ひげを剃る。やはり社畜の俺が女子高生を拾うのはまちがっている。   作:ステ

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 高評価、ありがとうございます。個人的にあまり気にしていなかったのですが、バーの色がつくと、良くも悪くも目立ちますね。2つの原作のことを知らない方も増えるだろうし、ますます気を引き締めなければならないと思っています。まあ、相変わらず勢いで執筆していて、読みづらい文章もあるかもしれませんのでご了承ください。
 お気に入り登録してくれる方も増えてくださっており、不定期更新ですが、引き続きどうぞお付き合いください。


第8話 週末の飲み会

 

 

 いろはは朝には何もない風を装っていた。

 だったら、俺は何も聴くことがない。

 

 衣食住について助けるけれども、それ以上は特に手を出していない状態が続いており、もう1週間が過ぎようとしている。いろは自身が解決すべき問題で、誰かに縋って乗り越えること、それは依存にすぎない。

 

 諦めるにしろ乗り越えるにしろ、自分で解決するべき。

 

 その考えは。

 週末まで、変わることはなかった。

 

「比企谷、肉だ!肉を焼け!」

「牛角じゃないんすから、野菜はないですって」

 

 シックな雰囲気の店舗だが、騒がしい。

 ビールのジョッキ片手にあれこれ命令してくる。

 

「隼人~、お肉よそって~」

「なんでも、でいいんだろうな」

 

 時間制の食べ放題ということで、どんどん箸を進める平塚先生と違って、陽乃さんは赤ワインのグラス片手に、優雅な食事を楽しんでいる。そんな女王様によって、呼び出された葉山も、俺同様働かされている。

 

 困ったような表情を浮かべているが、最近の陽乃さんの隣にはよく、こいつがいる。

 構われすぎて大変な目に遭っちゃっているのだろうな。ご愁傷様。リア充爆発しろ。

 

「ゆきのん、すきーーー!」

「こぼれる、こぼれるから。落ち着いて」

 

 まだカクテル2杯目じゃなかったか、たしか。

 由比ヶ浜が、酒に弱いのは知っていたけれども。

 

「静ちゃん、いい食べっぷりだね~」

「これほど旨い肉を食べたのは久しぶりでな」

 

 由比ヶ浜の入社のお祝いってことで、平塚先生と雪ノ下さんが奢ってくれるらしいが、こんな高級そうな焼肉店、しかも『食べ放題スペシャルコース』なんて、小町の誕生日にだって経験したことがない。

 

 お兄ちゃんも小町も、回転寿司で満足しちゃうもの。

 でも、お祝いのときでさえ、300円のお皿はためらう。

 

「旨い肉にはビールが美味い!

 あっ、すみませーん! ビール追加で!」

 

 ノリは居酒屋のままかよ。

 

 どうやら空気にも酒にも酔っているらしく、歯止めが効きそうにない。小皺がありつつも相変わらず美人だと感じさせ、その辺の男よりも男らしい、おかげで婚期が遅れていた、今ではそんな平塚先生も一児の肝っ玉母さんだ。

 

 いや、貰ってくれて、ほんと良かった。

 『千葉県のYさん』のような器の広い男性なのかしら。

 

「ヒッキーも食べさせてあげよっか」

「食べてる。食べてるから」

 

 高級そうなお肉だが、『牛角』で食べるくらいには、テキパキと網いっぱいに焼いている。だって焼肉奉行がいる。

 

 しかしがつがつ食べるのは、俺と葉山と平塚先生。

 おかげで、焦げる前に消費しなければならない。

 

「じゃ、ゆきのん、あーん」

「あーん」

 

 雪ノ下は抵抗しても無駄なことを悟ったのか、黒髪を耳にかける仕草をしながら、差し出しされたお肉にはむはむと齧りつく。そして、少し大きめにスライスされた『カルビ』を一口では食べず、自分の箸を使いながら器用に半分くらいに噛みきった。

 

 そして、口元を手のひらで抑えながら、咀嚼する。

 そういう所作もテーブルマナーなのだろうか。

 

「雪乃ちゃん、かわいいよね~」

 

 おっと、全く酔ってないのに絡んでくるお姉様がいたんだった。

 人が食べているところをまじまじと見るものでもない。

 

「姉さん、急に何を言っているのかしら」

 

 食べながら喋るということはなく、しっかりと呑み込んでから、雪ノ下は姉にジト目を向ける。

 

「雪乃ちゃんはかわいいままだってことだよ」

「……姉さんこそ、その、昔から綺麗だわ」

 

 えー、そういう会話だったの。

 はちまんったら、なんか裏があるかと思っちゃった。

 

 『千葉の兄弟姉妹は仲がいいなー』だなんて思っていると、陽乃さんはこちらを見てニコッとした。いわゆる『含み笑い』というものであり、女子語検定3級も取得できていない俺にはよくわからないです。

 

 ただ、まあ、いつか感じたような、『ぞくりとした感覚』はない。

 比較的には、穏やかな雰囲気で話すことができている。

 

「ふむ。それにしても、由比ヶ浜も『雪ノ下』で働くことになるとはな」

 

 平塚先生は再びビールをぐびぐびと喉に流し込んでいく。

 心底、嬉しそうで、完全に酔っている。

 

「ぷはぁー! いやぁー、めでたい!」

 

 離任式の時、あの後悔を残した表情が、どうしても忘れられないでいた。

 だから、たぶん、今の俺はホッとしているのだと思う。

 

「いい飲みっぷりっすね」

 

 俺も真似して、ビールを勢いよく喉に流しこむ。

 会社付き合いで飲む時より、ずっと美味しく感じた。

 

「やー、でも1年遅れちゃいましたけどね」

 

 お世辞にも勉強ができるとは言えなかった由比ヶ浜だ。受かるために、雪ノ下姉妹のねっちょり指導をがんばった。『努力あるのみ』な姉妹なおかげもあるとはいえ、よく耐え抜いたと思う。

 

「1年や2年、気にすることはないさ。

 ほら、私、若手で結婚できたから」

 

 年齢の話は、まあ、置いておくとして。

 口は禍の元だ。

 

 実際に直撃したことはないが、久しぶりに『衝撃のファーストブリット』を受けそうだ。それにしても、ああいうノリを今の生徒ともやっているのだろうか、だがしかし、ますますネタが通じなくなってそう。男子なら『スクライド』は必修科目だと思っていた時期もありました。

 

「結婚、結婚かぁ……」

 

 由比ヶ浜から漏れた声は、少し、重い呟きだった。

 

 うちの小町ちゃんもそういうの気にするお年頃なのかしら。

 キミには、まだまだまだまだ早い。

 

「大丈夫大丈夫、ガハマちゃんも引く手あまたでしょ、ねっ、隼人」

「ああ、高校の時もそうだったよ」

 

 意地悪な質問を受けた葉山は、苦笑いをしながら、事実を答える。俺からすれば陽乃さんの発言、どれもこれもが考えて答えちゃうものなのだが、さすが幼馴染というべきか、差し障りのない返答だ。

 

「でも。昔から意識してきたのは、1人だけどね」

隼人のくせに、いいパンチうってくるじゃん

 

 ほんの一瞬、俯いたその表情が、やっぱり姉妹なのだと感じさせる。

 

「葉山も男前になったんじゃないか? なあ、陽乃?」

「ぜーんぜん、まだまだ子どもっぽい」

 

 少し赤らめたその頬は、ちょっと飲みすぎたのだろうか、それとも。

 

「そういえば、比企谷君、最近帰り、早いんだって?」

 

 陽乃さんにしては、やんわりとした変化球だ。

 それ、結構きついフォークボールなんですけど。

 

 いやー、千葉ロッテマリーンズは最近成績伸びてきてるし、今年はもしかしたら優勝いけちゃったりね。なんて、あれこれ考えている時間はなく、おそらく『恋人できたの?』みたいな質問だろう。女子語検定で習ったやつだ。

 

 さて。

 

「別に、元々早かったですけど」

 

 しまった、打ち損じた。

 

「へぇ~」

 

 余裕を取り戻したらしく、蠱惑魔な笑みに変わる。

 

 助けて、葉山えもん。

 なお、肩を諫めただけだった。

 

「今週、5日間、真面目に取り組んでいたようね。定時にあがるために」

「そうそう。ヒッキー、4時とかめっちゃがんばってるの」

 

 たぶん、由比ヶ浜から雪ノ下へ、雪ノ下から陽乃さんへ伝わったのだろう。

 ずいぶん恐ろしい伝言ゲームをされたものだ。最終回答が恐ろしい。

 

「さきさきはないとして、ひょっとしてるみるみ?」

「めぐりもありえるかもね」

「戸塚君、という可能性も少なからずあるわ」

「まさか。姫菜じゃあるまいし」

 

 やだっ、俺の交友関係狭すぎ。

 高校時代の同級生、10人も覚えていないのバレちゃう。

 

「てか、ガハマちゃんは違うんだ」

「あはは、ないですねー」

 

 ガハマさん、『(こんな男と付き合うとか)ないです』って、ことでしょうか。

 

「それなら。比企谷の妹さんは、どうだ?」

「「「「あー」」」」

 

 うまいこと言ってやったという表情の平塚先生に、4人共、納得したようだ。

 

 小町は今頃、誰と夜を過ごしているのだろうか。

 友達の家にお泊まりに行くから、お兄ちゃんとお父さんは心配です。

 

「まあ、一緒に買い物行くとかよくするんで」

「「シスコン」」

 

 嘘は言っていない。

 ていうか、雪ノ下姉妹もシスコンだろう。

 

「まあ、そんな感じで。

 てか、そろそろラストオーダーです」

 

 いろはも、いつかはこんな風に、誰かと笑い合えるだろうか。

 

「おお、もうそんな時間か。悔いのないよう、注文しなければな」

 

 平塚先生は、メニューを広げた。

 目を輝かせている姿は、あの頃から変わっていない。

 

「ゆきのん、デザートなににする? シェアする?」

「なにか、さっぱりしたものがいいわね」

 

 サイゼと同じように、2人でメニューを見始める。

 

「飲み足りないから、まだ付き合ってよね」

「ああ、わかったよ」

 

 葉山が身に着けた腕時計の針は、9の文字を指していた。

 

君たちと一緒に酒を飲めて、私は幸せだ

……そっすね

 

 隣の平塚先生から、俺にだけ向けられた小声だった。

 

 残りのビールを飲みきり、俺も、もう1杯だけ注文することにした。

 

 

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