あらゆる封印を作ったり解いたりできる天才結界士と封印から解放された魔王様 ~追放された結果、人間が嫌いになったので、魔王の味方をする事にしました~   作:運の命さん

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第7話 黒竜と天才結界士と魔王

「お願いですっ、助けてください……」

 

「はあ?」

 

 その死にかけの少女は、俺の足の裾を掴みながら、必死に懇願する。

 その緑色の瞳は、俺以外の周囲の景観を映していなかった。まるで、俺以外の者全てを、この眼で見たくないと言っているかのように。

 

「お前、何者だよ。頼む前にまずなのッてほしいもんだが」

 

「……ティナって言います。この近辺で旅人をしていた者です」

 

「旅人ねえ」

 

 旅人とは、冒険者の劣化とも言われる地位の人達だ。冒険者になるためには、試験を越えなければいけないのだが、回復役や商人といった者は、その試験を超えるのですら、普通の人たちより厳しくなる。

 そういう人は自ら旅人と名乗り、冒険者の助っ人を担ったり、街人の小さな悩みを解決したりという活動を進んで行うのである。

 要約すれば便利屋みたいなものだろう。

 

「色々まあ疑問が残るが、一先ずそれは置いておこうか。……でだ、俺達がお前を助けた所で、俺達に何かメリットがあるのか? そこが一番の問題だ」

 

「……そ、それは……」

 

 押し黙る。

 

 しかし、俺はこれっぽっちもコイツを助けたいと思う気持ちなんてない。こいつが人間なら猶更だろう。

 あの追放された出来事以来、俺以外の人間は全く信用できなくなっている。こいつもきっと、俺達が気前よく助けたとしても、その後すぐに見捨ててどっか行ってしまうだろう。

 

 そんなのはもう御免だ。

 

「……私にできる事なら、何でもやりますっ。それでいいのなら!」

 

「じゃあ聞くが、お前は何が出来るんだ?」

 

「昔から、治癒魔術は得意で……後、世界知識も人並みにある……と思います」

 

「曖昧だなぁ、おい」

 

 治癒魔術ねえ、つまりこいつは回復役(ヒーラー)という事か。

 

 こんなボロボロに破れた服装でよくこんな所に来ようと思ったな。いや、さすがの馬鹿でも、死にたがりじゃなければこんな危険な所に来ようとはしない、か。

 

 ならなぜコイツはここにいる?

 

「それでももう、貴方達にしか頼めないんです。ついていった仲間にも囮として捨てられて、惨めに死ぬのだけは嫌なんですっ」

 

 涙で濡れまくった顔を、俺の足に引っ付けてくる。鬱陶しくはあるが、コイツの言う事は、多少同感する。

 

 雇った仲間。コイツが生き残れる時間等で推測するに、きっと俺達が入る直前に挑戦したパーティーだろう。

 ヒーラーとして連れられていたというのなら、俺なんかよりよっぽど信頼されていたのだろう。なのに結局捨てられた。それは精神的にたまったものではないだろう。

 

 よくよく思い出してみれば、帰ってこなかった奴もいるって他の奴も言っていた。きっとコイツの事なんだろうな。

 

 やはり、人間ってクズな生き物だな。改めて俺は、そう思った。

 

「……おいマギア、そっちの状況は!」

 

「見てわからないかな?」

 

 一度ティナを無視して、マギアの方に視線をやる。

 先ほどからマギアは、ブラックワイバーンの顔面目掛けて連射可能な魔術を放ち、時間を稼いでいた。

 

 炎の爆発や雷の電光で視界を遮らせる事で、俺のいる場所を分からなくしているのか。この状況でその判断が下せる辺り、さすがと行ってやるべきなのだろうか。

 

「対魔力、壊せる見込みはあるか?」

 

「今やってる連射だけじゃ無理だね。策は一応無くないけど、詠唱に時間かかる。そっちが時間を稼いでくれるなら、試してもいいけど……」

 

 攻撃力が皆無な俺に時間を稼ぐ、か。難しい事を言ってくれる。策が無いよりは幾分マシだが。

 魔陣拘束(トラップ・シール)をブラックワイバーンに展開して、動きを封じながら短剣でチクチク攻撃する感じで、気を逸らす方法ならあるにはあるのだが……

 

(俺が死ぬ可能性がでかい……)

 

 動きを停止させる方法で、こいつの右に出る物は殆どいない魔陣拘束(トラップ・シール)ではあるが、展開中は余り大胆な動きが出来なくなる。精々一時封印(ワンズ・シール)で自分を護る事ぐらいか? そうなったら、気を逸らすどころの話ではなくなる。

 つまり、この策をやるのであるならば、俺とマギア以外の誰かが攻撃をする役を担わなければならなくなる。俺は支援を、マギアはその策とやらの詠唱をしなければならないからな。

 

 ――。

 

 俺は再び、下のティナに視線を移す。

 

「おい」

 

「は、はい……」

 

「さっき、何でもやるって言ったよな」

 

 ティナは静かに頷く。

 

「ならその報酬、少し前倒しさせてもらうか」

 

「え?」

 

 俺の足を掴むティナの腕をグイッと持ち上げ、無理やり立たせる。

 そのまま腰につけていた短剣を渡し、ブラックワイバーンの前に勢いよく突き放す。

 

「え、えっ、えっ、なんで!!?!?!?」

 

「ん……誰、あの人間」

 

「話は後! マギアはその策とやらの詠唱! ティナ、てめぇは何でもやるって言ったんだから、その短剣でブラックワイバーンの相手をしろ、護りはこっちがやってやる!」

 

「そ、そんな!?」

 

「……ッチ、魔王使いが荒いよ、本当にね!」

 

 嫌々しい態度ではあるが、マギアは両手をゆっくり合わせ、何やら呪詛の様な物の詠唱を開始する。

 

『グルルァアァァア!!!』

 

 突き出されたティナを発見した奴は、獲物を見つけたかのようにギラリと瞳孔を光らせ、その大きな腕をそこ目掛けて振り下ろす。

 マギアよりも、一番狙いやすそうな奴を優先したのだろう。だがそれも、計算通りだった。

 

「ひっ……」

 

「何でもやるっつっただろ! 《一時封印(ワンズ・シール)》!」

 

 その腕に合わせて、ティナの周囲に簡易的な封印を施す。

 腕は勢いよく弾かれる。が、奴の知能が低いのか、その封印目掛けて何度も腕を振り下ろす。

 

「……っ、あ、あれ、攻撃、来てない?」

 

「ああ、来てねえよ! 足でいいから短剣でも振り回してろ!」

 

「は、はい!」

 

 俺がティナに渡した短剣は、あの憎きパーティーにいた頃、ファルスがせめてものという意味で、購入してくれた一品である。

 その刀身は、例え相手が硬い鱗で護られていたとしても、攻撃を重ねるごとで、砕く事すらも可能になる程威力は他の短剣に比べ高い。

 

 俺の封印の力を目の当たりにして自信がついたのか、ティナは渡された短剣を強く握りしめ、奴の足鱗目掛けて何度も斬りつける。

 

『グルゥゥァアァアー!』

 

「させるか! 《魔陣拘束(トラップ・シール)》」

 

 幾ら強固な封印であるとはいえ、何度も攻撃されると世話がない。

 その振り下ろす腕を魔力文字で縛り付ける。さすがに身体全部とまではいかないが、それでも五体満足の状態で攻撃されるよりかはマシだった。

 

「マギア、まだか!?」

 

「……闇の祖にして根源に至る……なればその道、悠久に閉ざされん……」

 

 魔術の事は余り知識がないため、今どういう状況なのかわからないが、凄い集中しているという事だけは理解できた。

 周囲に転がっていた石っころが、マギアの魔力に反応しているのか、コトコトを揺れ、ひとりでに浮遊する。

 こんな状態、普通の魔術師ではおろか、極めに極めた魔術師ですらも、絶対に見る事の出来ない光景だろう。一体どれ程の魔力使ってんだ。

 

『グルルァ!!』

 

「――ッチ、休む暇もねえな!」

 

 魔陣拘束の魔力文字に亀裂が入る。

 強度には結構自信があったのだが、やはりそこはA+級の魔物だ。何時も俺たちの想定を上回ってくる。

 

 亀裂が入ったことで多少の自由を手に入れた腕が再び、ティナの方へ振り下ろされる。

 

「大丈夫、なんですよね?」

 

「そろそろ不味い」

 

「え!?」

 

「冗談だ」

 

 ことある度に怯えた反応をするので、ついからかってしまう。俺もどうやら気づかぬうちに性格も悪くなってしまったようだ。

 

「……終わったよ」

 

 眼を開き、マギアが俺にそうつぶやく。

 

「良し。戻ってこいティナ!」

 

「は、はい!」

 

 合図を元に、ティナを俺の身体の方へと寄らせ、一時封印(ワンズ・シール)を施す。コイツの身体が小さいのが幸いし、ギリギリ俺とティナを収容することに成功する。

 

『グァアアァァァーー!!』

 

「遠慮すんな、やっちまえ! マギア!」

 

「――闇の祖よ。我はこれより、その道を歩まん。常世全てを闇の無へと帰し、我の存在のみをこの世に知らしめん。《闇属性魔術 -原初-:永夜(ミッドナイト)》」

 

 ブラックワイバーンの足下に巨大な紫の魔法陣が敷かれる。

 地鳴りを起こし、周囲に異様な雰囲気を漂わせる。

 

 ズズズッ。

 

 魔法陣から解放されるように、魔の霧を纏った腕が現れる。その腕はブラックワイバーンを強く掴み、そのまま対魔力の魔力文字ごと魔法陣の中に引きずりこもうとする。

 

『グァ――。グルァァアアァァア!!』

 

「その忌々しい陣ごと、虚無へと帰れ。ケダモノが」

 

 マギアの紅き瞳は、どこか怒りの感情を露わにしながら輝いていた。

 

『神が与えたのは、私の魔術を完全に封する術式、そして――私の友達を捕らえる術、その2つだけだった』

 

 俺はその時、道中で彼女が言った言葉を思い出す。

 魔術を完全に封ずる術式、それがもし対魔力の上位存在の物だとしたら。

 

 彼女が、そう思うのも納得だろう。

 

 この術もきっと――。

 

 

 やがてブラックワイバーンの持つその巨躯は、完全に魔法陣の中へと消え去っていった。

 

「――これが……」

 

 俺はその時初めて、心の底から、マギアに恐怖した。




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