ひげを剃る。やはり社畜の俺が女子高生を拾うのはまちがっている。   作:ステ

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第3話 社会人

「『早くやらなきゃ』と慌ててしまうかもしれませんが、ゆっくりでいいので正確にやることを意識してください。早くやることよりも今日は、あやふやなまま対応しないことを心がけてくださいね」

 

 そんな感じで、あれよこれよと早口で説明を受け、店長を任せられている男性の人は、急ぎ足で出ていった。ちゃんと、1日の流れとか、定時業務とか、一応はメモを取りながら聞いたけれど。

 

 この制服を着てから、身が引き締まるというか、なんというか、たぶん緊張している。それは、学校のものとは違って、新品のもので、名札には『トレーニング中』、そして『いっしき』と書かれていた。

 

「おまたせ」

 

 つるみ、と書かれた名札が、まず目に入る。

 

「はじめまして、一色って言います」

「ん。よろしく」

 

 背中まで届くくらいの黒のロングは、丁寧に手入れがされていて、勉強ができる系の女子大生って感じだ。この人が比企谷さんの知り合いらしいけど、こんな美人な現役女子大生がいて、よくもまあ、ボッチだのとぬけぬけと。

 

「まずは、品出しなんだけど……いらっしゃいませ」

「あっ、いらっしゃいませ!」

 

 通りすぎていったスーツの男性が、ぺこりと会釈して通りすぎていった。ちょっと目がキョドっていたのは、まあ、つるみ先輩には、私でも見とれてしまうくらいだから。

 

 ていうか、さっき店長、できるだけとは言っていたけれど、スマイルや笑顔というよりは、つるみ先輩は、ほほえみって感じ。

 

「顔出し、からしていこうか」

 

 口で説明するよりは、見て学べというように、手を伸ばしながらサンドイッチを前に揃えていく。お昼時に、学生や会社員の人がどんどん来たためか、まばらにしか残っていないけれど。

 

 私もできるだけ急ぎながら、棚の整頓をする。

 そういえば、比企谷さんも、意外と見えないところは整頓できてなくて、引き出しの書類とか、タンスの中とか、整頓したのは褒めてくれたっけ。

 

「手際いいね。あと、手癖も」

「は、はぁ……」

 

 なんとなく、相槌を打った。

 

「記録やっておくから、新しいの入れていって」

「はい!」

 

 お客さんとして来る時とは、真逆で、新しい商品を奥から入れていく。同じ種類のものは連続させればいいし、値札が付いているところもある。そして、他のお客さんが来たことに気づいたので、一度離れる。

 

 お仕事の邪魔をしちゃったって、申し訳なさそうな表情をしてくれたけれど、こちらもお仕事お疲れ様ですって言いたいくらい。なんていうか、私はまだまだ働き始めだけど、社会人としてお互いの大変さが伝わるというか。

 

「あいつ、最近どう?」

「えっと、あいつって?」

 

私くらいにしか聞こえないくらいの声で、話しかけてきたつるみ先輩は、iPadっぽいものをテキパキと操作している。

 

「一緒に住んでるんでしょ?」

 

 今の、私の事情を伝えられたらしいけど、尋ねてきたのは比企谷さんのことだった。まあ、学校をサボっていて、しかも遠く離れたところに1人でやってきていること、それを根掘り葉掘り責められるよりはマシだ。

 

「あっ、もしかして、気になっちゃう系ですか?」

 

 詳しくは聞いてないけど、教育自習の時にどうとかって話だったはず。

 

「そういうの、苦手だから」

「す、すみません……」

 

 あまり恋バナとかしない人らしい。

 なんだかサマになっているジト目が向けられた。

 

「今日、家に行くね」

「ええ、まあ、私はいいですけど」

 

 居候のこちらとしては、比企谷さんに許可を取ってほしい。

 

「でも、帰ってくるの、8時とかですよ」

「……まあ、やることやってから、行くから」

 

 私語はこれで終わりという感じで、レジに行くことを促された。どうやら、大学生は大学生で、宿題とかに追われているらしい。

 

 バイトが終わる18時に、すぐに連絡入れておかなきゃと思いつつ、初めてのレジ作業に気を引き締めた。

 

*****

 

 残業前のご飯休憩に出たり、お子さんのお迎えに行ったりと、少しずつ人が減ってきている。俺も肩を軽く揉みつつ、自分のスマホを手に取った。小町からの連絡以外に、珍しくLINEが新着メッセージを通知している。

 

『お仕事中に連絡して申し訳ありません、本日、家にお邪魔させていただくこととなりました。追伸:ご紹介くださった一色さんとは、良好な関係を築けたと思います』

 

 平塚先生や雪ノ下の系譜を感じ取れるメッセージをしてくることに、思わず苦笑いして、こちらを視野に入れた女性社員にキモがられるところだった。以前とは違って、友達ができたらしいのに、いまだにLINEというツールには慣れていないらしい。

 

『いろいろサンキュな、ルミルミ』

『ルミルミ言わないで』

 

 手短な返事に対して、普段のノリで返ってくる。

 

「ヒッキー、誰から?」

「んー、ああ、ルミルミだよ。大学のこととかな」

 

 『ちかいちかい』と手で制しながら、距離を取らせる。

 

 ぐいぐいと顔を近づけてくる由比ヶ浜だが、すでに俺や材木座なんかより交友関係が広いのは、こういうアクティブなところなのだろう。最近はアクティブラーニング流行ってるらしいし、アクティブという資格とかあってもいいと思う。

 

「あれなんだけど、さーばーだっけ、それに上げといたよ」

「サーバに、アップロードな」

 

 コンピューターとコンピュータ、伸ばしたり伸ばさなかったり、実際のとこはどっちでもいいらしいな。相も変わらずの言葉使いだが、そこが親しまれるし、ちゃんと伝わるから、由比ヶ浜は人気なのだろう。

 

 カチカチと、マウスでクリックして、データのダウンロードを始める。

 

「こういう報告、ショートメールでいいんだけどな」

「10秒ちょいで来れるのに、わざわざ?」

 

 同じ場所にいるのに、メールで報告し合うのは、確かに由比ヶ浜には慣れないことだろう。いや、同じ場所にいなければならないから、空気になろうとするんだけど、俺とか。

 

「いやな、アップロードしたという事実が残ることになる。もし何かの拍子でデータが消えてたら、それまでサボっていたと言われても仕方がない」

 

「そうだ。我々はアピールをせねば、どんな冤罪にかけられてしまうか分からん」

 

 最近、悪役令嬢ものにも手を出し始めた材木座がいつも通り大袈裟に言っているが、まあ、かねがねその通りだ。『ほう・れん・そう』において、報告と連絡は自衛手段にもなりうる。そして、相談をすることで、責任問題に巻き込める。

 

「まあ、こうやって直接話しかけるのも、関係構築にはいいんだろうな。ボッチには知らんけど」

 

 由比ヶ浜には、そのままでいてほしいと思うのは、こいつの教育係としてはまちがっているのだろうか。

 

「なんか、ヒッキーと中二、変わってないね。

 やっぱり、みんなといっしょに働けてよかった」

 

 その屈託のない笑顔で、一体どれだけの男子が見とれてしまったのだろう。

 

「ひとり立ちしたら、別の部署になるかもだがな」

「またそういうこと言う~ でもゆきのんだって別の部署だし」

 

 スピード出世を目指しているあいつを、新入社員でよくもまあ連れ回せるものだ。まあ、それができるのが親友というやつなのだろう。

 

「あっ! じゃあさ、ゆきのんが作った部署に、みんなでとか!」

 

 腕に腰を当て、胸をぐいっと張った。

 それはさぞ、紅茶の香る、居心地の良い場所になる。

 

 今のあいつの作る場所というのは、それなりの実績が求められそうだ。

 

「そういうの、わるくないな」

 

 すでにダウンロードが終わっている、由比ヶ浜の成果を見ていくことにした。

 

『 ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』のアニメを……

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