機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「すまないな、ベル・・・。」
「・・・。」
プラント領宙域と連合領宙域の狭間に位置する中立宙域を進む護送シャトルの中で、南米の英雄ことエドワード・ハレルソンは自身の隣の座席に座るベルナデット・ルルーに謝罪していた。
二人は囚人服を着せられ、両手首には逃走防止用の錠が嵌められていた。
それを見るベルナデットの表情はやつれ果てており、その瞳は絶望に支配された様に光を窺う事は出来なかった。
無理も無い。
今迄信じていた組織から、とてつもなく大きな裏切りを受けたに等しいのだ。
しかも、それは完全な濡れ衣であり、トカゲの尻尾切りだった。
一方的な罪の押しつけを受け、彼女は発言する機会すら与えられなかったのだ、彼女の受けた傷は大きく、それでいて深かった。
「俺が連合に引き渡されるのは仕方ないとしても、あんたは何もしていない、大丈夫さ、きっと無実は証明される、あの野次馬バカも、そう言ってたろ。」
だが、エドはまだ、彼女にも希望があると言わんばかりの表情で話していた。
歪められた事象は真実足り得ず、何時かはメッキが剥がれる様に嘘偽りが明るみに出る。
それを信じ続け、追い続ける一人の男を、二人は知っていたのだ。
「・・・、ジェス・・・。」
ジェス・リブルという男は真実をありのままに見詰め、それを世界に投げかける事を信条としている男を思い、彼女は虚ろな目を、漆黒の闇が広がる宇宙へと視線を彷徨わせた。
様々な思惑が蠢く闇では無く、真実の輝に縋る様に・・・。
sideout
noside
そんな二人を乗せたシャトルを護衛するザフト側の機体、薄桃色のパーソナルカラーを持ったブレイズザクファントムに乗るリーカ・シェダーは、緊張した面持ちで周辺の警戒を続けていた。
彼女は、コートニーが予想していた、ザフト側の工作や襲撃を警戒しているのだ。
プラントがこのまま大人しく二人を引き渡すとは、彼女自身も思えなかった。
故に、連合の宙域に入るまで、一瞬たりとも気を抜く事が出来なかったのだ。
そんな時だった、彼女の機体のレーダーが何かを捉える。
敵襲かと身構えたが、それが出立前に渡されていた、連合側の護衛人が乗る機体の識別信号だった事に安堵する。
モニターに表示されたMA、エグザスが旋回し、シャトルを挟んで並走する。
TS-MA4F エグザス
ガンバレルを搭載していた連合製MA メビウス・ゼロの発展機であり、新型のガンバレルを搭載した機体である。
実弾兵装に偏っていた先代機とは異なり、対PS装甲機も想定に入れているため、ガンバレルにはビーム砲がそれぞれ二門装備されており、ビームカッターも装備されている為にある程度の近接攻撃も可能となっている。
もっとも、MAでしかないため、直線機動においては加速力や推力はMSを凌ぐが、旋回能力までは強化されていないのがネックとなっている。
特に、ガンバレルは高度な空間認識能力を保有する人物でしか操る事が出来ず、実質専用機というカテゴリーから脱する事は無かった。
その機体に乗るのは・・・。
「護送任務ご苦労、ザフト機は帰投して構わんぞ。」
リーカの通信機越しから聞こえる声は、初老の男性のモノであり、どこか圧力の様なものも感じられる。
「いえ、中立宙域の間は私も同道させてもらいます。」
「連合は信用できないからか?」
「いえ、任務を遂行したいだけです。」
彼女の言葉に気を良くしたか、映像通信を開き、自分の顔をリーカに晒す。
どうやら、軍人同士として通じ合う何かがあったのだろう、
「うむ!良い心がけだ、気に入ったぞ、俺はモーガン・シュバリエ、元ユーラシアの戦車乗りだ。」
その男は、嘗てエドワード・ハレルソンの上官であり、月下の狂犬と呼ばれた歴戦の猛者であった。
南米戦争に置いては、エドを死の間際にまで追い遣った程の実力と作戦を練る事の出来る知将でもあった。
「私はリーカ・シェダーです、リーカって呼んでください!」
相手、しかも自分より歳が上の人物に名乗らせておいて自分が名乗らないのは無礼だとでも思ったのか、彼女はすぐさま名乗った。
親子ほどの歳の差、しかも所属が違う者同士ながらも、軍人としての心意気が似ていた事で気が合ったのだろう、お互いの語り口は非常に穏やかであった。
「リーカ、つかぬ事を聞くが、あのシャトルは本当に安全なのか?」
そんな時だった、モーガンが唐突に話を切り出してきた。
中立宙域はそれぞれの領有宙域より広いため、無言で進むにはあまりに長い時間を重苦しい雰囲気で過ごさねばならないのだ。
それを少しでも軽減するための、彼なりの気遣いなのかもしれなかったが。
「一応、出撃の一時間前にある程度の見回りはしました、特に怪しいモノは有りませんでしたが・・・、機関部や内部までは、とても・・・。」
「そうか・・・。」
リーカからの話では、普通に見える範囲には爆発物など怪しい物は見受けられなかったという。
だが、彼女の声色からは自信が窺えなかった為に、モーガンは表情を顰めた。
恐らく、彼は彼女の心情を察したのだ。
ザフトが、何やら暗い思惑を抱えているのかもしれないという、彼女の苦悩を・・・。
「だが、俺達は軍人だ、疑惑があるとはいえ、与えられた軍命に逆らう事は許されない。
「・・・、えぇ・・・。」
だが、軍人である以上、彼女達はそれに従って動く以外ないのだ。
それを分かっているからこそ、彼等は今ここに居るのであり、疑いながらも機体を駆っているのだ。
しかし、それでも拭いきれぬ疑念があるのは否めず、それ故に更に疑心暗鬼を誘うという悪循環におちいっているのであろう。
彼等の間に横たわる雰囲気が更に重苦しくなりかけた時だった、彼等の機体のコックピットに所属不明機の接近を報せるアラートが鳴り響く。
「なんだ・・・!?」
「まさか、敵襲・・・!?」
レーダーに映った、謎の機影に二人は一気に臨戦態勢に入り、シャトルを庇う様にフォーメーションを取る。
そして、そんな彼等の前に、その機体は姿を現す。
ダークグレーの機体色に、白のラインが入った機体・・・。
「止まりなさい!停止しなければ発砲します!」
『嫌だね、僕のボスから、そこにいる人気キャスターさんを助ける様に言われてるんだ、君達こそ、退いてくれないかなぁ?』
「若い声・・・、それに、見た事の無いMSだ、力尽くでもやるというなら、容赦はせんぞ!!」
リーカの警告を無視し、その機体、プロトセイバー初号機はその速度を一層速め、彼等に向かってくる。
それを迎え撃つために、リーカ達は攻撃を開始する。
その攻撃を回避しながらも、プロトセイバーは武装を破壊しようと攻撃を仕掛けるが、どちらもエースパイロット同士の戦いだ、簡単にはやられなかった。
「攻撃を中止し速やかに撤退しなさい!さもなければ海賊行為とみなして撃墜します!!」
『出来るもんならね、僕は強いんだ。』
「調子に乗るなよ小僧!こちらは軍から正式な護送任務を受けているんだ!」
リーカの警告に返したその少年に対して、モーガンは生意気なと言う様に叫ぶが、その攻撃が黒灰色の機体を掠める事は無かった。
『ふぅん、だったらどうして、シャトルに爆弾なんて仕掛けられてるの?そんな事も知らないの?ザフトのお姉さん?』
「っ・・・!そんなっ・・・!?」
「ちっ・・・!やはりか・・・!!ルルー女史もエドのバカも簡単に渡すつもりも無いってか!!」
その少年の言葉に、リーカは驚愕のあまり一瞬硬直し、モーガンは予想が的中した事に憤り吐き捨てた。
恐らく、リーカが確認できなかった機関部やそれに準ずる場所に巧妙に仕掛けられていたのだろう。
機関部や推進部に仕掛けられていたならば、小規模の爆発でも船体が完全にバラバラになる程の爆発を起こせるだろう。
「そんな・・・、プラント政府が・・・、コートニー・・・。」
自分が途轍もなくマズイ所に送り込まれている事に、薄々気づいていながらも改めて突き付けられてしまえば衝撃も一際大きくなるのだろう、彼女は今にも泣きそうな表情で震えた。
だが、その一瞬の硬直は、戦場においては死を意味するに等しい。
それを証明するかの如く、プロトセイバーの放ったビームがザクファントムのビームライフルと右腕を捥いだ。
「きゃぁぁっ!!」
「リーカ!!動け!死ぬぞ!!」
身体を揺さぶる衝撃に、リーカは漸く現実に引き戻される。
ここで悩む場所では無い、ただ一つの真理、生き残るために戦うという概念しかない。
リーカは少しでも長く生きるべく、何とか機体を動かし、背面のミサイルポッドから何発ものミサイルを撃ち掛ける。
『何してんのさぁ!真面目にやってよねぇ!!』
だが、そのミサイルの隙間を抜け、一気にリーカの機体の眼前に迫る。
「くっ・・・!このぉ!!」
リーカは左肩のシールドからビームトマホークを抜刀、プロトセイバーのビームサーベルと切り結ぶ。
エース同士の戦闘では、よく起きる鍔迫り合いだったが、今回はその様相は違っていた。
『それに、爆弾なんて、僕なら簡単に止められるんだけどねぇ!!』
「なに・・・!?まずい!リーカ!!ソイツと距離を取れ!!」」
「えっ!?」
『フリーズ。』
少年の言葉の意味に気付いたモーガンはリーカに警告を飛ばすが、それも僅かに遅かった。
その瞬間、ザクファントムの計器類が一斉にエラーを示す。
それは、ウィルスに機体を乗っ取られた証左だった。
「そんなっ・・・!?動いてっ!お願いっ・・・!!」
『あはははっ!!ほぉらっ!大人しくしといてよっ!!』
「きゃあっ・・・!!」
残った左腕を斬り飛ばされ、リーカの機体は大きく吹き飛ばされる。
かろうじて動かせたスラスターを全開にしつつ、漂流だけはしない様に減速させる。
「そのウィルスはユーラシアの一部の人間しか知らない筈・・・!!貴様!」
『さぁね、僕もこの機体を渡されただけだから知らないよ、そんなこと。』
「あくまで白を切るつもりか、良いだろう、お前を倒して聞き出してやる!!」
自身が嘗て属していた組織に関わるモノが出て来た事にモーガンは驚きながらも叫ぶが、少年は切り捨てるかの如く機体をモーガンへ向かう。
それを迎え撃つべく、モーガンはガンバレル四基を全て展開する。
『バカだなぁ、僕はウィルスなんて無くても強いんだからさぁ!!』
そんな彼を嘲笑うかの如く、その機体はMA形態へと変形、更なる加速力で一気にエグザスへと迫る。
「可変機っ・・・!!このぉ、こけおどしがぁぁ!!」
モーガンはその機体の隠された機能に驚愕するが、それも一瞬で持ち直し、四基のガンバレルを駆使し、波状攻撃を仕掛ける。
それは、致死の嵐の如し激しさを以てプロトセイバーを攻め立てる。
『ばかだなぁ、ウィルスなんか無くったって、僕は強いんだからさぁ!!』
しかし、その嵐を、その少年はまるで泳ぐ様に受け流していた。
いや、直撃する事も無ければ、掠める事すらなかった。
『なんたって、僕はサーカスの出身だからねぇ!!』
彼の口から語られた、サーカスと言う組織は、戦争孤児のナチュラルや、親の要望通りにコーディネィトが出来なかったコーディネィターの子供を集め、戦闘の為だけに生きる戦闘のプロを作り上げる事を目的に存在していた組織である。
その全貌は謎に包まれており、本当の思惑は、かのケナフ・ルキーニすら調べようのないほどだった。
だが、噂によると、サーカスには卒業試験と言う物があり、それを生き残れればサーカスから抜けだす事が出来るのだ。
サーカスを抜けた人物には、カイト・マディガンがいるが、その少年もまた、その地獄より生き延びた強者である事は違いなかった。
その実力に恥じない動きで、彼はライフルの連射で瞬く間にガンバレルを二基破壊、瞬時にMS形態に変形して旋回、背面のアムフォルタスビーム砲で残った二機のガンバレルも撃ち落してしまう。
「こ、コイツはっ・・・!?」
あまりにも凄まじいパイロット力量に、モーガンは絶句する以外になかった。
『さぁ、ガンバレルは全部ロスト!これで終わりだっ!!』
「モーガンさん!!」
プロトセイバーがビームサーベルを抜き放ち、エグザスへ迫って行くのを、リーカは何もする事が出来ずに見る事しか出来なかった。
彼女の機体はウィルスに犯され、武装も殆ど失った。
牙を捥がれ、後は死ぬのを待つだけになっていた。
モーガンが倒されれば、次にヤラれるのは自分だった。
「(ごめんなさい・・・、コートニー・・・、私、もう・・・。)」
ここで終わるつもりは毛頭ない、だが、それでも状況は絶望的だ、もう逆転の余地は無い。
自分が、愛しい男の下へ戻れないと悟ると、彼女は悔し涙と共に唇を噛んだ。
もう、大切な人に会えないという悔しさが、彼女の頬を伝い落ちた。
『諦めるんじゃぁ、無いわよぉぉぉ!!』
正にその時だった。
怒鳴る様な女の声が宙域に響き渡り、無数のミサイルやビームがその宙域を薙いだ。
巧く攻撃が当たらない様に撃たれていたからか、モーガンやリーカ、そしてエドワードとベルナデットが乗るシャトルには当たらず、プロトセイバーに攻撃が殺到する。
『誰だっ!?僕の邪魔をするなっ!!』
『生憎、それが仕事なのよねっ!!』
その攻撃を何とか避けた少年が怒号をあげると、それに応える様に声が響く。
すると、攻撃の発射されたポイントより、何かが急速に接近してくる。
それはまさに・・・。
「紅い、彗星・・・?」
『違うわね、紅の烈風よ!!リーカ!!』
「その声は、玲奈・・・!?」
その言葉を否定しつつ、その姿を現したのは、小型戦闘艇にも匹敵する巨大さを兼ね備えた、紅い何かだった。
「あれは・・・、ミーティア・・・!?」
自身の友が引き連れて来たその装備に見覚えがあったリーカは、その名を呟いた。
先の大戦で三隻同盟の一角、エターナルが搭載し、フリーダム、ジャスティスによって運用された究極の移動砲台、それがミーティアだったのだ。
だが、それは細部が異なっており、更にカラーリングまで白から紅に塗り替えられていた。
そして、MSが納まるべき場所には、MA形態に変形した機体、イージスシエロがあった。
そう、その装備こそ、イージスシエロの巡航能力を更に高め、攻撃力を飛躍的に向上させるオプション、ヴェルヌだった。
ミーティア改≪ヴェルヌ≫をイージスシエロ専用に改修し、多面制圧強襲用兵装に造り替えたパックだった。
しかし、直線加速こそ爆発的な加速が見込めるが、旋回能力は著しく低下する。
今回の様に、戦場に急行せねばならない時の様な場合にのみ使用される装備であったが、パイロットである玲奈にとって、それは些細な事でしかなかった。
友人を助けられるなら、兵器なんて一度きり使うだけで良い、それは、彼女の上官であり友人である一夏も同じ想いの筈だった。
『こちら最強最速の女パイロット、早間玲奈!そこのプロトセイバー!さっさと撤退しなさい!今なら見逃してやるわ!こんなくだらない思惑に巻き込まれて、死ぬのは嫌でしょ?』
『くそっ・・・!嫌になるなぁ、どっかのお姉さん・・・!!』
玲奈の警告を聞きや否や、プロトセイバーのパイロットは忌々しげに吐き捨てた後、思案する様に口を閉ざす。
どうやら、戦うべきか否かを決めあぐねている様でもあった。
『分かったよマティス・・・、撤退する、命拾いしたね、おじさん達!!』
『賢明な判断ありがとう、感謝するわ。』
上からの判断が下ったのか、少年はプロトセイバーをMA形態に変更し、宙域を離脱して行った。
『こちら、アメノミハシラ幹部、早山玲奈よ、シャトルはコース241に進路を取りなさい、間に合ってよかったわ、リーカ。』
「玲奈・・・。」
通信回線を開き、その顔に笑みを浮かべながらもウィンクを飛ばす玲奈に、リーカは胸の内で感激の念が渦巻くのを感じる。
友人とは言え、たった一度しか顔を合わせた事の無い自分や、面識のないベルナデットの為に駆けつけてくれたのだから。
『また、七人で呑みましょうよ、未来の為に!』
「うん・・・!!」
屈託のないその笑みに、リーカは先程までとは違う涙で頬を濡らした。
海岸で杯を酌み交わした、七人でもう一度会える希望が、生まれた事を感じて・・・。
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次回予告
誰も皆、絶望に踊らされ生きる術を見出せずにいた。
その絶望の闇を照らすべく、彼等は表舞台に姿を現す。
次回、機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
天空の宣言
お楽しみに