私はドクターと呼称される人間だ、ロドス・アイランドと呼ばれる製薬会社で働いている。
その業務は大きく2つ、移動拠点ロドス全体の管理と、感染者に関わるあらゆる問題解決の指揮を取ること
後者の中には武力衝突に発展するものもある、というよりはそれがメインと言っても差し支えない、実際警備会社のように輸送等の護衛任務を受けることも珍しい事ではないからだ。
だからこそ、ドクターとして円滑な指揮を取るために、戦力となるオペレーター達とコミュニケーションをとり、オペレーター達を知り、信頼を勝ち取らなければならない。
なればこそ、オペレーターの声を覚えているなど当たり前のことである。
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「ドクター、ケルシー先生の所に書類を持っていきます。その間は休憩してても大丈夫ですよ。」
秘書であるアーミヤから声をかけられる、書類に没頭していた私だが、休憩という言葉に気を引かれ顔を上げた。
「それはいい!ついでにこのお金でケルシー先生の所にお茶菓子でも……」
「ド〜ク〜タ〜?その手には引っかかりませんよ!直ぐ戻ってきますからね!」
「冗談だよ、冗談」
「まったくもう!」
少し機嫌を損ねてしまったようだ、座りっぱなしだったし、立つついでにコーヒーでも淹れてゆっくりしていよう。
そう思った時だった、執務室のソファーに寄りかかる黒い影を目にしたのは
「誰だ、この時間に来客の予定は入れてないはずだが。」
「冷たいなぁ、アポ無しで来たのは謝るけどね。」
その声には聞き覚えがあった。
「モスティマか、また突然だな、どうせ艦内の通行証は発行してもらってないんだろ、待っててくれ、今……」
「いや、今その必要性はないよ、通行証ならもっと期間がながーい物をもらうから。」
どういうことだ?期間の長い通行証といえばロドスに勤務すれば貰えるものだが、モスティマはペンギン急便との契約対象外だし、もし契約するとしてもボスであるエンペラーから連絡ぐらい来るだろう。
おかしい、そういえば何故彼女はフードを下ろしていない……?
「本当に、お前はモスティマなのか」
「私は自分がモスティマだよ、なんて言った覚えはないな、そう、私はモスティマじゃぁない。」
言いながら彼女はフードを下ろし、こちらへ振り向いた、そこに居たのは角も光輪も翼もない、しかし間違いなくモスティマと同じ顔で、そして髪も目も、青ではなく、橙色をした誰かだった。
目の前の光景に目が離せなくなる、これは誰だ?モスティマと同じ顔、体型、声、なのに明確に彼女ではない……
「ドクターから離れて下さい!」
その声でようやくぼうっとした意識から戻ってきて、気がつけば彼女は、こちらの目を近くで覗き込んでいた。
「アーミヤ……いや、呼ぶならアーミヤ社長?アーミヤ社長、大丈夫だよ、私はドクターに危害を加えるつもりはないし、むしろその逆とも言えるね。」
「ならまずはドクターから離れて下さい……!話はそれからです!」
「おーけー、おーけー、これでいいかな?ゆっくり話そう、こちらとしても積もる話が……そんなにないけど、まぁ話してみたいことがここにはいっぱいあるんだ。」
そう言いながら彼女は両手を上げ、私から離れていった。
「ドクター、君にもね。」
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「私の名前は…実を言うとまだ無いんだ、思い出せないといった方がいいのかもしれないけどね?」
「それでは何故ロドスに来た、何故自分の名も思い出せない状況だというのにアーミヤ……はいいとしても、ドクターやモスティマのことを知っている、答えろ。」
乗り込む、という覚悟を決めていたはいい物の、その後をどうするかなど考えていなかった自分のノープランさにつくづく呆れている、おかげさまでこうしてドーベルマン教官から詰められてしまっていた、全てはこの軽い口が悪いのだ。
そもそも転生していきなり荒野に放り出されるのがおかしい、しかもこんな厄ネタ臭しかしない体にされるという始末。
口も悪い方向によく回るオプション付きだ、遠回しな言い方自体は元来のものなので自分を恨むしかないが。
「なに、レユニオンに襲われている人を助けた時、そう聞いたんだよ、声と顔が似てるサンクタみたいなサルカズみたいな青い人が居るとか、記憶喪失なドクターと呼ばれる指揮官が居るとか。」
これ自体は嘘ではない、このとき話を聞いたからこそ乗り込むこともできたのだから。
「ふん、では何故忍び込むような真似をした、何か後ろめたいことがあったのだろう?もうすでに何か細工したか?」
「そんなことはないよ、現に私は手ぶらだし……もしそうなら捕まるようなヘマは犯さない、入れたのに出れないなんて滑稽過ぎると思わないかい?
ここには単に、自分と同じ記憶喪失な人間が居て、ロドスでは多少経歴が怪しくても雇ってくれるって話を聞いたからさ、自慢じゃないけど、今の私には雨風凌ぐ手段も無くてね。」
「お前の言うことはどこまで本当か分からん、煙に巻くような遠回しな言い方は怪しいにも程が……」
そんな攻め立てる声はドアの開く音で中断された。
「もう大丈夫だ、ドーベルマン教官、彼女は監視と位置情報端末をつけて経過観察することで話が纏まった。」
「いいのですかケルシー先生、些か危険では。」
「問題ない、レッドを付ける、暫くここを離れる予定もないからな。」
え、レッドか……それはちょっと下手な動きできないなぁ、まぁもとよりする気もないんだけどね。
「今言ったことに依存はないな、もしあっても聞くかは別の問題だが。」
「いいや?ないですよ、ケルシー先生、こんな根無し草にありがとうございます。」
「ふん……ところで呼び名が無いのは面倒だ、とりあえず『オランジュ』とでも名乗っておけ、書類なんかもそれで通す、いいな」
「オランジュ……いい名前ですね、気に入りました。」
「ドーベルマン教官、端末にこいつの仮住居の場所を送る、案内してやれ」
「は、ただちに、ほら立て、私にも別の仕事がある。」
「もちろん、ついていくよ。」
一時はどうなるかと思ったけど、どうやら拾ってくれるようで安心したぁ……もし私ならまずこんな怪しいやつ舟に入れたり、ましてや仮住居を用意するなんて絶対しないだろうに。
ロドスの懐の広さには脱帽だ。
さて、明日はロドスを怪しまれない程度に探検しようかな、ゲーム画面で見るばかりだったあそこを歩けるなんて、今からとってもワクワクする……!
次はペン急書いてみたいな