たき火を囲んだ男たちの集い(女性もたくさんいるけれど)。
対ホワイマン白兵戦の戦士候補者の話題に身を乗り出したのは、復活者であり現代っ子にしてはバイタリティ強めの格闘技マニアたちだった。
「そりゃ司といやぁ霊長類最強の高校生さ。だけどな、高校生っつう括りやら総合格闘技っつう枠を飛び出しゃあ、最強候補の格闘技ってのがあるわけよ」
男というものは誰しもが最強という名に憧れる。
自分という存在がその座に就くことができなくても、誰が王者なのか、どの格闘技が一番強いのかを討論するのはこの上なく楽しい娯楽なのだ。
「やっぱ最強っつったらボクシングだろ。史上最強のボクサー、アイアン・マイケルなんかどうだ?」
「いやいやホワイマンがリングの中に来て戦ってくれるわけがねぇって」
シュッシュとシャドウボクシングをしながら陽気に語った人もいたが、隣の仲間に笑われた。
これはただの最強決定論ではない。ちゃんと今の石の世界で共に戦うことを想定した考えが必要だ。だからこそ普段の科学分野で口数の少ないメンバーにも議論に熱が入る。
「これだから素人は。最強の立ち技っつったら相撲だよ。横綱の零鵬を復活させようぜ」
「いやいや食糧問題。食わせるのにどんだけ大変だと思ってんだよ」
「みんな忘れてねぇか? 柔道だろ。警察だって逮捕の時に使うぜ」
「ニッキーちゃん、柔道で一番強い人って?」
「金メダリストの畑中さんか・・・でもね、私としてはもっと強い人が思い浮かぶんだ。もう引退しちゃったけど、アレクサンダー・ガーレンってレスリングの人」
「知ってる! あれでしょ、対戦相手ぶん投げて放物線描くんじゃなくて、ほとんど真横に投げ飛ばしたって」
ニッキーの言っているガーレンというロシア人は僕でも知っている。スポーツニュースで見たことがある。
僕でも知ってる最強候補なら納得だ。だけどガイアだけは少し苦い顔をしていた。
「ガーレンか・・・たしか彼は愛国心の塊だったと聞く。科学王国のために戦ってくれと説得するのが大変そうだな」
何か他にも言いたそうなガイアだったけど、とりあえずはその説明で皆は「そうか~」と残念がっていた。
「そういえば皆、忘れてないか? 一番簡単に結論にたどり着く方法。最強は最強を知るって奴だよ」
その言葉に皆の視線が司に集まった。最強の男が誰を指定するか、それが一番の近道だからだ。(ただ、「一流は一流を知る、ね。しかも微妙にニュアンス違うし」という指摘も入った)
「実際、司ちゃんがジーマーで戦ったら『この人には勝てないなぁ』って思ったこととかある?」
実際、今までの議論は我らが霊長類最強の高校生を無視した失礼な盛り上がりだった。
だけど司はそんなことで起こるような器の小さい男ではない。
しっかりとゲンの質問に腕を組んで考え込んで、「うん」と静かに頷いた。
「1人いるよ。アメリカのボクシングの選手だ。活動期間こそ短かったけど、彼の試合を見て鳥肌が立ったのをよく覚えている」
司が素直に認めるボクシング選手。その発表に誰もが「誰? 誰?」と聞き耳を立てて静まり返った。
「烈海王という選手さ。エキシビションマッチだが、あのボルトにも勝っている。しかも右足が義足でね」
「そんなすごい人が」
まるで自分の事のように誇らしげに言い放った司の言葉に、みんなが思わずため息を漏らした。
「日本で試合をすると言ったのを最後に表舞台に出て来なくなったから消息は分からないけど、たぶん日本のどこかで石化していると思うよ」
司の言葉に誰もが「よっしゃ! 次の復活者はその人だ!」と意気込んだ。
けどそんな中で、ガイアだけが小さく「死んだよ」とつぶやくように言った。
「えっ?」
「何年も昔に死んだよ。烈海王は。確かな情報さ」
「そ、そうだったのか。惜しい人を亡くした」
ガイアの言葉に司は空の星を見上げて目をつぶった。
すこししんみりした空気が漂い、たき火のパチパチという音が少し大きく聞こえる中、この空気をどうにか切り替えようと、仲間の一人が元気を振り絞って口を開いた。
「ちなみにノムラくんはどう? 誰か強い人、知ってる?」
「私か? そうだな、強さであれば数えきれないほど候補があるが、この石の世界に復活させるべきと問われれば・・・候補は3人ほどか」
指を折りながら候補を考え始めたガイアに、皆の注目が集まる。
最強の軍人が推す人物とは一体・・・
「1人は空手家。名を愚地克巳という」
聞いたことのない名前だった。だけど仲間の何人かは「あぁ、あの」と聞き知った様子を見せていた。
「日本一の空手道団体・神心会の二代目館長だ。無論、実力は折り紙付きだが、私としては彼の統率力を推したい。全国に100万人の門下生を持つ組織を背負って立つことのできる器は、今の我々にも必要になってくるリーダーシップだろう」
ガイアの説明に誰もが感嘆の息を漏らした。
戦力としてだけでなく、科学王国に必要な人材としての視点は皆に欠けていたものだった。
「だけど初代の息子なんでしょ? 親子経営者ってあんまり良いイメージないなぁ」
「いや、独歩氏の実子ではない。二代目継承後に門下生が減っていない事実を見るに、人望と実力ともに十分と理解できるだろう」
「ノムラくん、そんなすごい人と知り合いなの?」
「いや、直接の面識は無いな。一緒に夜這いをした仲だが・・・」
うん、ギャグで言ってるのか分からないけど・・・未来ちゃんやスイカがいるところでそういうこと言うのはセクハラだと思う。
「あと彼の尊敬する所といえば隻腕でありながら、新たなオリジナル闘法を追求するストイックさだな」
「隻腕ってなぁに?」と尋ねたスイカに、僕は「片手が無いってことだよ」と教えてあげた。
「ああ。彼は右腕を喰われてしまっていてな」
喰われて!? 事故で失ったとかじゃないんだ・・・と、僕らの誰もが口をポカンと開けてしまった。
「片腕を失ってもなお神心会の柱だ。私もかくありたいものだ。皆の命のために腕1本程度は惜しくない」
その言葉に皆の温かい目が集まった。その先にあるガイアは少し赤面しながら、口にしたお酒をズズと啜った。
「さて話を戻すか。2人目は医師だ。ドクター鎬紅葉という」
「お医者さん?」
2人目の候補者に誰もが耳を疑った。てっきり格闘家やら軍人が来ると思ったところに医者なものだから。たしかに石の世界に医師がいないのは心もとない。
「腕は超一流。日本トップクラスだが、それと同じくらいに超がつく肉体を有している。格闘技こそ得手ではないが、筋力だけでいけば司に並ぶくらいは保証できる。なんせ素手で虎の首を捻じ折ったことがあるくらいだからな」
「と、虎・・・か」
「司は石化から起きて秒でライオンを倒したぞ!」
大樹からの情報も驚きだけど、それ以上に旧世界の21世紀に虎と戦った人間がいることが驚きだ。
「ちなみに虎とライオンだったらどっちが強いんだ?」
「さぁ。ほとんど同じくらいじゃないか?」
「なら、司とガイアだったらどっちが強いんだ?」
その言葉に皆の視線が司とガイアに集まった。
2人とも口にしていた肉から手を離し、互いの顔を見合わせた。
「殺し合え、というのなら私が負ける要因は見当たらないが・・・皆を愉しませるような戦いをしろと言われると・・いやはや難しいだろう」
「うん。たしかに“何でもあり”の戦場ルールには染まらないと厳しいね。だが俺も妹やみんなの命が賭かっているとなれば、負けるつもりはないよ」
本人を前にした『どっちが強いか』論争なんて、下手すればバチバチにもなりかねない危うい話だったけど、喧嘩腰からほど遠い物腰の2人だったからこそ平穏に話を終えることができた。
「では最後の3人目だが、これは私が司のことを『霊長類最強の高校生』と呼ばない理由にもつながる男だ」
さっきのバチバチが意外にも後を引いてる? と思ったガイアの言葉だったけど、その言葉の意味を司はすぐに理解していた。
「いるのかい? そんな高校生が」
「ああ。根拠としては実に単純明快だ。彼はあの烈海王に勝っている。しかも両足が健在だった頃にね」
ガイアの言葉に誰もが驚きの声を上げた。
「ジーマーで? でもさ~そんな高校生が本当にいるならもっと有名になっても」
「表舞台では戦わない子だからな。文字通りの、な」
ガイアの含みのある言い方に僕はチンプンカンプンだったけど、司や何人かは「まさか、あの都市伝説の?」って顔をしていた。
「噂の地下闘技場さ。変則的ではあるが私もその場に立ったことがある。いやはや“面白い”場所だったよ」
ガイアの笑みが怖い。スゲー!って言ってる仲間もいるけど、絶対に面白い場所じゃないよね、そこ。
「なるほど噂の世界最上位の格闘大会経験者か。それは素晴らしい」
どうやら司すらも参加したことのない・・・参加資格を与えられていないほどの高次元の舞台に立った高校生ということか。
そんな僕らの驚きに割り込むようにガイアが言った言葉は、僕らをさらに驚かせた。
「チャンピオンだ」
・・・・・?
「さらに言えば彼が優勝したトーナメント。烈氏はベスト4、克己氏とガーレンはベスト8、ドクターは初戦敗退だったな」
虎殺しが初戦敗退のトーナメント。開いた口が塞がらなくて、しばらく閉じることができなかった。
「勿論、高校生故に特別なスキルは無い。だが単体最強で言えば間違いなく彼だ」
「単体最強ってのは要る?」
「あ゛あ、バトるフィールドがどうなるか分からねぇ以上は必須だな。少数精鋭で乗り込むっつうなら期待値デケぇ」
「でもさ、ノムラくんでもよくない? さっきから霊長類最強の”高校生”ってところに拘ってるんだから、ノムラくんの方が強いってことでしょ?」
仲間の言葉にガイアは鼻で笑うように答えた。
「私は彼がまだ中学生のころに殺し合っている。もちろん負けているさ」
余計に信じられない言葉だった。だけど彼が高校生という単語に縛られているのは、なるほどこの負い目があるからかと納得できた。
司にも勝つ自信のあるガイアにとっての殺し合いで。本当のことなんだろう。
そんな値100億金の最強高校生様は、いったいどんな人なんだろうかと、皆の興味がガイアの言葉に集まった。
「範馬刃牙。地上最強を名乗ることを“許可された”男だ」
もし復活者を選定できるなら、どういう人材を優先的に復活させたいですか?
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