今作の白崎香織 判断が速い
その後の事を簡潔にまとめると。
天之川光輝は香織の言葉を理解できずに、化け物から香織を守るつもりでハジメに剣を向けた。
ハジメとしてはむしろ、これが普通の反応だよねと納得していたが、これに香織が激怒。
彼がいなかったら自分達は死んでいたのだ。
自分達を助けてくれたクラスメイトに対してこんな仕打ちはあんまりだ。
恩を仇で返すような真似を認められるわけがない。
大体ハジメくんが無闇に人を傷つけるような真似するはずがない。
反論も許さぬと言わんばかりの勢いに光輝は圧倒される。
それに加えて八重樫雫も光輝を説得する。
彼がこちらを害する気があるなら自分達は既に死んでいる。
無闇に敵対するのは得策ではない。
瀕死の傷を負っていたメルドを対価は要らないと助けてくれた。
魔人族の女も命を奪う事無く無力化した。
警戒するなとは言わないが、敵意を向けるべき相手ではない。
その言葉に光輝は渋々ながらも納得する。
その後、ハジメでなければ知る由もないことなどを聞き出せたことにより、少なくとも彼と無関係ではないとは納得してもらえた。
ちなみに檜山はひたすら怯えて一言も言葉を発することはなかった。
傷を負っていた者はハジメが差し出した神水によって回復していた。
ほとんどの者がそれを口にするのをためらう中、香織は迷いなく飲み干し即座に回復。
それを見たほかの者たちも恐る恐る飲んでいき、その効果に驚く。
だが、肉体の傷は癒えても精神的な疲労はそのままだ。
カトレアにかけた呪いの内容を伝えた後、ハジメが地上までの護衛を申し出る。
そもそも地上で彼からの救援依頼を受けてきたのだと、いつの間にかいた遠藤に視線を向ける。
あれ、なんでこんなあっさり俺の存在に気づいてるの?
そう遠藤は疑問に思ったが、ハジメの索敵から逃れるには今の遠藤にはまだ早い。
メルドとしてはカトレアに対して拘束の一つもない状況は容易く承服出来るものではなかったが、ベヒモスでの戦いでハジメを助けられなかった負い目や、命を救われた側が救ってくれた側の行動に口出しするべきではないとの思いから、強く反対することはなかった。
道中では相も変わらず凄惨な光景が繰り広げられていた。
襲い掛かってくる魔物に対してハジメは容赦しなかった。
腕を刃物の様に作り替え、視認できない程の速さでそれを伸ばし、一撃で仕留めていく。
魔物が現れそれに光輝たちが身構えた瞬間に、次々と地に伏していく。
香織を除いてそれに安心感を覚える者は居なかった。
純粋な戦力として圧倒的なことに加え、ハジメはアーティファクトと呼ばれる物も数多く所持していた。理不尽という言葉ですら生ぬるい。
ハジメに対する信頼がなければ、香織ですら恐怖していた事だろう。
逆にハジメだからという理由でこれに安心できる香織は、控えめに言って異常者なのでは?
魔物が一方的に屠られ続ける事を除けば、何事もなく地上に帰還することが出来た。
ハジメはカトレアを開放すると、クラスメイトの言葉も意に介さずその場を離れる。
そして人目のない場所までたどり着くと、振り返り香織に疑問を問いかける。
「どうして僕についてきたの?」
「ハジメくんについていくって決めたから」
即答である。少なくとも納得するまでは帰らないだろうなと判断して、ハジメは己の拠点に香織を連れていくことにする。内心ではそれを嬉しく思う事は表に出さぬよう努めながら。
ハジメはオスカーの隠れ家を己の拠点としていた。転移のアーティファクトはまだ作成できなかったので、行き来するのは己の能力によるものだった。
改めてハジメは己の身に起きた事を説明する。
奈落で魔物の肉と神水を摂取したことで、ハジメの肉体は現在のものになった。
心臓と脳を増やし、生き延びるために体を作り替えた。
それに応じて様々な能力も発現した。
簡潔に化け物になったのだと伝えても、香織に恐怖や嫌悪の感情が浮かぶことはなかった。
それどころかハジメに謝罪した。生きていてくれてよかったと軽率に喜んだことを。
ハジメは香織を共に行動させる選択肢を選ぶことが出来なかった。
今の自分にとって何よりも優先されるのは自分が生きる事。
いざという時自分は香織すら躊躇いなく切り捨てることが出来るだろう。
同時にそれはハジメにとって耐えがたいことでもあった。
だから香織を連れていくことは出来ない。
そう言ったハジメに対し、香織は己の望みを口にする。
「私をハジメくんと同じように作り替えて」
「…………はっ?」
「私が足手まといにならないように、切り捨てても死なないように」
香織の目に迷いはない。
「私はどんな手段を使ってでも、ハジメくんと一緒に居たい」
あなたが好きだから。
そう言う香織に引き下がる様子はない。
途轍もない苦痛が伴う。
どんな姿になるかもわからない。
二度と元には戻れない。
どの言葉も香織を止めることは出来ない。
「本当にいいんだね?」
「女に二言はないよ」
ハジメも覚悟を決める。彼女を自分と同じ化け物に変える事を。
「なら、一つだけ呪いを掛けさせて」
そしてハジメはそれを口にする。
「君を――一生、
そう言って口づけながら己の血を送り込む。
香織は体を作り替えられていく激痛に耐えながら、喜びを感じられずにはいられなかった。
三日三晩が過ぎた時、ハジメの前には己が初めて生み出した鬼が存在していた。
ありふれコソコソ噂話
香織曰く三日三晩の苦しみはハジメのキスがあったから我慢できた。