シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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Q、マリアンナって平均体温いくつですか?
A、星辰光の影響で37度台です。

Q、マリアンナはそれだけ優秀なら、なぜ神祖の計画に参画させされなかったのですか?
A、人としてはある種の偏執で非常に扱いにくい性質をしていたからです。そういう判断もあり、神祖は彼女を計画に関わらせませんでした


私を呼ぶ声 / Into Inferno

  一つ、つまらぬ詩人の昔話をしよう。これはある一人の女の子の話であり、地上の神話だ。

 

 かつて、この地上に月の女神がいた。

 破滅の暁を討った最後の月の女神が、そこにいた。

 私を詩人にしてくれた、――そして今はもう、声をかけてやれない一人の少女が確かにそこにいたのだ。

 

 

 ……ダンテ著 「舞姫神譚・神曲」より

 

―――

 

「許せよ神聖詩人(ダンテ)。この手の小細工が俺は不得手でな」

「……神聖詩人(ダンテ)? いや、なんでその単語を知ってるんだ」

「お前が知ることはない、安心しろ。――そして、お前は今日ここで死ぬ」

 ……大剣の切っ先が、まっすぐこちらに向く。

 一体、この男は何者か等理解のしようがない。

 

「まぁしかしこれも運命か。国家の公的組織から脱した者が、月の女神に見初められる。……実に因果な筋書きだと思うだろう。吟遊詩人(オルフェウス)の前例をなぞるにも出来過ぎだ」

「何を一人で勝手に納得してるんだ」

 嫌でも、その赤毛の男の異様さに俺は息を飲む。

 吟遊詩人(オルフェウス)神聖詩人(ダンテ)。月の女神に前例、まるでその名詞群は彼の中では明確なストーリーとして繋がっているように思える。

 この男の素性のプロファイルなど出来ようもない。こんな男を、騎士団で見たことはなかった。

 所属不明の星辰奏者――それはあの大剣から見ても間違いはないだろう。有り得るとすれば、エリス同様に他国所属だろう。

 少なくともカンタベリーにおける正規の星辰奏者ではない事は事実だ。神聖詩人(ダンテ)という単語を口にしたことは見逃せない。

 ……だが、たかが辞めた騎士の尻を追いかけまわして、その姿をさらす意味が俺には分からない。

 

「お前は、俺と何の関係がある」

「あるとは言えるし、ないとも言える。しかし間接的にというのであれば有ると断言できる」

「……俺をそう呼ぶ人間は、エリスしかいない。お前も、エリスも、俺は知らない」

「つれないな、俺はお前の事も、エリスと名乗る女の事も知っている」

 こういう時、どうするべきかと考えた場合は騎士に助けを請うべきだ。請うべきだが、あまりにも街を外れすぎている。

 周囲に助力を請える人間などいない。

 俺は星辰奏者であるとは言え、発動体は騎士を辞める際に返却してしまった。そして、この男は俺を殺すと言った。――エリスの事を、知っていると言った。

 

「俺をどうして殺すんだ」

「知らん方が幸せという事もある。――あの女の為にも、お前の為にも」

 そう、言った瞬間に男は大地を蹴りだし俺へと肉薄していた。

 

「……、くっ!!」

「徒手空拳にしてはよくやる。どうした、得物はなしか星辰奏者」

 振りかぶられたその剣を、すんでの所でかわし大剣の腹に全力で拳を撃ち込めば剣を弾いた。

 ……間違いない、この男は本気なのだと理解ができた。

 この国の中で、本気で人殺しをしようとしている。

 一切の躊躇なく俺に剣を振ってきた。

 

「本気、かよっ!」

「詩人を気取るなら読解力を養う事だ。俺は殺すと言ったが?」

 続けざまに、踵で振り向きと同時に踵を放てばそれもまたこともなげに男はいなす。

 互いに基準値同士だがまるで山を蹴ったかと錯覚させられるほどに男は微動だにしなかった。足の反発を利用して距離を話せば、

 

「さて、徒手空拳でよくやるがどこまで続くかね。お前は殺すと俺は誓った」

 ……助けは来ないだろう。

 意味も分からないまま、意味の分からない男に因縁をつけられて殺される、そんな終わり方は受け容れる事などできなかった。

  

「……いい構えだ、我流か?」

「手癖の悪さと言い換えてくれ」

 徒手空拳、ならば頼れる武器はもはや自分の研ぎ澄ませた肉体しかありえない。

 やって見せる。やらなければ、負ける。そう、震える心に誓う。

 

 ……拳を握る覚悟もないままに。

 

 

 得物がない以上は、どう考えても間合いは相手に分がある。

 加えて――速い。剣を見切っても、相手はしっかり致命の間合いを見切っている。拳を、決して侮ってはいない。

 正眼から振り下ろされる剣に身を引き空振りさせその剣の峰を掌で抑え込めばその顎を次いで左の腕で撃ち抜く――が。

 

「利いたぞ神聖詩人(ダンテ)、頭が痺れた」

「……」

 渾身の一撃を正面から食らっていながら、男には一切たじろいだ気配はない。むしろ殴っているはずのこちらの拳が痛んだぐらいだ。

 体幹が強い、などと言うレベルを遥かに超えている。返す刀が文字通り訪れて、頬を掠めながらもそれをかわす。間一髪、あと少し遅れていたら恐らく脳味噌がこぼれていただろう。

 改めて、背筋が狭くなる。之は訓練などではないのだと、

 

「……なるほど、いくつか見慣れない流儀流派を感じ取れる。お前のソレは、お前自身の研鑽で磨き上げたモノか?」

「何を言いたい」

「いや何。体捌きにまるで一貫性がない。変幻自在で死線はしっかり読み切っているかと思えば、剛毅に一閃を振るい。それが俺に届かないと知ればすぐさまに逃げの姿勢をとる。……おいおいなんだソレは。まるで継ぎ接ぎだ、まるでお前という人間が分からないじゃないか」

 ……こんな殺し合いに何を求めているのだろうかこの男は、と俺は思えなかった。

 この男は、俺がどのようにして若造のままに第六軍団の第Ⅲ位階に登りつめたのか、それを理解している。

 

「ああ、つまりは分かるぞ。他者から学びそれを高い精度で実践する。まるで理屈としては間違っていない。前例に学び己の血肉とするのは戦士として至極真っ当だ。だが、その上でお前のそれはただの模倣にしては精度が高すぎる。そうさな、お前は――」

「黙れ、今すぐその口をふさいでやる」

 ――その先を言わせてはならない。

 拳を武器にしても、果たしてどこまでやれるかが怪しい。けれどそんな算段も一瞬で吹き飛んだ。

 この男の言葉を言わせたら俺はまた、どうしようもなくなってしまいそうだから。けれど、俺の手口を学習はしているのだろう、安易はフェイントにこの男は乗らない。

 剣を振らせて筋肉を伸ばし切らせるという目論見を達成させてはくれない。こちらの筋肉の動きを見抜いている。 

 

「図星にもほどがあるぐらいには分かりやすいぞ、詩人を気取るならもう少し態度を飾れよ」

「そうかよ赤髭野郎」

 間違いなく眼前の男は俺を殺せるだろうし、そうする。

 だが俺は徒手空拳で、追い返せるか以前に対処できるかすら怪しい。……同時に眼前の男は未だ星を使っていない。

 事態をおおっぴらにはしたくないからそうしているのか、あるいはそれ以外に目的があってそうしているのか、判じがたい。

 今も尚振るわれる剣を受け流し、かわしながらも反撃の機を待つ。

 

 槍の如く突き出される剣の速さにも次第に慣れてくる。手練れで、それも騎士の上位位階には相当し得るほどの腕前なのは事実だ。

 見せかけの拮抗も、今までの俺が得てきた経験――死ぬほどに嫌いだった()()()()()()()を切り崩してようやく迫っているというだけだ。

 

「随分に持つ。誇るといいだろう、俺は決して手を抜いていないからな。……もはやここで言うまでもないだが、実は概ねお前のことは身辺調査がついている」

「だろうな、そうじゃなきゃ尾行する意味もなけりゃ俺を神聖詩人(ダンテ)と呼ぶ理由がない。同時にお前はエリスの事を知っているんだな。そういう文脈だと捉えた」

「俺に勝てればその時には総て教えよう。――だが今の貴様では無理だし殺されてやるのは不快だ。狡猾なる詩人(ロッドファーヴニル)のままでは、銀想淑女(ベアトリーチェ)を伴う資格は無いだろうさ。何より役者が違いすぎる」

「――」

 今、この男はなんと言っただろうか。確かに言った。ベアトリーチェと。

 夢の中の彼女が、俺がそう言った名前を、なぜこの男は知っている。不味い、そう感じた瞬間に回避は遅れていた。

 

「どうした、鈍ったな」

「……ぐっ、おおおぉぉぉ!?」

 右肩から左脇へ一文字に、一閃された。吹き上がる血と、断たれた肉。遅れて脳に叩きつけられる痛み。

 あともう少し判断が遅れていたら、恐らく本当に死んでいた。

 それだけの傷の深さだった。どくどくと血が流れるたびに全身は冷えていく。

 

「さらばだ。お前に神聖詩人(ダンテ)の資格はなしとまぁ、そのように造物主には伝えよう。残念だがまぁそれも運命だと諦めてくれ」

 何かを納得したような声色で、眼前の赤髭の男はその剣を真一文字に振り下ろした。

 

 

 終わった。俺という人間は意味もなく、何の真実も掴めないままに終わるだろう。

 その理不尽に抵抗がしたくて、それでも冷えて血圧も熱も失っていく末端は何も答えない。

 

 不思議なことに、目を閉じた時に頭に浮かんだのはエリスの顔だった。

 

―――

 

「いいえ――終わらない、顔を上げなさいロダン」

 そう、凜とした声が虚空に響く。

 カン、と鳴り響く金属音、鎧同士の擦れる様な音、そして目を閉じてもいつまでたっても訪れない俺の死。

 目を開ければ答えは目の前にあった。

 

「……グランドベル卿」

「遅れましたねロダン、お許しくださいを。これより騎士として貴方を護りましょう、決着をつけたその後に弁明となる事にはご容赦を」

 マリアンナ・グランドベル。現第一軍団の第Ⅲ位を務める、鉄血の聖女と呼ばれる者その人だった。 

 なぜ、俺を助けに来たのだろう。大聖庁から離れているにもほどがあるこの場所に、よりにもよって最上位級の騎士が単騎で訪れたのか。

 ……積もる疑問はある。

 あるが、今はそんな事を言っている場合ではなさそうだった。

 

 十字架を象ったような、その槍を薙げば男もまた距離を離す。

 

「――予期せぬ配役だが……しかしここまで吟遊詩人の筋書きをなぞるとはますます話がよく出来過ぎている。聞こう、女騎士。お前は何者だ」

「第一軍団が第Ⅲ位。鉄血聖女(ロンギヌス)――マリアンナ・グランドベル。罪なき市井の敵を討つ者に他ならぬと知りなさい」

 ずしりと質量を視覚からですら感じ得るであろうその架槍。

 切っ先をまっすぐに男に向けている。そこに在るのは両者ともに純然たる殺意だった。言葉にしなくても、纏う空気の変容は分かる。

 

「では俺も同じく名乗ろう。――我が名はファウスト、ファウスト・キリングフィールド。今から貴様を殺す、貴様が定義するところによる市井の敵という奴だ」

「そうですか。なら、問答は無用でしょう」

「ならば尋常に――」

 大剣が、架槍が、正面から激突する。

 

 始まりの一合が、舗装を打ち砕いた。

 その矮躯にどれだけの力を生み出しているのか、想像がつかないほどにグランドベル卿の一撃は重かった。

 断頭台のように振り下ろされるその一撃は、質量体を得物とする赤毛――改めファウストですら守勢に回らなければならなかった。

 大剣を盾のように構えその槍の振り下ろし受けきっても、その次の瞬間にはほぼ同時と見まごう程の速さで膝、肩、腕を撃ち抜く突きが放たれる。

 

 発動値に至らずとも、これだけの苛烈な武錬をグランドベル卿は示している。……かつて、手合わせした時から何も色あせていない。それどころかさらに磨きがかかっている槍の扱いに俺は舌を巻くしかなかった。

 速く、重く、正しい。槍の穂先と石突を巧みに使いこなし、長大な得物で間断なく攻撃を浴びせかける。

 

 撃ち合いを重ねるたびに大地を抉っていく。相手が後ずされば後ずさった分だけ距離を詰めて、一切容赦もなく打ち砕こうとする。

 勝利の二字を目指す合理、時には己の身を危険にさらす事で利得を得ようとする蛮性が両立していた。

 苛烈にして合理――まさにこれこそ鉄血聖女の名の証明に他ならない。

 

 端的に言って、殺戮巧者として見た場合間違いなくその優位は彼女にあった。

 

 

「……さて、聖女よここで提案だが休戦協定といく気はないか? 俺は御覧の通り殺されそうだが」

「罪なき市井を追い詰め命を奪おうとした。その時点で有り得ないと知りなさい――!」

 あくまでも、両者ともにまだ星を開帳していない。

 だが、このままいけばその展開も予想が出来る。敵を撃滅する、その一点において明確にグランドベル卿は抜きんでている。

 比較対象をこの男に限らなくても、その武錬は全騎士団で見ても決して中層には位置していないだろう。

 

 今も尚、刻々と彼女は勝利の天秤を傾け続けている。

 普段の穏やかな彼女とは全くイメージが結びつかないほどに、その在り様は攻撃性に溢れている――その星も含めて。

 傷を負い続けているのはファウストの側だ。

 もはや無理と判断したのか、彼女から間合いを取ろうと宙へ飛び上がったその瞬間には、彼のその動きさえ読んでいたのだろう。

 グランドベル卿は全霊を籠めて槍を投擲していた。

 音速とさえも思えるほどのその一撃に、ついに明確にファウストは傷を負った。

 

 脇腹を肉ごと抉り飛ばし、その槍は彼女の手元に帰っていく。

 

「やるな、女騎士。危うく内臓が出そうになった」

「そうですか。それは僥倖でしたね」

 優勝劣敗、という言葉の通りだろう。

 純粋に戦士としての土俵で彼女は勝ったから眼前の男は腹を抉られている。……だが。

 

 

「ならば、俺の星を見せるしかあるまい。よもや使う事になるとは思わなかったが、なればこそ感謝しよう。認めてやるとも、お前は人類種の頂点に限りなく近い存在だ。だが――星がそうであるとは限らない」

 横一文字に構えられるファウストの得物。

 同時に、星辰体が励起を始めていく。戦慄く星辰体が、第二幕の開幕を告げていた。

 見るがいい、地獄の門はこれから開くのだと告げるがごとく。

 

 

「創生せよ、天に描いた()()を――我らは()()の流れ星」

 ……その星は、奇妙な星辰の波長を有していた。

 歌うような、音楽に似た――何か、ロダンにとっては聞き覚えのあるモノで。

 だが異変はそこに留まらない。

 

「此処は火の星、第五の天体。汝真に詩人の資格あるならば、その未来を予言しよう。血肉の残骸は物言わず、その土は二度と踏むことはない。嗚呼、永久に遠き我が故郷。もはや未練は欠片もありはしない」

 赤毛であったはずのその髪も、髭も、次第に急速に染物でもされたがごとく銀の白に変わっていく。

 ……その銀色に、俺は覚えがあった。そう、――まるでアレはエリスのようではないかと。

 老化しているでもない、ただただ髪が白くなったというだけの現象であるはずなのに、その白が俺には俺には言い難い恐怖を与えていた。

 なぜ恐ろしいのかを、ちゃんと説明できないのに。

 

「仮初の平穏と大神と結んだ盟に訣別を告げるがいい、さすらば地獄の門は口を開かれよう。淑女の導きをこそ、我は切に切にと至高の天に祈るのだ」

 その逡巡の次には、周囲の環境が塗り替わっていた。

 浸食されていくがごとく、赤茶けた大地が俺達を包んでいる。命の気配の見えない、荒涼たる虚空がそこに在った。

 

「淑女に捧げしの愛こそお前の真実と知れ、今こそ大神の箴言(ハーヴァマール)を破り捨て神曲を紡ぐのだ。――火の星を踏破し、秒針を不可逆に刻むが如く、筆を進めろ――神聖詩人(ダンテ)

 だからこそ、俺はその星の異常さを理解する。

 通常、環境をここまで劇的に改変する事は普通の星辰奏者には出来ない。

 最低でもそれを広域にわたって展開するために拡散性が、次いで環境を思うがままに設定するために操縦性と干渉性が要求される。

 視界に写る世界を丸ごと改変する等、並大抵の出力と資質で可能と出来る芸当ではない

 

「超新星――絢爛なりし決闘領域、(Cielo di Marte)顕現するは火星天(Killing field)

 人知を超えた出力と、超高次の資質を以ってその男は新生を果たす。

 とても、人間とは思えないほどの完成度の星がそこにはあった。

 

絢爛なりし決闘領域、顕現するは火星天 

AVERAGE: A

発動値DRIVE: AA

集束性:D

拡散性:A

操縦性:AA

付属性:C

維持性:B

干渉性:AA  

 

 

 

 ――だが。

 同じく決してグランドベル卿も星を開帳する。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星」

 

 

「顔を上げよ佳き人よ。輝く明日を担うは我に在らぬ故に我に光は要らず、なれば私は松明となろう。我が血肉よ火を灯し薪となれ、天に掲げたその輝きを以って聖女の証をここに立てよう」

 

「仇成す者よ皆悉く私と共に連れて逝こう、数多の戦士と神の息果てた地平に我らの肉灰を撒け。未来はいつだとて撃滅の灰と鉄より出でて不死鳥のように飛翔するのだから」

 

 

「我が裡なる神に、我が身を裁きを委ねよう。架けて焼けて死ぬがいい――鉄血聖女(ロンギヌス)。聖女の灰こそ鉄血の最期に何より相応しい」

 荘厳なるその祈り。

 何者にも穢せぬ、焔の誓約を胸に聖女は溶鉱炉に身を投げるがごとく焔を纏う。

 

 

「超新星――聖女の骸よ焼け堕ちろ(Schisma Judicium)灰より溢れろ希望の光(Longinus)

 隻眼に焔の如く緋色の輝きを宿しながら、グランドベル卿もまた星を晒す。

 ……聖女の星、その真実を俺は知っている。目の当たりにしたこともある。全身に纏う焔が、俺には痛ましくて辛かった。

 

 

聖女の骸よ焼け堕ちろ(Schisma Judicium)灰より溢れろ希望の光(Longinus)

AVERAGE: B

発動値DRIVE: A

集束性:AA

拡散性:A

操縦性:E

付属性:D

維持性:D

干渉性:C

 

 ――殺し合い、その第三幕がここに開幕する。

 だが、先手を放ったのは――ファウストだった。

 

「――!!」

 その一瞬で不可視の一閃が抜き放たれた。何もないはずのその虚空を、グランドベル卿は確かに槍で受け止めている。

 撃ち合う音も響く。

 だが、異変はそれだけではない。

 また数度、不可視の剣閃が襲い掛かる。それもまた、グランドベル卿はこともなげにはじき返す。

 はたから見れば、まるで何をやっているのかが理解できない。理解できないからこそ、その一瞬でグランドベル卿のやっている事の出鱈目さに開いた口がふさがらない。

 

 ……なぜならば、恐らく俺の見立てが正しいならばファウストの星の能力はシンプルにして凶悪だから。

 空間隔離・疑似空間切断能力――超高次の資質で疑似的に世界を創造し、空間そのものを斬り裂く剣。

 文字通り何処に立っていても、その斬閃から逃れるすべはない。極論、この世界にいる限りはどれだけ無限遠にいたとしても冗談ではなく世界そのものが剣と化して斬り裂きにかかる、バカげた異能だ。

 

「いよいよ以て人外じみているぞ聖女殿。まさか初見でこれを凌がれるとは」

「その手の星は、生憎とかつて同門の出であった者と手合わせした際に見た事がありますから」

 こともなげにそう言い放つ。

 似たような星を見たことがあるというだけで、初見の星を捌き抜くなどまさしく狂気の所業だ。

 同時に、彼女もまた負けていない。

 

「――爆ぜなさい」

 彼女は、大地に槍を突きさすと爆光が広がる。

 まるで侵食されるがごとく、大地に焔は広がっていく。

 際限なく荒野に広がる焔は彼女自身をも炙っていく。

 

 それは極めて高い集束性と拡散性によるものであり、焔の洗礼を敵味方を選ばず浴びせていく。

 星辰体を燃料にして何処までも燃え広がっていく、裁きの焔がそこに在る。

 ――彼我を共に焔と共に削っていく。それが彼女の星辰光、シンプルなその真実は火炎延焼能力。

 自らをも裁くその代償に、世界総てを焼き払う必殺を誓う災禍の星に他ならない。同時にその星で俺が焼かれていないのは、最大限のグランドベル卿の配慮であるとも言えるだろう。

 自分の星で俺を巻き込まないようにしている。

 

 同時に槍を全力で振り抜けば、空気そのものを媒介にして甚大なる焔光が生じる。軌道上の敵を総て焼き払わんとする極光撃を、すんでの所でファウストは世界ごと両断して抑えきる。

 

 無制限とも言えるほど甚大な出力を振るうファウストを意にも介していないかのようにグランドベル卿の猛撃は続いていく。

 世界は焼け落ちるが如くその延焼の激しさを増していく。ファウストの消耗も目に見えて激しくなる。

 四方を間断なく襲う空間切断の刃に対し目にも止まらない速さで大地を数閃斬り裂けば、焔で焼かれた大地は噴火するかのようにひび割れ爆ぜる。

 

「自分諸共火あぶりの刑とはこりゃまた、俺は厳密には上位規格とは言え割とかなり苦しいぞ」

「なら、それで結構です。私や貴方のような人間こそ火にくべられて死ぬべきでしょう。――そして自白しましたね。人間ではないと」

「隠す意味もないだろうが、そう言う事だ。詳細は言ってやれんが」

 まるで自分の生存すら度外視しているかのような猛撃は、本当に同じ人間なのかと思いたくなるほどだった。

 戦士としての完成度がまるで違いすぎる。

 槍に焔を纏い、果ては空気ですらも極光撃の媒体に変えてしまう。

 

 だが同時に、その熱量は彼女自身をも絶え間なく焼き続けている。常時暴走状態にあるも同然の星辰光であり、その出力に彼女という器はどう見ても耐えられていない。

 あの星を無理なく使うなら、最低でも付属性はさらに一段階は必要となるだろう。

 

 槍を自分の背後に突き刺せば、その爆発の反動でさらに速力を上げて追撃を重ねていく。自分さえも焔に変えたその御業は、その四肢に火薬を搭載したが如き速力を与える。

 ついにその間合いに到達した彼女は目論見通りにファウストを戦士としての土俵に引きずりおろした。

 

 だが――

 

「俺の間合いはそこじゃない。悪いが馬鹿正直に付き合うほど俺は騎士道精神に富まないのでな、心は痛むがまぁ耐えろ」

「……ちぃ!!」

 ファウストの異能とはすなわち、疑似的な空間切断だ。その根底にあるのは空間操作で在り――だからこそ空間をゆがめて距離をとることも容易なのだろう。

 また、間合いを開けられるとともに剣閃が走る。それを撃ち落とし続けながらも、グランドベル卿は少しでも間合いを詰めようとする。

 

 その合間に斬光撃を織り交ぜながら距離を見計らうが、そうしている間にもグランドベル卿は全身を焼かれ続けている。

 まるで火炙りの刑に処されながらその火を武器にしている、まさしく矛盾の徒だ。

 

 だからこそ相性が悪すぎた。距離を取る事を得意とする相手に対して、途端に有効な手段は激減する。

 

 であれば徹頭徹尾距離を取り続ける事こそが、ファウストの必勝手になる。

 接近戦等もっての外、その大原則を維持し続けていればファウストは勝てる。出所はともかく、あの無尽蔵とも言える出力さえあればこの空間は維持し続けられるのだから。

 その間にもファウストもまた焔に炙られ続けて戦闘力を削られ続けるが、それでも距離を離し続けることはグランドベル卿には有効な手と言えた。

 

「はぁあああ!!」

「――っ」

 グランドベル卿はそれでも前へ前へと進軍していく。気力を武器に、大地共々斬り裂きながら、時には足で踏み砕いて大地を爆発させて自分を加速させる。

 持久戦という領域では間違いなく、ファウストは強い。実際彼女は顔に出さずとも疲弊を強いられている。自分の星に全身を焼かれ続けていながら、それでも眼前の敵を滅ぼすのみと猛っている。

 

 何度、空間操作をしたろうか。

 そのたびに無常に空間操作によって距離は離される。……しかし。

 

「其処でしょう。そして、()()しかないでしょう。貴方が逃げる場所は」

 グランドベル卿の策は単純で――そして何より効果的だった。

 空間創造と言っても、恐らくはそれはファウストでも効果領域を無限にすることなどできはしないだろう。

 効果範囲とは一重に拡散性が大きく寄与する。そして拡散性がこの上無く高いと言ってもそれは決して無限ではない。

 

 ファウストの作り出した世界、その最果てに今ファウスト自身をグランドベル卿は追い遣った。一直線に過ぎる進撃は、彼女の苛烈さの発露に見えてもその実は世界の端へ追い詰めるための策だったのだから。

 

 またしてもファウストは空間操作により上空へ逃れようとする。

 空に飛びあがったファウストに対して、しっかりとグランドベル卿は槍の照準を構えていた。

 総てを粉砕してやるとばかりに、手を翳して槍を投擲する――しかし。

 

 彼女の強すぎる星辰光は、彼女への負荷となってほんの一瞬だけその手元を鈍らせた。

 わずか数センチのズレで、ファウストは槍を回避した。ほんの一瞬でも、頬を掠めていたら恐らく本気で脳漿が散華していただろう。

 

「――幸運に助けられた、というわけか。全く業腹だが、神曲譚には全く不要な配役だよ」

 返す刃で、ファウストはその剣閃を放てばグランドベル卿に破滅の剣閃が訪れた。

 

―――

 

 刃が迫る。こんな俺を助けようとしてくれた、グランドベル卿の首が今堕ちようとしている。

 騎士を辞めた俺を、騎士として助けようとしてくれたあの人が。

 それを認めることは俺には出来なかった。

 でも、そんな結末を押し付けたのは俺であり――俺が誰より俺を許せなかった。

 

『――彼女を助けたい、ですか。ダンテ様』

 そう、脳髄に聞きなれた声の思惟が走る。

 ……確証はなくても、それが末路の幻聴であっても、彼女の声に他ならない。

 知っている、いつぞやの夢で聞いたその声を、俺は知っているとも。

 

 

「あぁそうだ、だから俺に力を貸してくれ。俺は、俺の為に死ぬ人間がいる事が耐えられないのだから!!!」

 ただ叫ぶ、どこでもない、誰でもない誰かに、俺は叫ぶ。

 誰に聞いてほしかったのか、果たして声は届くのか。そんな事さえどうでもよかった。

 

 

『――なれば託星詩神(ハーヴァマール)狡猾なる詩人(ロッドファーヴニル)の名を捨て今こそ神聖詩人(ダンテ)へ転生せよ。その暁に、私は貴方に銀月(シルヴァリオ)を委ねましょう。さぁ――今こそ私の名前を唱えなさい』

 名前など、とうの昔に知っている。

 そうだろう――■■■。

 

「――銀想淑女(ベアトリーチェ)よ、俺に運命を託してくれ。神曲の旅路をなぞるが如く!」

 この運命を覆せる力を。

 グランドベル卿を救える力を、俺は今この瞬間、何よりも欲しているのだから。

 だからこそ月に願い俺は吠えるのだ。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()!!!』

   

 

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