機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「何を落ち込んでるんだ、負ける事ぐらい誰にだってあるだろうに。」
模擬戦の翌日、一夏は砂浜に座って海を眺めるアグニスに声を掛けた。
その背中がやけに煤けて見えたからか、一夏はアグニスの隣に腰掛けて、その心地を尋ねたのだろう。
「・・・、話しかけるな・・・、敗者に声を掛けるのは、勝者故の嫌がらせ以外に何がある・・・。」
「捻くれた思考だこって、昔の俺にそっくりだ。」
さっさと何処かへ行けと言わんばかりに突っ撥ねるアグニスの様子に苦笑しながら、彼は嘗ての自分を思い出した。
今の彼ほど頭が固いわけでは無かったが、それでも他者を寄せ付けず、自分が信じるやり方以外を認めようとしない。
それ故の独善に陥り、過ちを犯したのだ。
それに気付いた時、彼の周りには誰もいなくなっていた。
唯一愛していた二人の、同じ咎を背負わせてしまった妻達だけだった。
その苦しさたるや、今も感じ続けている程だった。
そんな苦しい事を、年若い彼に経験してほしくないのだ。
「勝ち続けて来たから悔しいのか?それとも、自分の力だけを信じてるからか?」
「貴様に何の関係がある・・・、なにが言いたい・・・?」
一夏の探る様な言葉に苛立ったか、アグニスは彼を睨みつける。
お前に俺の何が分かるのか、その表情からはその苛立ちがアリアリと滲み出ていた。
「分かるさ、お前はお前の力しか信じちゃいない、だから、他人が自分と同じように、役割を持って生きていない時が済まない、違うか?」
その言葉は、アグニスが以前ミナに指摘された言葉と全く同じだった。
自分の生き方を他人に強い、それから外れそうになると許しがたい思いに駆られ、力を振るう。
それは正に、暴君と言わざるを得ない身勝手なモノにしか映らない。
その姿は、火星圏の未来の指導者が取るべき姿ではないのだ。
「っ・・・、だが、火星と地球は・・・!」
「考え方が違う、それは分かっている、だけど、ここは地球圏だ、火星圏の考えを押し付けられても困るんだよ。」
それは地球の考え方だと言い返そうとしたアグニスの言葉を、一夏はピシャリと遮った。
確かに、アグニスの考え方は火星圏で共通している認識であるし、社会システムの基盤となっているモノだ。
だがしかし、それは所詮火星圏でのみ通用する考え方だ。
地球圏では好きか嫌いか、ナチュラルかコーディネィターかで、それぞれの対応が決まっているのだ。
今、一夏達はそれを変えるべく世界に問いを投げかけ続けているが、それでもこの考え方が変わって行くまでに時間が掛かる事は必須だった。
だからこそ、押し付けようとはせず、ゆっくりと時間を掛けて受け入れてくれるまで続けるつもりだった。
しかし、アグニスのやり方はどうだ?
火星圏での考え方を地球圏の人間にも強いている節がある。
そのやり方は、通常の武力による侵略よりもなおたちの悪い、精神への侵略に他ならないのだ。
地球の人間はそれを忌み嫌い、自分の考えを他者に押し付ける事はしないのだ。
それはある意味、生態系が完成されている地球圏と、完成に向けて意思をある程度統一せねばならないほどに余裕の無い火星圏の違いがあるのだろう。
しかしながら、だからと言って火星の考え方を地球人に押し付けた所で、地球の人間がそれに従うかと問われれば否としか答えは帰って来ない。
地球人が火星圏にとっての敵か味方かを知るために派遣されているアグニスが、わざわざ敵を作りに来てどうするのだ。
一夏は遠回しにそう言っているのだ。
それを理解出来ない程アグニスは愚鈍では無い。
「分かっている・・・、分かっている・・・!!だが・・・!!」
「落ち着け、答えを急くな。」
すぐに答えを出そうとするアグニスを諌め、一夏は彼の肩を掴んだ。
「答えを急ぎ過ぎるな、君はまだ答えを持っていない、そんな中で解を出せば、君は間違った答えを出す、それは君の為にならない。」
答えを急ぎ過ぎて間違え、歪んでしまった過去を持っていたからこそ、一夏は彼の今の状況を見過ごす事は出来なかった。
故に、御節介だとしても、自分には彼をある程度導く役目があると感じていたのだろう。
「だから、俺に君の答えを探す手伝いをさせて欲しい、君が間違った選択をしない様に、な?」
「ッ・・・!」
手を差し出す一夏の表情には敵意は一切なく、ただ、真っ直ぐな想いのみが乗せられた視線だけがあった。
決めるのは君自身だ。
その視線はそう物語っていた。
「アンタ、最初からそう言えなかったのか・・・?」
「生憎、口下手なもんでね、行動でしか自分を示せないのさ。」
先に言えと言わんばかりに表情を歪めるアグニスに対し、一夏もまた笑顔に表情に崩した。
行動で示す。
奇しくもそれは、アグニスが実践する行為と全く同じだった。
それに気付いたか、アグニスは笑みを浮かべて彼の手を握った。
それは、アグニスが地球圏の人間と初めて交わした握手であった。
約束を交わす男同士の空間に、突如として割り込むものが有った。
通信機がけたたましい呼び出し音を発し、彼等に何かが有った事を告げていた。
『アグニス!応答してください!アグニス!!』
「ナーエ?どうした?アキダリアに何かあったのか?」
一夏の愛機、ストライクSのアキダリア搬入の為に、先に母艦に戻っていたナーエからの通信に、アグニスは母艦に何かあったのかと言わんばかりに尋ね返す。
脚が無くなれば、自分達の旅が続けられなくなる。
その事を危惧しているのだろう。
『アキダリアは即刻出港せよと言うオーブ側からの通達がありました!一体何をしたんです?』
「なんだと!?」
ナーエから齎された情報に目を丸くし、一夏の顔を見るが、彼の顔にもまた、驚愕の表情が浮かんでいた。
どうやら、オーブの亜流組織に属している一夏でさえ、この突然の通達は寝耳に水だったのだろう。
「わかった、すぐに戻る!出港準備を進めておけ!!」
『分かりました!気を付けて下さいね?』
ナーエとの通信を切り、アグニスは一夏に目配せした後に港へ向けて走り出した。
それを受け、一夏もまた、近くに置いてあったバイクに走り、アグニスを拾うべく走った。
この時の彼等は気付いていなかった。
敵は既に、彼等のすぐそばまで来ていたと言う事に・・・。
sideout
noside
『各機最終チェックを開始せよ!』
その頃、オノゴロ島の軍港に近いMS格納庫内では、けたたましいサイレンと共に、慌ただしく整備兵たちが走り回っていた。
それはさながら戦場のような雰囲気であり、今にも出撃が迫っている事を物語っている様でもあった。
その格納庫には5機の連合製量産型MS、105ダガーの改良機、スローターダガーが置かれており、すでにエンジンが入っているのか、何時でも発進できると言わんばかりの状態であった。
「105スローター・・・、本当にアストレイより上なんでしょうね?」
その内の一機、ソードストライカーを装備したダガーに乗り込むのは、ホースキン・ジラ・サカトは、機体の出力を、自分が以前乗っていたM1アストレイと比較し、本当に戦える程に良い機体なのか疑問視していた。
確かに、ダガータイプとアストレイタイプは前大戦後期に開発された機体群であり、性能も当時からしてみれば悪くないモノだった。
しかし、今ではロートルと化している事は否めず、各戦線で新型との配備転換が行われている真っ最中であったのだ。
故に、使い慣れたアストレイの方がまだ戦いやすいと感じている彼にとって、アストレイ以外の旧式に乗る事は理解しがたいのだろう。
「そんな事は関係ない、同盟国の方のご厚意で与えて頂いた機体だ、これで任務に出ずして何をするんだ。」
そんなホースキンに釘を刺す様に、ライトニングストライカーを装備しているダガーに乗り込む男、ガルド・デル・ホクハは軍人然とした答えを返した。
ガルドの言う通り、105は連合のファントムペインより与えられた機体であり今回の任務はファントムペインのパイロット、スウェン・カル・バヤンが指揮を執る事になっている。
故に。連合系の機体の方が連携を取り易く、オーブの側にとっても同盟国であると示すための良い道具にもなる。
それを考えてみれば、取り立てて不平を言うほどでもないのだろう。
「考えすぎだぜガルド、俺達は俺達の出世の為に働きゃ良いんだよ、そのためのチャンスだろうよ。」
エールストライカーを装備する機体に乗り込む金髪の青年、ファンファルト・リア・リンゼイは私利私欲の為に戦えば良いと割り切っている様だった。
この作戦に参加するオーブ側のパイロット5人は、全員が下級氏族の出身であり、自身の家の株を上げる為に軍に身を置いている者ばかりであった。
故に、オーブや連合に顔を売る絶好のチャンスを逃すまいと気合が入るのも無理は無かった。
「けっ、セイラン家の坊ちゃんはカガリを護れなかったんだ、こりゃ、俺もカガリの夫になるチャンスが巡ってきた訳だ!」
I.W.S.P.を装備した機体に乗り込む黒髪の男、ワイド・ラビ・ナダガは一気にオーブ首長の夫になれるチャンスと言わんばかりに、一番気合が乗っている様だった。
確かに、彼の機体に装備されているI.W.S.P.は、カガリのストライクルージュに装備されていた武装だ。
それを使い、任務を達成したとなれば、民衆の目にはカガリの意思を受けている兵士とも取れるのだ。
カガリに近付くためには、手っ取り早い手段でもあった。
「僕に、戦えるんでしょうか・・・。」
「お前がやれないなら全部俺が代わってやるよ。」
ランチャーストライカーを装備する機体に乗り込んだ少年、サース・セム・イーリアは気弱に呟くと、ワイドは情けないと言わんばかりに笑い飛ばした。
5人の内、最も若いサースは、没落した家の再興の為に軍に在籍させられているのだ。
その胸中たるや、語るに及ばないだろう。
「無駄口は終わりだ、指揮官殿が御出でだ。」
リーダー格であるガルドが号令をかけると、全員が会話を止め、開けていたコックピットハッチを閉めた。
全員の機体がハンガーから離れると同時に格納庫のシャッターが開き、その前で待ち構えていたであろう黒い機体、ストライクノワールが彼等の目に映った。
「全機発進準備完了しました!」
「分かった、これよりマーシャン討伐作戦を実行する。」
『了解!!』
全員が揃っている事を確認したスウェンは、発進の号令をかけた。
それに呼応し、5人もまた勇んで応じた。
その手が、アグニス達に辿り着くまで、もう時間は残されていなかった・・・。
sideout
noside
「待たせた!アキダリア発進だ!!」
「遅いですよアグニスさん!!もう何日待ったと思ってるんですか!!」
アキダリアに戻ったアグニスが開口一番指示を出すと同時に、オペレーター席に座っていたアイザックが切羽詰まった表情で詰め寄った。
そう言えばザフトの所属だったかと、アグニスは場違いなどうでも良い思考でそんな事を考えていた。
確かに、ザフト軍属のアイザックにとって、オーブと言う土地は敵国であるのだ。
そんな場所に、上陸はしていないとは言っても何日もいると言う事は、想像以上に精神を擦り減らしていると言う事は想像に難くなかった。
だが、そんな彼を労わってやれる程、状況に余裕は無かった。
「知らん!さっさと席に着け!舌を噛むぞ!!」
「分かりましたよぅ・・・!」
指揮官席に座る事なく指示を出すアグニスに、もう何を言っても無駄と諦めたか、アイザックもまた席に着き、発進の準備を進めていた。
そんな時だった、その男が艦橋に脚を踏み入れた。
「イズモ級ともナスカ級とも作りは違うが、良い船だな。」
「っ・・・!?」
白いパイロットスーツを身に纏った青年の登場に、アイザックは目を見張った。
そのパイロットスーツは、連合とオーブで普及しているタイプのモノであり、ザフト軍以外の人間が使用する者でもあった。
「あ、あああ、アグニスさん!?なんで敵がこの船に!?」
「落ち着け、彼は俺達の味方だ。」
敵に侵入されたと言わんばかりに焦るアイザックに一喝し、アグニスはその男に向き直った。
「一夏、彼はアイザック、ザフトの兵士だ、お前とは反りが合わないかもしれんが・・・。」
「構わないさ、俺は君に力を貸すとは約束した、だから、そこの彼の事は何にも気にしてないよ。」
先にどういう人物が帯同しているかを告げていなかった非礼を詫びるアグニスに対し、一夏は気にしないでくれと、推しかけた自分の方が無礼だと言わんばかりに笑っていた。
「俺の名は織斑一夏、天空の女王、ロンド・ミナ・サハクに仕える者だ、よろしくな。」
「ロンド・ミナって・・・!?あのアメノミハシラの女王・・・!?」
「まぁな、とは言え、今は一介の兵士だ、仲良くしようや。」
一夏の所属が明らかになった途端、アイザックは驚愕の表情で彼を見ていた。
だが、所属に関わらず、一夏は今協力すべきだと提案した。
だが、手を差し出さないのは、ザフトとはまだ関わるつもりはないと言う事の裏返しでもあった。
「とにかく急ごう、恐らくオーブ領海を出れば連合軍が攻めてくる、大型の空母が一隻入港していたのを確認している、恐らく一個中隊クラスの戦力を投入してくる、俺達の手元にある機体じゃ少々厳しいやもしれん。」
「分かっている、アキダリア出港後、第1種戦闘配備だ!俺と一夏で迎撃に出る!アイザックはナーエと共に待機してくれ!」
「アグニスさん!?」
なぜ出会ったばかりの男の事を信じられるのか、二人の間に起こった事を知らぬアイザックには理解しがたい物があった。
だが、今はそれでも構わなかった。
今はやれる事をやるのみ。
それが、アグニスが決めた事だったのだ。
「行くぞ一夏!」
「承知した、次の目的地までは護るさ!」
艦橋を飛び出していくアグニスの後を追い、一夏もまた格納庫へと走る。
今いる場所の人間を、誰一人として欠けさせないために。
アグニスという男の答えを知るために・・・。
sideout
次回予告
火星の民のため、地球の自由を求める民の為、想いを重ねる二対の刃が空を駆ける。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
リーダーの資質
お楽しみに