炭治郎側
鱗滝さんに岩を斬れと言われてから半年が経った。
今まで習ったことを総復習しても岩は斬れない......
切れ目すらも入らないのは、どうしたらいいんだろう......。
次第に俺の中に焦りが湧いてくる。
足りない...。鍛錬が足りないんだ...!!
もっと、もっとやらないと......!!
刀を手に野山を駆け回りながら思う。
俺、ダメなのかな...? 禰豆子は、あのまま死ぬのか?
わ────────っ!!
くじけそう!!! 負けそう!!!!
俺は自身を奮起させるため目的の岩に頭を叩きつけ叫ぶ。
「頑張れ俺!! 頑張れ!!!!」
ガンガンと岩に頭を打ち付ける俺に、突如声が掛けられる。
「うるさいっ...!!」
その声に驚いて声の方をみる。
そこには宍色の髪の狐のような面を被った人がいた。
その人は岩の上に腰掛け、俺を見下ろしている。
「男が喚くな、見苦しい」
そう話す男からは、匂いがしない......。
それに、この人いつの間に!! それにあの狐の面......
「どんな苦しみにも黙って耐えろ。お前が男なら、男に生まれたのなら」
そう言うと、その人はふわりと飛び降り、手に持つ木刀で、いきなり斬りかかってきた。
なっ...!!なんなんだこの人!!!?
俺は慌てて手に持つ真剣でそれを防ぐのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
呼吸の訓練も習得し、型もなんとか覚えられた俺は兄弟弟子の炭治郎くんの様子を見に行くことにした。
禰豆子ちゃんは寝たままだし、鱗滝さんは『もう教えることは何も無い』って言われてやることがなくなってしまったのだ。
食料を集めに行きがてら、炭治郎くんの様子を見に行こうと思い、俺は外に出た。
確か、炭治郎くんが今修行してるところはあの辺だったよな......。
さてさて、どんな感じになってるか......
近づいてみると、炭治郎くんは何者かと戦っていた。
それは、狐の面を被った男...のようなヤツだった。
炭治郎くんが必死に防御するのに対して相手は余裕が見える。
敵襲か...!?と、身構えたところでクイと袖を何者かに引かれる。
驚いて振り向くと、そこには同じく狐の面を顔の半分程まで被った少女がいた。
全く気配を感じなかった...。それにこの子からは生気が感じられない......
「大丈夫、錆兎は、あの子襲ってる訳じゃない」
少女に言われて、再び炭治郎くんの方を見る。
言われてみると、確かにサビトと呼ばれた男には殺気は感じられなかった。
「錆兎は、焦るあの子を見兼ねて手伝いに来たんだ。私もね」
......そうか、炭治郎くんは焦ってた。岩が全然斬れないって...斬れる気がしないって......。
きっとこの子達は、それを見てたんだな......。
だから手伝ってくれようとしてくれてたのか。
「そうだったのか、悪い、早とちりした......」
「うぅん、貴方があの子といることは知ってた、だからこれを見たらきっと勘違いするって、錆兎も言ってたし...だからここで待ってたんだ」
なるほどな、だから俺が飛び出す前に止められたのか......。
いったい、いつから知られてたんだろうか......
「とにかく、錆兎の邪魔はしないであげて? あなたなら、あの子の岩なんて粉微塵だろうし」
「はは...は...」
いったい、どこまで見られてるんでせうか......?
そうして見ていると、向こうは終わったようだ。
見れば、炭治郎くんが気絶させられている......。
「......真菰、後は任せるぞ」
「うん」
真菰、そう呼ばれた少女が頷く。
男はその後俺を見て......。
「弟弟子の事、頼みます......」
そう言って、ペコリと頭を下げて山の中へ消えていった。
俺が何かを言う時間はなかった......。
「あの子...炭治郎を起こさなきゃ」
少女が気絶している炭治郎くんに近寄る。
少しすると、炭治郎くんが目を覚ました。
真菰が気がついて声をかける。
「大丈夫...?」
炭治郎くんは真菰に気がつくとガバリと起き上がり、言った。
「さっきの見たか?」
そのまま矢継ぎ早に続ける。
「凄い一撃だった! 無駄な動きが一切ない!! 本当にに綺麗だった!! あんなふうに俺もなりたい!! なれるかな? あんなふうに......」
おいおい、女の子にそんなに話しかけたら不味いだろ......
しかし真菰は気にした様子もなく......
「きっとなれるよ、私が見てあげるもの」
それに見惚れる炭治郎くんも、やっぱ男の子だな......。
「そういえば、君は誰だ?」
真菰は...軽く微笑むと自身の名と、錆兎の名を炭治郎くんに教えるのだった。
それからというもの、炭治郎くんは岩のあるところで錆兎と戦っていた。
ボロボロに負けた後は真菰の指導に入る。
変な癖や悪い所を指摘して貰って直していった。
休憩の時には、何故助けてくれるのかや、どこから来たのかは話してはくれなかった。しかし、よく言っていたのは......
「私たち、鱗滝さんが大好きなんだ」
この言葉だった。
そして驚いたのは、錆兎と真菰が兄妹ではないということだった。
どうやら、二人は元々孤児で、鱗滝さんが拾って育ててくれたそうだ。
真菰の話ではまだ子供達はいるらしい......。
けど、鱗滝さんのところでそんな奴ら見たことないけど......。
鱗滝さんからも聞いたことも無い......。
.........まさか、いや、有り得ないよな
嫌な考えが浮かぶが、すぐに振り払った。
その後も、真菰からの指導は続いた......。
そんな日々が続き、錆兎との特訓も数をこなしてきた炭治郎くんは、日に日に動きが良くなっていく。
もう見違える程で、ぎこちない動きが大分消えてきた。
そして、そんな特訓を始めて半年程経った頃......。
遂に...炭治郎くんが錆兎から一本を取る事に成功した。
炭治郎くんの振り下ろした刀が、錆兎の額の面を叩き斬った。
狐の面が割れ、中からその素顔が顕になる。
その顔はとても泣きそうな嬉しそうな、それでいてどこか安心したように微笑んでいた......。
「炭治郎くんやったじゃねえか!!」
俺が賞賛を送ると、横で見ていた真菰も口を開いた。
「......勝ってね、炭治郎。
それを最後に、濃い霧が出てきて周りが何も見えなくなる......。
「なっ...なんだこの霧は...!!」
慌てて払う、しかし何も見えない。
やがて霧が晴れると、そこには俺と炭治郎くんしかいなかった。
真菰や、錆兎の姿はどこにもなく、そして......
炭治郎くんの刀は......
アレだけ苦労していた岩を......
見事に真っ二つに...