはコートのようにウェルギリウスの体表に自らの光翼と同じ素材の障壁を形成させる。

 どこまでも、賢者のように。先が見えているかのように。

 

「……私と同じ、高速演算能力による超高精度な未来予知。いいえ、それだけでは説明がつかない」

「いいえ、見ているモノが違うわオフィーリア。そして断言してあげる。()()()()()()()()()()と」

 ウェルギリウスはその当人の在り方とはまるで打って変わって異なる戦闘体系を体現していた。

 何ら特異な星光でもない、手足による白兵戦。

 

 率直に述べて、超高精度な未来予知――神祖オウカ譲りの体術。それを除けばあまりに魔星としてはそれは地味に過ぎた。

 

 

 

神域臨む賢者の旅路(Cielo cristallino)顕現するは原動天(Vergilius)

AVERAGE: A

発動値DRIVE: AAA

集束性:E

拡散性:D

操縦性:AAA

付属性:A

維持性:B

干渉性:E

 

 

 

 

 だが同時に、明確な変質も顕在化していく。

 

「なるほど、面白い。これが第四世代人造惑星の運用特性か。特に資質に関して、発動値と操縦性が顕著だが――俺とお前の星辰特性が()()()()()()()

「えぇ。神聖詩人と銀想淑女によって見出された基礎的な特性の一つでもあるけれど。兎角、発動値はその躯体設計に大きく依存する傾向があることから推察するに、私は元々は操縦性が優れていたのでしょう」

 元から比類ない高みにあったルシファーの発動値に引きずられるように、ウェルギリウスの資質も変容している。

 加えてルシファーもまた、その星光行使が目に見えて変わる。

 オフィーリアの多元並列演算の元に操縦されたアメノクラトの連携が、いともたやすく寸断される。

 明確に視覚で分かる差異ではないが、思考速度の高速化を遂げたオフィーリアだからこそその違和を感じ取れていた。

 

 体術だけではない。果ては星光行使の気配すら先回りして潰すかのように、粒子加速砲がアメノクラトを一機、また一機と撃墜していく。

 

 オフィーリアは、知り得などしない。

 ウェルギリウスのそれは微小粒子観測能力――目にさえ見えない極めて微小な規模の粒子の挙動を解析し、蓋然たる精度で未来を観測している。

 賢者の慧眼、そう呼ぶほかはないだろう。

 

 

「……ロダンさんとエリスさんと同じ第四世代人造惑星。ウェルギリウス、貴方は自分をそんな風に改造したのね……!」

「えぇ。()()はあちらだけれど、それを解析したのが今の私とルシファー。第四世代の有用性は……まぁ、オフィーリアなら説明することもないでしょう」

 今、ウェルギリウスの胸から生じる輝きは神鉄特有のものだ。

 絶え間ない感応に煮えるように胸は熱を帯びている以上想像を絶する苦痛がウェルギリウスを駆け巡っているのは当然であろうはずなのに、そもそもとして意に介していない。

 口から血がこぼれようと、全身の血液が煮えようと、彼女は彼女自身を実験動物のように俯瞰し観察しながら戦うだけだ。

 彼らもまた、彼ら自身が述べたように第四世代人造惑星。そして同時に、彼らは真の意味での第四世代だ。

 神聖詩人と銀想淑女は飽くまでも詩人が常人であり、()()()()()のそれではない。

 だが、堕天と魔女は違う。互いが互いにとっての発動体であり――この一点において明確に詩人と淑女とは彼らは異なっていた。

 

 故に淑女は詩人の星を扱えないが、後発故に堕天と魔女は互いに互いの星を熟知し扱える。

 

「なるほど、これが光の翼。このように扱うのね」

「精度が数十原子単位甘い。この人形どもを引き裂くには苦慮はせんが、それは理論値ではない」

 彼女の背にもまた、ルシファーと同じ光刃で出来た片翼が生じていた。

 羽ばたきと共に星辰体と感応しながら、羽毛の刃を雨のようにアメノクラト達に叩きつける。装甲表面に生じる多層の力場が辛うじて彼らの星を凌いでいるが、それでも兵器としての完成度は圧倒的なまでにルシファーが上だった。

 質が越えるか、量が圧するかという問いは、しかしこの場においては前者がその優性を証明していた。

 

「それはつまり、このように?」

「悪くない精度だ」

 豆腐のように彼女の翼はアメノクラトの装甲を削り取り、その内燃炉心を手に収める。

 それを少しだけ検分し次の瞬間には特に何の感慨もなくリンゴのように握りつぶした。

 

 一機、また一機と残骸が生産されていくとともにオフィーリアにも焦りが生じてくる。

 ハナから一対一では勝負になるなどと思っていなかった。

 

 聖教皇国に限らず現行の技術水準における最も懸念すべき武力の脅威は魔星に外ならない。

 その脅威性はほかならぬ技術者であるオフィーリアは一番よく理解していた――故に、聖庁の一部を対魔星兵器として建設しなおしたのだ。

 最悪の場合の決戦の舞台として――被害を最小限に抑えるためにも。

 

演算(アクセル)――多重偏向斥力場、展開(コキュートスフォール)!!!」

 裂くようなオフィーリアの叫びと共に、アメノクラト達は今度は聖庁をその地盤ごと陥没させた。

 崩れる地盤と多重に施された重力による斥力場はルシファーとウェルギリウスでさえも覆すことはできなかった。

 肺腑を押しつぶすような重圧と共に地下に引きずられ込むが、その影響圏を光翼の推力をさらに上げてルシファーとウェルギリウスは突破する。

 

 音を立てて崩落する瓦礫の山の中を屈折光のように軌道を描きながらルシファーとウェルギリウスは飛翔していく。大小さまざまな瓦礫を足場に変えながら一歩、また一歩と地下空間を駆け巡りながらようやく視界が開く。

 

「……なるほど、ここであれば行動範囲を大幅に制約し、かつ被害を最小限にとどめられる、か。オフィーリア・ディートリンデ・アインシュタイン。俺の知る皇国の地下とは構造が大きく異なる」

「魔星の脅威は、限界突破で予習済みだもの。そうなれば備えというモノはいくらあっても足りないでしょう――ましてそれが光狂いともなれば、最終手段もやむを得ない。まさかそれを使う相手が、この国の中にいるだなんて悪夢もいいところだけれど」

「悪魔が齎すものとして悪夢は妥当な表現だろう」

 すました顔で、しかし一部もルシファーとウェルギリウスは油断はしない。

 

偏光(ポラリゼイション)――光翼集束加速刃、起動(リアクターエッジ)!!!」

「……っ!!」

 

 彼女の片翼は粒子加速器となり、羽ばたきと共に幾条もの殺人光線を飛来させる。

 電子が、或いは陽電子が乱舞する。

 

 どうしようもなく、性能が違い過ぎる。

 数を減らしていくアメノクラト、オフィーリアの焦燥。それらもすべて、ウェルギリウスにとってはどうでもいい事だった。

 所詮は居間でさえもどこまでも性能検証以上の意味合いを持ちはしなかった。

 

「答えなさい、ウェルギリウス。貴女はどうして、あれだけの所業を――犠牲を積み上げてきたの?」

「……おかしな話ね。昔は、貴女に私の所業を知られることだけが、唯一私が恐れる事だったはずなのに。今はこうして貴女と対峙しても何も思うところはない」

 だが、オフィーリアのこの問いかけに、初めてウェルギリウスはわずかに逡巡した。

 つかの間の逡巡はしかし、ウェルギリウスの邪悪を払拭はしなかった。

 

「私と対等以上は、この世界にただ()()()()でいい。ただそれだけの話よ」

「質問に答えなさいと、言っているでしょう!!!」

 怒号と共に、アメノクラトは複数体が取り囲むように、戦闘陣形を整えた。

 ロダンとの戦いの時にも見せた、禁忌の技の片鱗。

 時空の歪むほどの重力の奔流が極点に集中する。

 

 

創生(フュージョン)――質量操縦・偏重力風星辰光(グラビティションコントローラー)!!」

 

 だが、それさえ起動されるその前にルシファーの光翼が片翼から瞬時に()()()()()生じ、重力場で重力場を一方的に微塵に引き裂き駆逐した。

 その羽ばたきの余波が、次々とアメノクラトの装甲をひしゃげさせていく。

 

「全てはルシファーのためよ。私の科学の唯一無二、世界の全てはそれのための材料に過ぎない。そんな難しい話かしら」

「……よく分かったわ、ヴェル。私は今まで貴女を何も理解していなかった。まして、こんな人でなしだとは微塵も知りなんかしなかった。貴女が材料にしてきた人々にも、人生があったはずでしょう!!!」

「魔星になったのだから、()()()()と言えばその通りね。私なりに犠牲にしてきたモノに対して敬意は払っているつもりよ。原資に対する成果物の収率は可能な限り最大化しなければ、()()()()()()()()()()()でしょう?」

 まったく、どこまでも会話がかみ合っていない。

 犠牲に対して惜しむ理由が倫理としてのそれではなく、単純に人間を資源と換算してのそれであった。

 人間が実験動物に飼い犬以上として扱わないように、ウェルギリウスは人間を資源以上として見てはいなかった。

 かつての神祖でさえ、自分たちの生んだ犠牲を国益に還元しようとはしていた。そして数多の犠牲を費やしても、彼女に目指すものは無い。還元する相手はルシファーだけ。それを人は普遍的な倫理と照らし合わせ邪悪と言う。

 

 確かに、彼女は負の意味で神祖の跡を継ぐ者だろう。

 

「……人の命を、貴女はなんだと思っているの?」

「肉が動き、息をし、思考するという現象に対し、ヒトと呼ばれる種が仮に命という語を充てたというだけにすぎない。生も死も、私に見える世界は数式と現象でしかないというだけよ」

「私も、その一つでしかないのね」

「――えぇ」

 そうして、ウェルギリウスは一切視線をオフィーリアから切って目を伏せる。

 

 この()()()()()最後の一体でさえ、ついにアメノクラトは機能を停止した。

 どこまでも結果は無情だった。

 

 

「う、ぐっ……!!」

「褒めてあげる、オフィーリア。貴女にしては本当によく善戦した。自慢ではないし何の慰めにもならないと思うけれど、私は今まで誓って嘘は言ったことはないわ」

 オフィーリアの首を掴みそれをウェルギリウスは宙に掲げる。

 ウェルギリウスから賛辞、それは皮肉にもかつてオフィーリアが求めていたものだった。

 光翼の切っ先をその首元に突きつけて。

 

「オフィーリア。今ここで私とルシファーと一緒になってくれるかしら。貴女の事、これでも私は今の聖教皇国の頭脳の中で一番評価しているの」

「……嫌、よ」

 ただそうとだけ言って拒絶する。

 それだけは拒絶しなくてはならなかったから。

 

「貴女には私を止めることはできなかった。それが結果ね」

「今の貴女に手は貸せないし、何より貴女を止められなかった人間が貴女と対等になれるはずもないでしょう」

「私をここで拒めば、貴女は死ぬ。それでいいのなら私は貴方の意志を尊重するわ。言い残すことがあれば、遺言を聞いて悦に入る感性はないけれど、今してくれると嬉しいわ」

 その言葉に、どれだけの感情をこめているのか。それはもはやオフィーリアにはあまりに理解が遠すぎた。

 

「私は貴女と対等になりたかった。貴女と対等にはならなかったことを、対等になる事の意味が分かってもなお、悔しいと思う。悲しいと思う。貴女の孤独を理解できる人間は誰も居ない」

「……言ったでしょう。私と対等以上は、四人だけでいいと。さようなら、オフィーリア」

「えぇ。――()()()()()()()()()()()()

 首を絞められながら、オフィーリアはその口元を歪ませた。同時に、低く唸るような音が地下空間に響く。

 

 今彼らがいる座標は、装甲監獄の直上。

 そしてその装甲監獄の頂上からただ一機だけ敢えてオフィーリアの残したアメノクラトが居た。

 

「……オフィーリア。貴女はまさか」

「見誤ったわね、ウェルギリウス。最初から生きて帰るつもりなんてないわよ」

 オフィーリアは、最後の命令を送る。その直後に装甲監獄の頂上からアメノクラトはその拳に全霊の星を込めて、地下へと装甲監獄そのものを撃ち抜いた。

 

 崩れる大質量体を前にして、ルシファーもウェルギリウスも回避の術など持たなかった。破壊の規模が違い過ぎた。

 たとえ未来を見通していても、回避が間に合わない以上読まれていようがは関係なかった。

 最後の命令を成し遂げたオフィーリアは、少しだけ悔しいと思った。

 

 最後までウェルギリウスの隣にいるのは、自分ではなかった。

 たった一度でも、彼女に自分を認めさせたいと思った。

 それが叶わなかった事だけが、彼女の心残りだった。

 

「……さようなら()()()。友として、貴女を止める事が出来なかった。私は、貴女を導くことはできなかったのね」

 

 装甲監獄は崩落し聖庁は震撼する。ここに運命の一つは、終幕を告げた。

 

 

 

「う、おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ルシファーの天を衝く咆哮と共に六翼は幾何学様の輝線を走らせながら励起する。

 それはもはや翼ではなく、剣と言うべき物体だった。

 

 剣翼を振りかざすとともに真向からその大質量と相対する。

 

 装甲監獄そのものを大質量兵器とする試みは、しかし本懐を達成はできなかった。

 崩落する建造物をルシファーは全霊をかけて迎撃し、地上へつながる孔を穿った。同時に、ウェルギリウスを地上へ退避させ事なきを得た。

 

 ルシファーの眼前には、ただ言切れ気を失ったオフィーリアが瓦礫の上に倒れていた。

 

 ルシファーの光の翼を解体し、その一枚を一本の槍に変えて振り上げる。もはや、オフィーリアは絶命は避けられはしないだろう。

 その直後に聖庁の地下からは一筋の光条が立ち上った。

 

 

 

 同時にウェルギリウスに遅れ、地上にルシファーが現れる。

 

「オフィーリアは?」

「さてな。骨が残っていれば幸いだろうが、加減はできなかった」

「そう。手間、かけたわね」

 なんの斟酌もなく、ウェルギリウスへルシファーはそう語る。

 灰と化した地下の空洞からは一切視線を切って、背を向ける。

 

 光の翼をはためかせ羽ばたくと同時に、地上を睥睨するとそこには見覚えのある顔があった。

 

 

「待て。ウェルギリウス」

「……そう、あぁそう言えば貴女達とは初めてかしら。神聖詩人、銀想淑女」

 天に坐す彼らに声を投げるのはロダンとエリスだった。

 怒りと共に糾弾の視線をぶつける彼らに、ウェルギリウスはさしたる興味を抱かなかった。むしろ、彼らに興味を持っていると取れる態度をとっているのはルシファーの方であった。

 

「ウェルギリウス。貴女が、全ての黒幕ですか」

「銀月天の代役ご苦労様、と言うべきかしら。貴女の成長はこの上なく素晴らしかった、その成果物のおかげで今私達は一つ、階段を昇れたもの」

「……ただそれだけのために、ロダン様を玩弄したとでも言うのですか。そして今、かつての友人であったはずのオフィーリア様も手にかけたのですか」

「道徳の話は聞き飽きたわ。友人だと思っていたのはオフィーリアだけだった、という話にそれ以上の注釈が必要かしら?」

 今、ここで彼らと雌雄を決する事は少なくとも、ロダンとエリスにはできなかった。

 ルシファーの時ですら彼らは追いすがるのが限界だった。まして今、ウェルギリウスとルシファーは第四世代人造惑星だ。

 道理として、今ここで詩人と淑女が勝利することはないだろう。

 

「今ここで優劣を明らかにするのはあまりにも容易い。だが――」

 直後の風切り音と共に、次の瞬間にはルシファーとウェルギリウスの胴は両断されていた。

 

 

「……、火星天か。こちらの射程外からの不意打ちはさすが、と呼ぶほかあるまい」

「――下らない世辞はいい。どうせその躯体も偽りだろう、堕天め」

 両断された二人は、ボロボロと泥人形のようにその輪郭を失っていく。

 ……ロダンの時と同じ、偽りの躯体。

 

 恐らくすでに火星天の襲撃を察し堕天と魔女はこの場をとうの昔に脱している、そう理解できていたからこそロダンは歯ぎしりを禁じえなかった。

 

 

 そして砂のように風化していくその躯体の奥から見えるのは、かつて初めて出会った至高天の階である、火星天だった。

 特徴的な赤いくせ毛、鋼の塊のような大剣。赤く輝く淡い燐光を纏いながら、その男は聖庁へと降り立った。

 

 

 

「――よう、神聖詩人に銀想淑女。アレから久しいな、具合はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




神域臨む賢者の旅路(Cielo cristallino)顕現するは原動天(Vergilius)
AVERAGE: A
発動値DRIVE: AAA
集束性:E
拡散性:D
操縦性:AAA
付属性:A
維持性:B
干渉性:E
微小粒子観測能力。
大気を流れる微小な粒子の挙動の一部に至るまで、視覚・感覚的に変換しソレを解析する。
大気の流れから相手の数秒先の行動を読むことは無論、より精度を高めれば素粒子の領域にまで到達し得る神域の慧眼。
ただし素粒子観測の域にまでは達しても、彼女が可能とするのはそれを観測するのみであり粒子の操縦には至れない。
超高精度の未来予知や、微細領域の研究分野での利用にしかその有用性は生かせず、この能力もまた直接的な戦闘力に直結する種類の星ではない。
彼女の場合は白兵戦によってそれを補っている。
その慧眼に惜しむものがあるとするならば、慧眼の担い手が賢者であるとは限らない事だろう。
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