新たな脅威ホワイマン対策に追われることのない日々が続いていた。
あれだけWHYWHYと驚かせておいてそれっきり。再び石化させてくるわけでもなければ、武力で侵略しに来るわけでもなく、WHYと言ってくることもない。
呆気にとられた、とまでは言えないけれど、科学王国は十分平和に着実な発展の時間を過ごすことができていた。
一番の進歩は何と言っても“工業時代”の幕開けだ。
それはクロムの大功績。鉱山の発見にある。
そこから物流ルート確保のために石油の残りカスを再利用して作ったアスファルトで道路の舗装と。
つい今年の春になるまで原始人のサバイバルのストーンウォーだったのに、秋には町づくりの開拓時代なんだから、人類史の発展階段が一段飛ばしどころか十段飛ばしくらいで進んでいる。
でもそれは一種の危うさを秘めているようにも感じられた。
技術進化のスピードに社会構造が追い付いていないというか。
それを一番危惧していたのは司だった。
ある夜、僕と司、ガイアでたき火を囲んでいた時に彼がボソッと言い始めた。
「科学を血には染めさせない。だがホワイマンという驚異がある以上、科学の悪用への警戒の配分がそちらに割かれてしまう。少し不安なんだ。息巻いておきながら、人類が愚かな道に向かってしまうのを防げなかったという未来が来るんじゃないか、と」
司がその気になれば、そんな科学の悪用には力を以って制圧できるだろう。
だけどそのために流れてしまう血は望ましいものじゃない。
司だって妹の未来ちゃんを危険な目に遭わせてしまうことは絶対に避けたいはず。
「だから貴様は阿呆なのだ。獅子王司」
そんな司の不安を一喝したのはガイアだった。
「私はむしろ将来が楽しみだ。この先にどんな時代が来るか、な」
「楽しみ・・・ですか?」
僕はガイアの笑みを見て、背中にツーと汗が流れるのを感じた。
前に聞いたことがある。ガイアは“ミスターウォーズ”と呼ばれていたと。ホワイマンとの戦争を楽しみにしているというなら、それは不謹慎だし僕らや司の不安とは見当違いだ。
「どういうことだいノムラ?」
「戦争は発明の母。科学と戦争は互いに密接だったとは認めよう。サランラップに腕時計、インターネットに携帯電話。もし仮に石の時代から我々の時代の月面探査を可能にする科学力到達までに必要な戦争の数、流れる血の量はカスピ海を器に何百杯にもなるだろう」
見当違いというのは僕の早とちりだった。話が本質からは外れていない。
だけど、だからと言ってその説明のどこに楽しみという要素があるのか、僕には理解できなかった。
「血が流れる未来は避けられないということかい?」
「何を言っている。我々には近代科学の全てを脳に宿した千空がいる。つまり戦争を経験することなく、全ての人類史をスキップして科学を手に入れているのだ。戦争によって生み出される悪しき社会構造も構築される隙すら与えずに、科学という贅沢な武器を手に入れることができるのだ」
「そ、そういうことかぁ」
ガイアの明かりを宿した目に、司も僕も目の前の霧が晴れたような気分になった。
「キミが嫌悪する既得権益もそうだが、かつての世界は数千年にも及ぶ汚濁によって歪んだ社会基盤が構築されてしまっている。この国を善くしようと志した一年生議員が数か月で挫折するのが“普通”だ。簡単に言えば『良い事をしようとしてもできない』状態ということだ」
「・・・それなら、今のこの石の世界なら」
「その通り。社会基盤がゼロスタートだ。今はまだ政治家を復活させていないから目に見えないが、やる気に満ちた政治家からすれば理想の更地だろう。むしろキミや我々の監視の目が行き届く以上、『悪い事をしようとしてもできない』状態にある」
ガイアの言葉は理想論だ。だけど、現実的な理想論だ。かつての世界では夢想家と笑われてしまうくらい薄っぺらくも綺麗事にまみれた、皆が心の底で臨んでいる理想だ。
「なるほど。ノムラ、キミの言う通りだ。その未来を楽しみに、俺たちは今に専念すべきというわけだな」
肩の荷が下りたような顔になった司の笑顔に、ガイアは静かに頷いた。
「ということでだ。気負ってばかりの司くんに我らからプレゼントだ」
そう言ってガイアが両手を広げると、司の背後からカセキや未来ちゃん、南ちゃん、何人かの男メンバーがゾロゾロと現れた。
「兄さんこれ、みんなで用意したんよ」
それは大きな布だった。未来ちゃんの背丈ほどのサイズで、南ちゃんに手伝ってもらいながらその小さな体で一生懸命に支えている。
ラッピングなんて可愛らしいものじゃないけれど、おそらく杠が裁縫の余りに持っていた布をリボンにしてくれたんだろう。
サプライズプレゼント? しかもガイアが企画して? いかにもそんな流れだ。何も聞いてない僕は仲間外れにされた感があるけど。
「開けてもいいかい?」
司が尋ねると未来ちゃんが大きくうなずいた。
リボンをシュルシュルと外して現れた中身は・・・
「ほぉ、剣だね」
それはとても立派な剣だった。
僕は詳しくないけど、RPGのゲームに出てきそうなゴテゴテで派手派手で禍々しくて・・・見た目からして強そうだけど・・・振り回したりはしにくそうな、実用的かと言われると厳しい武器だった。
その剣を掲げた司の姿にガイアが拍手を送った。
「当初は未来の案だが、私も助言させてもらい、カセキの御老公に作っていただいたものだ。私や彼女は専門外だが、そういう造形に詳しい者たちを集めてアイディアを募った」
デザイン担当はゲーム好きの現代っ子たちなのだろう。なるほど。
「兄さんにカッコいいもん持っててほしくて」
未来ちゃんの言葉に、司は「ありがとう」と言って頭を撫でた。でも剣を眺めるその目は何とも微妙なものだった。『こんな武器、いつ使うんだよ』と言いたげだ。僕もそう思う。
「言いたいことは分かるぞ。だがその造形は敵を威圧するためのものだ。機能性などガン無視、『ヤベー武器だ!』と敵がビビッてくれればいいのだ。そういうデザインを採用したのだ」
ガイアの言葉に僕も司も首を傾げた。
敵を威圧? ホワイマンを相手に?
「我々の処女航海。行先は宝島に決まった。かつて千空の父君が地球に帰還した、新人類の発祥の地。石神村が分家であり、その本家である人類が住み続けている可能性のある島。異文化同士の初交流が戦闘から始まる可能性も捨てきれない島だ」
ガイアの言葉に誰もがゴクリと息を飲んだ。
石化の謎を解き明かすため、地球の裏側を目指すために製造中の船の最初の目的地は、復活液製造に欠かせない“プラチナ”が眠る島。
そこに人類が残っているかもしれない。そしてその人々が敵か味方か分からない。
という殺伐とした情報を、サプライズプレゼントと一緒に発表するところ、やはり軍人のセンスなのだろうか。
そんな苦笑いと冷汗ダラダラな僕らを前に、してやったり感の笑みを浮かべるガイア。
「ということじゃ。ほれガイア、お主にもサプライズプレゼント」
そんな空気乱し犯のガイアに、カセキからもサプライズプレゼントがあった。
それは司とお揃いのゴテゴテ剣。実用性皆無のド派手ソードだった。
「ん? いや、私は・・・」
そう言って断ろうとしていたガイアだったけど、『せっかく作ったのに』感を半分涙目で訴えているカセキを前に何も言う事ができなかった。
ああ。カセキが僕らの代わりに一矢報いてくれた形だ。
でもこの時の僕たちは知らなかった。
このド派手武器のせいで、まさかあんなことになろうとは・・・
もし復活者を選定できるなら、どういう人材を優先的に復活させたいですか?
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