機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「アグニス、7時の方角から三機接近中、恐らくはストライクタイプだ。」
出撃を控えた機体のコックピットで、一夏は今回のバディであるアグニス・ブラーエに声を掛ける。
彼がハロに指示し、索敵させた範囲内に三機の飛行する機体の姿を捉えていたのだ。
その三機は彼の乗るストライクSに近い機体であり、原典となったストライクの派生機であった。」
『分かっている、あの黒い機体だけは俺に任せて欲しい、一度戦った事が有る。』
アキダリアの捉えた映像を見たアグニスは、一夏にある機体にだけは手を出さない様に言い含める。
どうやら、自らの手で確かめたい事、成し遂げたい事が有るのだろう。
「了解、なら、俺は残りの機体全てを請け負おう、105系の扱いなら自信がある。」
それに短く了解と返しながらも、一夏は自身の機体のOSを調整し、大気圏内でのマニューバを意識した設定を施した。
どうやら、本気で戦う為に機体を自分の身体に合わせているのだろう事が窺えた。
『フッ、心強い事だ。』
『アグニス、織斑卿!アキダリアのハッチを開きます、イイですね?』
頼もしいという想いを籠めたアグニスの言葉が返ってくると同時に、ナーエの通信が入った。
どうやら、作戦の開始が間近に迫っているという事が窺える。
『分かった!アグニス・ブラーエ、デルタアストレイ、出る!!』
通信を受けるや否や、アグニスは勢いよくアキダリアより飛び出し、戦場へと身を晒した。
「おいおい、お前が先に出るんじゃ、俺の立つ瀬がないだろ・・・!」
その無鉄砲なほどに真っ直ぐな男に、ある種の好感を憶えつつも、一夏は自分の今の立場を、役目を再確認する。
「連合兵の一掃、及びマーシャンの護衛、ついでにオーブに被害は出さない、か、場所が場所だけに厄介なこった。」
海図と敵の戦力展開を見ながらも、一夏は苦笑と共にタメ息を吐いた。
如何もやり辛い、それが彼の純粋な感想だった。
連合兵を倒すだけならば、彼の技量と愛機の性能を駆使すればそう難しくは無い。
だが、今の場所はオーブの領海外数kmの地点、今だ小島が見えるだけでなく、振り返ればオーブの島影も見える。
この様な所で戦えば、近くにオーブの漁船や客船が航行している可能性もあるため、無辜の民を危険に晒す事になる。
それだけは、施政者の片腕として働く一夏にとって許されざる行動であるし、極力避けねばならない事態でもあった。
いや、それだけでは無い。
連合にとってオーブは同盟国を称していても所詮属国の立場だ、資材も人材も、自国から出すよりも遥かに都合がよい。
故に、指揮官機以外のMSには、オーブのパイロットが乗っている可能性だって十二分にある。
現に、彼の手元にはオーブ軍の内情や、五大氏族以外の氏族がどうなっているかという情報が、ケナフ・ルキーニや、彼の下について情報を操るようになったベルナデット・ルルーより齎されていたのだから。
「やれやれ・・・、この戦いが終わったら、アグニス達とは一旦お別れ、だな・・・。」
自分のやるべき事がまたしても増えた事に呆れているのではない。
オーブの事情と捨て置けない自分の甘さと、それに伴う苦難のことを思うと、自分はとんだマゾヒストかとさえ自虐したくなる気分だったのだろう。
「まぁいい、今は役目を果たさせてもらうとしようじゃないか。」
だが、自分のやれる事をやる。
ただそれだけだと思考を切り替えた一夏は、ストライクSのフットペダルを踏み込んだ。
「織斑一夏、ストライクS、出るぞ!!」
白色の機体が曇天の空を舞い、既に開かれていた戦線へ急いだ。
アグニスのデルタアストレイは、漆黒のストライクと交戦を開始していたが、二機のスローターダガーが手柄を競い合う様にデルタアストレイを攻撃していた。
「アグニス!!」
一夏はガルーダストライカーに装備されているレールガンとビームキャノンを展開、4機の間を牽制するように撃った。
『すまん!助かったぞ一夏!!』
「お安い御用だ、敵から目を離すなよ!!」
3機の敵から離脱したデルタアストレイはストライクSと肩を並べ、黒と白が睨み合う形を取った。
だが・・・。
「ッ・・・!!」
一夏の目は、その漆黒を纏うストライクに釘付けになった。
それは、嘗ての彼が駆り、悪逆の限りを尽くした、悪魔の機体そのもの。
一夏自身が抱える闇その物だった。
「ストライク、ノワールッ・・・!!」
自身に対する怒り、憎しみ、そして、過去を見る事への恐れ、それら全てが入り混じった様な呻き声を上げた。
今すぐに飛び出し、その憎き機体を切り裂きたい思いに駆られる。
だが、今の彼の傍らには仲間がいる。
護らねばならない存在がいる。
それが彼の、怒りと恐怖に溺れそうになる理性を繋ぎ止めていた。
『その機体、ストライクの改修機か・・・、貴様、あの時の男か。』
「その声、あの時のストライクのパイロット・・・!!」
その葛藤の最中、黒い機体、ストライクノワールに乗り込むパイロット、スウェンが口を開いた。
その声に聞き覚えがあったからか、一夏もまた驚いた様に問い返した。
そして、両者共に機器を操作し、映像通信を開く。
嘗ては通信機越しのサウンドオンリーでの会話であり、顔を合わせるのは初めてであった。
『一年前の砂漠以来、か・・・、貴様、このような所で・・・!』
「それはこっちのセリフだ・・・!何故マーシャンを狙う!?」
交わらない想いが軋轢を生み、一夏とスウェンの言葉はぶつかり合うばかりだった。
『コーディネィターを排除する事に理由など必要ない、貴様もここで討つ!!』
ブルーコスモスの思考に染まっているスウェンに、その言葉に答える義理も理由も無かった。
『お前の相手は俺だ!』
ストライクSを庇う様に前に出たデルタアストレイが、ストライクノワールが振ったビームブレイドと切り結ぶ。
彼もまた、スウェンとの因縁を持つが故に、自分が相手をしたいという想いがあるのだろう。
『貴様・・・!コーディネィターッ!!』
「アグニス!」
怒りに表情を歪めたスウェンとは対象的に、一夏は身を乗り出した。
幾ら機体の性能差が有れど、アグニスの腕では互角でしか勝負を動かせない。
故に、一夏は仲間を助けようと動こうとした。
だが・・・。
『余所見してんじゃねぇよ!』
ノワールの傍に控えていた、I.W.S.P.を装備したスローターダガーがガトリングを撃ち掛けながらも割り込む。
「邪魔をするなッ!貴様等ッ!」
機体を巧みに操り、弾丸を回避したが、必然的にアグニスとの距離は離されてしまう。
『お生憎、出世が掛かってるんでね、その機体も墜させてもらうぜ!』
『お前には渡さないぜ、ワイド!』
もう一機の、エールストライカーを装備したスローターダガーもストライクSへの攻撃を開始し、一夏は一度に二機を相手取る事になった。
「チッ・・・!なぜマーシャンを狙う!?何が目的だっ!?」
ビームピストルで両機を牽制しつつ、一夏は叫ぶ。
何故無用に争うのか、何故異星の来訪者にまで牙をむく必要があるのか。
その理由が、彼を憤らせた。
『ハッ!下らねぇこと聞くんじゃねぇよ!ここでファントムペインに恩を売っておけば、俺達下級氏族でも出世出来るんだよぉ!!』
『そのためにも、討たせてもらうぜ!!』
「ッ・・・!!」
何を聞いているのかと言わんばかりに放たれた言葉に、一夏は驚愕に固まりかける。
自分の予想が当たってしまった事と、護るべき対象と戦わねばならない苦悩。
それが、今の彼を攻め立てていたのだ。
如何するべきか、その答えを出せずにいた。
その時だった。
彼の後方を進んでいたアキダリアに対し、砲撃が開始された。
その二射は直線で突き進み、アキダリアの艦橋を掠めていく。
直撃こそ免れたが、牽制や脅しには十分すぎたのだろう、アキダリアは航路を変えた。
「あれは、アグニとライトニングストライカーの砲撃か・・・!?別働隊がいたのか・・・!?」
『たった一発で装備を見抜くなんて、アンタやるなぁ!けど、それだけじゃねぇぜ!!』
自分も何度も使用した事のあるストライカーの装備を思いだし、特性を理解した一夏は歯がみしつつも対処法を考えるべく思考を働かせる。
だが、その彼の能力の高さを見抜いた敵パイロットの宣言と同時に、アキダリアの船体が何かに座礁するように止まった。
「海中にも伏兵がいたのか・・・!?」
彼の驚愕に答える様に、海中よりソードストライカーを装備した機体まで現れた。
その左腕にパンツァー・アイゼンが無い事を考えると、海底の固定し、アキダリアを掴んで錨のようにしているだろう事が窺えた。
その機体は、終わりだと言わんばかりにアキダリアの船体をシュベルト・ゲベールで切り付けていく。
「ちっ・・・!俺とした事が・・・!」
『悪いねぇ!俺達の出世の為に、討たれてくれや!!』
これで、一夏が把握した敵勢力は6機、こちらの3倍の戦力であった。
自身の読みの甘さに唇を噛みつつ、一夏はそれでもと前を向く。
確かに先手は取られた、だがそれだけだ。
まだ勝負は終わっていない。
これから幾らでも逆転できる、その確信があった。
気合を入れ直している一夏を討つべく、I.W.S.P.を装備した機体がトドメと言わんばかりに対艦刀を引き抜き、エールストライカーを装備した機体と共に挟み込む様にして迫る。
並のパイロットならば逃げきれずに撃墜されるであろうそれを、一夏はまるですり抜ける様にして回避し、一気に加速、アキダリアを襲うダガーを狙ってレールガンを撃ち掛けた。
自分が狙われた事が分かったか、その機体は一旦攻撃をやめ、船から飛び降りる様にして離脱、一旦海中へと逃げた。
「お生憎様、打たれる訳にはいかないんだよな、宙に帰らなくちゃいけないんでね。」
愛機を反転させつつ、ビームピストルで二機からの追撃を回避、オープン回線を開いた。
「オーブの兵よ、俺の声を聞け!俺の名は織斑一夏!アメノミハシラの軍部元帥なり!!」
『ッ・・・!!』
その宣言と同時に、スピーカーの向こう側にいるオーブの兵達が息を呑む。
刹那、その戦域の砲火が一瞬止む。
仕方あるまい。
オーブの兵にとって、アメノミハシラは第二のオーブであり、その国のトップに近い者に弓を引いていたのだ。
それは、出世に飢えている彼等にとっては、出世の道を断たれる未来を予想してしまうほどだった。
「俺に弓を引いた事は気にするな!だが、聞け!出世の為にマーシャンを襲ったところで、君達の出世はない!」
彼等が連合に捨て駒にされている事を告げ、一夏はこの無用な争いに加担する事をやめさせようとした。
出来る事ならば、彼もオーブの民に、兵に銃口を向けたくはない。
故に、引いてくれるならそれで良いとさえ思っていたのだ。
だが、彼等下級氏族が強いられている現実を知っていた。
家長でさえ地位も名誉も無く、ただ戦場で一兵士として使われるだけ、それが彼等の現実だった。
故に、その現実から何とか脱するためには、藁にでもすがる思いでこの作戦を完遂する事が絶対条件となっていたのだ。
彼等がこのまま退く事は出来ない事も分かっていた。
だから、かれはもう一つの切り札を切る。
「手柄を立てたくば、この織斑一夏を討ってみせよ!さすれば諸君らはアメノミハシラの将軍となれるであろう!」
自分を討てば、その地位が手に入ると言う事を宣言した。
それは、自分だけを狙って来いと言う暗黙の宣言でもあった。
「さぁ、度胸のある奴だけかかって来い!俺は真っ向から諸君を迎え撃つ!」
『面白れぇっ・・・!その賭け、乗ったぜ・・・!!』
『織斑卿!その首、我等が貰い受ける!!』
一躍大出世のチャンスが降って沸いた事に歓喜し、オーブ兵たちの攻撃が一斉に一夏へと集中する。
賭けには勝った。
あとは、彼等を傷付けずに無力化させるだけだ。
「行くぜ、若造ども・・・!お前等の全力、この俺が試してやる!!」
それを実現させるべく、彼は愛機を駆り、再び戦火の中を舞い踊った。
自分の、忌まわしき力を、今は信じて・・・。
sideout
次回予告
交わされる銃口と想いは、一夏に新たなる選択を迫る事となる。
その選択の先が、喩え破滅であったとしても・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
閃光の果て
おたのしみに