ギリギリまで頑張って ギリギリまで踏ん張って   作:三柱 努

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裏切り者

奇跡の洞窟奇襲作戦は、僕が寝返った科学王国の勝利まであと一歩のところで完全敗北に至った。

僕が復活させた軍人・ガイアが火薬合成前に、敵の最強戦力である司と氷月、そして増援を引き連れて戻ってきてしまったことで。

そして、こともあろうに彼自身が司帝国側についてしまったことで・・・

 

「やあ皆。一つ残念なお知らせだけど・・・そのリリアンは偽物だよ。だよね、声真似上手のあさぎりゲンさん?」

ガイアの不敵な笑みにゲンも諦めて顔を出した。これにより科学王国側に寝返っていた他のメンバーの気力も潰えてしまった。

「紙一重だった。でもたった今、全ての勝負はついたんだ」

「キミたちの負けです。千空くん」

ここからは完全に司側が主導権を握った、一方的な戦後交渉の時間。

それを察することのできない千空ではない。

 

「あ゛―、いちいち言わねぇでいい。分かってる。こいつらの全員の安全保障と引き換えに、科学マンの俺一人に死ねっつんだろ?」

大樹は即座に反対していた。親友である千空一人が犠牲になる道を・・・

だがその実。千空とその仲間たちの決意は固まっていた。

 

「守るのだ! 奇跡の水の拠点を。これは籠城戦だ。我々が僅かにもちこたえさえすれば、必ず作り出す! 千空たち科学使いが、勝利の道を!」

科学王国は諦めていなかった。

たとえ自分が犠牲になろうと、千空の起こす奇跡を信じて戦う。

必ず科学で勝利を引き寄せてくれる、と。

「無駄に死ぬとは、所詮は脳の溶けた原始人たちでしたか」

氷月の皮肉が包む中、ついに最後のあがきが始まった。

 

 

だが、戦況は絶望的だった。

科学王国の戦士たちが司相手に3人がかり10人がかりで挑んでいるが歯が立たず、次々と一掃されていった。

女の子が相打ちの覚悟で氷月を食い止めようとしている。だがそれも一方的に殺されそうになっている。

大樹は奇跡の洞窟を守っているが、洞窟を襲うガイアを食い止めるだけで精一杯だ。

 

ふと僕の脳裏に違和感が走った。

 

あの軍人を食い止めるほどに、大樹という男は強いのか?

たしかに一撃一撃が鋭く大樹に突き刺さり、司や氷月も「洞窟はガイアに任せよう。あと少しで突破できるはずだ」と判断するような状況ではあるが。

自分の戦いに必死になっている2人は気付けていないようだが、僕には分かる。

時間がかかりすぎている、と。

 

 

そんな違和感に僕が困惑している間に、事態は着実に動いていた。

ついに千空が硝酸と、クロムが運んできた硫酸やらあり合わせの素材を合成し作り出していたのだ。

ニトログリセリンを

 

 

それを戦場に届けたのは、ゲンが折った紙飛行機であった。

木々をなぎ倒すほどの大爆発が起こり、その場にいた全ての戦闘員の手が止まった。

かろうじて立ち上がるまで回復した僕も、矢の先に爆液を浸してダイナマイト矢を作り、千空たちと並び、司帝国の皆に降伏を諭した。

「形勢逆転! 戦争終結! はい、おしまいおしまい~!」

そう手をパンパン叩くゲンに促され、誰もが武器を下ろした。

ガイアもまたその1人であったが・・・彼は警戒心を解いていない様子でもあった。

 

 

「受け止めても叩き落としても爆発する。広範囲の爆風をかわすのも無理だ。うん、確かに不可避だね。ただ、必ず皆が巻き込まれて大勢の死者が出る。千空、キミは人を見捨てられない。自らを犠牲にもしない」

司だけは状況と千空の性格を冷静に分析していた。

たしかにこれは僕らの勝利での決着ではない。お互いにこれ以上の犠牲を出すことができない膠着状態なのだ。

「つまり千空、キミの目的は」

「あ゛ぁ、取引だ。司」

千空もまた膠着状態であることを前提に考え、既に“戦いの終わらせ方”に考えを向けていた。

 

その交渉条件は・・・司の妹。

汚い大人の社会を嫌う司が、元の世界で金を稼ぐために格闘技の世界に身を投じていたという矛盾。それが彼の、死んだと言っていた妹の、植物状態の彼女の治療費を稼ぐためだったと千空は見抜いていた。

そして千空は提案した。石化からの復活にある治癒効果で、司の妹も意識を取り戻すのではないか、と。

それは司自身、今まで一度も考えたことのない科学的発想であった。

つまり取引内容は『千空が押さえている復活液による妹の復活』を条件に科学王国と司帝国の『停戦』を持ちかけるというものであった。

 

 

そして司はこの取引を飲んだ。

その顔はまるで胸のつかえがとれたような晴れやかな表情であった。

「うむ。なるほどな」

そんな司の顔を見たガイアの呟きが僕の耳に届いた。警戒心を未だに解いていない彼の思惑を、僕は理解できないが・・・

 

 

その後、司の妹は掘り起こされた。

石化と脳死は同じようなもの。そこからの復活で植物状態が修復されない道理はない。

その千空の読みは見事に的中した。

「未来・・・!?」

「兄・・・さん?」

妹を抱きしめる司の表情を、誰も見たことが無いだろう。おそらく彼自身もこんな顔をする日が来るなんて思ってもみなかったはずだ。そして、その瞬間をずっと待っていたのだろう。

 

 

 

だが、その瞬間を待っていたのは司だけではなかった。

 

彼の弱み。司が命がけで守ろうとする唯一の弱点。

彼を殺すために狙うべき人質の存在を待っていた男。

信頼できる部下に洞窟爆破を託して、皆が爆音に気を取られているその隙を伺っていた男。

 

氷月の槍が、司の妹を狙っ・・・

 

 

「ど、どういうことですか」

氷月の槍は、妹を守ろうとした司の体を貫く、

その寸前で叩き折られていた。

 

誰あろう、ガイアの手によって。

 

 

 

「裏切ったのですか、ノムラァ!」

「裏切ったのはキミのほうさ、氷月くん」

 

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