シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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天昇せよ、我が守護星 / Eoslight

 俺達の眼前にあったのは、間違いなくハル姉さんだった。

 その綺麗な顔も、何もかもがそっくりで、それなのに髪は月を映した白になり、黒い天衣を纏っている。

 

 姉さんの胸には、紫紺の輝きを放つモノがあった。

 

 

 

「……ウェルギリウス。お前は、ハル姉さんに何をした」

「別に、何も。ただ少しだけ外科的手術をして、彼女の望みを叶えてあげただけよ」

「――」

 俺の心の中に、冷たいモノを感じた。

 恐らく今までで初めて、俺は殺意に限りなく近い感情を人に抱いたかもしれない。

 

 

「……殺してあげる、ウェルギリウス。父さんと母さんの報いを受けて死んでよ」

「できるのなら、是非そうして欲しいわ。その方がルシファーも喜ぶもの」

 今でさえ、発狂しそうなほどに俺は怒りを覚えている。

 直後に振るわれる姉さんの星――なのだろう、虚空が縮退していきながらルシファーを呑み込もうとするが――それを太陽天が阻む。

 

 直後に放たれる極大の光炎が、それを押し退ける。

 

「……余計なことを、太陽天」

「好きに生きて、好きに死ねと言ったのは貴方でしょうに。至高天」

 ルシファーの壁となるように、飽くまでも太陽天は立ちはだかる。

 太陽天に対し、ハル姉さんは忌々しいモノを見るような目でその手を翳す。

 

 

「そう、誰かは知らないけど死にたいの。ウェルギリウスとルシファーを殺す邪魔をするなら、貴方も同じ墓に入れてあげる」

「できるものならやってみるといいと思うけど、紛い物の月天女(アルテミス)

 ……姉さんは明らかに何かがおかしかった。

 これほど、攻撃性を強く示すような人ではなかったはずだ。……俺が例え姉さんを見誤っていたのだとしても。 

 だが。

 

 

「――貴様の相手は俺だ、太陽天。神聖詩人と淑女の因縁に、お前は関係などないだろう」

「……できれば、貴方とは戦いたくなかったけど。これが本当の運命の皮肉って奴なのかな、ポースポロス」

 ざり、と一歩踏み出し、木星天はその刀を構えながら太陽天に問う。

 二人にどういう関係があったかなど、俺には分からない。知り得ようがない。

 けれど太陽天は不思議と納得したような顔で、少しだけ苦笑いを交えながら一切の視線を姉さんから切った。

 

 

「……ちっ」

「姉、さん」

 姉さんは、いら立ち紛れに舌打ちをしながら俺達に視線を戻す。

 その様が俺の知る姉さんとは全く合致しなかった。まだ、姉さんには隠された双子の姉妹がいたと言われた方が理解はできただろう。

 

「詩人、落暉――せいぜい奮闘するがいい。太陽天を討てたならば――俺はお前達と戦おう。審査役はお前に委ねよう、太陽天」 

「私達は、次なる地平で待っている」

 ただ、そうとだけ告げると、ルシファーとウェルギリウスはその背に光の翼を形成し地下の天蓋を破壊する。

 その次の瞬間には、彼らの姿は眼前から消え去っていた。

 

 

「誰が、逃がすとでも――」

「待てよ、姉さん。どこに行くつもりだよ」

 今まさに、姉さんが飛び立とうとするその刹那に俺はそう言葉を投げた。

 姉さんを往かせてはならないという予感がしていた。

 

 

「何を言ってるの、ロダン? あの女とルシファーを、私が殺すのよ? あぁ――それとも私と一緒に、復讐してくれるって言ってるの?」

「違うよ姉さん、往けば必ず姉さんは負ける。アレはエリスでさえも敵わなかった」

「……エリスさん。――エリスさん、エリスさん。口を開けばロダンはそればかりね」

 姉さんの目に浮かんだいたのは怒りだろう。

 けれどなぜ、それを今エリスに向けているのか、それが俺には分からなかった。

 

 

「ねぇ、貴方の友人としてもう一度だけ聞きたいの、エリスさん。ロダンの事、頂戴?」

「……嫌、です。お姉さま。それは断じて、出来ません」

「私達、友達でしょう? どうして拒絶するの?」

 何かが、姉さんはおかしい。

 ウェルギリウスに何をされたのか、そんなことは想像すらできなかった。けれど分かることがあるとすれば恐らく()()()()()()()()()()()()()()から今姉さんはそうなっているのだろう、と言う事だけだった。

 

 

「……私は、お姉さまの友人です。しかし、今の貴女は私が愛したお姉さまでは断じてありません」

「あぁ。……姉さんが何をされたのか、俺に分かるのは魔星にされたことだけ。俺が知っている姉さんは、優しかった」

 だから、今この場でしなければならない事もまた、エリスと俺は分かっていた。

 こんなことのために、剣なんて握りたくはなかった。

 

「……なんのつもり? ロダン、どうして私に剣を向けているの?」

「知れたことだろう。姉さんを止めないと、姉さんはルシファーに挑んでしまう」

「……うふ。あははは!!」

 俺の言葉に姉さんは少しだけ呆れた顔して、それから嘲笑するように声を上げた。

 

 

「あの女が、私に何をしたか――私の何を奪ったか知ってる? 知らないよね、知ってるはずがないよね? だって私もあの女に聞かされて初めて知ったもの。……私の父さんと母さんは事故死じゃなくて、あの女の手によって殺されたって」

「……、そんな事が」

「だから、私はあの女を殺すの。何もかもを踏みにじって、生まれた事を後悔させてあげるの。ねぇロダン。人道に背いてることは分かっているわ。でもロダン、私、そんなおかしなこと言ってる?」

 ハル姉さんの両親には何度か俺は世話になったことがあった。

 いつもよろしくされるのは俺だったのに、そのたびにハル姉さんを宜しく頼むと言われてた。だから、そんなあの人たちの死にウェルギリウスが関わっている事に対して、俺は憎悪を抱かない事はできなかった。

 ……まして当事者である姉さんであればそれは尚の事だろう。

 

 賢者面して「その気持ちが分かる」、等とは俺は決して口が裂けても言えなかった。哀しみが分かるのは、姉さん自身だからだ。

 

 だからこそ今姉さんが纏う黒の天衣と、その銀月を映した髪の色の由来が分かってしまう。

 なぜなら銀月の黒も、闇黒の黒も、その染料は踏みにじられた者の哀しみと憎悪なのだから。

 

「……お姉さま」

「何? エリスさん?」

「私の事が、貴女は憎いのですか?」

 ……エリスは、そう告げた。

 姉さんがエリスに時折向けるその視線の正体を、エリスもまた知りたがっていたから。

 少しだけ、姉さんは息を吸う。それから、告げる。

 

「――えぇ、大嫌い。私からロダンを奪っておいて、何食わぬ顔で一緒に居て、私の知らないところにロダンを連れ去ってしまおうとする。そんな貴方が私は――とても。とても大嫌いだった。この雌兎(めすうさぎ)――貴女なんか、屋敷に上げるんじゃなかった」

「……そう、ですか」

 傷ついた顔をするエリス。

 けれど姉さんは、冷たい顔のままで何も慮りはしなかった。

 

「それが姉さんの本音か」

「……私が愛したお姉様ではありませんなんて、エリスさんはよく言えたものね。私の事をろくに知りもしないくせに」

 ……今なら、姉さんの執着するモノは分かる気がした。

 姉さんはまだ、あの頃から()()()進めてなどいない。マシューさんとナオさんを失ったあの日から、まだ姉さんは何も。

 自惚れではないとしたら、あの時姉さんが頼れる人間は俺しかいなかった。

 身よりの無くなってしまった姉さんにとって、自分の血筋に群がる人々は嫌と言うほどに見てきたはずだ。

 

 ……それほどに、姉さんにとっては()()()いなかった。だからこそ、エリスの存在をどうとらえているかなど今この場に至っては明らかだったろう。

 詩人を攫う淑女、或いは淑女と共に往く私人。いかに言葉を見繕おうと俺は姉さんから遠ざかっていこうとしている。

 

 

「……では、お姉さま。今から一つだけ約束していただけますか? ……私達が負ければ私はロダン様を差し出しましょう。そして、私達が勝ったならどうか私とロダン様を認めていただけますか?」

「……二言が無いのなら、受けるわエリスさん。貴女からロダンを取り戻して、私はロダンと一緒にいるの。そして一緒に、あの女に復讐するの」

 エリスはそんな約束を、姉さんとする。

 けれど別にそれに対して俺は異存はなかった。……どのみち、今ここで姉さんを止めなければ姉さんは魔星のまま暴走するだろう。

 ルシファーに挑み――当然のように敗北するだろう。

 

 だから止めなければならない。それが、ハル姉さんの弟である俺の義務だと思うから。

 

 

 

「詩人、太陽天は俺が討つ。……恒星天(そちら)の因縁は詩人と淑女(おまえたち)で清算しろ」

「……恩に着る、木星天」

「礼はいい――往くぞ」

 木星天は太陽天と――そして俺達は恒星天と向き合う。

 

 ……因縁の清算は、今ここで果たされなければならない。

 

 

「さぁ、木星天。始めましょうか、絶滅神話(ティタノマキア)の再現――私達の聖戦を」

「否――これは聖戦ではない、所詮どこまで往こうが愚か者の内輪の私闘でしかなかろうよ」

「……あはは、それもたしかにそうね。……看病している間に貴方の寝首をかけばよかったと、今でも後悔しているほどよ」

 それきり、木星天と俺は視線を交えることもなかった。

 二刀が、剣が、或いは光が、闇が構えられる。

 

 その一秒後に、地下の天蓋は諸共に消し飛んだ。

 

 

「天昇せよ、我が守護星――鋼の恒星を掲げるがため」

 遥か彼方に捧ぐ、光輝の祝詞が紡がれる。

 ……それは、明らかに至高天の階から逸脱していた。

 それは、太陽天に搭載する神鉄の核の設計そのものが神星を参考にしていたためという事もあるのだろう。

 

「ここは光の星、第四の天体。諸天よ諸人よ見るがいい、天駆の系譜が光輝を運ぶ。永劫不変の黄道の運行に天動の神秘は宿る。なれば汝旅人、太陽へ翔け、墜落を超えて星の彼方を臨むがいい」

 ここに、かつて地上から失われたはずの神火は甦る。

 炎熱()の象徴の不死なのだから。

 濃縮される熱量はもはや、人間のそれを遥かに逸脱していた。出力――ただその一点のみにおいて問うならば、極晃にさえ肉薄しかねないほどになっていった。

 

「邪悪なる者、その墜落の一切をその輝きを以って我が担おう。天翔ける高き者よ、万象焼き尽くす秩序の太陽神よ、我が手に焔を遣わした給え。汝、真に賢者ならば超えるがいい。炎熱()の象徴とは不死なれば、此処に神火は甦る――遍く悪徳を焼き尽くせ、暁天極光(エオスライト)

 

「超新星――天光新生、火はまた灯る。(Cielo del sole)顕現するは太陽天(Heosphorus)

 その手を翳した瞬間に、またしても純粋な爆発現象が起こる。

 

 

 単純にして甚大なる熱量、超高出力を資本とした六資質の単純投射は苛烈に苛烈を重ねていた。

 もはや熱量にして、一つの村を滅ぼし得るほどに。

 甚大極まる爆圧の中を、ポースポロスは輝剣で切り開き生存圏を開拓しながら突き進む。

 

 

「――核融合、か。だが……」

()()()()()()()かな、ポースポロス。貴方ならまぁ分かって当然ではあるんでしょうけれども」

 一切の接近戦を許さない、極大恒星の雨あられ。

 単純な星の暴力だが、その由来がポースポロスには分からなかった。

 

 集束性においてはこちらに部があろうと、それ以外の部分に関しては伯仲しているかそれ以上だった。

 破壊を突き詰めた、兵器としての極限の万能性。そんなものは見れば分かるだけの視覚的事実にすぎなかった。

 

 明らかに、人智を逸した熱量。

 人類史上でそれを生み出すに足る現象とはまさしく神星の御業に外ならなかった。。

 

 

数式装填(フュージョン)――集束拡散・範囲定義、維持・期限設定、操縦・干渉開始。――放て、数理の焔。質量消滅・熱量解放(マター・デストラクション)!!!」

 今度は、加減などなかった。

 焔の只中をひた走るポースポロスの四方を囲むように極大の火球が取り囲む。

 次いで次の瞬間には爆散する。

 

 もはや、ポースポロスに勝ち目等ない――だが、それは数字の上ではそうであるだけの話だった。

 

 爆光の晴れたその風景にその姿はなく。

 

 

「――まだだ!!」

 間違いなく、葬った。その手ごたえがありながら次の瞬間には太陽天の足元から、閃電を帯びた二刀が突き出る。

 次いで、地面を蜘蛛の巣のように割りながら、木星天が無傷で現れた。

 

「狂ってる。炸裂の瞬間に、地面を切り抜き潜行し、私の足元を目掛けて一気に切り抜いて――!」

「邪竜の真似事も、存外役に立つらしい」

 殺戮業火の只中を駆け抜け、今この眼前でポースポロスはその二刀を太陽天へと走らせる。

 今度は致命の間合いに引きずり込まれたのは太陽天の方だった。

 

 判断に十分な時間さえあれば精密に焔を操縦して遠ざけることができる。だが、今ここで放てば彼女諸共無事では済まないだろう。

 

 だが――

 

「えぇ、こんなところで私は終わらない。――まだだ!!!」

 自分の片腕を捨てるという判断を彼女は迷うことなく下した。

 ポースポロスの刀身の切っ先に火球が生じると、彼女の片腕共々にポースポロスは焔に飲まれた。

 

 だがその星の炸裂の刹那に、その一刀を手放し脚がちぎれかねないほどの全速力でポースポロスは退いた。

 

 ざりざりと、残る一刀を杖にしながら再度刀を構える。

 

「核融合という()()ではなく、よりその原理の根幹――()()()()()()()()()()()()()能力。それがお前の星だろう、ジュリエット・エオスライト」

「……」

 その沈黙は肯定に等しかった。

 ……神星のソレにしても、原理は質量欠損と等価となる熱量の解放だ。

 故に彼女のその六資質の全ては、その原理の根幹を再現する事に費やされている。

 干渉性を基軸としての質量の完全抹消――それに伴うエネルギー解放の精密制御。それらを一挙に制御するには少なくとも、相当数の資質が必要なる

 だからそれだけの突出した総合値がありながら、彼女の星は応用性や特殊性というモノを欠いている。

 

「……極晃がそうではないかの違いを除けば、私の方が理論にも理論値にも限りなく肉薄しているはず。なのに現象という無駄を挟んでいるはずなのにアレだけの熱量を生産できるなんて、やはり天奏はおかしいわね。まったく正気を疑いたくなる」

 

 神星のように核融合という現象を経ず、直接質量を熱量に変換する神域の御業――故に太陽天。

 質量抹消・熱量解放能力――彼女の齎す恒星現象を定義するとすれば、そのような能力となる。

 

 

 

 そして今、彼女が成した事は何だっただろう。

 彼女は、だらりと力がこもらず焼け爛れた自分の右腕を見ながら、嘆息している。

 

 普通、自分の腕を捨てるなどと言う行為を常人ができるわけがない。まして、それが戦士ではなく医者であった彼女ならば。

 だが同時に、ポースポロスには納得できる点もあった。

 

「お前は以前こう言っていたな。俺と同じで、止まる事を知らないと」

「そんな昔の事よく覚えてるね。まだだまだだ、て馬鹿みたいに叫んで、それでも人は死に続けて、最後は精神薬だけがお友達になった、って話だっけ」

「……なるほどこういう意味だった、というわけか」

 思えば、幾度か光の資質の片鱗を彼女は覗かせていた。

 木星天を前にして決して物怖じをしなかった事。

 誰よりも死を見続けたが故の極度の死への忌避と拒絶――それはつまり、彼女は「まだだ」と叫び続けながら傷病者を治療し続けたという事だ。

 

 ……彼女の叫ぶソレの根源は、決して歪んだモノではない。

 ()()()()()()――誰よりも死と病を拒絶するが故の、まぎれもない善性から生まれた絶叫だ。

 

 

「……貴方は、もしかしたら本当に至高天に勝つかもしれない」

「無論だ」

「だから、私は貴方を殺す。貴方を殺せば、不確定要素はなくなる。私の楽園建設は――死と病の無い世界は成る。……知ってる、貴方も、()()()()()()()()とでも説教するんでしょう。邪悪な手段で成就する目的に何の価値がある、なんて」

 至高天に勝つかもしれない――否、勝つ。

 恐らく至高天を討ち破るとしたら彼しかいない。

 

 同じ光の資質を持つ者だからこそ、彼女はそう直感した。今ここでこの男は殺さなければならないと。例えかつての患者であったとしても。

 

 無事な腕をかざすと、また爆光が生じる。

 何度も、何度も放つたびに、今度はそれが爆散する前にポースポロスは斬り伏せる。

 

「ジュリエット。お前は――お前の願いは、何も、何一つ、間違って等いない。例え()()()()()()()()()()()()()()()()、俺は保証する。……お前の願いは決して間違いなどではない」

「――、そう。てっきり、賢者面をして諭すのかと思っちゃった。なら、私が今ここでポースポロスを殺したって、なんの問題もないよね?」

「それはお前には出来ん。なぜならば俺は勝つからだ」

 彼女の星は確かに、破壊の一点において間違いなく兵器としての一つの到達点にあった。

 だが、同時にそれは全資質によって精密に制御されてはじめて顕現する数理の焔だ。

 

 少しでも数式の収斂が歪めば、自爆するか霧散するだけの結果に終わるが故に彼女は連発を控えていた。 

 

 その欠点を段々とポースポロスも把握しかけている。

 

「ねぇ、ポースポロス。私の患者さん。貴方は結局、呆れるほど何も治らなかったね。石頭も、仏頂面も――あきらめの悪さも」

「俺の病は不治だと言ったろう。診る患者は選ぶべきだとも、俺は初めに忠告した」

 今度は、あろうことか地中に彼女は照準を合わせ質量を解き放つ。

 床さえ容易にめくれ上がり、瓦礫の山々が築かれながらも次々とポースポロスは飛び移り、或いは斬り抜き乱反射の軌道を描く。

 どこまでも馬鹿げた機動。

 

「――掴んだ、今度こそッ!!」

「否、終わらん」

 

 けれど、今この場においてポースポロスは行動範囲を間違いなく制限されていた。

 その焔が生じるのを見届けた瞬間にポースポロスは全霊を掛けて十数に及ぶ瓦礫の山々を蹴り飛ばし、ジュリエットへと投射した。

 

 咄嗟の迎撃にジュリエットは星をぶつけざるを得ず、必殺を目した策は突破された。

 その様に呆れを浮かべながら、少しだけ自嘲するように笑う。

 

「……私は、手を尽くしてきた。死も病も、あらゆる苦しみをこの世から消し去ろうと、もがいてきた。けれど、最後は大体うまくいかなかった」

「……」

「結局死んだ患者や傷病者は私にこう口々に言ったわ。ありがとうって。……あはは、本当に死んだ奴ってバカしかいないと思わない? それともバカは死んでもなんとやらってことわざがあったかしら。だってそうでしょう――何もできなかった私が感謝される理由なんて何一つも、ないんだから!!!」

 絶叫と共にその星が煌めく。

 自分さえも巻き込みかねないほどの熱量を解放すれば、ポースポロスでさえも退かざるを得なかった。

 

 これは特化型と高次元の万能型の差であるともいえる。

 両者ともに基本的な戦術は単純な六資質の投射になりやすい性質の星であったがために、ここで優劣が射程という形ではっきりと表れている。

 

 このままではポースポロスの敗北は単純な数値評価では秒読みだが、だからこそジュリエットは決して見誤らない。

 絶体絶命()()の窮地で、この男から希望(ヒカリ)は奪えないのだから。

 

 

「――まだだ!!」

 事実、こうして少ない間隙を縫いながらこの男は極光斬撃を肉薄させようとしている。

 攻めるだけであればまだしも、守ることは両者ともにやはり同じく根本的に向いていない。

 

 出力で辛うじて誤魔化せているだけで集束性という土俵ではジュリエットは遅れを取っている結果、ポースポロスが差し込む隙は潰せていないという結果になる。

 

 ジュリエットが圧しているように見えても、少しでも隙を与えたり星の収斂がほころべば、恒星ごとポースポロスの極光斬撃は叩き切ってくる。

 

 だが、小賢しいがこの場では意味を成さないことなど、ジュリエットは理解していた。

 気力気概の勝負――でのバカの土俵で戦うには、同じバカにならなければ勝てないと予感していたから。

 

 だから、二人は叫ぶ。

 例え新西暦が匙を投げようと、己が全霊を焼き尽くそうと。

 

 

 

『まだだ、此処で終わるなど、有り得ない――!!』 

 

 

 

 




天光新生、火はまた灯る。(Cielo del sole)顕現するは太陽天(Heosphorus)
AVERAGE: AA
発動値DRIVE: AAA
集束性:C
拡散性:AA
操縦性:AA
付属性:A
維持性:B
干渉性:AAA
質量抹消・熱量解放能力。
ガスや液体であれ、その質量のごく一部を完全消失させ、質量欠損に光速の二乗を乗じたエネルギーを解放する能力。
神星のそれと非常に性質は似通っており、核融合という工程を省き質量を単純なエネルギーに変換するという工程を以って地上に恒星を顕現させる。
全方位において隙と呼べるモノの無い六資質のその総ては、質量のエネルギー変換の精密制御のために傾けられている。
同時に、この星を制御するためには尋常ではない脳内の負荷がかかるため、連発の効くような星ではない。
そのため、比類ない万能性を持つ六資質に比して、さほど特殊性や独自性のある星ではない。
他方、殲滅性やその甚大極まる破壊力の制御性、彼女単体で生産し得る総エネルギーという点においては、これに勝る者は極晃奏者を除けば神祖をおいて他にはいないと断言できるだろう。
彼女自身の気質の他、彼女に埋め込まれる神鉄の核は神星の設計データが参考にされている事も、このような形で星が顕現する事となった理由だろう。
太陽はその輝きで地上に恵みを齎す一方で、近づく者を焼き尽くす一面もまた持つものである。
彼女もまた、太陽の慈愛と苛烈を矛盾なく持つ者なのだろう。
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