シルヴァリオ・エンピレオ   作:ゆぐのーしす

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Q、ウェルギリウスってそんななんかヤバい人だったの?
A、良くも悪くも、神祖という絶対者の治世が終わった結果ハッスルし始めました。海を隔てたどっかの国で聞いたような話ですね


銀ノ淑女、月ノ卵 / Luna

 遅い。まず初めにそう、思った。

 ロダンはいつも、私と一緒にいるかぎり私を一人にすることはなかったから。

 けれども、大丈夫。ロダンなら待っていれば帰ってくれる。……いつだって、あの子は私を一人になんてしなかったから。

 夕刻にさしかかると、エリスさんが帰ってきた。てっきりロダンと一緒に帰るものだと思っていたけれどその傍らにはロダンはいなかった。

 

「ただいま帰りました、御姉様。ロダン様は、少し劇団の方と歓談なさってから帰るそうです」

「おかえりなさい、エリスさん。……そう、よかった。ロダンはいつも、帰りが早いものだから少し不安になったの」

「……御姉様は、随分とロダン様のお帰りを心待ちにしているのですね」

 ふと、エリスさんは柔らかに、からかうようにそう笑った。

 その通りで、私はロダンの帰りをいつも待っている。あの子は昔から、よく私の後についてきてくれたから。

 ……私が家族を総て失った時、傍に居てくれたのもロダンだったから。 

 

「そうね。あの子、私は放っておけないもの。……エリスさん、良ければ朝に言ったロダンの話を聞いていかないかしら」

「えぇ、是非!」

 エリスさんの手をとって、私は屋敷のソファに腰かける。エリスさんも隣に座らせて、茶菓子を用意するとお気になさらずにとエリスさんは言う。

 しぐさや恰好は家の良さというものを感じる。誰かにそうするように育てられたわけではなく、自然体のようにも見える。

 少し、冷たさを感じる大人びた美貌がほんの少しだけ怖くて。けれどとても、ロダンの話を楽しみにしているその様は、年頃の女の子のようにも見えた。

 不躾な言い方が許されるなら、こんなふうな妹がいてくれたら、と少し思う。

 

「……ロダン様は、幼少の頃より御姉様によく付き従っていたと聞いています。どういった経緯なのか聞かせていただいても?」

「えぇ。初めは、私の母さんとロダンのお母様の交流でロダンと最初に出会ったの。とてもかわいかったのよ、ロダン。もう写真はないけれど、それでもよく私についてきてくれたの。仕事で忙しかったお母さんの代わりに、いつも子供の頃は私と一緒にいてくれたの」

「そう……なのですね。ロダン様は幼少期よりそのような、優しいお方だったのですね」

 そうかもしれない。私にとってだけ優しい人であってほしいと、そう思う事もあった。

 騎士は似合わない、なんてよく自嘲していたけれど私は全然そんなことはないと思っていた。きっと、私に証明してくれたように、きっと彼は困ってる人を放っては置けないはずの人だから。

 初めて騎士の甲冑姿を私に見せてくれた時、私は初めて男の人を恰好いいって思えたから。困ったように笑っていた彼を私は決して笑わなかった。似合ってない、なんて思わなかったのだから。

 

「居間に飾ってる、古ぼけた写真があるでしょう。アレが初めて彼が騎士になった時の写真よ、とっても格好良かったんだから」

「確かに、とても似合っていると思います。けれど少し憂いているような顔にも見えます」

「……やっぱり、そこに気づくのねエリスさん。そうね、ロダンは昔から物書きになりたいとよく言っていたの。騎士になってからも、名前を隠して脚本を劇団へ売ったりと、いろいろやってたみたい」

 彼が星辰奏者の適正があると判明したその日から、彼は騎士になったと聞いている。

 騎士になると同時に、段々と私とも疎遠になっていって。この中途半端に広い屋敷が再び私だけのものになるまで、そう時間はかからなかった。

 

「本当はロダンに騎士を続けてほしいと思っているの。でも、ロダンは悩んでいたの。何か、偉い人から虐められたのかと聞けばそうではないと言って。かと言って、馴染めないのかと言えばそれも違うと言って。騎士になってからも会う機会は時折あったけど、それでも彼の顔は曇っていたわ」

「……そんな、過去があったのですね」 

 そうなるころには、彼には不穏な噂があった。曰く「物覚えが良すぎる」と。

 訓練の教官の剣を次々と学んでいっては、特になんら苦労することもなくそれを修め彼らの心を砕き折り続けた。

 ついた仇名が「教官殺し」、他人の剣の腕を盗み自分のモノにすることに長け過ぎたあまりにも狡猾な騎士だと。登りつめた最終位階は第六軍団の第Ⅲ位、若輩としては限りなく大出世と言えた。

 

 ……けれど、そんな幸せを彼はついぞ好まなかったのだろう。部外者の私には彼の事情は推し量ることはできない。「教官殺し」のその異名が背負う意味も、決して彼は自分から語りはしなかったから。

 それでも騎士団を辞めたと言ってこの屋敷に再び訪れた彼の顔は、確かに少しだけ晴れていた。

 

「彼が久々にこの屋敷に来た時は、本音を言えばとても嬉しかったの。また、子供の時のように、一緒にいられると思えたから」

「……率直に述べて、私は御邪魔でしたでしょうか。御姉様」

「いいえ、そんなことはないわ。今の私にはこの屋敷は広すぎるもの。それに私、今は血の繋がった家族は全員亡くなったの、むしろ話し相手になってくれる人が増えるのは嬉しいわ」

「私も詳しくは話せませんが、……もう家族と呼べる人はいないのでその気持ちは察する事は出来るつもりでございます、御姉様」

 そっと、私の手にエリスさんは手を添える。白くて、柔らかくて、折れてしまいそうなほど華奢な指。

 エリスさんは自分で、家族と呼べる人間がいないと言った。それがどれだけ心細いことなのかもまた、私は分かるつもりだった。

 私の家族は、その昔事故で亡くなったと聞いている。船でアンタルヤへと向かうその最中で、船上から足を踏み外して外交官だった父と母は亡くなったと。

 当時の私は親の帰りを待ちながらロダンと屋敷の留守番をしていた。母と父の亡くなった知らせを聞いた時の虚脱感は、何者にも代えられなかった。

 大好きだったお母さんとお父さんはもうこの世にはいない。……抜け殻になった私を支えてくれたのは、ロダンだった。きっと、ロダンがいなかったら私は私ではいられなかったと思う。

 

「私を邪魔ではないと、話し相手になってくれると言ってくれた事、とてもこのような居候の身に余ります。このような御心を戴いただけでも、私は満ち足りています」

「そう。……ありがとう、束の間だけれど自分の家だと思ってゆっくりしてくれるだけでも私は嬉しいわ、エリスさん」

 何処までもエリスさんは真摯だった。

 少し真面目に過ぎると思えたくらいには畏まりすぎている。礼儀の正しさは、まるで子供の頃に厳しくしつけられた私を見ているような気分にもなった。

 けれど、一方で気取っている風にも見えない。それが自然体のように似合っているのも確かだった。

 そんな彼女の様を私はとても佳いと思えた。

 

「ところで、ロダンは今日帰りが遅いのね」

「えぇ、座長との飲みに誘われたはずです。……それにしても、少し遅いかと思います」

 怪訝そうな顔で、エリスさんもそう同意している。

 ……いつもロダンは帰りが早い。それなのに、今日に限っては遅かった。ロダンは、あまり夜遊びに出かけるような人ではなかった。

 変なことに巻き込まれていなければいいのだけれど、そう思う。

 

「ご心配ですか、ロダン様の事が」

「ロダンはいつも帰りが早くて、家から出ようとはあまりしないから。それが少しだけ心配なの」

「……良い、御姉様ですね。ハル様は」

 そう、エリスさんは微かに呟くようにいった。私に柔らかに微笑みかけて、それから席を立つ。

 良い姉だと、そう言われた事が私には少しだけ嬉しかった。

 

「……エリスさん、これからどちらへ?」

「少し、散歩したいのです。それと、ロダン様の行きそうな場所に心当たりがあったものですから」

「そう。……夜は物騒だから、あまり遅くならないようにするといいわ」

 エリスさんは、どこか行きたい場所があるのだという。それと、ロダンの行きそうな場所の心あたりがあると。

 止めることはしないけれど、彼女の身を私は案じている。……遅くならないうちに彼女も帰ってくれると嬉しいのだけれど。

 

 

―――

 

 

「創生せよ、天に描いた遊星を――我らは彼岸の流れ星」

 銀月に捧げる祈りは、一つの奇跡を証明する。

 ……それは、決してロダン自身の本来の星ではなかった。如何なる奇跡と原理によるものか等、今この場にいる誰もが微塵も理解できていなかった。

 それはロダンでさえも例外ではなく。

 

「破却せよ大神の箴言、我が詩篇を捧ぐべきは汝に非ず。訣別の夜、惑いて進んだその果ては鬱蒼たる神代の森。地獄の門は旅人を歓迎する。嘆きと歓喜に悶えながら地獄の土を踏みしめろ、愛の真実に辿り着くその時を待ち焦がれろ」

 喉を震わせるのは、ロダン一人ではなかった。

 ロダンの星の波長はもまた彼一人のものではなく。連弾するように、共に謳うように、女神の言霊が添えられる。

 

「天球を下れ。嘆きの河を渡り、九つの地獄を越えて煉獄の麓を目指すのだ――不可逆たる秒針は今こそ真に時を刻んだ。綴れよ神曲、神なる詩よ。白紙の詩篇はお前の筆をこそを欲している」

 未だ描かれぬその詩に、始まりの一筆をついにロダンはつけた。

 瞬く間に生じる自己変革は、ロダンを詩人へと変性させていく。けた外れの星辰体の感応量に、圧倒される側になったのはマリアンナだった。

 マリアンナはダンテの星を知っている。だがそれは、()()()()()()()()()()

 発動体も無しにどうやって星を発動させたのかという疑問も、一瞬で消し飛んだ。

 彼が元々宿していた星と今のソレはあまりにもかけ離れすぎている。まるで彼ではない誰かのモノのようにさえも見えて。

 

「超新星――地獄篇 嘆きの調べ、(Silverio)星に奏でるは銀月天(Inferno)

 荘厳なりし銀の絶叫と共に、此処に地獄篇は幕を開けた。

 

 

 

地獄篇 嘆きの調べ、(Silverio)星に奏でるは銀月天(Inferno)

AVERAGE: B

発動値DRIVE: AA

集束性:C

拡散性:D

操縦性:AAA

付属性:E

維持性:D

干渉性:A

 

 

 

 ロダンの手に握られるのは、一振りの銀剣だった。銀色の光をその手に集束した次の瞬間には、その剣が握られていた。

 その様に、ファウストは初めて獰猛と形容できる笑みを浮かべた。よくぞかくのごとく成りおおせてくれたとばかりに歓喜を湛えて破顔する。

 

「来い、神聖詩人。今のお前ならば――あぁ、殺し殺される価値を認めてやってもいいだろう!!」

「黙れよ、今すぐ失せろ赤髭野郎――!!」

 音速もかくやという速度で駆け抜けていくロダンへと、振り下ろした剣の矛先を変える。

 呆然とした顔を浮かべているマリアンナの理解を置き去りにしながら、ロダンは全霊を掛けてその剣を振りかぶる。

 

 宙で、剣と剣がぶつかり合うその瞬間に異変は起きる。

 ファウストの纏っていたはずの極限まで励起された星辰体は、まるで水を掛けられたかのようにその輝きと波長を失っていく。剣を交えた衝撃は極小の空間震となって容赦なく決闘領域を蹂躙する。

 同時に、ロダンの纏う星辰体は銀の輝きとなってロダンを守護し、加護を与える。

 まるでファウストから奪った輝きをロダンに与えるかのように、その星は輝きを増していく。

 

 

「……反星辰体兵器(アンチアストラルウェポン)――いや、違う。確かに星殺しに近い性質を有しているが、しかし原理が違う」

 ――第二法則突破・熱量(エントロピー)強制操縦能力。

 ファウストに応える星辰体のエントロピーを強制的に操縦、それをロダンの出力に還元するという、シンプルにして凶悪な星の真実がそこに在った。

 勝者の光を奪う、冷たい闇。熱量操縦(マクスウェル)の悪魔が、そこにいた。

 

「なるほど、干渉性――だけではなく操縦性を主体とした強制的な星辰体の挙動への介入か!!!」

 剣を打ち合う度に、まるで卵の殻のように決闘領域の天蓋はひび割れていく。

 世界そのものを剣にした空間切断も、正面から切り結び合えば合うほどに火星天は崩壊を速めていく。

 だが――、そこにはもはやロダンの正気は無かった。

 

 隻眼に銀の輝きを宿しながら、寸刻みでその膨大な星辰体感応による苦痛を味わっているはずなのに、一顧だにしない。

 苦悶に眉間と眦をゆがめながらも、あくまでも撃滅を是として血反吐を大地に撒きながらその剣を振るっている。

 

 崩れる決闘領域に、励起出来る限りの最大の出力を注ぎ崩壊を食い止めるファウストもその尋常ではないロダンの様子に余裕がなくなっている。

 飽くまでも勝利は譲らずとばかりに、剣を軋らせる。

 銀光を纏うロダンの膂力はファウストの領域に迫っていた。空間操作で逃げても、何の工夫もないただの踏み込みでその距離を零にする。けた外れの膂力はロダン自身の肉体を酷使してのものだった。

 

「火の星が歓迎しよう。お前は今、地獄の門を踏み出したのだから。詩人として、真なる生誕を遂げたのだ!!」

『黙りなさい、火星天。貴方がそのように追い立てたのでしょう』

「これは異なことを言う、銀月天。お前の望みを俺はそれなりに理解しているつもりだが」

 ロダンの口からは、まるでロダンのものではないかのような言葉が紡がれる。

 その声に、銀色に変わった髪をかきあげながら知己の如くファウストも応える。……間違いなく、今ファウストはロダンと会話などしていない。

 ロダンではなく、ロダンの口を借りて喋る何者かに対して語り掛けている。

 

「愛しの神聖詩人がお前に相応しい男になるように少し調整してやっているだけだろう。もう少しで俺にとってもお前にとっても()()()()になるはずであったろうに、むしろそちらは俺に感謝するべきだが」

『詭弁がお好きなのですね、それで彼の命が潰えればそれまでだとでもいうのでしょう』

「遅いか早いかの程度の問題だろうよ。調教役をやりたくないとそちらが思っているからこそ俺はわざわざこの役を買って出たのだが――それについては如何に、()()?」

 返答は無言での銀剣の一閃だった。

 加えて――

 

「――私もいます、ファウスト」

「……っ」

 ファウストの背後からは体勢を立て直したマリアンナが狙い撃っていた。

 さしものファウストもこれでは旗色が悪すぎると読んだのだろう。ファウストは決闘領域の維持をついに諦める。

 

「潮時だな。まぁ成果としてはまったく上等だ、この上なく申し分ない。――さらばだ神聖詩人。次こそは月悠淑女を伴って見えよう、その時を俺は楽しみにしている」

 くしゃり、と、虚空に手を翳すとその手を握りつぶす。

 瞬間、風景はガラスのように砕け散り、ロダンとマリアンナは現実に帰った。

 視界の晴れた先にはもはやファウストの姿はなく。

 

 そしてロダンもまた、星が解かれ銀の輝きを失っていく。星辰体の戦慄きは虚空へと散逸し――同時にその膨大な発動値と基準値の差額をロダンは支払う事となった。

 正気の光を取り戻した目から垂れるのは、一筋の血の涙。急速に失っていく体温と膝の力が彼に足をつかせた。

 虫食いだらけの自意識は、保つことさえ敵わない。

 

「……ロダン!!」

「グランドベル卿……ああ、そうか。無事でよかっ……た」

 マリアンナはロダンへと駆けよるが、自分が流した血だまりに斃れ伏せたロダンは、ついに意識を取り戻すことはなかった。

 閉じていく意識と共に、ロダンの走馬灯は駆け抜けていく。

 わけのわからない星を、わけのわからないままに、発動体も自覚もなく振るった。そんな事さえ、今の彼は知る事などない。

 

 代わりに意識が途切れるその瞬間に彼の頭にあったのは脳髄を埋め尽くすような新たな疑問の山々だった。

 

 

―――

 

 

「――なるほど。銀月天(ベアトリーチェ)が目覚めたかしら」

「そのようだな、ウェルギリウス。……まったく随分に遅い、理由はいくつか考察できるが」

 人知れぬ、カンタベリーの地下区画のある投棄された一角で、二人は言葉を交わす。

 ウェルギリウスと呼ばれた女研究者は、三日月の形に頬を歪ませながら笑う。

 

「御寝坊さんの御姫様、まぁそう言ったところかしら。あまり責める事ではないでしょう、ルシファー」

「……つくづくお前は理解ができん。なぜ銀月天(逃亡者)を拘束しない、イレギュラーにイレギュラーが重なったとは言え、()()()()()()()()()モノだろう。無為に市井を気取らせる意味が何処にある」

「時として、人間としての成長が大事になるのよ。私のプランの為に必要だと判断した、それだけ」

「人間として? 異な事を言う。俺も銀月天(アレ)も、人間と形容できるのはその外殻だけだ。人間の真似事をさせる事がそれほどに重要な事か?」

 嘲笑う色はない。事実を抑揚なく淡々とルシファーは告げる。

 

「あのままでは銀月天は真の運命にはなり得ない。……だからこそ、重要なのよ。人間の模倣というのものが。私の仮説が正しければ、恐らくは銀月天とその伴侶は()()()()()()()()()()。……奇異な例よ、なぜなら神天地で極晃を得た者は例外なく、特異点に刻む事すら敵わず霧散しているはずだもの」

「俺には理解の遠く及ばん話だ。だが、それが必要だとお前の知性の水準が判断したのなら俺は従おう。だが停滞は許されん」

「簡単に言い直すわ。命の答えを得るその過程を銀月天に再演させ失われた極晃を取り戻させる。極晃という御業の再現、この過程こそ最大の意味があるのよ。第四世代魔星のあるべき姿、その究極系が銀月天なのだから」

 それは誰も知るはずのない、とある男女の真実、その一端でもあった。

 薄暗い、その研究区画にもう一人の足元が響く。その場に参じたのは、ファウスト・キリングフィールドだった。

 ルシファーもウェルギリウスも、ファウストも、特に三者三様に一瞥することもなかった。

 

「ご機嫌麗しゅう、造物主殿。早速味見をしてきたが、私見にはなるが悪くはなかった」

「そう、ご苦労様ね。火星天(マルテ)。その様子だと大層ひどくやられたようね」

「まったくだ、一瞬大真面目に死にかけるかと思った。……概ね、造物主殿の見立ては間違ってないだろうさ。神聖詩人(ダンテ)のアレは()()()()()()()()()だ」

 ファウストの言葉に、ウェルギリウスは首肯する。

 

「その様子だと、まだ貴方には改良の余地があるようね。貴方の基本設計は天之闇戸(アメノクラト)殺塵鬼(カーネイジ)を参考にしているつもりだったけれど、それでもここまで追い詰められることについては予想外だったわ」

「そうだな、まったく面目ない」

「いいえ、いいデータが得られたもの。貴方の損壊はむしろまだまだ改良の余地と価値があると見方を変えるべきでしょうね」

 どこまでも、ウェルギリウスのその目には数字しか映っていないのだろう。

 眼球に写しているのは、ファウストという男ではなく、ファウストの数値化された情報だけだ。

 どこまでも徹頭徹尾、研究者として彼女はファウストを観察している。ファウストはそれを特に不快と思う事もなく、視線を切った。造物主殿のいつもの病気だよとでも言いたげに、ファウストは飄々とどこ吹く風で陰鬱とした区画の天井を見上げるのみだった。

 

 

「――第四世代魔星(エンピレオシリーズ)の始祖たる銀月天(ベアトリーチェ)。そしてその完成形たる至高天(ルシファー)を以て、私の試み(傲慢)は完遂される」

 ウェルギリウスは、真意の見えない微笑みを浮かべながら、ルシファーに焦がれるような視線を向けている。

 それは、段々と組みあがっていく建物や芸術品を見つめる視線のようで、同時に年不相応なほどに乙女らしい熱を帯びていた。

 

 

「……そして銀月天。――貴方は運命から逃れられない。月の女神を最初に見定めたのが誰なのか、きっと今の貴方は知らないでしょうけれどね」

 

 




地獄篇 嘆きの調べ、(Silverio)星に奏でるは銀月天(Inferno)
AVERAGE: B
発動値DRIVE: AA
集束性:C
拡散性:D
操縦性:AAA
付属性:E
維持性:D
干渉性:A
第二法則突破・熱量(エントロピー)強制操縦能力。
極めて高い操縦性、干渉性による星辰体のエントロピー操縦によって再現される星殺しの権能――敵から奪ったその輝きを己のものとして簒奪する能力。
同時に甚大な発動値により運用者に過酷極まる負担を要求してくる。
――加えてこれはロダンの本来の星ではない。
その在り方はかの死想恋歌といくつか酷似した類似点が見られるが……?




絢爛なりし決闘領域、顕現するは火星天 
AVERAGE: A
発動値DRIVE: AA
集束性:D
拡散性:A
操縦性:AA
付属性:C
維持性:B
干渉性:AA  
空間隔離・疑似空間切断能力。
現実の空間からは隔離された世界へと敵対者を引きずり込み、世界そのものを剣として射程無限大の斬撃を放つ異能。
空間操作による縮地術や回避も難なくこなせ、かつ同時に安全圏からの膨大な出力に任せた剣閃という必勝手も構築できる。
世界に捕らわれたその瞬間にもはや逃げる事は叶わない、見的必殺の決闘領域。
その世界から逃れる術はファウストを殺すか――死体となるかのいずれかしかありえない。
シンプルに、持久戦という観点においては面白みなど欠片もない、強力無比な理想的な星辰体運用兵器と言えるだろう。
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