機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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デルタ

noside

 

『目的座標に到着しました、AS-GAT-X105、並びにGSF-YAM01は発進してください。』

 

「来たか・・・、あの男に目に物見せてやる・・・!」

 

MS輸送空母、タケミカヅチの格納庫に置かれていた機体、デルタアストレイのコックピット内で、パイロットであるアグニスは、険しい表情を崩さぬまま、その先にある島を向いていた。

 

彼はある男と戦う為にここに来たのだ。

 

いきなりやって来て、自分の事を格下扱いした、気に喰わない男に自身の力を見せ付ける。

それが、ここまで来た一番の理由だった。

 

彼の表情は、その逸る気持ちを抑えきれなかった。

自分の方が強く正しい、それを証明できる機会と言わんばかりに。

 

「やれやれ・・・、講師役は柄じゃないんだがなぁ・・・。」

 

その言葉を、ストライクSのコックピットで聴いていた一夏は、タメ息を吐いて笑っていた。

 

どうやら、その自信過剰さに呆れているのか、それとも面白く思っているのか・・・。

 

『やれやれは、こちらが言いたい気分なのですが?織斑卿?』

 

だが、それを聞いていた艦長であるトダカは、そのやる気の無さに苦笑しながらも突っ込んでいた。

 

彼等にとっては、いきなり模擬戦に向かうための脚に成れと言われ、文句の一つも言わずについて来ているのだ、上官がそれでは、自分達の労力はなんなのだと言いたいのだろう。

 

「おっと、失礼しましたトダカ艦長、まぁ、若い奴に稽古を着けるのも、嫌いじゃない。」

 

『貴方だってお若いでしょうに・・・、しかしながら、貴方が負ける理由など無いのでは・・・?』

 

まだまだ二十代も前半、身体的にも絶頂期にある彼が年寄り臭い事をいう事に苦笑しつつ、本人の強さに感服している様だった。

 

以前、砂漠地帯で見た凄まじい戦士としての戦いぶりに、彼は現場指揮官としてこの上ない頼もしさと、それと同等の恐怖を覚えた。

 

味方になれば、確実に勝利を齎す存在で在り、敵対すれば文字通り悪夢を見せられる程の実力の持ち主。

それが、織斑一夏であり、その愛機であるストライクSだった。

 

故に、トダカは一夏が勝つと疑わなかったし、アグニスの事を過大評価する事も無かった。

 

「勝負は時の運、ツキが無い時は何やっても勝てませんよ、それに、あのアグニスとかいう男は、強い信念を持っている、故に侮れません。」

 

『左様で・・・。』

 

侮れないと言う一夏の言葉に、トダカは感服したと言う様に目を伏せた。

 

強大な力を持ちながらも、それに溺れない心、戦士としての心構えに純粋な尊敬の念すら抱いているのだろう。

 

だが、それは一夏が過去に犯した罪を知らぬからこそ感じる念ではあったが・・・。

 

「出撃します、計測、頼みます。」

 

『了解しました、MS発進!!』

 

一夏の通信に、トダカは敬礼を返して指示を飛ばす。

 

その号令を受け、パイロット二人はヘルメットのバイザーを下ろし、操縦桿を握り締め、フットペダルを踏み込む。

 

「アグニス・ブラーエ、デルタアストレイ、出るぞ!!」

 

「織斑一夏、ストライクS、発進する!!」

 

同じく、だが趣の違う白を纏った機体が、曇天の中へと飛び出して行った。

 

彗星の如く宙を駆けていく二機は、牽制し合う様に互いをみている様だった。

 

「何時でも来い、君を侮るつもりはない、全力で行かせてもらうけどな。」

 

「望むところだ!その鼻っ柱圧し折ってやる!!」

 

上空1万フィートに到達した瞬間、一夏はストライクSのバックパック、ガルーダストライカーより対艦刀を引き抜く。

 

それに対するように、アグニスもまた、デルタアストレイのライフルを構え、実体験を引き抜き、一気に迫って行く。

 

間合いに入った瞬間、アグニスは牽制のためにトリガーを引き、ストライクSにビームを撃ち掛けた。

 

しかし、一夏はそれを牽制用と見切っていた様だ、機体を逸らす事で回避、斬りかかったデルタアストレイの斬撃を舞う様に回避した。

 

「なっ・・・!?」

 

相手がPS装甲機とは言え、真っ二つにするつもりで斬りかかったのだ、これまで、彼の斬撃を避けた者がいなかったのも、その驚愕を増幅させている要因の一つでもあった。

 

「良い機体捌きだ、牽制で仕留められれば御の字、しかし一番自信があるのは近接戦か、俺と同じタイプとは恐れ入る。」

 

冷静に分析する一夏の声も、アグニスにとっては焦りと怒りを掻き立てるモノでしかなかった。

 

何せ、自分の力に自信を持っているからこそ、負けるなど思っていないからこそ、強者の出現は何よりも驚愕に値するものだったのだから。

 

「だが、素直すぎるのが弱点だ、雑兵程度なら気圧されるだろうが、俺は違う。」

 

すれ違いざまに振り向こうとしたデルタの脇腹に、ストライクSの爪先が突き刺さる。

 

「ぐぅぅっ・・・!?」

 

自分が防御態勢に入るよりも早く入った攻撃に、アグニスは大きく吹っ飛ばされながらも呻いた。

 

速い、それも圧倒的に。

アグニスは自身の背に、冷たい何かが触れた様な錯覚を覚えた。。

 

「俺が、反応できなかった・・・!?出力はこっちが上なんだぞ・・・!?」

 

ストライクSのデータを事前に見ていたから分かる。

確かに、バッテリー駆動の機体にしては凄まじい性能を持つ機体と言う事は分かる。

 

だが、所詮はその程度、スピードも機体のパワーも、核エンジンを搭載し、尚且つヴォワチュール・リュミエールを持つ機体だ、性能面で劣っていると言えば、対弾性ぐらいのモノだ。

 

それなのに、一瞬で自分の背後を取るその技量は凄まじいものが有る。

 

「ハッ!君の実力を見せてくれるんじゃないのか?」

 

「ぐっ・・・!嘗めるなぁぁ!!」

 

そんな性能差を物ともせず、一夏はアグニスを挑発するように声を発する一夏に、頭に血が昇ったかギアを上げた様にデルタを動かし、ストライクSの懐に飛び込もうと動く。

 

その動きは速さを活かした攪乱戦法であり、彼が一騎打ちに置いて最も得意とする戦法であった。

 

だが・・・。

 

「良い速さだ!!切り札を使わずに動けているなら、流石としか言いようがないな!!」

 

それは一夏も得意としている戦法なのだ。

 

デルタアストレイと全く同じ動きをしながらも、一夏は実体剣の剣戟を捌き、受け流し、自身の攻撃のタイミングを見計らって対艦刀を振り抜いていた。

 

機体そのものの速さでは無く、速さを殺さない操縦と加速を心得た、達人級の操縦テクニックで対抗していた。

 

その技量は、機体の性能差をカバーして有り余る程であり、その剣閃は、徐々にデルタの機体に近付いていた。

 

「俺が、俺が押されているだって・・・!?ば、バカな・・・!?」

 

攻撃が相手を掠める事無く外れている事に驚愕するアグニスの表情に、僅かだが恐怖の色が差し込んだ。

 

どうやら、自分が及ばない領域に相手がいる事を、アグニスは瞬時に察したようだ。

 

それが意味するところ、それはつまり、自分は勝てないという事を認める恐怖だった。

 

「くっ・・・!!ならば、性能で押し通すまで・・・!!ヴォワチュール・リュミエール!!」

 

だが、それでも退けないと言うのがアグニスの本音だった。

 

悔しいが、あの織斑一夏と言う男の強さは本物だ。

伊達や酔狂で世界を見下ろす高みにいる訳では無かった。

 

しかし、だからどうしたと言うのだ。

自分の力が足りていないなら、相手が持っていないモノをフルに使い、一気にカタを着ける。

 

自分は負ける訳にはいかない、ならば、可能な限り足掻き続けてやる。

それが、勝利を掴む唯一の方法なのだと気付いたのだろう。

 

「その光・・・!!」

 

「これでっ・・・!どうだぁぁぁっ!!」

 

更に速度を速めたデルタの動きに驚愕の声を上げる一夏に、アグニスは一気に距離を詰めていく。

 

先程までの速度ならば、ストライク系でも何とかついては来れただろう。

だが、今のデルタは光を推力に飛んでいる、大気圏内とはいえ、その加速は次元が違っていたのだ。

 

負ける訳にはいかないのだ、これまで積んできた訓練と自分自身の素養、そして、意地の為にも・・・!!

 

突き出された突きを回避し、ストライクSの直上を取ったデルタは、一気に急降下しながらも剣を突き立てようとした。

 

チェックメイト、彼がそう確信した時だった。

 

「お見事、だけど、その程度でやられるほど、俺は鈍らじゃないぜ。」

 

その瞬間、ストライクSが背負っていたバックパックが排除され、ストライクSがデルタの切っ先から逃れられるだけの隙間を生み出した。

 

「なっ・・・!?」

 

決めたと思っていた攻撃を外された事に驚き、アグニスは一瞬制動を掛けるのが遅れた。

 

その一瞬が、大きな命取りだった。

 

「チェックメイト、俺に煽られてからソイツを出したのが間違いだったな。」

 

自由落下しながらもデルタに追い付いたストライクSが、対艦刀を手放した手に握ったビームピストルを振り向いたデルタのコックピットに突き付けていた。

 

「っ・・・!!」

 

その銃口を突き付けられたアグニスは信じられないと言う目で、その白い機体を見ていた。

 

機体の性能だけでは無い、相手の手の内を見切った上での一手、それを冷静に決めるだけの胆力に状況判断能力、その全てを総動員して、この一瞬に賭け、その上で勝利したのだ。

 

それは、認めざるを得ない、覆しようのない事実だった・・・。

 

「俺の・・・、負けだっ・・・!お前の、同行を、認めるッ・・・!!」

 

「・・・、そうか。」

 

負けを認めるアグニスの宣言に、一夏は平淡な声で一言だけ返し、ハロのコントロール下に置いていたガルーダストライカーを再度装着、デルタアストレイを牽引し、母艦であるタケミカヅチへと機体を奔らせた。

 

「(この世界に来てから誰にも使った事の無い、あの回避方法法を俺に使わせるとは・・・、この男、中々に見込みがありそうだな。・・・。)」

 

アグニスの潜在能力に気付いたか、一夏は感心した様に笑みながらも、その双眸は異なった景色を見ている様だった。

 

それが何かは、何れ、アグニス自身が身を以て体験する事となるだろと、期待しながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「マーシャンはまだこの地にいるのだな?」

 

「は、報告ではその様に・・・。」

 

その頃、オーブのとある軍港に設けられた施設の一室で、三名の男がいた。

 

一人はオーブ首長国連合の氏族、セイラン家当主であるウナト・エマ・セイランであり、それと向かい合うのは地球連合軍第81独立機動軍、通称ファントム・ペインに所属するホアキン中佐、及びスウェン・カル・バヤン中尉であった。

 

何故地球連合軍に属するスウェン達がオーブの地にいるのか。

それは先程の言葉からも分かるように、取り逃がしたアグニス達、マーシャンを仕留める為だった。

 

「そうか、では、同盟国として貴国にマーシャン殲滅に協力を要請する。」

 

「分かっております、どの様な協力も惜しみません、ただ、国民の手前、本土付近での戦闘は・・・。」

 

協力要請に応えつつも、ウナトはオーブ本土での戦闘をしない様に依頼した。

 

オーブは二年前の大戦時に国土の多くを焼かれ、それは国民の記憶に今だ生々しく刻まれている。

 

そんな状態で、国土付近の戦闘を見れば、一気に大混乱に陥る事は想像に容易い。

 

故に、彼は施政者として、相手の面目を立てつつも出来る限りの予防策を取ったのだ。

 

「・・・という要望だ、なるべく本土付近での戦闘は避けるよう留意し、オーブ軍の選抜隊と共にマーシャンを討て。」

 

「はっ!」

 

それぐらいならばいいだろうと言わんばかりに、ホアキンは背後に控えていたスウェンに指示を下し、スウェンもまたそれを諾々と受理した。

 

そこには、機械的なまでの淡々とした事運びのみがあり、情などは一切見受けられなかった。

 

「(汚い仕事ばかりさせられるファントム・ペインが、偉ぶりおって・・・!厄介なマーシャンと共倒れになれば良いのだ・・・!)」

 

それを見ながらも、ウナトは自身がオーブの実質的指導者でもあるにも関わらず、下手に出なければならない事に内心憤慨しており、彼等を疎ましく思っている様だった。

 

だが、彼もまだ気付いていないのだ。

表裏などに関わりなく、世界を見ている者達が、今この国にいると。

 

そして、その者達を蝕む悪意は、刻一刻と大きくなり、ゆっくりと近付いて行くのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

敗北を知り、自棄になりかけるアグニスに、一夏は自身の戦いの意味を告げた。
それが、何の意味も持たなかったとしても・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

マーシャン追撃隊

お楽しみに
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