ドーベルマン教官に言われた通り、シャワーを浴びている。程よい熱さの水が体を温め、体表の汚れを洗い流してくれていた。
そして自分がチグハグな存在だと改めて思う。前世は男だったはずだ、なのにどうして落ち着いて身を清めるということができているのだろうか……考えても仕方のないことだがひたすらに不安になる。
自分はどういう存在なのか、スカジは知っている様子だった。体を洗い終わったら聞かなければ。
「スカジ、入り終わったよ。」
「なら行きましょう。」
「途中で質問しながらでもいいかな?」
「構わないわ。」
「じゃあ1つめ、私のことを被造物と言ってたけれど……もしそのままの意味なら、私は何に作られたんだい?」
「海の1つ、私が狩り続けていたモノの根源、その近くにいるモノよ。」
「そっか、続けて2つめ、私は被造物だとして……模造品だね?」
「あら、勘がいいじゃない、そうよ。何を思ってアレが模造品なんて作ったのかは分からないけど。」
「……3つめ、なんで分かったの?」
「愚問ね、狩り続けていたのだから、自然とわかってくるようになるわ。アレが作るモノはいつもチグハグなのよ。」
「4つめ、私の価値観や倫理観の変化が何故なのか分かるかい?」
「さあ、それは知らないわね。」
「そうなんだ。」
「あら?悲観しないのね、普通今のを聞いて気分が悪くならない訳が無いと思っていたのだけれど。」
「悲観したってどーにもならないさ、むしろ色々謎が解けてスッキリとさえしてるよ。教えてくれてありがとう。」
「別に……するべきと思っただけよ。……私も変わったわね、昔は教えるどころか、狩りさえしていたでしょうに。ここはそういうところなのかしら。」
「アナタも変われる、って言いたいのかな?私が言えたことじゃないけど、口下手だね。」
「……。」
顔を逸らされてしまった、どうやらこのロドスでスカジは大分丸くなったらしい。ということは加入から少し時間が経っているのだろうか?時系列は気にしても無駄なのは分かっているが。
「ところでここ、どこだい?」
「………。」
「スカジ?」
「……………………。」
「スカジ……。迷ったね?」
「いいえ、そんなことないわ、ここを曲がれば……!」
「行き止まり、だね。」
それはもう見事に何もない行き止まりだった。若干途方にくれていると、後ろから足音が聞こえた。
「二人とも、なんでこんな所に?」
「ドクター。」
「やぁドクター、どうやら道に迷ってしまったようでね。私の部屋まで案内を頼めないかな、多忙なら行き方だけでも……」
「いや、元々行く予定だったから問題ない、案内しよう。」
「助かるよ。」
「ほら、スカジも行こう。ついでに一緒に夜ご飯はどうだ?」
「……。」
「いい案だねドクター、さっき運動したからお腹が空いてたんだ。」
さっきから黙っているスカジに目を向けてみると、少し頬が赤いように見える。どうやら迷っているところをドクターに見られて恥ずかしがっているらしい。やはり、このロドスは良い場所だ。
ーーーーー
「ドクター、さっき私の部屋にくる予定と言っていたけど、何の用だい?」
食堂でお腹を満たし、スカジと別れ、二人きりで部屋に戻りながら聞いてみる。
「ロドス内で使える携帯端末を渡すのと、仕事の話をしようと思ってな。このロドスでは戦闘以外でも様々な業務がある。もちろん戦闘オペレーターにもこなして貰う訳だが、なにか得意なことはあるか?」
「さぁ、やってみないことにはわからないよ。」
「そうだな…、そもそも記憶喪失ではどんな業務を任せたものか……明日には決めて通達する。明後日から頑張ってくれ。」
「それはもちろんいいよ。でも、ドクター…?」
「なんだ?」
「そんなに信用しても良いのかい?言っちゃなんだが私は怪しいにも程が有るんだよ?容姿も、境遇も、行動も……。どうして、受け入れられるのさ。」
「人を助けたいんだろ?」
「スカジから……いや、ドーベルマン教官から聞いたんだね。」
「ああ、私だって人を助けたいと思う人間だ、なら志を共にする者は信じるべきと、そう思っている。」
「とても正気とは思えないね。」
「それでも私は信じるよ。疑ってばかりじゃ世界は回っていかない。」
「分かった……、そんなドクターに敬意を表して、私はこのロドスを、人を助けるよ。そのためならいくらでも使ってくれて構わない。もとよりそれしかできないだろうし。」
「そう決めつけるのは早すぎる。」
「優しいね、ドクターは。」
ドクターが歩みを止め、私もまた立ち止まる、話すうちに部屋へ着いたらしい。
「それじゃあドクター?いい夢を。」
「おやすみ。」
ーーーーー
新しい朝だ。日差しが中々に眩しく、けたたましい目覚ましの音がする。貰った携帯端末の目覚ましは早速仕事をこなしてくれたらしい。
端末の通知を確認すれば、いくつかのメールが届いていた。内容は座学や訓練の時間配分、これを作成したのは……恐らく、ドクターなのだろう。仕事が早すぎる。
「午前中はひまになるなぁ、何をしようか。」
とりあえず食堂に向かうことにした。朝ごはんは食べる主義だし。
「うん、美味しそうだ……、いただきます。」
「あ!オランジュ!」
呼ばれて振り向けば、元気な赤髪のサンクタ、エクシアがいた。
「エクシア、おはよう。」
「おっはよう!ここ座っていいかな?」
「もちろんいいよ。」
「ありがとー!…… 主よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意された物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください。」
目を瞑り、祈りを捧げる彼女を見ると普段とはまた違った印象を受ける。
そのまま食べ始めた彼女は暫くして、こちらが顔をよく見ていることに気づいたらしい。
「どうしたの?私の顔に食べかすでもついてるかな?」
「いや、きれいだなと思っただけだよ。」
「えー?もしかして私ナンパされてる?」
「違うよ、ただきれいと思っただけさ。」
「花を愛でるみたいに?私はよく分からないけど……。」
「うん、それが近いかな。」
「へんなのー」
「あはは…。」
「ねぇ、オランジュの部屋に遊びに行ってもいい?!」
「構わないけど……、何も無いよ?」
「いいの!こないだのお詫びもしたいし!」
「そういうことなら、是非来てよ。」
「やったー!」
お詫びとは言っていたけど、多分私と話したいんだろうね、モスティマのことを……、エクシアの境遇に思うところはあるけど、今の私は何も知らないし、今の私でなくても知らなかったことだ。だから、答えることはできない。
ただ私がモスティマの模造品であることは……話すべきなのだろうか、話しても理解されそうにない話ではあるが……。
どちらも助けたいのは人で、感染者なんて括りには囚われない