ひげを剃る。やはり社畜の俺が女子高生を拾うのはまちがっている。   作:ステ

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 高評価してくださった方々、ありがとうございます。2つの原作のネームバリューのおかげもありますが、これからの期待を含めての評価をくださっているので、慢心せず執筆を続けていきます。
 各原作混ぜてさらにオリジナル要素付け加えたり、勢いのままにネタに走ったり、たまに描写が現実的すぎて暗かったり、そういうほろ苦くて甘い青春が好きな作風ではありますが、しおりやお気に入り登録してくれている方々、引き続きよろしくお願いいたします。


第7話 仕事帰り

 

 

 わたしはわたしが嫌いだ。

 そう自覚したのは、いつからだっただろう。

 

  『かわいい』

  『大好き』

  『可愛いね』

 

 褒めてもらうことで、ちょっとポジティブになれる。

 そして、いつか自分を好きになれるはず。

 

 誰もいない静かな部屋でも、こうして誰かと繋がることができる。学校じゃなくても、たくさんのことを知ることができる。それに、誰かと話したい気分と、1人でいたい気分が、自分でもよく分からない周期でぐるぐると変わる。ちょっとポジティブな時には疲れるくらい気を遣っちゃうし、ナーバスなときは気を遣わせちゃってるというのがわかる。

 

 出るナントカがナントカっていうけど、目立ちすぎるとダメで、逆に目立たないと誰にも見向きされない。

 

 だから、相手の機嫌を取ってきた。

 でも。

 

『自分で。考えてもがき苦しみ、足掻いて悩め』

 ほんと、苦しい。

 私よりもずっとずっと大人で、嫉妬しちゃう。

 

 何を探しているかもわからないのだから、何も見つけられない、何も見つからない。彼の期待に応えられない。

 

 

「おひる、ちゃんと食べたのかな」

 

 彼は。

 比企谷さんは、不思議な人だ。

 

 家出した女子高生なんて、なにか『取引』でもしないと家に入れてはくれない。私は今まで、何人もの男性の家を転々としてきた。もちろん嫌なこと何度もあったけど、それより家には戻りたくないから、今までなんとか耐えることができた。だけど、今は、いい言葉は見つからないけど、生きることが楽だと感じる。

 

 これが『ボランティアだ』なんて、わたしのあんまりな頭でも、リスクとリターンが釣り合ってないことくらい分かる。ほんとバカな人だ。ほんとに私は最低だ。

 

 頼めば、なんでもくれるくらいには甘い。

 心地良すぎて、なんだか調子が狂う。

 

 気分転換しよ。

 

 カシャッ、そんな聞き慣れた機械音。

 電気を消し、カーテンを閉め、自撮りした。

 

  『かわいい』

  『その服似合ってる』

 

 すぐにコメントが来たし、これからも増えるだろう。

 顔がいいことは自覚していて、うまく使ってる。

 

 こんな私を褒めてくれて、求めてくれる人がいる。SNS上だと『かまってちゃん』なんて言われないし、『調子に乗ってる』なんて言われない。いや、もしかしたら心の中では思っているかもしれないけれど、優しいフォロワーさんはそんなことをわざわざ返信しないし、表情が見えないから、みんなを信じることはできる。

 

 信じないと、やってられない。

 

「そうだ。頼まれた絵、描かないと……」

 

 また知らないアニメのキャラクター。

 

 見本を見ながら、アレンジを加えながら、指で描いていく。

 少しでもかわいく、かわいいって言ってもらえるように。

 

「あっ……」

 

 そうだ、依頼されてSNSのアイコンを描いてあげる、これが私のボランティアなんだ。

 元々は、もしお金を求めちゃうと、期限とか文句とか、あれこれ言われちゃうのがイヤだからだけど。

 

 比企谷さんは、褒めてくれるだろうか。

 私を、大人として認めてくれるだろうか。

 

「いや……ぜんぜん下手だから……」

 

 線画まではなんとか描けた。

 でも色塗りしたら、もっと下手になる。

 

 みんな、お世辞で褒めてくれたり、満足してくれたりする。でもお母さんならもっと上手く描けるし、ほかにも上手い人はたくさんいる。最近はリツイートで流れてくるようなイラストも、趣味とは思えないほど上手で、それに、どんどん新しいのを描いてアップしていく。私なんて、絵より自撮りのほうが、リツイート伸びるし。

 

 まあ、これ頼んできた人、あんまり親しくないから、いいか。

 それに、ボランティアだもの。

 努力はしたって、自分に言い聞かせる。

 

「疲れた……通知、だれ……」

 

 ぼやけた視界で、既読をつけないように、メッセージを見る。

 

  『いろちゃん、最近調子どう?』

 

「うるさい……しつこい……」

 

 ブロックのボタンを押そうとして、やめた。

 

 この人、別に悪い人ではないから。

 悪いのは私だ。

 

 その時の気分で描いたオリジナルのキャラクターでも、リツイートといいねくれる人だから。

 

「3時……だから……2時間くらい……」

 

 今日は作り置きのカレーだから、ご飯を炊けばいいくらいだ。

 新品でフカフカの敷き布団の上に寝転ぶと、電源もついていないテレビの前にはSwitchやWi-Fiのコードが繋がったままなのが見える。

 

 勝手にWi-Fi使ってること、いつか言わないといけない。

 比企谷さんは鋭いところあるから、いつか気づかれる。

 

 怒って、追い出されちゃうかな。

 携帯取り上げられちゃうかな。

 

 

 大人に怒鳴られるのほんとしにたくなるから、やだ。

 

 

『かわいこぶってるよね~』

『顔いいからって調子乗ってるし』

 女の子だから、かわいくいたいものじゃないの。

 それに、いま憂鬱で調子わるいんだけど。

 

『いつまで寝てるんだ!!』

 毛布を、つよくつよく握りこむ。

 もう、限界だった。

 

『服とか買ってあげるよ』

 親切な人のおかげでちょっとずつ荷物が増えていく。

 でも寝るときに視線を感じて怖かったから、逃げた。

 

『このまま僕の彼女にならない?』

 ちょっと年上で大人しそうな人だった。

 でも逃げ道がなくなりそうで、断って逃げた。

 

『出てかないと警察につきだすから!』

『押しかけてきてさ、ほんと困ってたよ』

 またあそこに戻るのはイヤだ。

 しかも彼女さんがいるのになんで取引したの。

 

 

 毛布の下で、携帯を握りこむ。

 

 

 もう、これしか私には残ってないから。

 これだけは守らなきゃ。

 

 

*****

 

 さて。

 妹の小町が、本気で弱音を吐いたことはほとんどない。

 2度の受験のときも、寝るときはすやすやと寝ていた。

 

 次に思い出したのは、戸部のやつから真剣な相談を受けたことだ。

 

 あの依頼を含めると、戸部からは2度目だった。いわゆるマリッジブルーについてであり、軽く調べたソースなのだが、程度は様々で女性の半数がその悩みを持つらしい。その時は、海老名さんのことは三浦や由比ヶ浜、戸部には葉山たち、それぞれに定期的に相談に乗ってもらうという対症療法を行うしかなかった。根本治療についてはその専門家でも難しいだろう。

 

「……いや……ないで……」

 

 仕事から帰ってみると、部屋は暗いままだ。

 毛布を強く握りこんで顔を見せない。

 

 はっきりとした言葉が、節々と聞き取れることは、たしか悪夢を見ているからこそだったはずだ。

 

 肩をゆすって起こす?

 このまま様子を見る?

 

 選択肢が頭の中に浮かんできたが、どうするべきか。

 仮に起こすとして、どう声をかければいい。

 

 『辛いのはお前だけじゃない』

 『先生に相談していいからね?』

 元々、俺は、同情や憐れみを受けてきた側だ。『時間はすべての薬だ』という。 だがそれは違う、時間は遅行性の毒にほかならない。ゆっくりと、過去の出来事さえも浸食していき、終わらせて諦めさせるためのものだ。まあ、中学時代は諦めたが、運が良かったから、高校時代は悪くない青春を送れた。ていうか、隙あらば自分語りなんて、俺も歳をとったものだ。

 

 ともかく。

 

 いつか一人立ちしなければならない少女にとって『過保護』になることは避けるべきだ。一人で生きられるようになって、初めて誰かと歩いて行く資格がある。一人で生きられるから、一人でできるから、きっと誰かと生きていける。今は、雪ノ下のやつも、一人で生きられるようになった上で、誰かと生きようとしている。

 

 俺は、親でも兄でもないのだ。

 答え合わせは『魚の獲り方』を教えることではない。

 俺が安心させたとして、それは『仮初め』だ。

 

 それに、逃げちゃダメなんて強者の考え方でしかない。それを強いる世界こそが間違っている。『俺は悪くない、世界が悪い』なんて言葉は言い訳じみているが、まるっきりの間違いじゃない。いつも自分が悪いなんてそんなことはないのだ。社会が、世の中が、周囲が、誰かが間違っていることだってたくさんある。

 

 諦めるにしろ乗り越えるにしろ、自分で解決するべき。

 そう自分に、強く言い聞かせる。

 

 

 シャツを腕まくりして、キッチンで手を洗いはじめる。

 

 

*****

 

 飛び起きた。

 冷や汗が流れるような気分だ。

 

 スマホは23時を示しており、部屋は真っ暗だ。

 

「やっちゃった……」

 

 元々、サボる、ということは珍しくなかった。でも、あの家を出てから、機嫌をとるために、必死になって真面目にがんばってきた。心が休まるのは1人になったときであり、お昼寝することで夜も無防備な姿を決して見せないようにした。こんな私でも、まだ綺麗なままでいたいという気持ちがある。人によっては、この気持ちを嗤うのだろうけど。

 

「謝って、許してもらわないと」

 

 いつまでここにいていいのか、考えてしまう。

 

 これだけは言えるのだ。

 いつか、比企谷さんに彼女ができたら、私は出ていくしかない。

 

 だって。

 ラップにくるまれた、おにぎりがあって。

 

「ほんと、楽だなぁ……」

 

 だから、こんなに素敵で優しい男性を、好きになる女性は絶対いる。断言する。

 

 ひんやりとしたご飯は、コンビニのおにぎりの以上に美味しく感じた。

 たぶん帰ってから炊いてくれたのだろう。

 

 寝起きはよく憂鬱になっちゃうから、そんな、かわいくない姿を見せたくないから、助かる。

 

「ずるいですよ……もう」

 

 どんどんダメになっていきそう。

 ずっとずっと、このぬるま湯に浸かっていたい。

 

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