ギリギリまで頑張って ギリギリまで踏ん張って   作:三柱 努

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※ 本話は羽京視点ではなく第三者視点となります。


未知なる闘法

ガイアとモズが対峙する森の中。静かに磯風がそよいでいた。

モズ。生まれながらの天才型であり、努力というものとは無縁としながら圧倒的な強さを誇り、石化王国最強の戦士として君臨し続けている。生涯無敗の戦士であった。

 

天才の観察眼はガイアの戦闘力を分析していた。

物腰から計り知ることのできる戦闘能力は至って平凡なレベル。しかも生まれつきなのか事故なのか右手が無い。

他の妖術使いのように戦いとは無縁の無防備さこそ見えないが、生涯で何度も敗北を経験しているだろう。

小手先の妖術こそ隠し持っている気配はあるが、それ頼みに生きてきたニセモノの戦士。

 

負ける要素が見当たらない。

そう推理したモズは油断しきっていた。

 

 

「じゃあね、チビハゲ少年」

踏み込みは一瞬であった。居合の一振りでガイアの首を刈る確信がモズにはあった。

だが・・・ガイアの動きはモズより0.5秒ほど先んじていた。この一瞬先の出来事に、モズは反応が間に合わない。

ガイアの動きは非常にシンプルであった。

地面に手を突っ込み、後ろから前に向かって振り上げる。それだけがモズの目に捉えることができた数少ない情報。

『何をしている?』という疑問だけがモズの頭に辛うじて走った。

 

次の瞬間、モズの視界に数多の小さな粒が飛び込んできた。

「痛ッ、なんだこれは」

それは小さな砂の粒。小石がいくつか混ざったもの。ガイアの手によって巻き上げられたそれらが、凄まじい速度でモズの体に打ち付けられたのだ。

あまりの奇襲にモズの攻撃の手が止まる。

「もう少し石が粗いと、皮膚に突き刺さってくれるんだが・・・まぁこんなものか」

ガイアの呟きにモズは悪寒を覚えた。

そしてその予感がそのままに、ガイアは再び砂をすくい上げて振りかぶり・・・

バシャとかいう生易しい音ではない。ショットガンの弾がコンクリートに当たるような衝撃音が響き渡った。

「あぁぁぁあああああ」

休む間もなく次の散弾。たまらず身を守るモズであったが、むきだしの皮膚が全て急所に変わる。

悲鳴がモズの魂の底から湧き上がる。それでもガイアは手を止めない。

風を切るスイング音。それが聞こえれば直後に肌という肌に痛みが突き刺さる。

腕、顔、胴、脚、背。身をかがめて接触範囲を狭めるしか対処法がない。

ガイアが得意とする環境利用闘法。そのごく一部の技術が今、モズをこれでもかと苦しめていた。

 

 

実際には1分程度の出来事であったが、永遠とも思える痛みの中を耐えることしかできなかったモズには経過時間が把握できなかった。

「さて、いい汗をかいた」

ガイアの手が止まり、モズの心に小さな安堵が湧いた。

そして待ち望んだ反撃の時の到来に歓喜した。これほど悔しい思いをしたのは初めてであり、この憎き少年にどう仕返しをしてやろうかとモズはそれだけを考えていた。

「では、ここからが本番だ」

「なっ」

モズが顔を上げた時・・・そこにガイアの姿は無かった。

「に、逃げたのか?」

モズの中にホッとする気持ちが無かったと言えば嘘になる。“本番”という虚勢が本当だったことはありがたい、と。

 

だがそんなモズの期待は直後に裏切られた。

 

「アガッ」

それは突如、彼の顔面に叩き込まれた。

ガイアの拳であることは感触から明白。

だが、叩き込まれる直前までモズはその拳の存在どころか気配すら認識できなかった。

目を凝らしても見ることができない。

「何処だ、何処にいる!」

そう叫ぶモズであったが、戦いの最中に返事をしてくれる敵がいるわけがない。子供でも分かる常識は忘却の中にあった。

 

「ウガッ」

次は顎にアッパーが叩き上げられた。

身体がのけぞり、地面に仰向け倒れるモズ。

この無防備な状態で次の攻撃を喰らうのはマズイと、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げながらモズは急いで起き上がった。

だが攻撃は直後には来なかった。少しの間隔が開き、数秒後に

「ウゲッ」

今度は脛を蹴りつけられた。弁慶の泣き所という比喩は石化王国には存在しないが、誰もが泣いて悶える急所であることはモズも知っている。

 

「卑怯だぞ! 隠れていないで出てこい!」

モズの悲痛な叫びに、森の中から笑い声が沸き上がった。

「何を言っているのだモズくん。我々はここで何をしている? 生き残りを賭けた闘争だぞ。卑怯もクソもあるまい」

相変わらずモズの視界にガイアの姿は捉えられなかった。

だが会話を挟むことでようやく、モズは手放していた槍に手を伸ばすことができた。

槍さえあれば怖くない。先程からの拳や蹴りの奇襲も、槍の間合いには敵わないからだ。

だがモズの淡い希望は脆くも崩れ、次に彼に襲い掛かってきたのは再び砂の弾丸であった。

「ああぁぁぁあああああ!」

モズは恐怖しはじめていた。どう足掻いても視認できないガイアと、数秒後に襲い掛かる次の攻撃に。

 

 

その実、ガイアの戦術は至ってシンプルであった。

ギリースーツ。偵察の時に枝や葉、蔓を集めて作っておいた迷彩服だ。

この場所が一騎討ちの舞台となると確信していたガイアは、ギリースーツをあらかじめ潜ませていたのだ。

それに加えてモズを精神的に追い詰めることで余裕を無くし、さらには先程の“砂かけ遊び”で舞い上がった砂ぼこりも手助けとなり、ガイアの身体は完全な透明化を成していた。

 

 

「気付いているかなモズくん。私の攻撃は10秒間隔だ」

トドメの心理攻撃がこれだ。

ガイアの攻撃は耐えず10秒ごとにモズに襲い掛かっていた。

「ウガッ」

モズの脇腹に鋭い蹴りが叩き込まれる。

「10,9,8,7・・・」

ガイアのカウントがモズの耳に届く。

『く、来る』

モズに反撃の気は起こらなかった。ただ待つことしかできなかった。

「ガァアア」

次に襲い掛かったのはソフトタッチ。ただ鼻を摘ままれただけ。

モズは完全に翻弄されていた。

攻撃に備えるには心の覚悟が必要。その覚悟が外れればダメージは大きくなり、またその覚悟を維持すること自体にもエネルギーが必要となる。

「・・・3,2,1」

ガイアのカウントはただただ恐怖でしかない。

今度は頭を踏みつけられた。全体重を乗せた重い一撃に、モズの体は地面に倒れた。

 

「10.9.8・・・」

「や、やめてくれぇ! 俺の、俺の負けだぁああ!」

モズの心は完全に折れていた。

 

確実に来る幸福を待つ時間にこそ幸福があるように、確実に来る恐怖を待つ時間にこそ恐怖がある。

 

「キミは知らないだろうが、石化した人には意識が残っている。キミたちがしてきた所業は“こういうこと”だ」

ガイアは軍人らしく待機するようにザッと足を揃えると、踵を返してモズに背を向けた。

石化王国最強の戦士が、もう立ち上がらない確信と事実がそこにはあった。

 

 

「さて我らが科学王国の作戦は順調だろうか? 先程の銃声、何か嫌な予感しかしないのだが・・・」

ギリースーツを脱ぎ、放置していた荷物を手にしたガイアは苦笑いしながら海の方を見上げた。

そして嫌な予感は的中した。

遠くから迫る怪しい光。

石化の直前に見たのと同じ色の光が、今まさにガイアの方に迫りつつある光景であった。

 

 

 

「なるほど・・・我々の勝利が確定したということか」

 

 

もし復活者を選定できるなら、どういう人材を優先的に復活させたいですか?

  • 戦闘力重視のバトルメンバー
  • 娯楽担当のエンタメ提供者
  • 我に美味しい食事を。シェフ
  • 家が欲しいッ! 建築家
  • 人材よりも愛。家族を蘇らせたい
  • 必要なのは法の統治。政治家
  • 怪我や病気が一番の敵。医者
  • 人の命は地球の未来。救急隊・救命士
  • 秩序こそ必要。警察官
  • 安心安全な子孫繁栄。産婦人科医・助産師
  • 小麦を有効活用。うどん打ち職人
  • 本当に見たいのは、自分ならどう生きるかッ
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