機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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マーシャン。
それは、主にコーディネィターを中心とした火星圏移住者が、過酷な火星での環境に耐えうる存在として設計、調整されて生み出された、火星圏第一世代コーディネィターと呼ぶべき存在だった。
しかし、火星圏はそれだけで生き延びられる程余裕のある場所では無い。
故に、マーシャンは個々に何かになるために与えられた能力がある。
例えば、政治家になるために生み出された人間。
例えば、軍人になるために生み出された人間。
言葉にすれば簡単に聞こえるだろうが、マーシャンの世界とは、人が特定の型に嵌められて生きている様な物だった。
だが、マーシャン達はそれを疑問に思う事は無いのだ。
なにせ、彼等は生み出されたその時から、そうなるように育てられてきたのだから・・・。
sideout
noside
「と、いう訳で、我々は地球圏、テラナーと争うつもりは一切ありません、先日のあの追走も、アスハ代表を救うための行動です。」
カガリ・ユラ・アスハ誘拐事件の翌日、アグニスとナーエはマルキオ邸に招かれ、邸の主であるマルキオ導師と、天空の女王であるミナに、自分達が地球圏に来たワケを話していた。
彼等が来た理由は、地球圏の人間が火星圏の敵とならないかどうかを見極める為だった。
「ふむ、そなた達の使命とやらは理解した、火星圏に余裕が無いという事もな・・・、だが・・・。」
得心したと言う様に頷くミナだったが、腑に落ちない事が有ったのだろうか、薄い笑みを浮かべ、座っていた椅子の肘置きを指で叩きながらも問うた。
その意味を測り損ねたか、アグニスとナーエは視線だけでどういう事か問うた。
「アグニスとやら、そなたの話には些か疑問がある、地球圏と火星圏はそれこそ一年で辿り着ける距離に無い、なのに何故、そなた達は争いを恐れるのだ?」
「ッ・・・。」
ミナの問いに、アグニスは核心を突かれたかのように渋面を作る。
どうやら、それが地球圏へ訪れた、最大のネックだったのだろう。
「アグニス、ここに居る御二方は信頼に足ります、口外する恐れもありませんし、話しても良いのでは?」
「ナーエ・・・。」
話すべきか話さないべきか悩んでいたアグニスに、ナーエは信じろと言わんばかりに背を押した。
その穏やかな表情に腹を決めたか、アグニスは深呼吸を一つし、口を開いた。
「他言無用で頼むが、これは火星と地球の今後の付き合い方に関わる、重大なキーだ・・・。」
その雰囲気が伝わったか、ミナもマルキオも表情を引き締めた。
「火星のとある地脈である鉱物が発見された、正確な埋蔵量などはこれから調べるが、膨大な量が埋まっている事が予想される、その鉱物は火星にとって地球圏との交渉の材料に使えるが、一歩間違えれば、火星圏に災いを呼び込んでしまうものだ。」
「その鉱物とは、一体・・・?」
意味深に語るアグニスの口調に違和感を感じたのか、マルキオはその真意を尋ねた。
嫌な予感を拭えなかったのだろう、その表情は硬かった。
「なるほど、地球圏との交渉に使えるという事は、火星では役に立たないという事か。」
だが、その話を聞いていたミナは合点が行ったように呟く。
アグニスの口から語られていた、火星にとっては哄笑の札で在ると同時に災いの種であるという言葉から、その正体を察したのだろう。
「その鉱物とやらは、Nジャマ―キャンセラーのベースマテリアルだな。」
「・・・、そうだ・・・。」
ミナの言葉に、アグニスは渋面を崩す事なく頷いた。
Nジャマ―キャンセラーは、核分裂を抑制するNジャマーを無効化する代物である。
とは言え、それにも勿論材料が必要となってくるのが必然であり、地球圏ではそのベースマテリアルたる物質は希少であり、生産されたNジャマーキャンセラーの数量も限られていた。
「現在、そのベースマテリアルは大西洋連邦が流通を掌握しているからこそ均衡は保たれているが、それが大量に存在するとなると・・・。」
「核攻撃の危機に、世界は再び見舞われるという事ですか・・・。」
「そうだ。」
ミナの説明にマルキオが苦い顔をし、アグニスがその説明をその通りだと肯定した。
確かに、このまま世界にこの情報が知れ渡れば、地球圏のすべての国家が火星圏へ大挙して攻め入り、火星の鉱脈を全て独占しようと戦争を引き起こすだろう。
そうなれば、火星は終わりだ。
火星の人間が滅ぼされるという最悪の展開が待ち構えているのだ。
それは、将来的に火星圏の指導者となるべく調整されたアグニスにとっては見過ごせない事実だった。
「だからこそ、テラナーを見て、どう対応するべきかを考えねばならんのだ!」
「見て考え、か・・・。」
力を籠めて宣言するアグニスの言葉に、ミナは呆れとからかいを含んだ言葉を投げかけた。
「その割には、お前は血の気が多いようだが、大丈夫なのか?」
その言葉に、アグニスはそんな事は無いと言いたげだが、的を射た発言だったが故に言い返せずにいた。
「まぁ、それは兎も角、アグニスが起こした行動は、決して間違いでは無かったでしょう?」
それをフォローするように、ナーエがアグニスを抑えつつ問うた。
国家首相を助けようと動く事は、決して間違いではないと。
「客観的に見れば、称賛されるべき事です、ですが、あれはカガリ様の御仲間が、カガリ様を想っての行動なのです、あの時、もし追撃が成功していれば、と考えると・・・。」
「な、何っ・・・!?」
マルキオの言葉には、アグニスの言葉をある意味で否定するような色があった。
その中にあった、カガリの仲間と言う言葉に合点が行ったのか、目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「まさか・・・、まさかあれは・・・!!」
アグニスは昨日の襲撃に現れた蒼い翼のMSの姿を思い出す。
それは、以前データで見た事が有る、第二次ヤキンでの英雄が駆った機体、ZGMF-X10A フリーダム。
そして、その機体を駆るパイロットの名は・・・。
「キラ・ヤマトだというのか・・・!?」
「そうだ、あれを為したのは、キラ・ヤマトという男だ。」
彼の言葉に、ミナは肯定する様に続けた。
「だ、だが・・・、俺には理解出来ん、世界を救った英雄が、何故こんな事を・・・?」
だが、それを信じられない程にアグニスは取り乱していた。
いや、無理も無いだろう。
アグニスにとってキラ・ヤマトという存在は世界を破滅より救った英雄であり、世界の為に行動を起こせる人物だと思っていたのだ。
故に受け入れられなかったのだろう、自分が抱いていたイメージと異なる事をしでかしたのだ。
受け入れろという方が難しいだろう。
「英雄とて所詮は人、それぞれの腹の内など分かるまいよ。」
「だが・・・。」
そんな彼の浅慮を嗤う様に、ミナは吐き捨てる様に言い放った。
しかし、まだ受け止めきれないアグニスは呆然と答えた。
ミナの言葉に思う処が有れど、それは事実であるが故に言い返せないのだろう。
「そなたがあのキラを理解出来ないというのなら、そなたはキラという人間のその部分しか見ていないという事だ。」
「ッ・・・!!」
人間を見ていないと言うその言葉は、アグニスに衝撃を与えるに十分すぎる位だった。
人間を見ていない。
それは、オーストレルコロニーの将来的な指導者となるべくして生まれたアグニスには有ってはならない事だった。
だが、無理もあるまい。
火星での調整は、個人に最初から適性を持たせている。
それが意味するところは、型に嵌った人間を生み出しているに過ぎない為、それ以上を見る必要が無いのだ。
その事に気付かされ、アグニスは自身の至らなさを痛感しているのか、彼は俯きつつも唇を噛んだ。
何の為に自分は地球に来たと言うのだ。
地球人を知るためではないのか・・・?
「まぁ、仕方あるまい、地球に存在する地域ごとにすら差はある、地球圏と火星圏という規模になれば、相違も大きくなるだろう。」
そんな彼の悔しさを見て取ったか、ミナは柔らかく笑みつつもその間違いを肯定した。
違う人種同士での思想の理解は困難、生活の環境が違えばそれも致し方ないと・・・。
「その相違を確かめるためにも、そなた達の行く先に護衛を一人付けよう、こちらが仕入れた情報によれば、連合軍の空母がオーブへ向かって来ているという話もある。」
「なに・・・?」
ミナの言葉に、アグニスは意外な言葉を聞いたと言わんばかりに聞き返した。
いや、彼だけでは無い、ナーエですら目を見張ってミナを見ていた。
連合軍の接近も気になる所だが、何故自分達に護衛を付けるのかが理解出来なかったのだろう。
「マーシャンであるそなた達の考えと、そなた達がテラナーと呼ぶ彼、その認識の差異と交わる点、それを見るのも良いだろう、彼は腕も立つ、動向人には申し分ないだろう。」
言うが早いか、ミナは扉の外に向けて、入室してくるように声を掛けた。
「俺をお呼びか?マイロード?」
それに応じる様に、純白の軍服に身を包み、同じく純白のマントを羽織った青年が部屋に脚を踏み入れた。
背は高く、しっかりと鍛えられたことが分かる体つき、その身体に乗る顔は端正であるが、何処か鋭さを感じさせる風貌をしていた。
「調整中にすまぬな、マーシャン達に興味が湧いた。」
「そうかい、まぁ、俺も興味が無いと言えばウソになるしな。」
「ならよい。」
一言二言会話を交わし、その男はアグニス達に向き直り、敬礼を取った。
「アメノミハシラの軍部元帥、織斑一夏だ、用心棒として貴方方に同行させて頂こう。」
「元帥、ですか・・・!?」
名乗る一夏の階級に驚いたのは、アグニスでは無くナーエであった。
カガリも若いリーダーではあったが、所詮世襲でしかなかったのは感じ取れた。
だが、目の前にいる男は、それすら付属品でしか無い様に堂々と存在していた。
歳は自分達よりも僅かに上だろうが、それでも若すぎると言うのが彼の見解だった。
「火星圏オーストレルコロニー使節団、アグニス・ブラーエだ。」
「よろしく頼むよ、火星から遥々来た客人さん?ま、俺の階級は身内人事だから気にするな、一介の兵士だと考えてくれれば、君達もやり易いだろ?」
「そうだな、だが、我々の道中に同行を許可するつもりはないぞ、力なら既に十分に揃っている、お前がどれだけの力を持っていようと関係ない、それに既にザフトの目付が付いているんだからな。」
握手を交わす一夏とアグニスだったが、当のアグニスは余計な手助けは要らないと言わんばかりに突っ撥ねた。
いきなりやって来た人間を信じろと言う方が難しいのは事実だった。
「ほう、ザフトねぇ、気にするな、一時とはいえ戦線を共にした事もある、それに、俺が負けるのはこの世でただ一人だと分かり切ってるからな。」
「なに・・・?」
だが、それを理解しているが気にするほどじゃないと言わんばかりに笑い飛ばす一夏に、アグニスは眉間に皺を寄せた。
その言い草はまるで、目の前にいるアグニスなど眼中にないと言わんばかりの色が滲んでいたからだ。
「貴様・・・!」
「アグニスとかいったか、ミナとの戦いは見ていたよ、良い腕をしているのは分かる、だが、俺が目指す男はもっとスゲェ奴だ、だから分かる、俺を拒んでも得は無いって事がな。」
激昂するアグニスを尻目に、一夏は自信たっぷりと言わんばかりに笑った。
その激しさすらそよ風にしか感じていないのか、彼の表情には余裕が浮かんでいた。
「大きく出たなテラナー・・・!良いだろう、貴様の助力など必要無い事を証明してやる!模擬戦で貴様が勝てば、同行を認めてやる!!」
アグニスは熱が一周回って逆に落ち着いたか、一夏に対して挑戦状を叩き付けた。
自身の実力に自信を持つアグニスだからこそ、言われっ放しは耐え難い屈辱だったのだ。
だからこそ、彼は目の前の男に勝負を挑むつもりだった。
「ははは、良かろう、受けてやる、三時間後にオーブ沖にある無人島に来い、俺独りでもてなしてやるさ。」
一夏もその挑戦を受け、時間と場所を指定した。
負けるつもりはない、その瞳はそう物語っていた。
「何をやっておるのだ・・・、だが、奴らしい・・・。」
そんな彼等の間に散る火花に呆れつつ、ミナは仕方ないと言わんばかりに苦笑した。
だが、彼女も見てみたかったのだろう。
マーシャンとテラナー。
その二つが交わる時に見える、新たな道を・・・。
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次回予告
空を駆ける白と赤、その二人が見る視線の先には何が広がるのだろうか・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
デルタ
お楽しみに