薔薇の皇女殿下の物語   作:kuraisu

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「おひっこし」

 わたし、アグネス・フォン・ゴールデンバウムにはたくさんのお友達がいた。けど、たくさんいた仲良しの友達はみんなお引っ越ししてしまったの。

 

 まわりのお付きの者に「昨日までいた、あの子はどこに行ったの?」と聞いても、「あの者は、遠い場所へと引っ越しされました」としか答えない。

 

 今日もお友達といっぱいお話をしながら、美味しいお茶と甘いお菓子を食べたかったのに。それに引っ越しをするなら前持って言ってくれれば、お別れパーティだって開けたかもしれないのに……。

 

 淋しさからお付きの者に「なら、引っ越ししたお友達にお手紙を送るのはどうかしら」と聞けば、少し黙ってから「それは……良いお考えかと」と答えた。

 

 それから私は、お父様がくれたお庭で遊ぶのを控え、部屋でお友達あてのお手紙を書くようになった。記憶を辿れば楽しい思い出ばかり蘇ってきて、書く内容にはそんなに困ることはなかったの。

 

 でも楽しい思い出ばかり思い出せたわけじゃないの。たくさんいたお友達の中でも、一番のお友達だったアルビーナ! ロスジェーン公爵家の令嬢なのだけど、とっても話が合う最高の親友だったのだけど、喧嘩別れしてそのままなの。

 

 あの時はわたしも頭に血が上っていて、冷静になれていなかったの。その日の夜に考え直して見たら、どう考えても悪かったのはわたしよね。いくらアルビーナのつけていた髪飾りが素敵だったからって、それを盗もうとしたら、怒って当然だもの。

 

 だから次の日の朝、謝ろうと思っていたのよ。でもいつもの遊び場にアルビーナはこなかったわ。なんでもロスジェーン公爵家はお父様から重要な仕事を与えられて、遠くにお引っ越ししてしまったのだとか。

 

 お父様の命なら仕方ないけども、だからってなにも喧嘩したその翌日にお引っ越しなんてしなくてもいいじゃない。わたし、ずっと心残りになってるのよ?

 

 そうした気持ちも込めて書いてしまったから、アルビーナあての手紙はとんでもなく長くなってしまったわ。ちょっと読んでくれるか自信がなくなってしまったから、趣味で育てている薔薇園のバラに添えて「あのときはごめんね」と要約したものも一緒に送ろうかしら……?

 

 そうして悩んでいる時、お仕事で忙しいお父様が珍しく私のお部屋に来られたの。私が書いているお手紙の事を尋ねられたので「お引っ越ししたお友達あてに、お手紙を書いています」と答えた。

 

 一瞬、お父様はお顔を変えられたけどすぐに何時もの優しいお顔に戻り、「そうか、そうか、アグネスよ。お友達がいなくて淋しいか。すぐにアグネスにあうお友達を父が用意しよう」と答えてくれました。

 

 また、お友達ができると思うと私はとっても嬉しくなり、今度できたお友達とどんな遊びをしようか考えるだけで楽しくなる。

 

 ああ、早くお友達に会いたいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新しくお父様が用意してくれたお友達の様子がおかしかったわ。

 

 とても暗い顔をして、怯えて震えているの。

 

 それがわたしに対する恐怖だとわかるのに時間はかからなかったけど、どうしてわたしにそんなに恐怖しているのか理解できず、なんとか宥めて理由を聞こうとしたの。

 

 そしたら唇を震わせながら、教えてくれたわ。「ロスジェーン公爵家令嬢が殿下を傷つけたことに陛下が激怒して、ロスジェーン公爵家を取り潰して、その一族郎党を処刑した」って。

 

 理解できなかったわ。理解したくなかったわ。でも理解できてしまったの。

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。アルビーナ、いや、他のお友達もひょっとして……わたしのせいでわたしのせいでわたしのせいで!!

 

 その日が、わたしが長い時間をかけて人として死んでゆくはじまりだった。

 

 




担当は山翁
後半部を中心にクライスが加筆
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