あらゆる封印を作ったり解いたりできる天才結界士と封印から解放された魔王様 ~追放された結果、人間が嫌いになったので、魔王の味方をする事にしました~   作:運の命さん

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第8話 奴隷と天才結界士と魔王

「無様な最期だったね」

 

 ブラックワイバーンの終わりを見届けたマギアは、呆然とその光景を眺めていた俺とティナの下へと歩み寄る。

 その時の気迫は正真正銘の魔王のソレに他ならなかった。――が、その表情、口調は、今までのマギアと同じであり、なんとも複雑な心境であった。

 

「……今のは?」

 

「今のって?」

 

「さっきの魔術だよ! 原初と呼ばれる魔術なんて、聞いたこともない!」

 

「え? 何、伝わってないの、今の世には」

 

 マギアは本当に何を言っているのかわからないと言う表情をして、顔を小さく傾ける。

 

 どこかで説明したかもしれないが、普通魔術とは一章から四章、そして最後の終章の5つの型しか存在していない筈である。

 古来より闇属性の魔術こそ伝わっていた物の、その基本こそは変わっていないと記録には残されていた。最も、闇属性の魔術を行使できるのは、選ばれた人種と、魔族に限られているという話だが。

 

 そう、原初の魔術なんて、一切伝わっていなかったのだ。

 

「クライン達の言う一章から四章、そして終章の魔術っていうのはね? この原初の魔術の派生なの。それぞれの魔術は、この原初を原型にとり、それぞれの型を作り上げた。これが、魔術の始まりなの」

 

「そんな事実が? だが、何故今の今まで伝わってない? そんな壮大な話なら、伝わっていない筈が……」

 

「だってそもそも、原初の魔術が使えたのは、この世でたった一人――そう、私しかいなかったんだもの。本当の意味で行使したのも、実は今が最初」

 

「は、はあ!?」

 

 言っている事が無茶苦茶で、俺はあきれ果てた。

 

「何故今まで使わなかった? さっきの原初の闇属性魔術だって、対魔力関係なく敵を倒してたじゃないか! その力があれば、人質だって……あっ」

 

 そこまで言って、俺は気づいた。

 

 先ほどの闇属性魔術。あれは要約すれば、対魔力の力を持った存在ごと虚無へと引きずり込む魔術なんだろう。

 幾ら対魔力が効かないとしても、人質ごと引きずり込んでしまっては、助ける物も助けられなかった筈だ。

 

「……すまん」

 

「察したのなら、別に構わないよ。魔王様は懐が深いからねっ」

 

「ま、魔王様……っ!?」

 

 隣にいたティナが、その何気ないセリフを聞き取り、即座に驚愕した。

 

「あ、忘れてた」

 

「そうそう。さっきから気になってたの。何、こいつ?」

 

 想定よりも不味い事が起き、俺は頭を抱えた。

 その気はなかったが、ブラックワイバーンを倒した事によって、実質的にこいつを助けてしまった事になってしまった。

 

 それだけならまだ良かった。が、奴はマギアが魔王だってことを今知ってしまった。普通なら信用しないところだが、先ほどの魔術の力を見てしまった直後だ、易々と信じてしまっても不思議ではない。

 

「魔王様って……今、言いましたよね?」

 

「あぁ~、えっと……これは……その?」

 

「……すまない、クライン。口が滑った」

 

 マギアも同じく冷や汗をかいた。

 

 このまま追い返したとして、魔王が外に解き放たれた事、マギアが魔王である事、その他全てを洗いざらい晒されてしまっては、俺達の旅はその時点で詰み、終了である。

 

 何か、何か策はないか?

 

「ぁ~……もうっ。おい、ボロガキ」

 

「ボ、ボロガキ!?」

 

 悩む俺を横に、マギアはティナの眼前に片手をバッと広げた。

 

「マギア、何を!」

 

「ここであった事、全部忘れて口を閉ざせ。破れば……わかるよね?」

 

 出た、魔王式脅迫術だ(なんだよそれは)。

 

 だがセリフの内容はそこらへんにいる野盗のソレで、完成度は低かった。脅迫に慣れていないのが凄いバレバレであり、俺はつい笑いだしそうになってしまった。

 

 ボロガキってなんだ、ボロガキって。

 

「……そ、それはわかってますけど……」

 

「けど、何?」

 

 語尾の口調を強調して返し、ティナの次の返答を待つ。

 

 その時の顔はもっぱら、『返答次第ではすぐ殺すぞ』と言っているかのように、恐ろしい表情をしていた。

 

・魔王だという事を知っている。

・眼前に手を突きつけられ、魔術が発射する5秒前状態。

・顔が怖い。

 

 誰もが怯え竦む条件三銃士が揃っている。俺がティナの立場だったら、間違いなく泣き出してしまう所だろう。

 

 だがティナは、怖気づく事なく、次の言葉を口にした。

 

「助けてもらったお礼、私まだしてませんっ!」

 

「「……は?」」

 

 想定外の言葉に、俺達は言葉を失った。

 

「何か私にできる事、ありませんか?」

 

「じょ、冗談も休み休みに言え! というか、さっきので前倒しって言っただろ!」

 

「アレも護ってもらったのと同じです! ちゃんと、私にできる事で、恩返しがしたいんです!」

 

「……しつこいと、本当に殺すよ?」

 

「っ……いえ、構いません。元々私は、貴方達が来なければ、死ぬ覚悟していましたから」

 

 一瞬恐怖の顔をしたが、結局引き下がる事は無かった。

 

 苦手な性格だ、一度決めた事は決して引き下がらないタイプの女子供だな。どういう生き方してたら、魔王に脅迫されても尚引き下がらない程の胆力が鍛え上げられるんだ?

 

 相当な修羅の道を歩んで、生きる事をあきらめたような奴にしか、不可能に決まっている筈なんだが。

 

「……はあ。《炎属性魔術 -二章- :炎弾(ファイアガント)》」

 

「ちょ、マギア! 待てよ!」

 

「しつこいと邪魔にしかならないでしょ? なら、殺した方が無難じゃないかな?」

 

 根っこは悪魔だ。殺生に躊躇いなんてないのだろう。

 

 だが、ここで殺してしまっては、幾ら人間が嫌いだとしても、少し気が引けてしまう。

 俺達が何度脅し付きで突き放そうとしても、尽くしたい、恩返しをしたい、と一点張りで、そこに悪意のかけらなんて微塵も感じられなかった。

 

 つまり本当の意味で、ただの優しい女の子なのだろう。

 

「……何か、出来ませんか?」

 

「ほんっとしつこい。もういいや、殺すよ」

 

「待て」

 

 俺はふと、一つの案を思いついた。

 

「もう……何なの? クライン!」

 

「ティナといったか?」

 

「……はい」

 

「……お前、そんなに俺達に奉仕したいのなら。一つ、奴隷紛いの事をしてみないか?」

 

「「奴隷!?」」

 

 そう、奴隷だ。

 

 殺すのも嫌、追い返すのも嫌、というか不可能。となったらば、俺に残された選択肢は一つ、コイツを俺達の旅に連れて行く事だけだった。

 しかし、普通に連れて行こうとするのは、俺も反対だし、マギアなんか俺以上に猛反対するだろう。

 

 そこで、奴隷だ。

 奴隷ならば、俺達の命令には絶対服従にできるし、いざとなったら捨て駒にだってする事が出来る。

 そう、絶対に裏切る事の出来ない立場である。俺にとっても、これ以上最高の駒が手に入るとなったら、それに越したことはない。

 

 何と言っても、魔王といったら奴隷という感じに、ピッタリな要素の一つだろう。あれ、言わないか? まあどっちでもいいが。

 

「……で、どうだ? マギアもそれなら文句ないだろ?」

 

「ど、奴隷って……ま、まあ、確かに気分はいいけど? こんなボロボロの奴に何が出来るって言うの? そもそも、奴隷になれって言われて、承諾する物好きなんか――」

 

「奴隷……良いじゃないですかっ」

 

「は、はあ!?」

 

 その間わずか10秒。悩む事なんてほぼせずに、ティナは奴隷になる事を承諾した。

 その眼は何故か、キラキラと輝いていた。

 

「貴方達恩人の助けになれるというのなら、奴隷でもなんでもします! 私は、それで構いません!」

 

「……お前、本当に良いのか? 半分、冗談のつもりでいったんだが……」

 

「そもそも、私に残された選択は、死ぬ事だけだったんです。今更奴隷なんて、全然気にしません」

 

 胆力もここまでくると、さすがに怖くなってくるな。

 本当にこいつ、どういう人生送ってきたんだ?

 

「と、コイツは言ってるが? どうだ、マギア」

 

「……う、うむむ……」

 

「……」

 

 中々、良いよとは言えない感じであった。

 仕方ない、ここは奥の手を使うか。

 

「承諾してくれたら、ケーキ2個追加だ」

 

「え!? ……ま、まあ? その条件なら……別に……」

 

 濃く赤面し、そっぽを向きながらマギアは、奴隷にすることを承諾してくれた。

 ケーキの力すげえな。魔王討伐への最強武器筆頭にでもなるんじゃないだろうか?

 

「……それじゃ、決まりだな」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 今まで脅迫によって生まれた緊張がほどけたのか、ティナの身体はガクッと地べたに崩れた。

 

「……ただし、ただしよ! 私達の言う事には絶対聞く事! 特に私! 魔王様である私には、特に敬意を表しなさい! いいわね?」

 

「は、はい! 魔王様!!」

 

「やれやれ……やかましい奴が一人増えたか」

 

 表では嫌そうな顔をしたが、内面の俺はどこか、少し嬉しい気持ちを感じていた。




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