ひげを剃る。やはり社畜の俺が女子高生を拾うのはまちがっている。 作:ステ
俺にとって、最も気軽に連絡できて、そして秘密とリスクを共有できるのは、やはり実妹の小町だろう。キラキラな大学生活と、自由気ままなボッチの時、その両方をバランスよく楽しんでいる妹を急遽呼び出すことに成功した。
「お兄ちゃん、ひさしぶり~! 急な呼び出しにも応えちゃう小町って、ポイント高いよね?」
一度は雪ノ下に憧れて、髪を伸ばそうとしたが、やはり肩の長さがお気に入りらしい。最近知ったが、実は毎朝セットしているらしいアホ毛も、急な呼び出しにも関わらず、チャームポイントとしてアピールしている。
「ポイント高い、よね~?」
「お、おう。そうだな。覚悟しておく」
ニコニコを崩さない小悪魔としても磨きがかかっている、そんな自慢の妹だ。生活費については倹約家で、堅実な貯蓄もしているようだが、父ちゃんと俺のお小遣いは日々減少していく。
なんだか最近は、さらにお金を貯めているらしく、ちょっと兄と父はとても不安なのだが。
「えっと、この方が……?」
「はい♪ 比企谷小町です」
俺の後ろに隠れるようにしていたが、いろはも小町の快活さにはどうやら安心感を覚えたたらしい。この兄があって、どうしてこんなよくできた妹に育ったのだろうか、いやこんな兄だからこそか。
「初めまして、いろはって言います」
「……っておい」
いろはに近づくためとはいえ、小町は俺を軽く突き飛ばす。
まあ、女子同士で仲良くなれば、話しやすいかもしれない。
「いろはちゃん、大丈夫だった? お兄ちゃんに何もされてない?」
「いえ、すごく優しい人でしたから」
キッと、小町は睨みつけてくる。
「小町ぃ~、別にお前が泊まる時と、同じ感じだったからな」
「まー、お兄ちゃんだもんね。この人、責任おばけだから、安心していいよ」
いろはは逃げることはないけれど、さっきより緊張気味だ。最初に出会った時に、女子は苦手そうにしていたが、誰彼構わず嫌いというわけではないらしい。心的外傷、すなわちトラウマといったところか。
こればかりは、少しずつ克服していってもらうしかない。
「なんか、すみません」
「いいのいいの。ゆっくりでいいからね」
あらかじめ、小町にはある程度事情を説明している。
いろはが北海道から来たことも、家出のプロだということも、知っていてなお、深く問いただすことはない。一歩間違えれば、警察に通報されてもおかしくはないことをしているのだが、ほんとうによくできた妹だ。俺が警察のお世話になるというよりは、いろはは保護者に連絡がいくことを望んでいない。
「お兄ちゃんをここで見張っておくからさ、お風呂入ってきなよ」
「えっと、使っていいんですか?」
こちらを困ったように見つめてくる。
勝手に使ってもらっていいが、昨晩のうちにそれを言っていないのが原因だったのだろうか。相変わらず遠慮し始めるとどんどん遠慮し、それに元々が律儀なところもある。まあ、俺が異性の部屋に行った場合も、めっちゃ緊張するだろうけれど。
「もちのろんだよ。ここのお風呂はいいよー、景色見ながらお風呂入れるからね。むしろそれ目的で泊まりにきているくらい」
代わりに小町が答えた。
えっ、お兄ちゃんに会いたいからじゃなかったの。
「さっ、こっちこっち。着替えも貸してあげるから」
直接触れることはしないが、背中を押すように、いろはをお風呂場へ向かわせる。お風呂場はお風呂場で、『お兄ちゃん触るな』のスペースがある。うちの妹には反抗期は来なかったが、さすがに異性の壁は存在する。むしろ無かったら実の兄妹としてヤバい。
そうして手持ち無沙汰となった俺は、Switchの電源をつけた。
1週間ぶりなので、島の住民にはまた驚かれるだろう。対戦ゲームとはまた違って、こういうほのぼの系を好むようになったのも、俺が社会の荒波に乗っているからだと自覚している。。
「で。お兄ちゃん、どこまで本気?」
リビングに戻ってきた小町が、真剣な瞳と声でそう尋ねてくる。最初電話した時も、俺が何か弱みを握られていないか、とても心配させてしまったくらいだ。
「奉仕部の活動、くらいだな」
「そっか。今のお兄ちゃんは小町的にポイント高いよ」
喜んでいるような、呆れているような、そんな声だった。
*****
女子大生と女子高生の買い物に付き合うことは、想像以上に肩が凝った。加えて、お財布も軽くなった。まあ、PS5の購入代金よりは、安い買い物だった。まだまだSwitchとPS4には現役でいてもらわないとならない。
部屋の隅にはもう1つ、立ち入り禁止のスぺースができた。いろはは、小町が使っていたスーツケースを譲渡してもらい、服とか必需品とか、その中に荷物を入れている。
いつ俺に愛想をつかせても出ていっても大丈夫なように。
いつひとり立ちできるようになってもいいように。
「あっ、ピカチュウだ。ポケモンやってたんですね」
お鍋をぐつぐつと煮込んでいるいろはから、そんな声がかかった。どうやらゲームはあまりしないらしいいろはだが、さすがにネズミの中で最も有名なキャラクターといっても過言ではない電気鼠は知っているらしい。雪ノ下さん大好きパンダのパンさんと競えるくらい。
みずタイプはでんきタイプに不利とはいえ、レベルが違う。
注文を集めたピカチュウは、みずのはどうを受けて倒れた。
「まあ、ぼちぼちだけどな」
俺のディアルガが半強制的に、産まれたばかりのフカマルと交換されて以来のポケモンだ。あいつに地下通路で罠のループに嵌められたの、一生忘れないからな。
「比企谷さんに似てて、なんだかウケますね」
「いやウケねぇから」
『頭がよく面倒くさがり。縄張りに敵が近づかないよう、そこかしこに罠を仕掛けている。』だなんて、なんだ俺じゃん。
「キャンプ? カレー?」
「俺もよくわからん」
HP回復もできるため、ポケモンセンターにまで戻らなくていいのは助かるが、急にカレー要素が登場したのは過去作経験者にも謎だ。
ていうか、かわいいなぁ!ヒメンカぁぁ!
「でも、キャンプとか行ってみたいものですね~ はんごー炊さんとか」
いろはがそう呟いた。
北海道だからそういうイベントがなかったのか、それとも。
「飯盒炊飯、な」
「それです」
懐かしき千葉村、もう今はないらしいんだよな。
なんとなく寂寥感がある。
俺もあの夏休みからキャンプに行っていない。
「いつか行けばいいんじゃねぇの。まだ若いんだし」
「まだ比企谷さんも行けますって。わかいわかーい」
昔からインドアで、急にアウトドアになるとは我ながら考えづらい。
出張であっても、千葉から出るのも億劫だと感じるほどだ。もちろん大学時代の周りは海外旅行に行くやつも多かったし、雪ノ下姉妹に至っては短期留学に行くという、国際でグローバルな帰国女子をしていたし。そしていろはに至っては、訳ありとはいえ、北海道からはるばる千葉だ。まあ、たぶんインドアな気質だけれど。
「そろそろできますよ~」
「おーう」
画面の中がカレーなのはともかく。
部屋の香りもカレー、これから数日はカレー三昧になるのが楽しみだ。最終日のカレーうどんまでが一番美味しく感じる。まあ、カレーが苦手という人もいるらしいがな。
買い物場面から、具材とルーについてはオーソドックスなカレーのようだが、いろはがじっくり時間をかけたから、というか俺がとても待ち望んでいたことは確かだ。この昂る気持ちは、珍しく目を輝かせることだろう。いや、誰得だよ。
「「いただきます」」
食文化や宗教によっては避けられるらしいが、俺の中でカレーに牛小間切れ肉が一番合うと思う。『薄っぺらいやつほど人に影響されやすいのと同様、薄く切ったほうが味がよく染みる』なんて皮肉を、家庭科の調理実習のレシピに書き込んだくらいだ。その時の平塚先生のどや顔、どんなだっけ。
まあ、そんなことよりも。
「うっま、何入れたらこんなに美味くなるんだよ」
「えっと、『カレーの隠し味は度胸だ』って教えてもらいましたから、味噌とかマッ缶とか、冷蔵庫にあったのいろいろですね」
料理がまずくなるのは、火力とオリチャ―発動って言われているが、センスとスキルがある場合なら大成功を導くらしい。でもガハマさん、さすがに桃缶はやめましょう。
「カレーって作り置きにも便利だよなぁー 味変もできるし」
「ですです。冷蔵庫に入れてあったら日持ちもしますから」
母ちゃんも小町もよく作ってくれた理由が分かる。
これなら、いろは自身も少し時間に余裕ができる。
だがしかし、俺が休日な時はともかく、平日の暇なときはいろははどうするのだろう。
今は鼻歌を歌いそうなくらいに美味しそうに食べているが、以前までは友達と、どのような遊びをしてきたのだろう。こうなったら、ボッチでできる遊び100選を教えてあげようかしら。いや、それだと正真正銘ボッチ道を歩んでしまう。
もしかすると、実家で小町たちと暮らすことを選ぶかもしれなかった。いろはと小町で、話し合った結果なのは分かる。
おかげで、いろはがいることで休日なのに少し賑やかだ。だが悪い気はしない。
ていうか、明日ニチアサじゃん。
早起きしてプリキュア見ないと。
『 ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』の原作を……
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単行本購入して読んだことがある
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カクヨムで読んだことがある
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期間限定の公式無料漫画で読んだ
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ある程度のストーリー展開は知っている
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今年4月のアニメを見て知ろうとしている
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タイトルすらはじめて知った