シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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後、極晃も星辰光も含めて、星は1個しか登場しません。

つまりロダン君とエリスです。最後は君たちなので頑張ってください


晃星大戦 下 / Armageddon

「お久しぶり、騎士様。エリス。それから水星天」

 しゅうしゅうと音を立てながら、地下の区画の一角から音を立てて、それは現れた。

 鋼のベッドの上に、ソレは――クラウディアはいた。

 

 俺が知る頃とは、銀色になった髪以外、寸分たがわない外見だった。

 

「……どうしたの、騎士様。そんな泣きそうな顔して」

「いや、いいんだ。君にまた逢えたことが、俺は嬉しいんだ。……俺は君に何もできなかったからね」

「別に、騎士様が何かしてくれたとは思ってないし、正確には私はクラウディアと呼ばれていた女の子本人じゃない。……けどまだ生きていた頃の私は、きっと貴方に感謝してるから。それは私が保証する」

 病衣からのぞく、少しだけ不健康そうな白い肌。

 けれどその皮肉ったような口ぶりは間違いなく俺の知るあの子だった。

 

「……銀月天。私の役目はこれでよろしいので?」

「うん、水星天もありがとう。少しいろいろ想定外はあったけども」

 水星天とクラウディアのそれは、少しだけ何か姉妹じみたやり取りだった。

 起源を同じくする者同士ということもあるのだろうが、それ以上に何か約束事があったのだろうか。

 

「クラウディア。水星天は……一体何の話をしてるんだ?」

「エリスと騎士様は本当はこんな争いに巻き込まれる必要なんてなかった。……まして、自分から進んで首を突っ込む必要なんて、微塵もね」

「つまり水星天はその牽制をさせるための、クラウディアの命を受けていたと?」

「それも少し違う。初めから、私達は魔女と堕天に反目していた。その上で騎士様とエリスがもし、痛みを越えてでも真実を欲するなら、私に合わせてもいいと水星天が判断したのなら私の下に案内をさせる。そういう密約だった。だから、趣味嗜好はともかく、本質的に水星天は敵ではないの」

 ……敵ではない、とは言えどこからどこまでが水星天の趣味嗜好で、どこからどこまでが銀月天との共謀の結果なのか。それは今は明らかにする意味もないだろう。

 

「エリスと同じ要領で、水星天とも会話はしていたけれど。これは魔女と堕天にはバレてはいなかったみたい」

「多分バレていても、あちらは歓迎するだろう」

 ……忌々しい事だが。

 

「その、水星天。私達は貴女が共謀者だとは、露とも知らず」

「……とても。えぇとても傷つきました御姉様。私は魔女の命とは言え初めて貴女と相対した時からずっと貴女をお慕い申し上げていたのに。ではそのお詫びにお姉さまと一夜を――」

「ごめんなさい、銀月天。やはり……忌憚なく言わせていただければ気色悪いです」

 エリスの生理的な嫌悪もまた、間違いなく真実だった。

 はぁとため息をつきながら、銀月天は「それから」と話しを続ける。

 

「……本当は、私も騎士様と星を描きたかった。けれど、私の真実を知ったら騎士様は悲しむ。だからエリスに託したの。……エリスも私の真実を知れば悲しんでしまう。それが、貴方達を遠ざけた理由。……ごめんなさい。騎士様、エリス。本当は私も、貴方達と逢いたかった」

「いいえ、いいのです。クラウディア。こうして、今話を出来ているだけで私達は満たされています」

「まったく、エリスも騎士様も泣き虫なんだから。……で、満たされているだけだと意味が無い。今地上がどうなってるか。大体想像つくでしょ?」

 ものものしい轟音が響く。

 何かが炸裂した音や、はたまた地下空間を揺らす振動が。

 

 それはつまり、ルシファーとポースポロスの決戦が始まったという事でもある。

 

「騎士様も、……騎士様のお姉さん? は特にだけれど、、怒らずに聞いてほしいことがあるの」

「何かしら、ええと、クラウディアさん」

「……私は、実は多分、それほどウェルギリウス・フィ―ゼの事を――()()()()()()()()()()()()の。ルシファーの事も」

「――」

 姉さんはそう言われると、複雑な表情になった。

 確かに、姉さんにとっては未だにそれは殺したいほどに憎い対象であることは事実だったから。

 

「……敢えて言えば、多分関心が無いという奴だと思う。不本意な転生、と言えるのだろうけれど、それでも先生は私を創り出した。そしてこうして騎士様とまた逢えた」

「……」

 ……確かに、もう二度と逢えないだろうと思っていた彼女と今こうして、また言葉を交わせるのは魔女がいたからという論理にはなる。

 だが、それでも。それは喜んではいけない論理なのだろう。

 

「ただ、私やルシファーを創り出す過程で、先生はどれだけのモノを平然と犠牲にし続けたのか。……それを思うと、私は少しだけ胸が辛くなる。数多の犠牲の山の上に私はいるのだから。多分だけれど、木星天の怒りもまた、そこに由来している」

「そう、だな。その胸の苦しさは、正しいモノだ。決して、人として忘れてはいけない痛みなんだ」

「うん。私もそう思う。……そして、多分先生にはそれが無かった。あの人は、最初から痛みを感じるという機能が無いから」

 祈るように、胸の前で手を組んでクラウディアは懺悔するように言う。

 決して彼女に非が在るわけではない、そうであってはならない。彼女のその痛みは、善性と倫理の証明なのだから。

 

「先生の事を私は決して好きになんてなれない。けれど、哀れな人だと思う。……あの人は、理解者を自分から捨てた。人間関係の形にもいくつかあるだろうけれど先生が選んだ絆は、共犯者だった」

「ルシファー、か」

 ……ルシファーとウェルギリウス。彼らの間にどのような関係があって、そしてどのような理由でルシファーは与しているのか。

 それが分かったところで何が出来るというのか。けれどそう思った直後、嫌な感覚がした。

 

 星辰体の濃度分布が偏ったかのような、濃密な曝露。

 まるで地上に、言い知れぬ何かが生まれたかのような錯覚。そしてそれは俺には覚えがあった。

 

 ――ルシファーは、極晃に辿り着いたのだと。

 

「思い出話は、それこそ幾らでもしてあげたい。けれどもう時間がないの。……地上は焼け野原になるまで、そう時間を数える必要はない。……だから、騎士様。今こそ、貴方に救世主になってほしい」

 至って、真面目にクラウディアは言う。

 救世主になる、その言葉の意味はもう言うまでもないだろう。

 

「お願い騎士様。私を、聖庁まで連れて行って」

 クラウディアの言葉に、是非など返すまでもなかった。

 けれどクラウディアは、ベッドから起き上がり地面に爪先を着けると同時に、体制を崩してしまった。

 

「……歩き慣れてないの。安心して、一応脳機能に障害が無い以上は歩く機能はちゃんとあるから。……でも、そうだね。我儘、一ついいかな騎士様」

「……何かな。他ならない君の願いだ。なんだって、言ってくれ」

 彼女はそう言われると少しだけ嬉しそうな顔をした。

 それからこほんと咳ばらいをして告げた。

 

 

「うん、私は今は上手く歩けないから、騎士様が私を抱きかかえてほしいの。騎士らしく、お姫様を抱くみたいにしてほしい。それもまた、人だった頃の私の夢の一つだったから」

 少しだけ、姉さんを抱くエリスとそれから姉さんの視線が怖い。

 水星天に助けを求めようと視線を向けると、秒でそっぽを向かれた。

 

 

 

「ジュリエット。土星天の素体についてなのだけれど、摩天震龍はどう調整しようかしら」

「一にも二にも、英雄への常軌を逸した執着が原動力となる。天頂神の敵対者として在ろうとする精神性――そこに冥王との類似性を見出すとすると恐らく干渉性が突出するはず。だからそのように長所を伸ばせばいい」

 私がまだ、魔女に力を貸していた頃、私は魔女の傍らによくいたと思う。しばしば、彼女は私に意見を求めてくる。

 彼女は、どこまでも不必要な事はしゃべらなかった。

 確かに、機械のようだと思った。

 

 彼らに志すものの途上に、私の目指すモノはあると信じていた。そのために私は彼らに手を貸そうと思っていた。

 彼らの志に共感したわけでもない。

 

 ただ方法論が私の思惑一致したから手を結んだ。そこに、あまり信頼関係と言った人間的湿度を含むつながりはなかった。

 ……今にして思えば、それが私の理想卿を成就させる唯一の方法なのだと私は思いたかっただけなのかもしれない。

 

 けれどそんな魔女にも、感情らしい感情を向ける対象がいた。

 

「――ウェルギリウス、そろそろ休め。カルテを渡せば後は俺が調整を引き継ぐ」

 金髪美麗の偉丈夫。

 暁の子の名を冠する魔星。

 ルシファーに対してだけは、彼女はほんの少しだけ頬をほころばせていた。

 

 それから、彼女はしばしば同じ小説を読みふけることがあった。

 まるでそれしか小説を知らないかのように、気が付けばそれを開いている。

 

 小説のタイトルは「神曲」という。旧暦から伝わる一大文学作品だとされるらしい。私はあまりそちらに関しては聡くはない。

 

 ある日、私はそれしか本を読まないのか――あるいは知らないのかと問うた。

 非常に抽象的な言い方にはなるが、その時の彼女の表情はルシファーに向けるそれともまた何か性質が変わっていたように見えた。

 

「えぇ、私はこれしか知らないの。……私にこの本を贈った人が、いたのよ」

 

 

 かくのごとくに最悪の悪魔にして至高の天使は降臨する。

 天に煌めく十二の翼がその威容を晒す。

 

 雲さえ裂きながら、その翼は振り下ろされる。その瞬間に光の柱が列を成して大地を走った。

 もはや柱と言うよりは壁と形容するのが相応しいだろう。

 

「……嘘、でしょ。ここまできて、こんなこと」

「現実だ、ジュリエット」

 ジュリエットとポースポロスは眼前の光景にただただ立ち尽くす。

 極限まで追い詰めた、追い詰めた上で彼らの全ての想定の上を往った。

 

 だがその上で彼らはそれを更に超越した。

 

 

「これが極晃か。……なるほど、天元突破の資質は()()()()()()――つまり、俺の発動値とウェルギリウスの操縦性か。第四世代人造惑星が極晃に至った場合の運用特性は未知数だったが、なるほど。つまりは()()()()()か」

「……ここから先の筋書きは、私達でさえ用意していない。けれど、これが貴方の得た答えなのね。私達の目指した、唯一絶対の科学の極致」

 ウェルギリウスはそのルシファーの傍らに在りながらそう、真実心底から嬉しそうに語る。

 彼女は感情らしい感情を、今まさにこの瞬間発露しているのだ。

 おぞましい、夥しい犠牲者の上に築かれた暁の星の子。

 

「――まずは、推進力から見るか」

 ただ、軽くポースポロスは宙を翔ける。その瞬間に、甚大な速度と共に彼は加速する。

 

 

「……っ!!!」

「ポースポロス!!!」

 莫大な推進力を載せた単純な翼の打撃はしかし、ポースポロスの反応速度さえ振り切ってその一撃を叩きつけた。

 

 地平の彼方と見紛うばかりに彼方に突き飛ばされ、次いでジュリエットにその矛先は向いた。

 

 

「――まだだ!!!」

「その通りだ太陽天。……お前も木星天も、まだ捨てるには惜しい。検証にもうしばらく付き合え」

 咄嗟に構えたその焔が、最大規模となって炸裂する。

 数式の収斂と共に爆縮し解放される質量は――しかし何一つ、キズ一つとしてルシファーにはついていなかった。

 ルシファーの翼は赤とも青とも、或いは紫とも緑ともとれる極彩色を帯びてその一撃を遮った。

 

「……そんな」

「極晃奏者であろうと俺以外ではその熱量では無傷では抑え込めないはずだ。素晴らしい完成度だ太陽天」

 次いでその手に生じた結晶が、次々と機構を編み上げる。

 ゼロから星の設計図を描き上げ、極大の炉心を組み立てた。

 

創生(フュージョン)――超電導爆縮晃星(スーパーリアクター)

 同時に、炉心に膨大な電流が走りながら、更に重力の分布が歪む。

  

 

「……あああぁぁぁ!!!」

 その炉心に取り込まれたジュリエットの全身は瞬時に攪拌されたかのように沸騰を迎える。

 

 ルシファーの極晃の性質とは何か。その本質は。

 そう考えを巡らせても、答えは出なかった。

 

 だが。

 地平線の彼方から、光のようにその男は再来する。焔と雷霆を纏いながら、ジュリエットを囲む炉心を両断し、済んでのところで彼女を救う。

 

「ポースポロスッ、貴方って人は……!!」

「安心しろ。……ここから先は、俺に任せろ。……恐らく、奴らに勝てるのは俺だけだ」

 今のポースポロスの姿は、もはや光の巨人と言うほかなかった。

 天閃双奏の二重眷属である以上、それまで以上に加速度的に彼の肉体は崩壊が進行している。

 

 絶対的な攻撃性と出力、それを制御しきれるだけの甚大な精神力があっても肉体がついてこない。

 閃奏ただ一つを運用することを想定した設計は、当たり前に天奏まで担う事は不可能だ。

 その有様は、彼女をしてもなお気の触れた光景だとしか言いようがなかった。今この瞬間でさえ、彼は甚大極まる苦痛を浴びているはずだ。

 そうであるにもかかわらず、意思疎通を続けていられることそのものが、ポースポロスの意志力のすさまじさを物語っていた。

 

「……分かった、多分加勢はできないけど頑張って。それにさ」

「なんだ」

「貴方のバカさ加減は、私が保証する。貴方は勝つ、必ず」

 その言葉に応えるように、ふとポースポロスはわずかに笑った。

 もう、帰ることのできないであろう死地に、全霊を込めて足を踏み出す。

 

 それから、大地を蹴り出す。

 

 

創生(フュージョン)――新性物質・創造(アークマター・デザインド)!!!」

「おおおおぉぉぉ!!!」

 裂帛の気合と共に、ポースポロスの剣はルシファーがその手に生じさせた結晶を打ち砕く。

 

 だが次の瞬間には、地上絵のように、地上と空に巨大な電子配線が編まれていた。

 それらは、音を立てながら駆動し演算を開始する。まるでそれは、旧暦に謳われる自動演算装置のように。

 

 何度も何度も、執拗に軌道修正をしながら地表から輝線が描かれる。ポースポロスの行動を学習しながら。

 数度の演算と共に、それらは未来のポースポロスの空間座標を捕らえた、

 

「捕らえたぞ。――星辰式演算回路、駆動!!!」

 それらは電流を通わせポースポロスの躯体に甚大極まる電磁界を生じさせた。

 

 しかし全身を焼き尽くされる激痛でさえ、天奏と閃奏の二重眷属と化した苦痛の方が勝っている。

 光のように疾駆しながらなおもその剣を振るう。

 天元突破の出力と集束性によって編まれた極輝の一撃は、もはや()()()()()()()()()無傷ではすまされないスケールに到達していた。

 

 だがルシファーの一二の羽がきちきちと鳴動すると、今度は翼を撃ち抜く前にまるで油膜に水が弾かれるように、その一撃は軌道が逸れた。

 

「……」

「……なるほど、さすがは天奏と閃奏といったところか。まさかここまで出力差を埋めてくるとはな」

 ポースポロスはその星の正体の概ねのところは掴みかけていた。

 

 元々のルシファーの星は現代科学において存在している物質の創造だ。

 だが、今この男がやって見せたことは何だっただろう。旧暦における、演算素子(コンピュータ)の再現。

 それは、新西暦においては金属の超伝導化と共に過去に捨て去られた旧暦の超越技術だったはずだ。

 

 次いで、まるで熱と電界の外力に対して斥力が働いたかのように不可視の力場が生じた一二の翼。

 

 その在り様に、ポースポロスはようやく見当がついた。

 

「……新物質創造能力。この新西暦の地上には存在しない、物理法則を超越した物質の創造能力か」

「聡明だな、木星天。限りなく、正答に近い。そして俺は正解者への褒美は惜しまないと決めている」

 また、その手には物質が創造される。

 

 今度はポースポロスを取り囲むように、いくつかの黒紫色の小片が生じる。

 だが、それは何の圧力も干渉も加えていないにもかかわらず、()()()()()()()()()()発生させた。

 

 ポースポロスの出力の一撃によってそれらは破断するが、まだ尚も試練は止まらない。

 

「ちッ――!!」

「次だ、木星天。貴様の好きな試練をくれてやろう」

 次に訪れたのは、()()()()()だった。

 

 その波濤を構成する物質は矛盾を矛盾なく成立させて全てを呑み込む。

 零度と灼熱、相反する二つの熱量を孕みながら襲い掛かる波濤はあらゆるモノを瞬時に冷却しながら同時に焼き尽くす。

 

「う、おおおぉぉぉ……まだだッ!!!」

 全身が冷却と蒸発を同時に迎えながら、ぴしりと音を立てて死を破却してポースポロスは甦る。

 当たり前のように、己が死を覆して。

 

 そのたびに損傷を深める。

 

 天元突破の出力と操縦性の辿り着いた果ては、()()()()()()()()()()だった。

 対するポースポロスは、そもそもとして極晃奏者ではない。

 

 辛うじて、閃奏と天奏の加護を得て天秤の傾斜を完全に傾く寸前で抑え込んでいるだけだ。

 

 その仮初の拮抗もポースポロスの意志力と彼の器がどこまで耐えるか――極論、彼が死ぬのが早いか遅いかという話でしかなく、まして勝利等絶対的に不可能だった。

 

 

 まるで地上に反発するようにルシファーは宙を超高速で闊歩して見せる。

 反重力の性質を帯びた物質で翼が構成されているからだ。

 

 

 振るわれる天霆の一撃を、今度は()()()()()でその翼は打ち払った。

 モース硬度もクソもない()()()()()()が勝った。()()()()()()()()()()だ。

 なぜなら、そういう性質と成る様に設計された物質だからだ。

 

 

 極限の熱量を帯びるポースポロスの肉体を、ルシファーの結晶剣が無情に引き裂いた。

 ()()()()()()()()()()()絶対的な耐久性が勝った。やはりこれもまた、()()()()()()だ。

 なぜなら、そういう性質と成る様に設計された物質だからだ。

 

 

 

 そうして鍛え上げられた絶対に破壊されない剣は、ついにその借り物の天霆と神焔さえ両断した。

 新物質の創造という極晃の真価は単なる物質の創造だけではない。

 

 創造された物質は、新西暦の――第二太陽の定めた物理法則を逸脱する。

 ルシファーの定義した物理法則と方程式の下、それらは厳粛に秩序を制定し執行する。

 

 それこそが暁奏の絶対たる権能。

 

 燃焼効率の狂った新物質が創造される。

 入力を出力が上回る、効率が一を超える燃料が生み出される。

 ――永久に無から熱量を生む、禁忌たる永久機関が生み出される。

 

 世界はもはや、地獄を成していた。

 

「――木星天。俺の望みは人間も、この世界も、一から設計し直す事だ。あらゆる生命も環境も、大気も海も大地も、()()()()()()()()()()()やり直される。不老不死など、()()()()()()()()()()()()でしかない」

「……人間の基礎設計そのものを作り替え、知覚も能力も向上させ誰しもが己が可能性を追求できる世界――そして、後に続いて生まれるであろう極晃をも許容できる新世界秩序、か?」

「そこには、他者との衝突による自己の損耗などというくだらない事象は存在しない。配慮しなければ破壊されるような脆い世界も、病も死も、存在しない。俺は神奏ほど結論を急ぎはしない。人類の基礎設計が最低でも人造惑星以上となる、たったそれだけの事だ」

 たったそれだけと、その狂気をルシファーは語る。

 可能だろう。それはジュリエットを説得させたに足る論拠だ。

 何より彼の見せたその権能の数々が、実現可能性を端的に物語っていた。

 

 

「多くの場合、人類が可能性をあきらめるのはその肉体の軟弱さに由来する。なればこそ、まずは完全たる肉と血を与えよう。死という不完全性も廃そう。未来では己が肉体を己で組み替える機能も実装しよう。その研鑽の果てに、いつか俺達に並ぶ者を俺達は至高の座で待つ。それが、俺達の望みだ」

「なるほど。……それもまた、多くの人間を決して不幸にはしない権能だろう。否定すべき要素などどこにもない。人類救済においてはその在り方は()()()()()()だろう」

「だが、お前はそれを認めないと言うのだろう?」

 当たり前だ、とその光刃が振るわれるが、それさえもルシファーにはもはや届かない。

 まだだ、そう叫んでもなお、もはや戦況は覆らなかった。

 

 心は心。万能の燃料などでは、決してないのだから。

 

 やがて決着は順当に、そしてあっけなく訪れる

 

 一二の翼が、木星天の肺腑を貫いた。

 度重なる閃奏の権能も、その奇跡の在庫は底を衝いた。

 

「ぐァ……!!」

「極晃を持たぬ身でよくやったとも。真実、お前に敬意を捧げよう。誇るがいい、お前は俺が敬意を捧げるに値する至高の宿敵だった」

 

 翼に突き飛ばされながら、木星天の躯体は宙を舞う。

 それからジュリエットの傍らへと、ざりざりと無惨に転がる

 

 

「ポース、ポロス。ねぇ、起きてよ。……起きて、お願いだから……!!」

 もはやポースポロスの躯体はからは天奏と閃奏は掻き消えていた。

 その意志力に、躯体が追従できなかった結果だった。

 

 

「……太陽天。お前にも、敬意を表そう。俺達に反旗を翻す決断を下し、そして俺達を木星天と共にここまで追い詰めた。お前の目指した未来もまた、俺達が責任を以て成就させよう。……安心して眠れ、お前の妄執はここで終わる」

「……、堕天」

 ポースポロスの肩を抱きながら、ジュリエットもまた彼を庇うようにその身を挺する。

 

 それから、決して離さないようにジュリエットはぎゅっと、ポースポロスのその肩を抱き寄せる。

 せめて少しでも痛みを感じないように、盾になれるようにと。

 

「ねぇ、ポースポロス。貴方は、頑張った。私は到底出来ない事を頑張ってくれた。私の夢は間違ってないと。……バカはたとえ死ななくたって、ちゃんとある程度は治るんだって証明してくれた。……だからもう、無理しないで。例え今までも一人でも、死ぬときは同類として貴方と一緒に居てあげるから」

 ジュリエットのその涙がポースポロスの胸へ落ちる。

 堕天の剣は、ただ無情に振り下ろされた。

 

 その刹那に。

 

 彼女の涙の最期の一滴が頬に落ちるその刹那に、ポースポロスの瞳に一筋の輝きが宿る。

 

 

 

「――あぁ、まだだ。ジュリエット。お前の灯を、決して俺は絶やしはしない」

 

 

 

 

 

 

 その剣は、輝く二人を別つことはなかった。

 ポースポロスは血をにじませながら、その剣を握りつぶさんばかりに力を込めて食い止めていたから。

 

「……木星天」

 瞬間に、その剣は砕かれた。

 絶対に、砕かれないはずのソレが、微塵に。

 

 彼の裡より真実の怒りが、紡がれる。

 

 

 

 

 

 

「天昇せよ、我が守護星――鋼の恒星(ほむら)を掲げんがため」

 握りつぶされ粉砕された剣はただの鋼の屑になってさらさらとポースポロスの掌を滑り落ちる。

 

 

「蒼穹目指す天駆の残火は、地に堕ち地に満ち地獄の河を焼き尽くした。九圏の奈落の彼方を越えて、灰より翼は新生する。天翔けよ、光の翼――炎熱の象徴とは不死なれば」

 奈落を越えて、地に伏した翼は再び熱を帯びる。

 ジュリエットが、ポースポロスに肩を貸しながらその胸に手を当てる。

 

「地獄の冷たさが、煉獄の熱が天国目指す我等の翼を鍛えるのだ。永遠なる愛しきわが恒星(あなた)、我は御身の傍に在ろう。その輝きを以って我等の大地に邪悪は照らされる」

 輝く星辰体が、彼らを祝福するように包んでいく。

 どこまでも深く、深く。ポースポロスとジュリエットは、その鼓動を一つにする。

 

「落ちたる星の如き刹那の輝きを以って、総ての罪業を破壊しよう。聴くがいい、偽りの楽園に終末の喇叭は奏でられた。遍く邪悪なる者どもよ、我が墜落を焼き付けろ。その暁に汝が末路は訪れよう」

 遠い過去に、ジュリエットに焼き尽くされたはずの双刀の片割れが、ポースポロスのその手に宿り、蘇る。

 もはやその躯体に罅など無く。そして、閃奏も天奏もいなかった。

 閃奏の眷属としてでもなく、天奏の眷属としてでもなく己のつかみ取った運命だったのだから。

 

「叫ぶがいい、穢れた大地に失楽は訪れる。審判の日、浄罪の熱に抱かれた大地に、花々は再び咲くのだから。三界の果て、十天の彼方、我が創星の暁に清らかな光と暖かな熱を運ぶのだ」

 故に彼らは己が勝利を叫ぶ。

 其は矛盾に在りながら、矛盾に在らず。

 秩序の挑戦者たる光の資質を帯びながら、しかしポースポロスはその秩序をこそ護るために、剣を握る。

 勝利とは――ただ、そこに在る営み(秩序)を護る事。只人である事に対し、生に対し真摯である事。

 

 天駆の系譜を継し者、太陽神に連なる者。彼らが奏でるは暁に在らず曙に在り。

 

 ――故にその名を、星辰曙奏者(スフィアセイバー)

 

 

「超新星――落暉新生、十天の彼方(Litgtning Sphere)を拓け曙の剣(Saber)!!!」

 




熾高天の新生、十天の彼方に響け楽園創造の福音よ
AVERAGE: AAA
発動値DRIVE: EX
集束性:B
拡散性:AAA
操縦性:EX
付属性:A
維持性:A
干渉性:AA
新物質創造・素粒子操縦能力。
天元突破を遂げた発動値と操縦性は、粒子・物質というこの世界のルールを逸脱する。
その発動値と操縦性は無限の計算能力と新物質の創造性となり、顕現する。
この地上には存在しない、物理学を超越した物質・素粒子の数々を創り上げ、更にそれを上位変革(アップデート)させる能力。
更にその根幹を成すのはウェルギリウスの星より端を発する素粒子操縦である。
あらゆる物質の最小単位たる素粒子をも操るその操縦性は、限定的な因果律操縦をも可能とする。 
無からエネルギーを生み出すモノ、或いは沸点や融点の存在しない鋼材、燃焼効率が一を超える燃料――旧暦の半導体と同等の機能を有するモノ。
ルシファーの生み出すあらゆる新物質は、星から生まれたモノでありながら新西暦の秩序すら逸脱し、新たなる物理法則体系を形成していく。
その星を以てすれば現状の人間や地球環境の構成物質を一から設計し直し一新することも可能である。全人類の自由意志による不老不死化などは所詮はその通過点に過ぎない。
人類救済、その一点に関してのみ述べるのであれば神奏に準ずると言っても何ら差支えはないだろう。
さながらソレは、この世に非ざる楽園の創造主の如く。
失楽の園たる新西暦を焼き捨て、真に楽園たる熾高天を創り上げんがために、彼は侵略する。
物質文明の覇者にして輝ける一二の翼をもつ者。それこそが暁の子である。
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