シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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大分怪獣大決戦みたいな様相になってきました。


疵龍慟哭 / Lunatic Warcry

「殺せぃ者共、よく食らうがいい――その果てにこそ栄光は在るッ!!」

 その傭兵の男の名を、エイリークという。

 血まみれの斧を自らの得物としたことから、後の世に恐斧王(フィアオクス)と呼ばれる男だった。

 戦乱の中の生まれにおいて、彼は殺すか殺されるか以外の道はなかった。故に彼はそれが世界の普通だと、思っていた。

 彼にとっては世の中は苦界に満ちているのが普通であるし、その中で生き抜くための最善を尽くすのは当然の事だとさえ思っていた。

 従って弱者と呼ばれる人間の事も、人々が普遍的に愛する平穏という概念も彼にとっては理解から最も遠いものだった。

 弱ければ死に、強ければ生きる。例え世に冥府魔道と呼ばれようと、それが道理であると彼は認めていた。

 

 戦争において、その男は最強だった。戦えば勝ち、領土を引っ提げて凱旋する血まみれの王。

 彼の栄光はいつも血の傍らに在りながら、しかし次第に彼に民衆や他の傭兵たちはついていくことになる。

 

「民も臣も、勝てばついて来よう。そして俺は勝つ、何も問題などあるまい」

 

 蛮族の王(ヴァイキング)と呼ばれながらもその男は進撃を続ける。

 ついにはその男は国を打ち立てる。人々は讃える、恐斧の王はここに在りと。

 

 王になる気などその男はなかった。その器ではないと自覚していたし何より人を仕切るよりも人を殺す方が絶対的に彼は得意であった。

 だが、否が応にも彼がその斧によって築き上げた財産は彼に王である事を求めた。

 

 政治には通じなかったが、同時に好んで悪政や粛清を敷こうとする思想ともまた彼は無縁だった。

 渾沌たる秩序無き戦争の中を生き抜いてきた彼にとって、国を築いた時こそが初めて得た安息だったのだろう。

 

 その安息の中で彼は初めて人々の営みに目を向けた。

 その営みの中で人々は何を考えているのか、彼にとっては理解に遠かった。だがその在り様を見るたびに庇護心と言うべきものを自覚した。

 

 安息の中で、人は初めて安らぎを得る。

 顔に顕しなどしなかったが、それでも彼は平穏たる秩序を目に映す時、その心は嘘のように静かに薙いでいた。

 

 彼の国に生きる者たちもまた、その斧によって築き上げた財産だ。

 己の体はもう、己だけのものではない。数多の築き上げてきた財産の上に居る以上、それを護る事は強者の義務であると彼は誓った。

 

 総じて、恐斧王、と呼ばれた男はその名に反するがごとく、民には善政を敷いていたと言えるだろう。

 治世が盤石となる頃には、もはや彼を蛮人と誹る者もいなくなった。

 

 己の国も民も余計な荷物と断じ、一人の暴力として野に降る選択肢も無論彼にはあっただろう。だが、それを選びはしなかった。

 弱肉強食の道理を当てはめられるべきは自分のような生まれの者だけであって、それを誰彼構わずに適用することは誤りである事もまた理解していた。

 

 今がたとえ弱者であろうといつか翼を広げ強者となるためにこそ、強き者は弱き者が手折られないよう護らなければならない――それが、彼が生前において見出した悟りだった。

 

 血塗れの斧は、その時初めて誰かを護る刃へと変わった。

 彼なりの、彼に芽生えた不器用な臣民への愛の形だったのだろう。そのころには長年の腹心を妻として、彼も家庭というモノを持つに至った。

 

 

 だが、そんな彼の国の落日はまもなく訪れる。

 

 軍事帝国アドラーの台頭、星辰奏者の実践投入によって突如としてその運命は暗転する。

 次々に堕とされる国の防衛拠点。

 

 人智を逸した星辰奏者の力によって蹂躙される兵たち。

 その光景を前にして、エイリークは初めて憤激する。

 

 失われていく。自分の築き上げてきた全てが、民が。

 

「ふざけるな、俺が国を離れるのは勝利か、死以外に在り得ん!!」

 逃げろ、という部下の声を彼は切り捨てた。

 彼は決して退きはしなかった。断崖の絶壁に追い込まれようと、彼は最後まで王である事を捨てなかった。

 

 生身の人間と星辰奏者。その優劣などもはや推し量るまでもないだろう。

 

 そして彼は、生涯で初めて怪物と言うべき存在に相対する。

 その男の眼に宿る熾烈なる意志力、絶滅の光輝を纏う二刀。……その男を見たとき初めて彼は悟った。

 

 至大、最強、究極――陳腐だが、それ以外に形容できる言葉が無い。

 迅速な首都制圧の手腕も、単騎での戦闘力も、何もかもがこの男は逸脱していた。

 

 己が最強など、無意味だと諭されているかのようにその男は絶対的だった。

 

「――さらばだ、恐斧王。お前の慟哭を背負い、俺は往こう」

 

 勝敗など、もはや問うまでもなかった。ただ一閃、絶滅の光輝が骨肉を断った。

 その刹那に彼は腹心であり妻である者に突き飛ばされ、間一髪で絶命を免れながら、断崖の谷底に堕ちた。

 

「どうか生きながらえてください、我が王。貴方に仕えることができ、私は幸せでした」

 

 眼前で絶滅光の露となる腹心の――妻の姿を、その目に焼き付けながら彼は堕ちていく。

 そして、絶滅の輝きに全身を蝕まれながら、英雄の眼を直視した。

 

 燃えるような、雷霆のごとき激しさを孕みながら、その男はエイリークの眼を己に焼き付けるように、見据えていた。

 

 

 

 

「これで、終わりましたか詩人、火星天」

「……水星天」

 膝をつきながら斃れる火星天を前にするロダン、その後ろから声がかけられる。

 エリスの傍らにいる水星天は少しだけ、憐れむように目を細める。

 

「……水星の。お前は結局、淑女と共に在る事を選んだか」

「えぇ。……そういう貴方は、詩人に託す事を選びましたか」

 かつては共謀者であったこと、その点に関して水星天は感じるものがあったのだろう。

 

「火星天。貴方の執着は、晴れましたか?」

「聞いてくれるな、そこは俺達の盟約に免じるべきだろう。……お前もさっさと、姉離れとやらでもすべきだろうよ」

「その顔では、満更でもないといったところですか。……それに姉離れはお断りですね。私の病は、治るぐらいならずっと不治でいたいですから」

「……変態め。淑女も災難だろう、こんなのに付きまとわれてはな」

 それきり、水星天と火星天は互いに視線を交わしはしなかった。

 

「……皮肉なものだな、金星。まさにお前の言う通りの脚本だ。――詩人、淑女。……ユダ座に行け、急所は避けた。()()()()()()()()()()奴がいる」

「火星天、それはどういう……」

「遺言は以上だ。……俺は疲れた、少し寝る。少しだけ、な」

 そう言って、火星天はこと切れた。

 ねじの切れた人形のようにどさりと聖庁に斃れ、そして二度、目を覚まさなかった。

 

 地面に突き刺さった火星天の剣を、ロダンは引き抜き握る。

 片手には自分の剣を、もう片手には火星天の大剣を握り、ロダンは火星天に背を向ける。

 

「……お前の私物、借りていくぞ火星天」

 ただ一言、そう言って。ロダンは第二太陽を仰ぐ。

 第二太陽の光を浴びる彼の背に、エリスはかけてやれる言葉が見つからなかった。

 どうしても彼のその痛ましい姿に寄り添いたいと思うのに、彼と自分の間にどうしても距離を感じてしまう。

 

 あの時、間違いなく彼と火星天の間でしか共有できない何かがあったのだろう。

 その何かのために彼らは戦っていて、それは自分が介在していいモノではなかった。

 

 それがどうしても悔しくて、少しだけ火星天に妬いてしまう。

 

 この聖庁において、犠牲者は副長官オフィーリア――そして火星天の二名。

 あまりに聖戦の序奏と言うには、それはあまりにも壮絶に極まる光景であった。

 

 

 

 

 

 そして時を同じくして、聖戦の第二幕は幕を開ける。

 

「はあぁぁぁ!!!」

「――■■■■■■■!!!」

 もはや、言葉にならない言葉を叫びながら、土星天はマリアンナにその戦斧を振るう。

 全身が虫食いのように自らの星辰光に食われ侵食されながら、同時にその星辰光が欠損した肉を代替している。

 眼前の男の正気の在処など、どこにもなかった。

 

 周囲は焔と放射線で塗れ、生き物も木々も全て凄絶に息絶える。

 その男の眼は黄金に軌跡を描きながら、マリアンナを映す。だが――

 

「ああ、見つけた。見つけた、見つけた、見つけたぞ――()()()()()()()オォォォオ!!!」

「……!?」

 突如に爆発する喜悦、絶頂(オーガズム)に達したかと見まごうほどにその顔は歪んでいた。

 往年の宿敵に出会ったかのように、その顔は喜悦に浮かび――

 

「誰の事を、言っているのですか!!」

「何を言っている? その激しい輝き、その目――貴様こそはあの()()に外ならぬであろうがァ!!!」

 事ここに至り、自分と相手の認識の齟齬をマリアンナは認識する。

 ……あの男がどういう精神をしているのかは不明であるものの、間違いなく自分をかの英雄であると認定している。

 勝手に()()()()などされても、困るだけではあるもののしかし同時にこの男がこの上なく高揚していることも分かる。

 

 もはや、自分の敵対者の誰もかれもをかの英雄としてしか認識できない。

 ()()()()()()して勝手に英雄認定して一人で盛り上がる、いかれた妄執だとマリアンナは口から溢れる血を拭いながら睨む。

 

 この男が勝手に自分を英雄認定しようが、英雄とどのような過去があろうが、今この進軍を止めなければ文字通り、聖庁は死地と化すだろう。

 

 加えて、明らかにこの男の星辰光は魔星という枠からさえも外れかけていた。

 

 何度も何度もその肉を焔槍が抉っても、そのたびに星辰光が肉の代わりとなる。

 力任せに穿たれる斧の一振り一振りは地形を変え得るだけの力がありながら、しかし致命的なまでにそこには技巧というモノがなかった。

 

 あまりにも直情的で直線的で読みやすく、その間隙を縫って放たれる彼女の槍は彼の肉を何度も何度も刻んだ。

 だがそのたびに放射能光は彼の肉になる。

 

 自分の星辰光は機能している。周囲を焔に巻き込みながらこの男の再生を抑制している。

 だが、それを上回る速度でこの男は肉を補填し続けている――どころか自己への過剰干渉によって自分自身が星辰光となり替わろうとしている。

 彼が最もその星の暴威(地金)を露わにできるのは、本来は言うまでもなく英雄に類する存在だけであり、それが設計上での最大の欠点であることをルシファーは挙げていた。

 だが今の彼には、眼前の()()()()()()()()()()()()()()

 聖教皇国に英雄が居るはずがない、そもそも英雄は既に亡くなっている――そんなことさえ、彼の狂乱は意に介さない。

 誰が相手であろうと全霊をかけて星の暴威を振るえる正真正銘の怪異、それが今の土星天だった。

 

 このまま続けても自明の理として、恐らく自分は負ける。

 しかしそれでもマリアンナの中に撤退の二字はなかった。ここで自分が退くという事の意味を誰よりも理解していたのだから。

 

「今が私の運命が正しく履行される時だというのなら、本望です」

 今この瞬間でさえ、彼女が全身に纏う焔は放射能光の侵食を排斥しきれていない。比類ない集束性を持ちながらも、徐々にその肉体は毒光の侵略を受けている。

 己の焔で焼かれる方が、毒光を浴びるよりもはるかに延命できるという皮肉な状況だが、たとえここで肉灰と成り果てようとも、彼女は退かない。

 

 胴を十字に断とうが、それでさえも土星天は止まらない。

 

「勝利の果実は貴様を選ばん、故腐り落ちろ――侵略星辰(インベイション)渾沌虚空洞(ネガティブイラプト)!!!」

 戦斧が大地に叩きつけられると、その瞬間に蜘蛛の巣のように毒光が拡散する。

 土すら沸騰しながら、毒光の奔流が迫る。

 

 

「これで、私が止まるとでも?」

 マリアンナもその槍に焔を纏う。極限まで研ぎ澄ませ集束させた炎を放つ。

 一息の元、横薙ぎに払われた焔の奔流は毒光を真っ向から叩き伏せ、土星天の総身を焼き尽くすが――それでさえもやはり止まらない。

 

 星辰光と肉体の境界すら曖昧になり、今やその存在が()()()()にさえ達しようとしている。

 

 その維持性故に、ついには眼前の男は活動する星辰光としての不死性すら獲得した。

 その進化はウェルギリウスの設計を遥かに超えたモノであり、ルシファーでさえ呆れと共に驚愕を齎したモノだった。

 

「諦めません。罪無き人々を、師の残した国を護るためにこそ、私は今ここに在るのですから」

 ただそうつぶやき、脳裏に浮かぶ国の子供達の顔やロダンの顔も振り切って、マリアンナは災禍の龍へ槍を掲げ駆け出す。

 

 そして彼女がここまで持ちこたえたからこそ、その輝きは報われる。

 

「――よく言った、鉄血聖女(ロンギヌス)。退くがいい」

 その声と共に、彼女の傍を光のように疾駆する男がいた。

 黒い軍服、手に構えた二刀に纏った紫電――その男は、木星天だった。

 

 雷電と共に、その男は怒れる黄金の輝きを眼光に宿しながら舞い降りる。

 

 駆け抜けるとともにただ一閃、土星天の胴を断つ。

 

「■■■……!!!」

 

 鋭利に、苛烈に、その雷電は傷口すら焼き潰し土星天の骨にまで達し、土星天はついに膝をつく。

 

 

「……木星天、なんのつもりですか」

「――この男は、俺が決着をつけなければならない。退くがいい、お前の手を煩わせることもない」

 かつて、木星天は怒りと共にマリアンナを討った。

 その男はある種改まった――罪悪感すら感じている態度でマリアンナにそう告げている。

 

 木星天の目的は至高天の階の皆殺しであり、その一点においては本来自分は標的になるはずがない存在だった。

 同時に木星天はある程度淑女に対し同情的であり、それを掌中に収めようとしたマリアンナの行為に対してあの時激していただけで道義として考えた場合にむしろ自分にも否があることはそのものはマリアンナは自覚していた。

 だからこそ、この男は真実土星天を討とうとしているのだろうという事も分かった。

 だが――

 

()()()()。土星天を討った後に、貴方も討ちます。木星天」

「……良かろう、承諾した」

 そこで退く事を選べるのならば、今この場にマリアンナはいない。

 己に一太刀を浴びせたマリアンナの技量も、気概も知っているからこそ木星天はそれを拒みはしなかった。

 

 そして――眼前の光景に最も当惑しているのは、土星天だった。

 苦悶の声を上げながら甚大な熱量を躯体に循環させながら男は再起する。

 

 何度も何度も、執念の元にその肉体を駆動させ続ける。

 

「……ヴァルゼライドが二人……? なんだ、なんだという。この光景は――」

 第三者から見れば特に違和のない光景であっても、土星天にとってはそうではなかった。

 眼前にヴァルゼライドと認定したモノが二人いるという矛盾に当惑しながら――しかし次の瞬間には嗤っていた。

 

「まぁ、いい。どのような術かは知らんが貴様らを葬ればいいのであろう――!!!」

 彼の狂気が導き出した答えは実に単純だった。

 眼前の二人を滅ぼせばそれでいい、一刻も早く妄執から解放されたいとでも言うかのように土星の龍は咆哮する。

 慟哭にも似た絶叫に、心のどこかで哀れさをマリアンナは感じた。

 死を振りまく龍(テュポーン)、その絶叫は今はこの世にいない何者かに対してのそれだった。

 

「合わせろ、聖女」

「言われるまでもありません、落暉(ポースポロス)

 戦端を切り開くのは、木星天の極光斬撃だった。

 放たれる極光剣を戦斧で土星天が凌げば、その頭上からマリアンナは狙いを定め、槍に纏った炎を叩きつける。

 

 土星天の片腕が吹き飛び――その次の瞬間には、その腕もまた星辰光によって編まれ再構築されていた。

 

「斬っても死なん、か。ならば」

()()()()()()()()()だけのことでしょう」

 木星天もマリアンナも、今この場で導き出した答えは同一だった。

 

 紙一重で戦斧の一撃をかわしながら、二人は立ち回る。

 

 瞬時に再生するというのなら、それよりも早く肉を削り落とせばいいとばかりに、マリアンナの星もより激しく燃え上る。

 その気炎を代弁するかのように、次第にその炎は周囲を巻き込みながら激しさを増していく。

 

 木星天の再生もまた、彼女の焔によって鈍る。

 だが同時に土星天もまた吠え猛ける。今この場に英雄がいるのならば、それを滅ぼすのが己の運命であると天に叫びながら斧を握るその腕を軋らせる。

 

「輝く者よ悉く滅びよ――天墜・蛇龍転生(コラプトバース・ウロボロス)!!!」

 その瞬間にテュポーンの躯体は大きく肥大化した。

 その丈は三メートル、十メートルと膨れ上がる。

 

 光の巨人、そうとしか言いようのない光景だった。遠近感さえ狂いそうになりながら、建物ほどの巨躯となった土星天に立ち向かう。

 土星天のいう器でさえももはや彼の星辰光の鞘になどならなかった、横溢した毒光がヒトガタを成しながらその拳を緩慢に、しかし確かな重みをともなって振り下ろされる。

 

 

放射熱傷・焦熱毒光(ラディエイション・バーン)――撒き死ねぃ!!!」

 その拳が着弾した大地は小規模な核爆発を起こしながらめくれ上がる。甚大な砂礫をまき散らしながらも、土星天は嘆きに導かれるままに狂乱する。

 

 間一髪のところでマリアンナも木星天もその一撃はかわし切るが、その災禍の規模はもはや他のどの至高天の階と比してさえ、並ぶ者はいなくなっていた。

 端的に述べて、至高天を除けば今最強と呼べる至高天の眷属神は土星天であるとさえ言ってもよかった。

 だが――

 

「もはや化外か。だが――」

「勝つだけです。聖庁には、絶対に辿り着かせません」

 木星天にとっても、マリアンナにとってもそれは何の意味もない話だった。

 敵がどれだけ強いか、と言う事をハナから彼らは問題としていない。戦うからには、勝つ以外にはあり得ない――例え己が犠牲になろうと。

 

 その一点において、確かに皮肉にもマリアンナは英雄たる資質の一部は持っていたと言えるだろう。

  

 咆哮と共に振り下ろされる左の拳をマリアンナの槍が突き破り、次いで呻きながら放った土星天の右拳を木星天が一刀の下に断つ。

 

 両腕を断たれた土星天に、示し合わせたわけでもなくほぼ同時に踏み込み木星天とマリアンナは駆け出す。

 

「ああ、早く、早く早く早く早く早く――死ンでクれ、ヴぁルぜラいド――おおぉあああああ!!!」

 

 一筋の光となり、マリアンナがその光体の真芯を捕らえ貫けば、円形にくり貫かれる。

 

 その深奥に土星天の神核――神星鉄が心臓のように脈動していた。生物のように毒々しくも、狂ったように鼓動を重ねるそれを木星天は見逃さなかった。

 

「なるほど。それがお前の核たるモノか」

 煌めく二刀に蓄電(チャージ)された怒り(エネルギー)が、刀身に灯りながらソレをめがけて極光撃が放たれ神鉄に迫る。

 無尽蔵の星辰を生み出す核、それを討たない限り恐らく土星天の進軍は止まらない。

 

 彼方に輝くその一撃が、土星の龍に今こそ落暉の審判を下す。

 迫る荷電粒子の波濤を前にして、尚もその慟哭にも似た叫びはこだまする。

 

 

 邪悪なる龍は討たれ、ここに妄念は終焉する。……そう、土星天の妄執に()()()と言うモノが存在すればの話だが。

 

 神鉄にその一撃が迫る瞬間に、ひときわに激しい咆哮が天を震わせる。その瞬間に核爆発が起きる。

 

 鮮烈なる輝きと共に炸裂する毒光が周囲一面を吹き飛ばし、極光斬撃をも覆し押し流した。

 まるで隕石の衝突とも見まごうかのような光景に、マリアンナも木星天も、初めてその顔に驚愕を宿した。

 

 ――龍、或いは蛇。

 肉の器から解き放たれた土星天の躯体は腫瘍のように膨れ上がり――全長五十メートルを超すであろう巨躯へと成り果て――そして人の形すら捨て龍のような姿となっていた。

 

「……、こんな出鱈目……!」

「英雄を討ちたいがために、そこまで人を捨てたか土星天」

 

 その一鱗一鱗が猛毒の星辰光で編まれた文字通りの摩天震龍(テュポーン)

 天を摩する猛毒の龍、その眼光が睨む先ははるか後方――皇都。

 小賢しい足止めなどもはや何も意味など成さない。その顎を開けば、全身が加速器の如くに莫大極まる熱量を送り出す。

 

「一切息絶え絶滅せよ――冥光・禍之柱神(イクスレイ・テュポーン)!!!」

 

 ひとしきり、その顎を天に向け――鉄槌のようにその極光の吐息(ドラゴンブレス)を振り下ろした。

 

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