そして神曲の末節は天国篇も煉獄篇も地獄篇も星、という名が充てられます。
つまり、どういうことなのかというのが今回の話にもなります。
恐らく、完結はあと2-4話ぐらいです。
謝すのは少し早いですが、本当にここまで見てくださった方々、ありがとうございました。
かくして、世界は都合四度目の変革期を迎える。
「地獄の淵より新生したか、落暉。やはりお前は素晴らしい、想定の悉くを裏切ってくれる」
「神を気取るのもそれまでだ。貴様の望んだ楽園はこの世界に訪れはしない――未来永劫な」
旭を映す、曙光の剣がルシファーへと飛来する。
それは容易くルシファーの羽を叩き折り、次いでポースポロスとジュリエットは共に宙を踏み出す。
「私は、私の過ちを償うためにも魔女を討つ。――往こう、ポースポロス」
「あぁ、往くぞ。この楽園に、終末をくれてやる」
極光の輝きは、その軌道上の全てを貫いて破壊する。
ルシファーの生み出す
全ての生態系の基礎構造は変革を遂げる。
虫が、木々が、或いは何の変哲もない石くれでさえ。
虫の一匹が自己を変革し増殖していく。千にも、万にも、億にさえも到達する。
それら一匹一匹は非力でありながら、しかし間違いなく
「貪り食らえ――
一挙に、それらは顎をきちきちと鳴らしながら襲い掛かる。
金属や非金属というくびきさえ超越した躯体を持ちながら、超小型の虫型魔星群が一斉に雲霞の如く襲い掛かる。
まさしくその有様は
「ポースポロス。そこは私に任せて――!」
ジュリエットの手に生じた光体は、極小規模の太陽風となってそれら魔星群を一挙にして蹴散らす。
翼を焼かれ、その躯体さえ同じ極晃の域に達した者の焔の下では、ただただ融解を遂げるのみだった。
沸点も融点も存在しないはずの装甲は一撃のもとに焼き尽くされた。理外の熱量を生み出し続ける彼女の気力が、ルシファーの設計をねじ伏せた結果だった。
だが――、その中のいくつかの完全死を遂げなかった魔星群は、更に自律しながら自己を変革させその耐性を得て飛翔する。
生物が免疫を獲得するように。
「……これが、貴様らの言う変革か。楽園とはよく言った。人類の変革の果てに行きつく先は、人類ですらない何かだ。これを見たかったと、これを待っていたと、本気で宣うのか」
「……今、私は反旗を翻して心底から良かったと思っているわ、ドクター・ウェルギリウス。人奏は人類には早すぎる星かもしれないけれど、暁奏は
進化というにはあまりにも悍まし過ぎる。
原生生物からの人類進化の過程を早送りした光景もそのようなものなのかもしれない。
本来であれば数千年、或いは数万年をかけて行われるであろう種の進化がたった数秒で達成される。
文字通り死の克服など、その途上で果たされる程度の話でしかなかったのだ。
死とは、その途上で一蹴される程度の事象でしかなかったのだ。
これが人類だと――人類の輝かしい進化の模式図だと果たして言えるのか。
「語弊があるわね木星天、太陽天。人類の在り方はもまた進化を遂げるという事よ。腕と足の本数も、目の個数も、それは飽くまで今の世界において最適化された結果に過ぎない。旧暦においては、人間の祖先は猿だったとされるらしいわね。その猿でさえ、元を辿れば単純な細胞の塊だったとも。今が過渡期ではないと、なぜ人の知性で言い切れるのかしら」
「言えるに決まってる。それは本来、進化の速度に適した文明と認知の進歩が傍らにあってなされるべきモノよ。今の私達が千年前の人間に文明を説いたとて、道具を与えたとてその人たちにはその使い方は理解できない。意志を置き去りにした肉体の進化がどのような結果を招くのか、理解しているの?」
「私達は
おぞましく映るこの光景でさえ、熾高天が齎す未来においてはやがて普通と成るのだと言う。
人の在り方さえも、根本からそれらは変えかねない。
「結局のところ貴様らはどこまでも情けなく空しい、己が孤独に向き合えなかっただけの塵屑だ。同類が、或いはある共通項において自分たちに比肩し得る者が欲しかっただけだろう。人類を変革する? ――よくほざいた、
怒りと共に放たれる剣閃が光の波濤となってルシファーとウェルギリウスを襲い掛かる。
それをかいくぐりながらなおも星を創生する。
「敢えて問おう、貴様らはなぜそうまでして世界を――人間を改造したい。貴様らの目に映るソレらはそれほどに退屈か。秩序とはそれほどに守る価値のない、退屈なものか」
「退屈だな、それらに殉じる連中も俺とウェルギリウスからすれば理外もいいところだ。世界とは、観測者の認知の集積の上に成り立つ概念だ。であればなぜ世界はウェルギリウスを排斥する。なぜ――なぜ、誰もウェルギリウスや俺達についてこれない。俺達が孤独? ――当たり前だな、人類が俺達の領域に至っていないからだ」
耐性を得て襲い掛かる機虫の群れは、ポースポロスの剣では絶対的に拡散性故に太刀打ちができない。
――その、はずだが。
天に掲げた曙の剣がたった一度、一閃された。
その刹那に――百を超える剣閃がただの一閃として
都合、百回放たれたその一撃が機虫の群れを微塵に焼き尽くして滅ぼした。
今ポースポロスがしたことは何ら特殊な事でもない。絶滅光、灼閃光に匹敵する一撃を、
落暉新生、十天の彼方を拓け曙の剣
AVERAGE: B
発動値DRIVE: AAA
集束性:EX
拡散性:D
操縦性:AAA
付属性:E
維持性:E
干渉性:E
「――なるほど、集束性の極点。即ち、百余の事象を今この瞬間に
その剣閃を放つ瞬間、わずかに蜃気楼のようにポースポロスの躯体は重なった。
それこそポースポロスの権能――事象多元並列召喚能力。
この新西暦において、ポースポロスのあらゆる可能性は
ポースポロスもまた因果を光速突破したが故に、彼の可能性は一本の糸のようにこの次元に集束する。
無限の可能性をその裡に宿す、曙の剣。
英雄、太陽神の在り方を継承しながらしかし彼は因果の破壊ではなく、因果の縫合を選んだ。
左に振るう剣、右に振るう剣。あるいは縦。それらの一撃の数々は重ね合わされる。
その一撃さえ極まった集束性は致命に至らしめる。
端的に述べて、彼のその攻撃性は先駆者たる閃奏、或いは烈奏に何ら劣るものではなかった。
「問を戻そう。答えの導出は容易、即ち俺達の視座を理解できる段階に人類はいないからだ。倫理がどうした、道理が何だという。それは俺達以外が共有しているだけのものだ。命とは強く在るべきで、往ける限りを往くべきだ。――例えば、このように」
パチン、と成る指と共に、更に生態系が書き換わっていく。
急速に成長していく木々が、生物が、それぞれの異種間の細胞を融合させていく。
それは塔のように際限なく成長を遂げながら、やがて蛇のような巨大な龍体へと変じた。
種の壁すら越えて個を捨て群として生態系を成す、恐るべき星辰体運用兵器と成る。
それはまるで、かつての土星天のように。
その口が開くと、その体躯の全てが加速器を成して駆動する。
鋼の喉に破滅の光芒が装填されていく。
光を越える速さで加速された粒子の奔流がポースポロスとジュリエットを目掛けて放たれる。
猛毒の放射線を孕みながら飛来するそれは同時に、時空間を歪めながら軌道上を奔っていく。
ポースポロスとジュリエットの全身はその瞬間に焼き尽くされた。恐らく十数度は蒸発して余りある熱量だが――同時に、その程度ではポースポロスの
「まだだ――!!!」
目に奔る決意の光が並列する事象の中から
返す刀で振るわれた一閃が、空間さえ破砕しながら輝線を両断し龍体を斬り伏せた。
太陽が昇る事は自然摂理であり、それと同様に曙光の輝きは何者にも打ち砕くことは叶わない。
「事象の集束――なるほど、今度は並列する事象から己の生存という結果を集束し出力したか」
今度は、ルシファーは白兵戦の土俵に引きずり込まれる。
極彩色の結晶剣を携えて放たれる剣閃はしかし、裂帛の気概と共に放たれるポースポロスの一撃によって微塵も残さず破壊される。
その次の瞬間には、またルシファーの剣が形成されるがそれさえも容易に打ち砕かれる。
「……俺の設計ではお前の意志力には届かないという事か。ならば届くまで改良するだけだ――!!」
何度も、何度も、破壊されるたびに設計を計算し直し、剣を創造する。
砕けた残骸を散らしながら何度も何度も、再計算を試みる。
絶対的数理の下に鍛造と鋳造を繰り返しながら、尚も剣は破壊される。理論値の悉くをポースポロスが上回り続ける。
「おおおおぉぉぉぉ!!!」
「まだだ――、届け……奴の強さに!!!」
ルシファーの資質は概ねほぼ総てにおいて、ポースポロスを上回っている。
ポースポロスの勝利条件は至極単純で、防御不能の攻撃を至近距離でルシファーに叩き込むという一点に集約される。
対してルシファーの勝利条件はその逆、接近戦などもっての外――その全方位の資質を生かして多元的にポースポロスを追い詰める詰将棋だ。
智と力――対極たる両者の在り方を映す鏡のようでもあった。
意志力の程度はほぼ互角を見てもいいだろう。故に総合値を問うならばその勝率はルシファーが優勢だ。
射程、そしてもはや界奏に次ぐとさえ言えるであろう手数がルシファーの総合値の根拠であり、故に疑う余地のない論理の帰結だ。
対して、ポースポロスに与えられたのはただの剣だ。限りなく、この世の万象が
飛来し並列して訪れる事象の全てを演算しながらも、同時に己の核に届き得ない極限の間合いを見計らいながらルシファーは剣を振るう。
百を超える剣の試作品が砕かれ続ける。もはや接近戦など無意味と悟れば義体を編み上げそれを単純な爆弾のようにぶつけて距離を突き放す。
永久機関の搭載された、生機一体たる機動城塞が生まれればその核をポースポロスが抉り抜く。
常温で核融合が勝手に起こる、人類の夢の具現のような物質をルシファーが創り上げれば、それを上回る熱量をポースポロスは捻り出す。
人類の、物質文明の夢がこれでもかというほどその空に描かれる。
反物質が、常温核融合が、負の質量を持つ物質が――あるいは、新西暦における半導体演算素子が。
皇都を数度は焼き払う甚大極まる熱量と山のような奇跡の残骸を散らしながら聖戦は紡がれる。
「安心して傍観するがいい、この地上の極晃奏者共。俺達が
そして、ルシファーはその手を天に翳す。
そこに、新たなる設計図が紡がれる。
その設計図は――即ち、
自己組織化する新物質が、素粒子が異なる次元の世界を創り上げ、ルシファーとポースポロスを新西暦から隔絶していく。
それはつまり――ルシファーとポースポロスの聖戦の場と言う事でもある。
「来い。地上はあまりにも、聖戦には狭すぎる」
「上等だ――諸共、焼き尽くしてくれる」
その瞳に光の軌跡を描きながら、暁と曙を呑みながら特異点は燦然たる光輝と共に皇国の天上に立ち上った。
それはさながら、神なる詩篇に謳われる至高の天が如くに。
/
「ありがと、騎士様。もう降ろしていいよ」
言って、クラウディアは聖庁に立つ。
それから、空の彼方を指さす。そこには、太陽と見まごうほどにひときわ眩しく輝く何かがあった。
「……ロダン、様。アレは」
「信じたくない光景だが、多分ポースポロスとルシファーは極晃奏者になった。……つまり、聖戦の開幕だ。不味い、なんてものじゃない。最悪、どちらが勝つか以前に
神星と英雄――そして堕天と落暉。
大局的に見て、その構図は聖戦と何も変わって等いない。
まだだ、まだだと叫び続ける。そんな光景が目に浮かぶ。
恐らく、聖庁まで移動してきた事は間違いではないだろう。あのままあの場に留まっていれば、共々巻き込まれて俺達は死んでいた。
姉さんも、水星天も、エリスも、皆無事だ。
だが、ポースポロスは今もなおあの特異点で戦い続けている。
事態はもはや人智を逸脱し、世界の運命はポースポロス一人に託された形になる。
「木星天まで極晃奏者になるのは想定外だった。彼らは永遠に成長し続ける。そうして、多分エリスと騎士様の描くだろう極晃は、当たり前に負けると思う」
……脳裏に浮かぶのは、かつてエリスと極晃を描いた記憶だった。
あの星で、ルシファーに勝てる未来が思い浮かばない。総合値が絶対的に足りていない。
「……ポースポロスの勝利を祈る以外、ないのか?」
「現状、それが最適解。……救世主になってほしいと言った手前で、本当に御免。私には、騎士様が勝つ姿を信じ切れないの」
「謝らなくていい。数学ぐらいは分かるさ」
だが、行き着く果ては聖戦だ。
世界は不可逆の変革を遂げるだろう。
……ここまで来て、手詰まりだ。
その変革の果てに世界はどうなるだろう。
曖昧な言い方をせずに明文化するのならばまず、ポースポロスとルシファーの激突による熱量が最低でも聖教皇国全土を覆いつくすだろう。
そうなったとき、姉さんは――クラウディアは、諸共に死んでしまう。
次は、冗談ではなく地球全土を焼き尽くすだろう。
その次は第二太陽もただの余波で消し飛ぶ。
では更にその次は。
次は、次は次は次は。
出来るはずがないと言う希望的観測と、奴らならやらかしかねないという絶望的観測を比較して、圧倒的に勝ったのは後者だった。
ルシファーはそれを斟酌などしないが、ポースポロスは決して地上を焼き払う事を望んでなどいない。
「……ダメだ。それは、それだけは絶対に受け入れられない」
言葉にして、それでもどうすればいいのか。方法が思い浮かばなかった。
だが。そこで俺達の背へ声が投げられる。
それは、この場に在るはずのない声で。
「――えぇ、まだよ。エリスさん、ロダンさん。私達は、まだここで終わりはしない」
/
後ろから投げられた声の主は――オフィーリア副長官だった。
白衣のところどころに泥の汚れがあり、かけた眼鏡に罅が入っていた。
出で立ちは戦地帰りの医者のようにも見える。幽霊だと言われれば恐らく今俺は納得してしまいそうになるだろう。
ルシファーとの戦闘で討たれ、装甲監獄の底で亡くなったと聞いていたが確かに自分の目で、副長官を見た記憶は俺にはなかった。
「……オフィーリア、様。貴女は、ルシファーに敗れて亡くなったはずでは?」
「……私も、そう思ってたわ。エリスさん」
痛むであろう肩を自分の手で抱きながら、副長官はそう語る。
……本当に幽霊が現れたのかとさえ、俺は思った。……でもこれは間違いなく現実だ。
「暫くあの地下で気絶して寝ていたらしいの、私。それから目を覚まして、必死に廃墟と化した装甲監獄を昇って、やっと地上に出て――」
「ルシファーが仕留め損なった?」
「私を助ける者はあの時いなかった。だから逃れられた理由があったとすれば、意図的に殺さなかった。という事しか考えられない」
信じられない話だ。
ルシファーが、なぜ副長官を生かしたのか。
それはつまり、ウェルギリウスに対する背信行為だ。ルシファーは徹頭徹尾合理を重んじるはずだし、そうする合理性が理解できない。
……ますます、ルシファーの目的がよくわからなくなる。
「……とにかく、私は幽霊じゃないわ。ロダンさんに出した食事の内容を覚えてると言えば、本人なのは分かるでしょう?」
「わかった、貴女が幽霊じゃない事ぐらいは理解してるよ副長官。……まずは場所を移させてくれ。いろいろ言いたいことも積もるわけで、腰を落ち着けていられる暇がないのは分かるが早口だ」
副長官は顔を拭いながら、そう言った。
「言われなくてもそのつもりよ、ロダンさん。エリスさん。……それから水星天とそこの方々は――」
「俺の姉さんと、銀月天――クラウディアだ」
初めて、副長官と顔を合わせる人もいるはずだ。
姉さんははじめまして、と距離感を見計らいつつそう会釈する。クラウディアもまた、怪訝な顔をしながら挨拶をする。
「ハル、さんは一応貴方の周辺人物として知っているわ。……貴女が、あの銀月天?」
「……騎士様、私の事なんて吹き込んだの? 一応初めまして、になるのかな。貴女が先生の昔の知り合いだったっていうオフィー……、オフェリア? さんでいいのかな」
「訛りの違いもあるけれど、オフィーリアでいいわ。クラウディアさん。……貴女が、エリスさんの創造主、と呼ばれる人であってるかしら」
「あってる。外見年齢がコレだけれど、一応エリスのお母さんってことになるのかな。……それでオフィーリアさん。……もちろん、貴女には暁奏打倒の心当たりはあると解釈してもいいんだよね? 私も、ある意味ではソレを目的にここまで来たから」
そう、目下の問題はそこだ。
理屈で言えば、どうしようもない状況だ。
ルシファーとポースポロスの戦いに下手に介入すればこちらが巻き込まれかねない。
かと言って、世界の行く末を任せるのはあまりにも無責任で、無茶だ。
「……今から貴方達に案内したい場所があるの。今聖教皇国において、縋れるモノはそれしかないから」
「それは?」
この状況を覆し得る可能性がある、聖教皇国――そして極晃。
考えた時、思い至るモノはただ一つだった。因果の皮肉とその収束に、苦笑いさえ浮かんだ。確かに、天に階段を架けるならば、一つしかありえない。
「――かつて、神天地創造事件と世に呼ばれた事件を引き起こした炉心。世界樹の社よ」
いくつかの幾何学用の紋様を走らせながら、いくつかの荘厳な鳥居がそびえたつ。
聖教皇国という国家の最高機密に相当する区画であることは疑いようは無い。
神天地創造事件を引き起こしたという炉心は今もなお、その深奥に黙して坐してしている。
神殿、或いは社。そう形容するのが相応しい荘厳たる意匠と威容だった。必然性か、創造者の嗜好かは俺には判じかねるし興味はあまりなかった。
そこを、ゆっくりこつこつと歩く。
間違いなく、今ここに在るのは星辰体運用技術の最先端――かつて神祖と呼ばれた者達が組み上げたシステムだ。
「……いいのか、副長官。こんなところに案内させて」
「神祖が去った今となっては、それほど最高機密というわけではないわ。星晶樹の創造機能は喪失したけれど、それでもまだ膨大な星辰体の制御装置としての役割は果たせる。……それこそ極晃創星に瞬時に必要な程度の量は」
……ここに、どれだけの争いがあったのだろう。
炉心への階段のところどころに、剣で抉られたようなの傷跡がある。
神祖を滅ぼした者達の死闘の跡が垣間見える光景でもあった。名も、顔も知らない彼らは何を想い、何へ挑んだのだろうか。
馳せる想いと感じる因果はあるが、それはまた後でだ。
「つまり、これが聖教皇国の最期の砦というわけか」
「えぇ。……そして、この炉心を利用しロダンさんとエリスさんの極晃を創星し、二人をあの特異点に撃ち込む。少なくとも、聖教皇国で現状唯一の勝算よ」
「……つまり俺たち次第か」
確かに道理は通っている。
けれど担わされるであろう宿命は、あまりにも重すぎる。
「神天地で極晃を一度描いた人たちは、言わば世界樹の枝葉のようなものね。特異点の彼方にその答えを刻み付けることも敵わず散った。――そして、だからこそまだ尚、ロダンさんとエリスさんの極晃は白紙のままなのよ」
「白紙ゆえに、以前の極晃とはまるで性質の異なるモノになる可能性もある、ということだな」
「この装置も、幾度か改修を行って今は幾分か平和的な用途に転用できるようになっている。想定される用途はもちろん、対魔星――そして」
「極晃奏者、か。……表向き、神祖の時代が終わったとは言いつつ、やる事やってるんだな」
「人聞きが悪いわね、神祖の遺産の真っ当な用途への有効利用よ」
「星辰人奏者が聞いたらはたしてどう思うやらだ」
制御用の端末のような何かを操りながら、副長官は鳥居様の制御装置の向こう側を見遣る。
それから、ひびの入った眼鏡をはずし、俺とエリスに問う。
「最終確認だけれどロダンさんとエリスさんには、拒否する権利がある。恐らく一度往けば帰ってこれない可能性の方が圧倒的に高い。……そんな運命は、例え国家や秩序の存亡がかかっていても勝手に決めていい事ではないと思っているから」
少しだけ、エリスと視線を交わす。
綺麗な、澄んだ赤い瞳。そこに迷いはなかった。
返す回答は、さほど困りはしなかった。
「――いや、ありがとう。副長官。その心だけで十分だ。貴女を魔女だとは俺は思わない」
「オフィーリア様。私達は、とうの昔に覚悟はできています」
何のために戦うのか――それは、あの子のために。
火星天の、金星天の、或いは水星天のために。
……魔女が奪ってきた誰かの物語を、在るべき場所に還すために。
「……ありがとう、二人とも。元々この装置は神祖の星辰波長に最適化された論理体系をしているから、それをエリスさんとロダンさん用に最適化し直す必要がある。まだ少し時間はかかるけれど、可能な限り急ぐわ。貴方達を送り出すまでの間をどうか悔いの無いように時間を使って」
/
「姉さん」
「ロダン。……本当に、往くの?」
「いくよ、エリスを連れて」
……聖庁の外で、少しだけ俺は姉さんと出かけた。少しだけ、視線を伏せていた。
エリスはクラウディアと一緒にいると聞いている。
こうして、改めて姉さんと一緒に手を握りながら外を出ると、まるで子供の頃に戻った時のようでもあった。
それから、姉さんは少しだけ俺の背に縋る様にだきついた。
「……ロダン。私は貴女も、エリスさんも好き。だから行ってほしくない」
「俺も、姉さんの事は大好きだよ。子供のころから、憧れじゃない日なんてなかった」
「それは、家族として?」
「……姉さんも、厳しいことを聞いてくれるなぁ」
姉さんの事を、異性として好いている心がないと言えば嘘になる。
だから、姉さんが俺を引き留めようとしてくれることが、俺には嬉しかった。
「私はエリスさんの事は好きで、やっぱりそれでも本音を言えばほんの少しだけ嫌い。……もう一度、振り向かせて初恋の相手が誰だったか、どこかの三文作家に思い出させてやりたいの。だから、必ず帰ってきて――エリスさんと一緒に」
「……ありがとう、姉さん。いつか、姉さんの言葉にちゃんと答えられるようになりたい。だから待っていてくれ。俺も、エリスも、姉さんの事が大好きなんだから」
姉さんの体を、そっと抱きしめた。
もう二度と逢えないかもしれないから。
「……少しだけ、妬けるなぁ。エリスさん。私も一緒に、いたかった」
「――姉さんも、一緒だよ。決して。俺は一人じゃない」
「それってどういう――」
泣きそうになる姉さんの頭を撫でる。
子供の頃、いつも姉さんが俺にしてくれたことだった。
それから、俺は少し考える。
……なぜルシファーは副長官を生かしたのか。
……ウェルギリウスの絵図とはなんだったのか。
至高天の階達は、言うまでもなくその絵図は神曲に準えたそれだった。
神星――地動説における星達と、番外たる冥王星。
魔女――天動説における遊星天。
だが神星のそれに比べて、魔女の筋書きは幾分ちぐはぐだ。
第四世代人造惑星は、詩人と淑女の関係を当てはめたそれだろう。
十なる天の旅路において、詩人が最初に訪れる遊星天は月の天だ。そうした意味では確かに銀月天は構図においてははまり役という奴だった。
水星天、火星天。それらの由来もまた、当然十の遊星天だ。
しかし太陽天は旧暦における暁の神性たる女神、エオスに準えている。
木星天もまた、旧暦における暁の明星を意味する神性、ポースポロスに準えている。
かと思えば、原動天は神の詩篇における詩人の師にして賢者たるウェルギリウス。
恒星天は原初の混沌の子たる暗夜の神性ニュクス。
極めつけはルシファーの座だ。
ウェルギリウスの創り出した魔星たる至高天にあたるルシファー。その語源もまた、この国において聖書に慣れ親しむ者において知らぬ者はいないであろう。
かつて高き御座に在りてその傲岸が故に地に堕ちた暁の子。
そのルシファーは明けの明星とも訳され、そして金星もまたの名を
であるならば金星天の座が本来はルシファーに与えられるべき最もふさわしい名でありながら、しかし現実としてその座を与えられたのはユダだった。
強引に解釈してもいいのなら失楽園であれ、旧暦宗教上の最大公約数的な解釈におけるそれであれ、ルシファーは叛逆と自由、或いは傲慢という属性を持つ神話的存在だ。
金星天を叛逆の象徴と捉え、ユダ――つまりは同じ叛逆者の名をそこに充てたというのなら、理解できなくはない。ただウェルギリウスがそんなことを意識しているとは思い難い。
性能値として至高の名にふさわしい者として、ルシファーを至高天に充てたのだろう。
……モチーフが錯誤しているにもほどがある。ちぐはぐ過ぎて宗教や神話の闇鍋のような有様だ。
ただし神曲も旧暦の実在する人物や多数の他の神話的存在をその構図の中に持つ、ある意味では混沌さに富んだ作品だ。
ウェルギリウスの宗教観や思想は俺は知り得はしない。
だがウェルギリウスの設計した魔星たち、その絵図の根幹にあるのは間違いなくかつて神曲と旧暦において呼ばれたモノだ。
だが神曲とは、元々旧暦の原典からして宗教色の強い著作だ。
だからこそなぜ無宗教であろうウェルギリウスが神曲を選んだのかその理由が分からない。
「……俺は、ルシファーとウェルギリウスを何か勘違いしている?」
少しだけ、虚空につぶやく。
それから地下に戻る。少しだけ、肌寒い。
そこには、黙々と調整作業を続けるオフィーリア副長官とクラウディアがいた。
「騎士様せっかち。さすがに、まだ時間はあるよ」
「ならクラウディア。君と話が、したい」
「……うん、わかった。いろいろ話したい事が在るよね」
……剣の傷跡がところどころに刻まれた階段にクラウディアと一緒に腰を下ろす。
あの子と今こうして、二人で話すというのは久々の経験だった。本来だったら成立するはずのない光景だったのだから。
「……君が、いてくれて本当によかったと俺は思う。君のおかげで、俺は自分の道を決められたから」
「別に、いい大人が勝手に救われた気分になって、勝手に騎士を辞めただけ。私は――クラウディアという女の子は何もしていない。何もできず、何も残すこともないままこの世を去った」
「それでも、君の事を俺は忘れない。俺の中で君は永遠だ」
何それ、とクラウディアは記憶に残っている彼女と全く同じ笑みで笑う。
そう、笑ってくれると俺は嬉しいと思う。彼女は何よりも諦観ではなく、喜びによって笑うべきだと思うから。
「随分好き勝手に先生が持って行ったせいか、私が星を描いたらあらまびっくり。私の中にエリスが出来上がり。おまけにエリス自身が意志を持つ星だったからか、それ以降は私は自分で発動値が解けなくなっちゃった。恐らくは欠けた肉体を無意識に補おうとした結果、エリスを自分の創り出すことになったんだと思う」
「だろうな。己の原典を知るからこその本能的な飢餓感、それは水星天も恐らく持っていた。往々にして、星辰光は情動が描くものだ。その例の極北はポースポロス――そして英雄や神星だろう」
「水星天は物質侵略、私は自己複製という形で、自分の欠損を補うように星を描いた。……正直私も水星天は気持ち悪いと思ってるけど、それでも彼女もまた私の肉を分けた妹のような存在なの」
「まぁ……その。その妹とやらに、エリスのファーストキスは奪われたんだがな」
気色が悪い、と言う事に関しては否定はしていないのはまぁ、仕方がないと思う。
「騎士様とエリスを繋ぎ直すのに、それなりに苦労したんだけどそれに関しては何かこう。見返りはないの騎士様? エリスはエリスで大変だったんだから。あの子、本当に貴方にあの時負い目を感じていたから」
「……」
「内面がぐちゃぐちゃで、まるで
「そうだな。エリスは純粋だ。誰かを憎むのは本来当然苦手だし、引きずりやすい。俺はハナから恨んでなんかいないけど、それでもエリスは自分で自分を罰する。そういう人間なんだ」
……エリスは少なくとも、間違いなく人間だ。
人間である事を疑う理由等、俺が腕を折られかけた腕力以外には存在しないだろう。
「先生と堕天を討つこと、エリスが大事である事、その二点においては私は水星天と一致し、水星天は私と手を結んでくれた。……私は元々、先生と堕天の目的のために目覚める気なんてさらさらなかった。例えばそう、目覚めるのは王子様が来てくれたら――なんてね」
「恐らくこの国で最も普遍的なイメージにおける王子様に近いのは……亡きルーファス卿か」
「勘弁して頂戴、騎士様」
「これでも、騎士時代の俺の目標だった人だぞ」
「冗談でしょ?」
そこを即答されるのは、どうかと思いつつ苦笑いしてしまった。
俺は聖教皇国の裏側を計らずとも知ることになるまでは少なくとも
それでも騎士になりたての頃はルーファス卿への憧れも間違いなく、俺の原動力になっていた。
ルーファス卿は例え求められた役割が偶像であったとしても、直接は関与しなかったにしても、誰かを導いてはいる。その功績は俺は否定する要素はどこにもないと思っている。
「とりあえず話は戻そうか。エリスはよく君について、自由意志を許してくれた人だと、生みの親だと言っていた。……だからありがとう。君もまた、エリスと俺にとっての
「別に。でも、私もありがとう。エリスを助けてくれて――エリスを、愛してくれて」
「……愛されるべきではない、愛されてはならない人間はいないよ。いては、ならないはずなんだ」
「でも、先生はそうではなかった」
ウェルギリウスに同情など出来ようはずもない。
これだけの惨劇の数々を進んで自ら築いてきた彼女は、決して神祖の被害者では、ない。
だが彼女は人だ。人の摂理の中で生きた彼女が感じたモノは恐らく強い疎外感だろう。
「読者のいない作家というのは時折己の存在意義を見失うものだ。同様に、理解者がいないという事は少なからずウェルギリウスの思想に何かを与えたはずだ。そうでなければ、他者たるルシファーを創ろうという発想にはならない」
「先生が、ルシファーに望んだものはなんだったんだろうね。多分、もう先生はそれを知ることはないだろうけれど」
ウェルギリウスという人物を俺はあまりその実像を知らない。
けれど、ルシファーを創り上げた。
「……だから、なのかもね。よく、先生は何かの本の一文を口ずさんでいた。恋愛小説とは違うけども、たしか女性に伴われながらいろんな星を旅する話。……永遠なる存在、祝福の薔薇、その者星の果てにかの女と共に悟る、みたいなの」
「――神曲、ね」
そこで、いったん指を止めてオフィーリア副長官は指摘した。
科学者は、文学に疎いとは俺の固定観念だったのかもしれないと思う。
「神曲の天国篇、それも最後の最後。淑女ベアトリーチェに導かれながら、ダンテが天国の旅路の最後の遊星天に赴く結末の話よ」
「……確かにそうだな。薔薇、星、女と共に――文章的にも恐らく舞台は最後、詩人が至高天に至るところだろう。だが、なんでそんな宗教色の強い作品をウェルギリウスが?」
「……昔、私は彼女に本を贈ったことがあったわ。彼女はあまりにも文学作品に疎いから、貴女のいいと思う本を知りたいと言われて、私はその本を贈った記憶がある。……けれどそれだけね。今となっては、思い返す事もない、古い話よ」
ただ、そうオフィーリア副長官は言ったきり、指を再び動かし始めた。
胸を抉る話題だっただろう。
けれど彼女の話は、決して俺には聞き逃す事の出来ない事だった。
「そして、彼女は私と戦う時、こうも言っていたわ。……私と対等以上は、四人だけでいいと。意図は知らないけれど」
……ウェルギリウスの描いた筋書き――悪夢の神曲を、一人の読者として――あるいは文筆家として俯瞰する。それは、俺にしかできないことだ。
御伽噺の探偵じみているけれど、恐らくこれはルシファーとウェルギリウスの本質を知る事において、重要な事のはずだ。
その四人の内訳はいくつか察しはつく。
一人目は彼女の師たるオウカ
二人目は共犯者たるルシファー。
三人目は確証はないが、恐らく銀月天――クラウディアだ。銀月の運命、その贄として射止められたこと、当初ルシファーと並び彼女の実証実験の中核を担うはずだった事からも、特別視されていることは分かる。
では四人目。そう考えた時、ルシファーの叛意の理由も見えてくる。
なぜ、ウェルギリウスは銀月天を、或いは自身をも淑女に準えたか。
なぜ、ルシファーは副長官を生かしたのか。
――天使にとっての堕天の結果が悪魔であるのなら、悪魔の堕天の結果とは何であるか。
……事績から逆算して、もっともらしい筋書きを考えるとすると、俺が文脈を捕らえ間違えていなければ答えは恐らく
そしてそれは、恐らく
それから、定刻を迎えた。
収斂していく、青白い光体。星辰体の分布はあの極点に今集っている。
何重もの鳥居は、まるで天国への門のようだった。特異点への門と化している、という意味においては恐らくそれは何の比喩でもないだろう。
「クリエイターID、全権限を一時的にアレクシス・ロダン、エリス・ルナハイムの両名に移譲。……これで、総て準備は完了よ」
「いや、
少し遅れて、水星天がやってくる。その手に握られているのは火星天の剣だった。
その剣を俺は受け取る。
「さて、これで私の用は済みました。では心置きなく散ってください詩人、保証はしません」
「ありがとう、水星天。お前にも、俺は助けられた」
そして火星天の剣、だけではない。
その剣にはもう一つ――姉さんの胸の神鉄、つまりは第四世代人造惑星用の発動体が水星天の星によって合金を成し、形を変えて埋め込まれている。
水星天が摘出した、恒星天の炉心。
ルシファーとウェルギリウスは、互いが魔星だった。
対して俺はエリスと違って、根本的には第四世代人造惑星ではない――つまり対等ではない。
だが、これで条件はルシファーとウェルギリウスに対して、俺達は対等だ。
あればあるだけいいのは無論道理だ。だから神祖の――そしてウェルギリウスの遺したモノを、有効活用するだけだ。
「オフィーリア様。……いつかの約束を、私は果たします」
「……何か、約束したかしら私は?」
「……ウェルギリウスを、連れて帰ってきます。魔女ではなく、人として、彼女を裁くために」
そう、言われると副長官は笑った。
それから頭を下げる。
「結局、総て貴方達に押し付けてしまった事、それをどうか聖教皇国の技術部門の長として許してほしい」
「別に、押し付けられたとは思ってない。元々、因果の収束とは多分こうなるはずだったんだろうさ」
第四世代人造惑星の運用特性における通常の極晃奏者との最大の相違点は、両者の間での天元突破の資質の共有だ。
例えばルシファーとウェルギリウスは出力と操縦性の天元突破に至ったように。
だからこそ、これは至極道理だ。
俺達を見送るのは、副長官と水星天、それからクラウディアだった。
「……エリス。ちょっとだけ、やっぱり嫉妬していいかな。貴方に騎士様を託した身で厚かましいのは分かってるんだけど、それでもよく似合ってる」
「いいですよ、クラウディア。私も、嫉妬というものを始めてお姉さまに教わりました」
「それから、育児放棄してごめんね。ずっと、謝りたいって思ってた。ひょっとしたら、恨まれてるかもしれないと、思ってた」
「そんなことは、ありません。貴女はたった一人の私の創造主なのですから」
「……だから、私そんな母さんって年じゃないはずなんだけどな」
少しだけ、クラウディアは拗ねる。
その在り様に、俺も少しだけ笑いかけてしまった。
「ほら、騎士様も笑わない。帰ってきたら騎士様と一緒にエリスの演目を見に行ってあげるんだから、予定を入れておいて」
「わかった、そんなことを言われたら是が非でも帰るしかなくなるじゃないか」
「でしょ?」
そんな言い方は、反則だろう。覿面すぎる。
「甘ったるい寸劇はそこまでにして頂けますか詩人。貴方の顔なんか、見たくありませんから。お姉さまを連れて帰ってくることだけを考えてください。一体この三文詩人は誰に何度無茶を頼んだと思っているのですか」
「済まなかった。だが、ルシファーとウェルギリウスは討つ。それを以って、お前への報いとさせてくれ」
水星天とは思えば、あまり言葉を交わす機会はなかったなと思う。
あまり言葉を進んで交えようとは思わないが、それでも今は俺達に与してくれている。
天へ続く、その階段に足を踏み出す。震えは微塵もありはしない。
一歩、一歩、確かめるように歩み出す。
思い返すのは、エリスと過ごした日々だった。
例え、エリスの輝きが星の歴史からしてみれば瞬き程度に過ぎない刹那のそれだったとしても、虚空から生まれた存在であったとしても。
俺はその在り方を知っている。
少しだけ嫉妬深いところも、若干に天然な気質であるところも。
朝が弱い事も、よく人の足を踏むことも。
人は誰かに認識され、記憶されることによってこそ初めてそこに実在すると言えるのだろう。
それはきっと、魔女や堕天でさえも例外ではなかった。
人は認知をし合って生きているともいえるだろう。
誰かを忘れない事でこそ、誰かは誰かにとっての永遠となれるのだから。
「本当にエリスには助けられた」
「でも、一番最初に先に助けられたのは、私の方です」
ここは冥界の闇のように暗く静やかだ。
「今日だけは、エリスの脚本家は俺だ」
「もちろんです。私も、結末までお付き合い致します」
俺達の心は境界の海のように凪いでいる。
「何ぶん小説はともかく、脚本はあまり経験がない。稚拙になるかもしれない」
「それでもきっと、今日より良い
星辰体の煌めくその深奥は人界の空へと続いている。
「ウェルギリウス――ルシファー。お前達には、新西暦は握れない。お前達が本当に新生を目指すのなら、
「神歌の結末は、天国も煉獄も、地獄も、等しく
――だからその頂で、俺達は星界の詩を奏でよう。
至高の神歌を綾織るように。
/
「星創せよ、我が守護星――鋼の
彼らがその手に掴むモノのは、極晃――
滅奏と同じ過程をたどりながらしかし、身にまとう星辰体は黒から転じて深く煌めく銀色を帯びていく。
「白紙の詩篇は既に無く、十天を超え詩人は至高の天をその目に宿す。さらば遥かな神天地、最高神よ、我等は御身の許を越えていく。三界駆ける巡礼の果てに嘆きと穢れは焼き尽くされ、輝ける洞察は見神の域に至るのだ」
干渉性と操縦性――星辰体を変革させる究極たる二つの資質が天元突破を果たす。
星辰体の改質進化と共に、彼らもまたそれに
「永劫不変たる星の運航に人は神の愛を知る。貴方と共に観る星々こそ彼方に輝く
纏う輝きは星辰体にも、反星辰体にも在らず――虚数の星辰体。敢えて呼ぶべきとすれば、
星辰奏者は星辰体が感応するから変革を遂げた彼らの肉体は新たなる星辰体を迎える器と成る。
「冥界の闇、境界の海、人界の空の果てに、星界の詩は響くのだ。三界巡る旅路の終わり、月の繭を破り焔の階を翔けながら、十天を抱きて詩人と淑女は新生する」
星辰光とも極晃星とも、根本からそれは
故に超星辰体たるそれによって駆動する異能はもはや極晃星にも星辰光にもあらず、
「何より愛しき神聖詩人、痛みと嘆きの刻は過ぎた。喜劇を紡げ月光よ、至高の神歌を奏でましょう。天に届け我らが誓願、永遠にして刹那――その結末に私は貴方と星を仰ぐ」
此処に、新たなる異能体系は開拓される。
――地獄も煉獄も天国、神聖喜劇の末節は、総て
勝利とは、忘れない事。
それはハルであり、火星天であり――あるいは太陽天、木星天――クラウディアを。
かつて詩人が奪い続けた剣を。
そして、ウェルギリウスが奪い薪にくべた、どこかの誰かの
火星と詩人の二剣を携え、詩人の腕にエリスは抱かれる。
祝福と共に銀と金の輝きを帯びながら、超星辰体は鳴動する。
「超新星――
落暉新生、十天の彼方を拓け曙の剣
AVERAGE: B
発動値DRIVE: AAA
集束性:EX
拡散性:D
操縦性:AAA
付属性:E
維持性:E
干渉性:E
荷電粒子星辰光極限集束・多元事象並列召喚能力。
並立する複数の事象を一つの次元に束ねそれを並列召喚させる能力。
左を向きながら右を向き、同時に上を向きながら下をも向く、という単純ながら荒唐無稽な事象が実現するようになる。
並立する多元事象――ヒトの器に到底収まりきらないであろう極限に分岐する可能性を一つの因果に束ね裡に内包する、集束性の天元たる曙の剣。
攻撃のみならず、自己の喪失に際し消滅を免れた可能性を召喚することによって覆すという点においても、烈奏や閃奏を倣っていると言えるだろう。
同じ集束性の天元突破に在りながら、因果律の崩壊という権能に至っていた場合恐らく新西暦はポースポロスの内包する可能性に耐え切れず、またポースポロス自身でさえ己を制御する事ができず、因果を逸脱した形容しがたい何かに変貌を遂げることとなる。
そこに至らなかったのは、彼の在り方を変えるに足る誰かがその傍らにいたからでああろう。
太陽が昇ることは万古不易の秩序である。それと同等に、ポースポロスに絶てぬモノが存在しないことも、疑う余地なき森羅の自明である。