ギリギリまで頑張って ギリギリまで踏ん張って   作:三柱 努

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ファーストコンタクト

夜、墓からの轟音。僕の耳に確かに届いたその音に、僕とガイアの決断は早かった。

「敵襲か?」

「わかりません・・・ですが、夜に出歩く人なんてこの国にはいません」

「射ろ。動物であれば土産になる」

威嚇のために放った弓矢から逃げていく何かの気配があった。

「足跡だな・・・向こうだ」

闇夜の中でも見落とすことなく、ガイアは音の主の行先を指さして僕に教えた。

「人なのですか?」

「最低で3人・・・だ」

何かを口を濁すようなガイアの物言いを追求する暇も権限も僕にはない。

今はその3人を逃がさぬように追いかけるしか。

 

「羽京、1時の方角を射ろ」「11時、撃て」「10時」

ガイアの指示は僕の策と合致していた。

辛うじて聞こえてくる逃走者の行く先に、絶好の狙撃ポイントがある。

岩壁に囲まれた枯れ木の茂み。その中に入った者は枝を折り、音を立てなければ動けない。

敵の動きを封じるにはうってつけの場所だ。

そこに逃げ込むように誘う牽制矢を放てという命令だ。

 

追いかけっこはしばらく続き、ついに終着点へとたどり着いた。

「楽しい追い込み漁だったな」

僕らの目論見通り、逃走者の足音は茂みの中に隠れ込んだ。

「最悪、1人でも捕らえられればいい。その意味はわかるな?」

ガイアの指示に、僕は沈黙で応えた。そうとしか答えることができなかった。

残る2人は殺してもかまわない、という意味であろう。

敵かもしれない相手を、人を殺したくない僕としては、残る2人を逃がしてもかまわないと解釈したいところだが、軍人の考えが分からない以上は僕にできる最善を尽くすしかない。

 

そう僕が悩んでいた、その時!

 

ボゴオオオッ!

「ヤベェエエエエエ」

「ムアアアアア」

 

沈黙の中に流れる風を切る音が、突然の爆音と叫び声に掻き消された。

これだけの音の中では、茂みの枝を折る音すら掻き消されてしまう。

なるほど、囮か。

3人のうち1人を逃がすために、2人が騒ぎを起こしているのだ。

しかも謎の爆音と共に発生した煙幕が、茂みを包んでしまっている。

1人の脱出を防ぐ手段は僕らには無い。

「なるほどな。“伝えろ”」

ガイアと僕の考えは一致していた。

 

ひとまず1人は見逃すしかない。それだけは僕らの負けだ。

今からはこの2人のうちのどちらか、もしくは両方を捕らえられるかの次の勝負に移った形だ。

だが僕の耳は今、残された2人の居場所を正確にとらえている。

当たらぬよう、威嚇するように射ることは可能。

ならば多方向から矢を放ち、“僕らはいつでもキミたちを殺せるけど、殺さず捕らえる意思がある”ということを伝えるのだ。

もし仮に2人のうち片方が直接攻撃に来たとしても、煙幕のおかげでこちらの居場所がバレることはない。敵に勝ち目は無い。

(というよりその片方、脳が筋肉でできているみたいに、煙幕の中で本当に馬鹿みたいに攻撃に来ている。しかも叫びながら。普通に戦っても負ける要素が無い)

 

 

バッ

 

意思は賢い方に伝わった。

矢から逃げずに留まっていた少年が白旗を挙げて降伏を伝えてきたのだ。(ちなみに白旗じゃない。白ふんどしだ)

「あの阿呆は無視していいだろう。連れて行くぞ」

ガイアは降参した少年を縛り上げると、脳筋を放置したまま連行を始めた。

「ガイア・・・」

「ああ、もう解いていい。歩かせにくくて手間だ」

ガイアの間合いに入ってしまえばこの少年がいくら抵抗しようが無駄。むしろ両腕を巻き付けて拘束したまま歩かせるほうが危険だし手間がかかる。

拘束を解かれた少年は、僕らがその判断力の高さを褒めると少し浮かれてはいたが、さすがに嬉しさに紛れてうっかり口を滑らせたり、彼らの情報を漏洩させてはくれなかった。

 

とはいえ大体の状況は判断できる。

おそらく彼は千空軍の斥候。先程の爆発を見るに、原始人離れした科学知識も持ち合わせている。

逃げた1人は敵軍で唯一、こちらの国の内情を知る裏切り者・ゲンに間違いあるまい。

脳筋と3人で、墓で何かをしていた。考えられるのは重量物の運搬。それが何かまでは想像できないが・・・

 

尋問は司の前で行うべきだろう。そうでなければこの少年からも不審がられてしまう。

ガイアと僕は目配せして同じ考えだと確かめ合い、少年を司の前に連行した。

 

 

 

「テメーがあの。いや、自己紹介はいらねえ。聞かなくても分かるぜオーラが違う。会いたかったぜ。よう、初めましてだな司! 俺の名はクロム。石神村の科学使いだ!」

 

本拠地にドシンと構える司。そしてその周りに控える屈強な男たち。

僕がもしこのクロムという少年の立場だったら、恐ろしくて膝が震えてしまうだろう。

だが、司を前にして怯むことなく啖呵を切った勇気ある少年クロム。

しかも科学を排除する司の意向を知りながら、科学者を名乗るとは・・・勇気があるのか馬鹿なのかよくわからない。

 

「おうよ司! 科学絶対殺すマンのテメーに、俺がガッツリ教えてやりに来たのよ! 科学がどんだけ面白ぇかをな! いいかよく聞け、まずは」

僕は少し期待した。クロムが窮地において何をここまで豪語するか。

だが、煽りに煽った科学の魅力発表の内容は・・・

 

「炎色反応!」

 

 

司も氷月も僕も、ガイアも目を丸くした。白けた目で、だ。

うん、たしかに面白かったよ。中学生の時の思い出がよみがえるね。

 

当然これでは、クロムが素直にこちらの尋問に応じてもらえる気配ではない。拷問でもしない限りは無理だ。

ここで僕は少し背筋に悪寒を覚えた。

拷問となれば・・・軍人であるガイアが何を言いだすか。どんな残酷な手段に出るか。

だがガイアは何も言わず、クロム追及の件を司と氷月に任せたまま黙って見ていた。

 

 

その後、司と氷月はクロムを尋問するため、滝つぼに吊るして恐喝を始めた。

だがクロムは屈することなく、「仲間を売るくらいなら」と死を受け入れ、滝つぼへの落下を選んだ。

司はそんな彼の命を奪うべきではないと考えた。

「これ以上責めても無意味だね。彼は飴でも鞭でも裏切らないよ」

「来た目的を推測するしかないですね。羽京クン、このクロムくんを発見した場所は?」

氷月の問いに僕は迷った。

ガイアの意向が掴みかねる以上、下手にクロムを庇うこともできない。

もしもクロムや千空が、杠と同じように人類を救う希望を胸に抱いているなら、その夢を僕の言葉が潰してしまうことになる。

だからといって沈黙するわけにも・・・

 

「羽京先輩とボクはこの子を。クロムを洞窟の前で見つけました。例の、硝酸の採れる洞窟です」

その時、口を挟んできたガイアの言葉は僕へのメッセージだった。

クロムを庇え。石神村の味方をしろ、と。

「そうなのですか? 羽京くん」

「ああ。クロムくん一人で偵察に来てたよ」

僕とガイアの話を司も氷月も信じてくれたのは良かった。

結果、クロムの身柄は牢屋に移されることとなった。

 

 

 

「ガイア、お話があります」

この一件が落ち着いた頃、僕はガイアに初めて本心を打ち明けることにした。

危うい司や氷月に今後の人類の未来を託すのではなく、敵である千空の真意を確かめた上で彼に未来を託してみたいと。

「うむ。人類の未来のために最善を尽くすことが重要だ。その舵取りを任せるのに、司や氷月ではリスクが高いのは私の目から見ても確実。ならば賭けは分の良い方にBETするべきであろう。そのためにも・・・私かキミのどちらかが、この国の誰よりも早く千空と接触するのだ。そして確かめなければならない。彼の本心をな」

そう言い放ったガイアに、僕は大きくうなずいた。

 

だがこの時、既に事態は動いていた。

例の内通者・大樹と杠を監視していた見張り役が、千空と接触し・・・向こう側に寝返っていたのだった。

 

グラップラー刃牙を読んだことがありますか?

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  • 読んだことはあるけど、ガイアは印象にない
  • ガイアのことはよく知っている
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