司帝国が科学王国に併合されて、ガイアの正体を皆が受け入れたことで、ようやく科学王国が人類再興の第一歩を踏み出した。
その最初の一歩は人類絶滅の原因、人類石化現象の解明だ。
万が一、あれが何者かによる攻撃であった場合、もう一度使われたら人類は今度こそ全滅してしまう。
「だからその前に謎つきとめてゲットする。石化光線の新科学で、俺らは旧文明を超える。目指すは光の発生源。地球の裏側だ!」
いきなりのスケールの拡大に、多くの仲間が驚きを隠せなかった。
「そう、俺らはこれから全員で船を造る!」
と造船という大プロジェクトは問答無用で進み、ゲンがみんなから案を募る形をとりながらも、結局は千空の大型帆船案で満場一致となった。
労力が半端じゃないことを除けば、誰もが納得の解決だった。
とはいえ全員で造船を始めるわけじゃない。原始人である僕らのやることは多いのだ。
石像の修復や食料の調達。力の無いものにも出来る仕事を。
そして残る課題は・・・牢に入れられた囚人・氷月とほむらの扱いだ。
「それは私に一任してもらえないだろうか?」
誰もがやりたがらない囚人の監視役を買って出たのは意外にもガイアだった。
軍隊の指揮官ということもあり指揮能力の高さから引く手あまたのガイアを監視役に配置するのは、誰が見ても非効率な人員配置。
それでも千空の「あ゛あ。勝手にやってくれて問題ねぇ」の一声でこの意見は採用された。
2人を牢から出したガイアは、千空や僕らに説明を始めた。
「人=力のこの時世、無駄にするわけにいかない。貴重な労働力を確保しなければな」
刑務労働をさせようというのだろうか? それなら余計、枷があるわけでもないこの時世に氷月とほむらを働かせている間、ずっとガイアが監視する必要がある。
正直言って、この瘦せ型2人の労働力よりもガイア1人がフリーで働くほうが生産性が高い気もするのだが・・・
「その下準備が要る。1週間・・・だな。山籠もりをしてくる。“何が聞こえてきても気にしないように”」
囚人2人を連れて山に入っていったガイアが最後に残した言葉がこれだった。
それから半日も経たないうちに、その声は聞こえてきた。
「声が小さい!」」」」」」」」」」
こだまでしょうか? うん、こだまだ。
ガイアの声が何回も反響して山の奥の方から聞こえてきた。しかも凄まじい声量で。
まるで隣で大樹が大声で叫んでいるような爆音に、造船作業中の誰もが思わず手を止めた。
「おいおい、なんだ今の声」「ノムラくん、だよな」「氷月を叱ってんのか?」
みんな、ガイアのイメージに無い怒号のシチュエーションに驚いていた。いや、それよりも声の大きさに驚くべきだよ。
反響の回数や減少率から、音の発生源からの距離が算出できる。
とてもじゃないが人間の肺活量で起こせるレベルじゃない。まるで雷鳴だ。
そんな雷鳴に晒される氷月とほむらが一体どうなっているのか・・・それは誰にも分からないし想像もできない。
ある日、「ちょっと俺ら様子みてくるわ」って山に入って(サボりに)行った陽たちが、しばらくしてゲッソリして帰ってきたのが印象的だった。
「いや・・・あれは流石に・・・氷月、ほむらが哀れで哀れで。俺だったら『誰だよ、ノムラなんか復活させようって言った奴』って恨むだろうな」
半分涙目の陽の顔を、僕は忘れられないだろう。
そんなガイアの山籠もりの間に、僕らのほうでもいくつか動きがあった。
千空が『航海力100億の神腕船乗り』として復活させた船長・七海龍水が既得権益の申し子だったり。
そのことで司と対立しそうになったけど、「金は人の意思をまとめるただの道具」という信念が伝わって無事に和解したり。
で、その龍水と千空のリクエストで僕がクロムとコハクの3人で石油を探しにいくことになった。
しばらくは旧・司帝国跡地に戻れなかった。
滝に進路を阻まれて、気球が完成するまで石神村に滞在して、ロードマップを作って、小麦を発見して。
パン作りに大失敗して、復活させた龍水の執事・フランソワに美味しいパンを作ってもらって。
カメラで油田を探している間に、いつの間にか秋になっていた。
こうしてやっと見つけた石油を持って、僕は久しぶりに旧・司帝国跡地に帰ってきたんだ。
「久しぶりだな羽京。元気にしていたか」
「ハッ、只今帰還しました!」
僕は敬礼しながら、このガイアとだけ交わすことのできる自衛隊式の空気に懐かしさと嬉しさを覚えた。
久しぶりに会ったガイアは前と変わらない元気な姿だった。変わったところと言えば、杠に作ってもらったという薄緑色のバンダナを頭に巻いていたことくらいだ。
「石油と小麦発見の任、御苦労だったな。おかげで我らは時代を駆け足で上がっていくことができた。大義だったぞ」
小麦刈りの鎌を片手に笑っているガイアは本当にうれしそうだった。
飢えに苦しむ人たちを救うことは、おそらく彼が見てきた内戦の地でもトップクラスの課題だったんだろう。
「隊長。千空より羽京招集の命が届きました」
その時、少女の声が僕らの背に届いた。どこかで聞いたことのあるような、それでいてイマイチ記憶をくすぐらない声だった。
「うむ御苦労。その場で休め」
ガイアの指示に声の主は「ハッ」と即答してザッと足を広げて“休め”の姿勢になった。
その主の姿に、僕は目を疑った。
「ほ、ほむら!?」
ビシッと背筋を伸ばして立つその少女は囚人ほむらだった。
“淡”と言い表せるくらい感情の起伏が乏しく、ほとんど話をしたことのない彼女。氷月様超絶リスペクトだけの彼女。硝酸の洞窟を爆破した張本人でありA級戦犯の彼女が今、まるでガイアの忠実な部下のように軍人式の姿勢で立っていた。
「羽京・・・」
表情はいつものほむらだ。ただ、いつもなら呟くようにしか話さない声に張りがある。
「お帰りなさい。貴方のおかげで食べられるようになったパン、美味しいわ。ありがとう」
!!??
あのほむらが感謝を口にしている!?
僕は信じられなかった。
だけどその変化は彼女だけではなかった。
ほむらに案内されて千空の所に向かう途中、見かけた氷月にも異変があった。ありすぎた。
「お帰りなさい羽京くん。今日は空気が澄んでいるので、仕事に精が出ますね」
あの氷月が鍬を片手に畑仕事をしている。清々しい汗をかきながら。爽やかに。
ここに来るまでに耳にしていた妙な噂があった。
『きれいな氷月が気持ち悪い』と。なるほど、これのことか。
でも、僕はこれはこれでアリだと思う。どうやってガイアがここまで2人を更生させたのか分からないけど、今の2人のことなら過去の罪を許せそうな気もする。
すると僕の隣にいたガイアが突然「気を付けィ!」と叫んだ。
条件反射的に僕はビシッと背筋を伸ばして直立不動になった。体が勝手に動いた感じだ。
そしてそれは氷月とほむらもだった。
「ほむらッ。貴官の生は何のためにあるッ」
「日々の糧と人の温かみへの感謝であります。Sir!」
ガイアの雷のような叫びに、ほむらは直立不動のまま即答した。
「氷月ッ。貴官の生は何のためにあるッ」
「綺麗事上等。弱き者を守護るためであります。Sir!」
氷月も同じように早口で即答した。うん、僕の知っている氷月じゃない。
なるほどこれは更生じゃない。洗脳だ。
グラップラー刃牙を読んだことがありますか?
-
どんな作品か知らない
-
内容は知っているけど読んだことはない
-
読んだことはあるけど、ガイアは印象にない
-
ガイアのことはよく知っている